猛牛(ファンソ)と呼ばれた男—「東声会」町井久之の戦後史/城内康伸

猛牛(ファンソ)と呼ばれた男―「東声会」町井久之の戦後史

城内 康伸/新潮社




元公安調査庁の菅沼光弘氏は、日本の裏社会の構成要素として「やくざ・同和・在日」の3つを挙げて、その経済力に関しても、トヨタ自動車の純益が1兆円だったのに対し、山口組は8000億円の収入と語られたとか。。。

町井久之(本名:鄭建永)は、在日のヤクザの大物として、戦後の昭和史に度々名前が登場する人物ですが、まとまった本としては、こちらが初めてのもののようです。

ただ、残念ながら、山口組や、保守(右翼)系人物との関係にしても、登場人物が少な過ぎて、南北朝鮮の政治家との交流に関しては、大統領にまで及んでいるにも関わらず、在日社会は、力道山や張本(巨人)などスポーツ界が主で、日本国内の財界や政界との交流に関しては、ほとんど書かれていません。

著者は、88歳の町井の未亡人 保予(やすよ)への面会から、取材を進めているのですが、夫人の話はどうも素直に納得できないというか、違和感を感じる点が多い。

p67で、傍聴席の最前列で見守っていた保予のことに触れ、弁護士が町井に「わたしに礼はいいから、奥さんに感謝しなさい」というくだりなど、どこか唐突で、著者が未亡人への感謝を表すことにページを使っているように感じました。

また、町井の親分のような存在であった児玉誉士夫と同じく、町井もアメリカが育てた人材であったことを示すエピソードとして、

(P57)
町井の事件を担当した検事(伊藤栄樹。後にロッキード事件など大事件を手がける)は、
他界する直前に朝日新聞に寄せた回想録「秋霜裂日」で次のように振り返っている。

「彼(町井)には、連合国軍の庇護があて、それまで二度殺人などで逮捕されても、すぐに釈放され、起訴されても一度は無罪になり、一度は執行猶予となっていた。そこで、長い兼治生活の中で一度だけうそをつかせてもらった。すなわち、傷害にあたるものに、殺人未遂の罪名を、傷害・恐喝にあたるものに強盗傷人の罪名を与えるなど、本来の法律的評価よりも一段ずつ上の罪名にすることにより、連合国軍からの干渉を防ぐとともに、保釈を阻止しようとしたのである。」 朝日新聞 1988年5月11日朝刊

伊藤本人がいささか強引な手法を用いたことを認めているのだが、保予によれば、町井はこの記事が載った当時これを読んでおり、「他の作り事はいいとしても、私に連合国軍の庇護があったとは・・・・」と憤り半ばにあきれ果てていたという。

 
この町井の反応は、保予の真実の記憶だろうか。一度目の殺人は、保予にからんだ酔漢を蹴飛ばしたところ酔漢が転倒し頭を打って死亡した、というもので、二度目は差別的な発言を投げつけた人力車夫を勢い余って殴殺した、というもの。これで、無罪や執行猶予とは、庇護でなければ、生まれついての「在日特権」か、と言いたくなる内容。保予が日本人なら疑問をもたなかったとは考えにくい。

保予が1946年に、函館の実家を離れて、東京で予備校に通っていたというのも、比較的裕福な家庭を想像させるが、拉致誘拐のような形で、町井と結婚することになったエピソードなど、著者は「ストックホルム症候群」を思い出したと説明しているが、私には、よど号の妻たちの結婚エピソードが思い出された。ちなみによど号妻たちは、チュチェ思想研究会や統一協会であったが、保予は熱心は創価学会員である。

その他、町井の市井のイメージを覆すとして紹介しているエピソードも、在日社会の裏のヒーローとして君臨した人物のエピソードとしては、物語の厚みに欠ける。

生前、半世紀執筆の要請を何度受けても、町井は、「自分のやってきたことを決して、表に出すな」と在日社会に至上命令を出していたらしい。取材対象が難しいことは理解できるものの不満が残る内容。

__________

【BOOKデータベースより】“アンダーグラウンド”から照らし出す昭和史。復興著しい東京で、1500人の構成員を束ね夜の六本木を闊歩した鄭建永(チョン・コンヨン)=日本名・町田久之。右翼の大立者・児玉誉士夫と日韓を股に掛けて暗躍し、ヤクザでありながら政財界に根深く食い込んだその存在は、やがて「フィクサー」と畏れられるまでになった—。盟友・力道山との絆、芸能・スポーツ界でのタニマチぶり、ようやく語られた秘話の数々。急成長を遂げる日本と共に生き、そして消えていった男の人生を描く。 新潮社 (2009/02)




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by yomodalite | 2009-03-08 23:09 | 報道・ノンフィクション | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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