タグ:木嶋佳苗 ( 2 ) タグの人気記事

f0134963_1259378.jpg


北原みのり氏の『毒婦。』により「木嶋佳苗」に、惹き付けられてしまったので、佐野眞一氏の「木嶋佳苗」も読まなくてはと思っていたのですが、この2冊は、やはり両方読んでおいて正解だと思いました。

(以下、太字は本書から。省略して引用しています)

第一部「別海から来た女」で、著者は、佳苗が高校時代まで住んでいた北海道「別海(べっかい)」に注目する。

東京23区の2倍の面積をもちながら、人口は1万6千人しかいない大酪農地帯で、司法書士の父をもち、クラスで唯一ピアノが弾ける佳苗は、町のエリートだった。その佳苗と彼女の母親にピアノを教え、家族ぐるみでつきあっていた医者夫婦の妻から、佳苗は、小学生時代に、貯金通帳を盗むという事件を起こしていた。

衝撃的な証言だった。家の中の小銭をくすねるくらいなら、幼さゆえの出来心で済まされる。だが貯金通帳となると、話は別である。木嶋はたぶん生得的なサイコパス(反社会的人格障害)である。木嶋の幼少期は、特別に貧しい環境にあったとも、ネグレクトや性的虐待といった激しい精神的ダメージを受けたとも思えない。

たしかに、この記述からは、生得的な「異常」という判断もやむ終えないと思う。お金や、物ではなく、小学生が「貯金通帳」に興味をもつことも、佳苗のような早熟な子供が、それを実際に換金することの困難に気づかないというのも、不思議を通り越して「不気味」すら感じた。

ただ、著者は、佳苗の母親の実家に取材し、そのインターフォン越しの声から

あくまで声の印象だけだが、憔悴している様子はなかった。むしろ声の調子は明るく、それが却って奇異だった。

という、凡庸なジャーナリストやマスコミと同様な「印象取材」や、その後も、著者は、事件に関する町の噂を聞くため、別海の飲み屋に取材し、

「木嶋佳苗のお父さんは五年ほど前に交通事故で亡くなったんだけど、交通事故に見せかけて娘の木嶋佳苗が殺したっていうのがもっぱらの噂なの。」

という証言を得るものの、その事件の取材も浅く終了してしまって、その噂が、当時の事件直後のものなのかもはっきりしない。

その他、本書には、木嶋佳苗の意味を探ろうとしているものの、全体的に薄味なものになってしまっていると感じる点が多かった。それは、この事件がインターネットの普及によって起きただけでなく、凶悪犯罪がTV報道だけで過熱していた頃とは異なり、「稀代の毒婦」から「木嶋佳苗被告は声がかわいい」「案外イケてる」 までのイメージの変遷が、取材のスピードよりも早く、

著者は、そのイメージに再度「疑惑」を呈したものの、新たに話題になった「木嶋佳苗像」を「サイコパス」と定義したのでは、著者も語っているように、

私たちはこの事件からなぜ目を離せないのか。
それはおそらく、この事件に関心をもつすべての人が、木嶋佳苗にだまされた人に、
いくらか似ている自分に無意識のうちに気がついているからである。


の答えは出ない。佐野氏は、

佳苗のシティギャルへの憧れも、その行動様式も“シティギャル”には、絶対真似できないふるまいだったことを、木嶋本人は気づいていない。

とも書いていますが、佐野氏が、うっかり露呈してしまった“シティギャル”への評価の高さに、佳苗のどこかに「いくらか似ている自分」を発見してしまう女子の多くは「苦笑」したことでしょう。

また著書は、別海での取材から2年3ヶ月後の死刑判決の直後に公表された、木嶋佳苗の手記に対して、

この手記を読んだ者の中には「勾留生活も、本があれば無聊に苦しむことはありません」といった文言や、立花隆や小倉千加子などの著者の読書遍歴をあげて「相当の教養の持ち主」と驚いた人もいたようだが、私から言わせれば、こういう連中は人間を深く洞察する観察眼が欠けている。

