2011年 12月 11日
秘密結社―アメリカのエリート結社と陰謀史観の相克/越智道雄 |
まずは「秘密結社」の方から。
古い翻訳本ばかり読んでると、なかなかわからないことが多いせいか、自分が途方もなくアホなような気がしてくるんですけど、新書って1、2時間ですぐに読めて、内容が凝縮されているせいか、すぐに頭が良くなれそうな気がしてしまいます。
また、B選書と言っても、B層向けというわけではなくw、ビジネス社という素敵な出版社の「選書」で、確かに見た目は安っぽいのですが(失礼)、一見上品そうな装幀でありながら、詐欺まがいのタイトルで売ろうとする、どこかの有名出版社の新書とは真逆で、B選書には、山本七平氏の「日本の歴史」「旧約聖書物語」「日本資本主義の精神」などの素晴らしいラインナップがあり、
また、単行本としては、本書のあとがきで、越智氏も触れられていますが、アメリカで20世紀末、一般読者が選んだ百冊の第一位に選ばれているにも関わらず、日本では、これまでまったく無視されてきた、アイン・ランドの「水源」と「肩をすくめるアトラス」という小説を2冊も出版し、そのうえ「利己主義という気概」というランドの政治思想エッセイ集まで出版されるという、本気で素晴らしい出版社だったりするので、
もう、すっかり読む前から「陰謀論」とか「秘密結社」など、もっと詳しく知りたい方にオススメーー!!! なんて、ブログに書く気満々で読みはじめました。
下記は、本書の目次。
[序章]今日のアメリカ秘密結社の機能と日本
アジアでの自国の相対化を先読みできる日本版CFRは?
「アジア新三国志」は日中印? 米中印?
現代人は「市民」で同時に「結社員」?
[第1章]アメリカ建国とフリーメースン
ーなぜ「野党型秘密結社」を必要としたのか?
・大英帝国への反逆の核になったフリーメースン
・海賊になった十字軍、陸にあがった海賊
・合衆国を「巨大ロッジ」として建国したメースンたち
・ワシントンの就任式、合衆国建国?メースン建国?
・首都に浮かび上がる「悪魔の五芒星形」
・「議事堂フクロウ」と「トリプル・タウ」
・なぜ多数のメースンがアメリカ建国に関わったのか?
・奴隷取引で蓄財した今日の銀行群
・阿片の富が流れ込んだアイヴィリーグ
・メースンの使命終了と新たな結社の登場
[第2章]スカル&ボーンズ
ー野党型から与党型への変遷の背景
・なぜ他愛もない学生クラブがアメリカ秘密結社の代表なのか?
・「人肉を喰らう」とは「弁証法的手口」?
・ボーンズマンは敵味方の境界を越えて一枚岩か?
・表の世界と裏の世界の価値観を入れ換える儀式
・ボーンズマンが陰謀史観論者らにネタを提供するシニシズム
・ブッシュ息子が政権に登用したボーンズマンは十一名
・7人の大統領に仕え、反日を説いた「日本の宿敵」
・「スティムスンの幼稚園」と「園児」たちの中核
・「後期スティムスン・グループ」と「ヴェトナム瓦解」
・「与党型秘密結社」が見切った現下のアメリカの宿命
[第3章]世界統治面での「均衡保持型秘密結社」の原型
―「セシル・ローズの秘密結社」と「ミルナー・グループ」
・古今未曾有の「大英帝国連邦」妄想に取り憑かれた男
・「セシル・ローズの秘密結社」の存在理由
・アルフレッド・ミルナーと彼の「幼稚園児たち」
・国際連盟を舞台に帝国連邦が米ソの均衡をとる野望
・「フォーニー・ウォー」がなぜ起きたのか?
・与党型秘密結社から均衡保持型秘密結社への移行
[第4章]今日の均衡保持型秘密結社
―「国際関係審議会(CFR)」「ビルダバーグ(BB)」「日米欧委員会(TC)」
・米行政独自の「政治任命職」は陰謀史観の温床?
