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春狂い/宮木あや子

春狂い (幻冬舎文庫)

宮木 あや子/幻冬舎




そろそろ、エロい本が読みたくなってきた・・・

宮木あや子氏の本は、前回の『白蝶花』に続いて、3冊目。

「壱」
薄紅色、硬質で冷たい風、寒さに頬を染めた明朗な女生徒。穏やかに流れる時の中で、世界はとてつもなく美しい。
...... 今なら、死ねる。

Aはヘリンボーンのジャケットのポケットに右手を突っ込み、もう長いあいだ中に仕舞われっぱなしの剃刀の鞘を外した。剥き出しになった刃の先端を人差し指でなぞり、指先の皮を裂く鋭さに戸惑いつつもそれを取出そうとする。
ーー願わくは花のもとにて春死なん

「弐」
売春という言葉は誰が考えたのか、とても綺麗な言葉だと思う。
春になると変な人が出てくるから気をつけるのよ、と母親に小さい頃言われた。変な人は幸せなのだと思う。春が来たからきっと嬉しいのだ。冬は寒くて寂しい。寒さに耐えられずに死んでしまう人さえいる。

春の夜は月の光を受けて、桜が白くぼんやりとした光を湛える。冬の凍った雪が放つ光の鋭さとは違って、桜が放つのは精液のように生暖かい光だ。桜の花びらに満たされた道は、寝転んだらさぞ幸せな気分になれそうで、小さなころからその衝動としょっちゅう闘っていた。

春画とか、売春とか、性風俗的なものを表すことには大体春の字が用いられている。春になると幸せな人が増えるから、性風俗も春の字を用いて幸せを表しているのだろうか。

そうしたら、夏には何を売ればいいのだろう。

「参」
静寂に殺されそうな夕刻だった。生暖かな風がそのままゾル化した大気は、その中で一晩を過ごしたら翌日の昼ごろにはびっしりと黴の生えた変死体で発見されそうな、重い湿気を含んでいる。

世界を覆う空は、分厚い雲が湧き立つように形を変えている灰色。分け入ってどこまで進んでも、その果てに青い空は見えそうにない。この曇天の下で、現実と黄泉との境目は、時折異様なくらい明るく囀る場違いな小鳥の鳴き声だけだった。

未だ新芽の気配のない、枯れ果てた桜並木のした、唇の赤い少女がひとり歩いていた。静寂の中に小さな足音が吸い込まれる。セーラー服の緑のリボンが不自然に風景の中に浮き立って見えた。二本の三つ編みにした長く茶色の髪の毛は、いかがわしく乱れている。少女は、自分の足音を自分の耳で日常のように聞いていることが不思議でならなかった。

「四」
人と違うと思いたくなかったけれど、私はたぶん生まれたときから人と違うさだめを、身体のあちこちに疱疹のように内包していたのだと思う。母は一般的に見て普通だった。父も同様に普通だった、けれど、私は違った。人と違う種は、いったいどこから入り込んだのだろう。私は風呂に入るたび、臍の穴を見つめたのだった。小さい暗い洞の向こうには、何か得体の知れないものが蠢いているような気がした。

「伍」
桜の木がその伸びやかな腕に鮮やかな緑をいっそう輝かせる夏の初め、美しい少女が両親を失った。電話で連絡を受けた少女は、十六歳になったばかりであった。

「六」
黒い波打ち際、月明かりの下、茶色い髪をなびかせ、少女が現実に背を向けて立っている。人の姿をした氷の杭に見えた。冷たい浜に打込まれ、髪の毛一本の先まで、この世に存在する全ての優しく柔らかなものを拒否する....


「官能ミステリ」と、出版社の宣伝文句にはあるのだけど、残念ながら、本書はまったく「官能的」ではないと思う。また、この作品の、性の痛ましさや、残虐性を、甘受できる人は、男女ともに少ないと思うし、被虐をテーマにした「官能小説」の創りとも異なるものの、

主人公が異なる、6つの短編が重なり合い、読み進めるうちに、浮かび上がる「謎解き」があり「ミステリ」としての魅力はあります。

ほとんどの男女にとって「エロ」の期待は、裏切られ、性愛描写も少ないのですが、上記で抜粋したような文章のどこかに、魅力を感じられる人で、安定した精神状態なら....別のどこかが刺激されるかも。。

わたしは、笑いも取入れた『野良女』など、宮木氏の作品を、もっと読んでみたいという気持ちは、ますます高まりました。
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[内容紹介]桜の園を生きるには、少女はあまりに美しすぎた。
『花宵道中』の宮木あや子が描く、美しく残酷な10代の性と愛、そして、希望――