これだけ書き連ねながら、読む者に何の感動も与えない文章を書けることの方が、むしろ驚きだった。すべてどこかで聞いたことのある文章の切り貼り、パソコン用語でいえばコピペである。いくら読んでも、木嶋が何のためにこの手記を書いたかわからない。


と語る。私にも、佳苗の文章が、なんのために書かれているのかはわからないし、佳苗には死刑から免れたいという気持ちがないとは思えないものの、しかし、殺害しなかった被害者の証言にあるように、彼女は、睡眠剤を飲ませ、財布からお金を抜き取った相手から、逃走もせずに再度会い、また、その相手にまったく同じように睡眠剤を飲ませるなど、犯行の発覚を恐れるどころか、むしろ、犯行の意志を伝えようとしているとしか思えないような行動をとっていたり、

そもそも、彼女の事件は、お金目当てで近づいた男から離れるのに「保険金をかけずに」殺害しているという不可解さにあり、それは、彼女が、少女時代から窃盗に抵抗がなく、どれほどの嘘つきであったとしても、まったく解明できない「謎」で、

私には、そういった佳苗の不可思議さを知るうえで、彼女の手記はとても興味深く、また、その言葉遣いや、その読書遍歴にある著者の名前から、教養を感じたからでなく、本書のような「どこかで聞いたことのある文章」や結論とは違った「オリジナリティ」に、今のアラサーより若い女性に共通する男への「絶望」を感じ、文学的に興味をもったのだと思う。

木嶋佳苗にのめり込んだ、北原氏と違い、佐野氏は、彼女に騙された男たちを不甲斐ないと思う気持ちからか、佳苗を突き放そうとすることに徹していて、それは、彼女に「いくらか似ている自分」を感じてしまう、私には良い読書経験でした。

◎[Amazon]別海から来た女―木嶋佳苗 悪魔祓いの百日裁判

でも、彼女の手記を高く評価することが「人間を深く洞察する観察眼が欠けている」との主張には、まったく同意できないので、

下記に、佐野氏が「コピペ」と評価した、佳苗の手記を再度「リンク」しておきます。

◎[死刑判決・木嶋佳苗被告の手記を読む]朝日新聞 読後雑記帳

◎参考書評「極東ブログ」



[PR]
by yomodalite | 2012-10-09 13:12 | 裁判・法律・犯罪 | Trackback | Comments(3)

毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記

北原 みのり/朝日新聞出版



毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記 (講談社文庫)

北原 みのり/講談社

undefined



ネットで知り合った男性たちから、1億円以上のお金を受け取り、周囲は不審死が絶えなかったという、彼女が実際に殺害したとすれば、前代未聞の女性犯罪者である、木嶋佳苗の裁判傍聴記。

週刊朝日が、この裁判の傍聴記に白羽の矢を立てたのは、コラムニストで、女性のセックストイショップ「ラブピースクラブ」の代表、北原みのり氏。私は、事件を扱った書籍は結構読んでいるのですが、本書は、

容疑者の罪の妥当性や、容疑者の生い立ち、パーソナリティー、事件に至るまでの歴史や、事件の社会性などを探りながら、取材を重ねていくジャーナリストや、

事件の冤罪疑惑や、メディア報道とは、まったく別の容疑者の顔を垣間みることが多い、弁護士による著作ともまったく違った印象でした。

裁判傍聴記がメインになっていて、木嶋佳苗の犯行に関して、新たな事実が盛り込まれているわけではないのですが、読者が読んで面白いと感じるのは、やはり、著者の女性ならではの目線ですね。

女性ジャーナリストにも、女性弁護士にも、女性検事にも、女性特有の視線を感じることはありますが、著者は、彼女たちとは違って、犯罪に対してではなく、木嶋佳苗という女性そのものに注目しているところが新鮮で、本書の第一章は、次のような記述から始まります。(省略して、部分的に引用しています)