・CFRの成立とその生みの親ハウス大佐
・情報ゼロの政権に驚嘆すべき巨資的展望を提供
・CFR案(米中復交)を横取りしたニクスンたち
・ニクスンの疎外感と陰謀史観論者らの疎外感
・EUやNATO関係諸国と合衆国を連結するビルダーバーグ
・BB創設者レティンガーと「ヨーロッパ合衆国」
・「国家群の経済的越境」とTC誕生の背景
・TC三角形の日=欧を結ぶ辺の糞詰まり
・レーガン政権に噛み付いた均衡保持型結社としてのTC
・同一シンクタンク・メンバー同士が現実政治の場に立つと
・何がカーターに火中の栗を拾わせたか
・「強化合宿型折衝」、稲妻と雷雨のうちに終了
[第5章]陰謀史観論的結社としてのキリスト教右翼
―パット・ロバートスンの場合
・「頭脳」のネオコン、「手足」のキリスト教右翼
・「新世界秩序」、ブッシュ版とロバートスン版
・「大淫婦」と「再臨のキリスト」、湾岸戦争
・諸問題の現実的解決の不在につけこむ幻想的解決
・最低線のキリスト教徒を政治家した「支配神学」
[終章]「9.11」
―日常化された「秘密結社衝動」再度の非日常化
・秘密結社衝動の日常化と「新世界国家」
・今日のフリーメースンと「9.11」で震撼した結社衝動
上記の目次からも、秘密結社をどろどろとした「悪の組織」として描くのではなく、「現実的な世界戦略を立てるエリート層の組織」と定義づけ、9.11まで、現実の政権にどのように関わって来たかを端的に説明された内容ではあるのですが、、、
わたしは「陰謀論」「陰謀史観」と呼ばれるものは、現在の報道に疑問をもつという意味では、非常に大きな力があると思いますが、それ以上の現実的な「力」となると、その方向性に、かなり疑問を感じるところがあり、
もう少し正確に「敵」を知ることが必要なのではないかと思ってみたり、また、日本でのそれらの扇動者は、いい加減な輸入知識を応用しただけで、怠慢な商売をしている人が多いなぁとも感じていました。
著者は、序章で、
私たち日本人は「日本が中心にいないアジアの近未来」を想定できる視点をもっているだろうか?と疑問を投げかけ、「CFR(国際関係審議会)」の機関誌、編集長の予測を紹介し、こういう想定を精緻にさぐる機関が日本にあるだろうか?と問い、中国にはあるはずだ。インドにも生まれつつあるだろう。
しかし、日本人に代わって、日本がアジアにおける「新三国志的状況」を真剣に考えてくれているのは「CFR」だけで、それこそが「安保ただ乗り」で、先読みすらアメリカ任せなのだ。
もうひとつ言えば、日本ではこういうことを日々考察している組織は、毎日陰謀を企てているようなもので、今日の日本人にはかなり不気味な存在であり、民衆の間にアメリカ以上に「陰謀史観」をあおりたててしまうのではないか。(中略)もしそういう組織があれば、秘密結社的に活動するしかなくなるだろう。
本書で扱う「アメリカの秘密結社」の機能の根本はここにある。つまり、アメリカが世界戦略をどれくらい秘密結社に頼って来たか、その歴史を概観することによって、迫り来るアジアにおける新三国志的状況への日本人の自覚の覚醒に役立てて頂きたいのだ。
と書いておられるのですが、実際のところ、どう役立てていいのかわからないというか、(私が、フツーの主婦であることを脇においてもw)、ところどころで、陰謀論に傾倒せざるをえない民衆に対して、侮蔑感が感じられたり、
それとは逆に、著者がこれまで熱心に研究されて来たWASPに対しての親近感が、著者の意図とは逆に作用しているように感じられる点など、結局、これでは、現状維持で変化を望まないだけの「体制派」を応援しているというか、陰謀論の効果的な面を無力化するに留まっているように感じられました。
陰謀論への傾倒を、侮蔑されているように感じられる点さえ我慢すれば、著者は、真面目にその背景を研究されている、日本では他には見当たらないような研究者なので、その知識を学ぶことで、陰謀論者も、そこから啓示を受けた方も、一層、それらを深めていくことが出来ると思うのですが、、、