約2年4ヶ月の勾留を経た37歳の木嶋佳苗に、そういった陰は見えなかった。というより…… ナマ佳苗は、生き生きと、キレイだった。

決して美しいとはいえない佳苗の容姿はセンセーショナルに報道されてきた。腫れぼったい目、肉付きの良過ぎる体、全体的に不潔そう…そんなイメージを持った人は多いはずだ。が、実際に数メートルの距離で見るナマ佳苗から、だらしなさや、不潔さや、醜さは、全く感じなかった。

シミ一つない完璧な白、絹のような美肌だ。なにより意外だったのは、佳苗の小ささである。155センチあるかないか、特別に太った女というほどでもない。そして、なんといっても、声だ。それはあまりにも優しく上品だった。

実際、ナマ佳苗を見、声を聞いた男性記者たちが休廷中に「思ったほどブスじゃない」「声、可愛くないか?」「十分イケル」「見ているうちに、どんどん可愛くなってきた」とひそひそ話しているのを耳にした。

ボールペンは100円のノック式のものだが、ノックの仕方が、なんていうか、優雅なのだ。ひとつひとつの所作がきれいだ。

(引用終了)

f0134963_8334641.jpg
木嶋佳苗のブログ(表紙はこの写真からデザインされているようですね)



たぶん、著者は「決して美しいとはいえない」佳苗が魅力的に見えたのは、なぜだろうという視点で、佳苗の一挙手一投足を見ているので、彼女の魅力をより発見してしまうという点もあるのだとは思います。

でも、彼女は、婚活サイトで出会った「冴えない男性」を惑わせただけでなく、お金目当てでなく付き合った男性の中には、取材で訪れた女性記者に「ジャージ姿なのに、とてもセクシー」と思われるような男性もいたり、しかも、そのセクシーな男性は、強気なモテ男だったにも関わらず、やはり、佳苗に振り回されている。

本書を読んで、木嶋佳苗にどこかシンパシーを感じてしまうという女性は意外と多いと思う。彼女に同情したくなる点は、まったく見られないにも関わらず、なぜかそう感じてしまうのは不思議ではあるのだけど、

おそらく、その理由は、本書に彼女の犯行についてのページが少なく、また、女性にとっては、この事件の被害者たちに同情できる部分がないからでしょう。

彼女は、自分の魅力を最大限に生かし、男から金を貢がせるために、頭脳も神経も総動員し、大変なエネルギーを使っている。一方、彼女に貢がされた男性はと言えば、、、たぶん、彼らは自分をバカだとは思っておらず、自らが選ばれるという視点もない彼らは、なぜか、女性を見る目があると思っている。

彼らが女性にできることと言えば「お金」しかない。

と、決して少なくはない数の女性は思うだろう。

しかし、クリエイティブな嘘をつくことができる、佳苗の犯罪には、殺害という、どう考えてもリスクが大きく、彼女の「頭の良さ」とは正反対の「闇」があって、たぶん、そこが、女性が木嶋佳苗に興味をもってしまう点ではないでしょうか。

木嶋佳苗に対し、かなり好意的に書かれている著者の連載を読んだ、佳苗はこれを嫌ったという。そして、著者はそこから「私のことは、私が書きますから」というメッセージを受け取ったようです。

確かに、かなりの文学好きを感じさせる、佳苗自身による手記は、確実に読んでみたいと思わされました。(死刑判決後の手記全文は下記にリンクしました)この事件が華やかに報道されていた時期はほとんど興味がなかったのだけど、本書を読むと、佐野真一氏の男性目線で書かれた『別海から来た女』も読みたくなってきました。

◎[Amazon]毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記

☆参考サイト
◎毒婦について(北原みのりコラム)
◎憧れは「松田聖子」な木嶋佳苗、ブスでデブなのにモテるワケ
◎参考書評「極東ブログ」
◎死刑判決・木嶋佳苗被告の手記


[PR]
by yomodalite | 2012-07-18 08:51 | 裁判・法律・犯罪 | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


by yomodalite