越智氏ほどの知識がある方なら、もう少し異なるまとめ方をすることで、もっと広汎な読者にウケたのではと、ちょっぴり残念な思いを抱きつつ、
その4年後の2009年に出版された『オバマ・ショック』に続きます。
◎「秘密結社」越智道雄(アマゾン)
______________
[BOOKデータベース]アメリカを悩ませてきた頭脳(結社)と手足(陰謀史観派)の相克を初めて解決できた政権こそブッシュ政権。頭脳に結社(ネオコン)、陰謀史観派(キリスト教右翼)を手足、米系多国籍企業を心臓と胴体、腕力を軍産複合としている。ビジネス社 (2005/06)
また、B選書と言っても、B層向けというわけではなくw、ビジネス社という素敵な出版社の「選書」で、確かに見た目は安っぽいのですが(失礼)、一見上品そうな装幀でありながら、詐欺まがいのタイトルで売ろうとする、どこかの有名出版社の新書とは真逆で、B選書には、山本七平氏の「日本の歴史」「旧約聖書物語」「日本資本主義の精神」などの素晴らしいラインナップがあり、
また、単行本としては、本書のあとがきで、越智氏も触れられていますが、アメリカで20世紀末、一般読者が選んだ百冊の第一位に選ばれているにも関わらず、日本では、これまでまったく無視されてきた、アイン・ランドの「水源」と「肩をすくめるアトラス」という小説を2冊も出版し、そのうえ「利己主義という気概」というランドの政治思想エッセイ集まで出版されるという、本気で素晴らしい出版社だったりするので、
もう、すっかり読む前から「陰謀論」とか「秘密結社」など、もっと詳しく知りたい方にオススメーー!!! なんて、ブログに書く気満々で読みはじめました。
下記は、本書の目次。
[序章]今日のアメリカ秘密結社の機能と日本
アジアでの自国の相対化を先読みできる日本版CFRは?
「アジア新三国志」は日中印? 米中印?
現代人は「市民」で同時に「結社員」?
[第1章]アメリカ建国とフリーメースン
ーなぜ「野党型秘密結社」を必要としたのか?
・大英帝国への反逆の核になったフリーメースン
・海賊になった十字軍、陸にあがった海賊
・合衆国を「巨大ロッジ」として建国したメースンたち
・ワシントンの就任式、合衆国建国?メースン建国?
・首都に浮かび上がる「悪魔の五芒星形」
・「議事堂フクロウ」と「トリプル・タウ」
・なぜ多数のメースンがアメリカ建国に関わったのか?
・奴隷取引で蓄財した今日の銀行群
・阿片の富が流れ込んだアイヴィリーグ
・メースンの使命終了と新たな結社の登場
[第2章]スカル&ボーンズ
ー野党型から与党型への変遷の背景
・なぜ他愛もない学生クラブがアメリカ秘密結社の代表なのか?
・「人肉を喰らう」とは「弁証法的手口」?
・ボーンズマンは敵味方の境界を越えて一枚岩か?
・表の世界と裏の世界の価値観を入れ換える儀式
・ボーンズマンが陰謀史観論者らにネタを提供するシニシズム
・ブッシュ息子が政権に登用したボーンズマンは十一名
・7人の大統領に仕え、反日を説いた「日本の宿敵」
・「スティムスンの幼稚園」と「園児」たちの中核
・「後期スティムスン・グループ」と「ヴェトナム瓦解」
・「与党型秘密結社」が見切った現下のアメリカの宿命
[第3章]世界統治面での「均衡保持型秘密結社」の原型
―「セシル・ローズの秘密結社」と「ミルナー・グループ」
・古今未曾有の「大英帝国連邦」妄想に取り憑かれた男
・「セシル・ローズの秘密結社」の存在理由
・アルフレッド・ミルナーと彼の「幼稚園児たち」
・国際連盟を舞台に帝国連邦が米ソの均衡をとる野望
・「フォーニー・ウォー」がなぜ起きたのか?
・与党型秘密結社から均衡保持型秘密結社への移行
[第4章]今日の均衡保持型秘密結社
―「国際関係審議会(CFR)」「ビルダバーグ(BB)」「日米欧委員会(TC)」
・米行政独自の「政治任命職」は陰謀史観の温床?
・CFRの成立とその生みの親ハウス大佐
・情報ゼロの政権に驚嘆すべき巨資的展望を提供
・CFR案(米中復交)を横取りしたニクスンたち
・ニクスンの疎外感と陰謀史観論者らの疎外感
・EUやNATO関係諸国と合衆国を連結するビルダーバーグ
・BB創設者レティンガーと「ヨーロッパ合衆国」
・「国家群の経済的越境」とTC誕生の背景
・TC三角形の日=欧を結ぶ辺の糞詰まり
・レーガン政権に噛み付いた均衡保持型結社としてのTC
・同一シンクタンク・メンバー同士が現実政治の場に立つと
・何がカーターに火中の栗を拾わせたか
・「強化合宿型折衝」、稲妻と雷雨のうちに終了
[第5章]陰謀史観論的結社としてのキリスト教右翼
―パット・ロバートスンの場合
・「頭脳」のネオコン、「手足」のキリスト教右翼
・「新世界秩序」、ブッシュ版とロバートスン版
・「大淫婦」と「再臨のキリスト」、湾岸戦争
・諸問題の現実的解決の不在につけこむ幻想的解決
・最低線のキリスト教徒を政治家した「支配神学」
[終章]「9.11」
―日常化された「秘密結社衝動」再度の非日常化
・秘密結社衝動の日常化と「新世界国家」
・今日のフリーメースンと「9.11」で震撼した結社衝動
上記の目次からも、秘密結社をどろどろとした「悪の組織」として描くのではなく、「現実的な世界戦略を立てるエリート層の組織」と定義づけ、9.11まで、現実の政権にどのように関わって来たかを端的に説明された内容ではあるのですが、、、
わたしは「陰謀論」「陰謀史観」と呼ばれるものは、現在の報道に疑問をもつという意味では、非常に大きな力があると思いますが、それ以上の現実的な「力」となると、その方向性に、かなり疑問を感じるところがあり、
もう少し正確に「敵」を知ることが必要なのではないかと思ってみたり、また、日本でのそれらの扇動者は、いい加減な輸入知識を応用しただけで、怠慢な商売をしている人が多いなぁとも感じていました。
著者は、序章で、
私たち日本人は「日本が中心にいないアジアの近未来」を想定できる視点をもっているだろうか?と疑問を投げかけ、「CFR(国際関係審議会)」の機関誌、編集長の予測を紹介し、こういう想定を精緻にさぐる機関が日本にあるだろうか?と問い、中国にはあるはずだ。インドにも生まれつつあるだろう。
しかし、日本人に代わって、日本がアジアにおける「新三国志的状況」を真剣に考えてくれているのは「CFR」だけで、それこそが「安保ただ乗り」で、先読みすらアメリカ任せなのだ。
もうひとつ言えば、日本ではこういうことを日々考察している組織は、毎日陰謀を企てているようなもので、今日の日本人にはかなり不気味な存在であり、民衆の間にアメリカ以上に「陰謀史観」をあおりたててしまうのではないか。(中略)もしそういう組織があれば、秘密結社的に活動するしかなくなるだろう。
本書で扱う「アメリカの秘密結社」の機能の根本はここにある。つまり、アメリカが世界戦略をどれくらい秘密結社に頼って来たか、その歴史を概観することによって、迫り来るアジアにおける新三国志的状況への日本人の自覚の覚醒に役立てて頂きたいのだ。
と書いておられるのですが、実際のところ、どう役立てていいのかわからないというか、(私が、フツーの主婦であることを脇においてもw)、ところどころで、陰謀論に傾倒せざるをえない民衆に対して、侮蔑感が感じられたり、
それとは逆に、著者がこれまで熱心に研究されて来たWASPに対しての親近感が、著者の意図とは逆に作用しているように感じられる点など、結局、これでは、現状維持で変化を望まないだけの「体制派」を応援しているというか、陰謀論の効果的な面を無力化するに留まっているように感じられました。
陰謀論への傾倒を、侮蔑されているように感じられる点さえ我慢すれば、著者は、真面目にその背景を研究されている、日本では他には見当たらないような研究者なので、その知識を学ぶことで、陰謀論者も、そこから啓示を受けた方も、一層、それらを深めていくことが出来ると思うのですが、、、
越智氏ほどの知識がある方なら、もう少し異なるまとめ方をすることで、もっと広汎な読者にウケたのではと、ちょっぴり残念な思いを抱きつつ、
その4年後の2009年に出版された『オバマ・ショック』に続きます。
◎「秘密結社」越智道雄(アマゾン)
______________
[BOOKデータベース]アメリカを悩ませてきた頭脳(結社)と手足(陰謀史観派)の相克を初めて解決できた政権こそブッシュ政権。頭脳に結社(ネオコン)、陰謀史観派(キリスト教右翼)を手足、米系多国籍企業を心臓と胴体、腕力を軍産複合としている。ビジネス社 (2005/06)
by yomodalite
| 2011-12-11 15:08
| 政治・外交
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