生まれもって人を狂わすほどの美しさを内包した少女。その美しさゆえ、あらゆる男から欲望の眼差しを浴びせられ続けていた。そんな少女が17歳になった時、桜咲き誇る女子校で出会った一人の男。その男は、少女が唯一愛した少年を辱め死に追いやった男――少年の実の兄だった・・・。愛、欲望、孤独に狂うものたちが、少女の美しい躯と脆い心をズタズタに切り裂いてゆく。やがて、少女が選んだ未来とは?桜咲き誇る女子校を舞台に、一人の美少女が、17歳という短い人生で、男や大人に対する憎しみ、同性への失望の中、真実の愛と自身の居場所をもがき探そうとする、少女の静かなる情念と熱狂溢れる著者初にして衝撃の現代美少女官能ミステリー! 幻冬舎 (2010/5/11)

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by yomodalite | 2011-05-15 10:54 | 文学 | Trackback | Comments(0)

白蝶花(はくちょうばな)

宮木 あや子/新潮社




白蝶花について、本書の扉にはこうあります。

白蝶花(はくちょうばな)【アカバナ科・ヤマモモソウ属】

よく撓る花茎に白や薄紅の、親指くらいの小さい花をたくさん付けます。
風に吹かれると、あえかな白い蝶々が舞っているように見えます。
花はすぐに枝から落ちてしまいますが、次の日には新しい花が咲きます。
花茎が倒れても、枯れずに次々と花を咲かせつづけます。


2008年の作品で花の名前がついた短編が4作。『天人菊』『凌霄花』(のうぜんかずら)『乙女椿』『雪割草』。それぞれ独立した作品でありながら『花宵道中』と同じく4編とも見事に繋がっています。

今回は、戦前から戦後にかけての昭和を舞台にしていて、吉原を舞台にした『花宵道中』での濃密な性描写は大分押さえられていますが、にもかかわらずストーリーの濃度はまったく薄まっていません。30代前半の作家にも関わらず近代の描き方の確かさには脱帽。現代作家としては話題にはなりにくい作風ですが、熟年世代には少し懐かしく、若い世代なら他にはいない、小説好きなら男女問わず奨めたくなる作家ですね〜

今のTV関係者に連続ドラマをどう創るべきかを、是非本書から学んで欲しいものです。

★★★★(恋愛は娯楽の王様!)

『花宵道中』/宮木あや子
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【出版社 / 著者からの内容紹介】抱いて。ずっと忘れないように—— 戦中の日本で恋に命をかけた女たちを描く純愛ロマン。

昭和十九年、福岡県知事の屋敷に奉公にきた少女・千恵子。書生の政吉と恋に落ち初めて結ばれた途端、政吉は徴兵されてしまい……千恵子の波乱に満ちた人生を中心に、戦前・戦中・戦後の激動の日本で、それぞれの愛を貫き通した5人の女たちが織りなす恋物語。デビュー作『花宵道中』で圧倒的支持を得た著者による注目の最新作!

【BOOKデータベース】昭和十九年、福岡県知事の屋敷に奉公にきた千恵子。華やかな博多の街、美しい令嬢・和江との友情、そして初めての恋。しかし戦争の足音は、千恵子のすぐ背後に迫っていた…千恵子の波乱に満ちた人生を縦糸として、激動の時代にそれぞれの愛を貫き通した五人の女たちが織りなす恋模様。戦前・戦中・戦後の日本で、恋に命をかけた女たちを描く純愛官能ロマン。第五回R‐18文学賞大賞受賞『花宵道中』の宮木あや子最新作。 新潮社 (2008/02)



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by yomodalite | 2009-06-13 20:30 | 文学 | Trackback | Comments(0)

花宵道中/宮木あや子

花宵道中 (新潮文庫)

宮木 あや子/新潮社



R‐18文学賞は、応募者も女性限定、選考委員の作家や下読みにあたる編集者も女性のみという、性について描かれた小説全般を対象にする新潮社が主催する公募新人文学賞。気になる歴代審査員は光野桃、山本文緒、角田光代、唯川恵という賞の趣旨との相性が期待できる人選。本著は、山本文緒、角田光代両氏が審査員時代の2006年、第五回の大賞と読者賞の両方で受賞した作品です。

著者の宮木あや子氏は歴代受賞者のなかでも、特に評判が高いようなので、興味津々で読んでみたところ、まったく予想以上の作品で驚きました。

まずは、性交や性技に関する記述が満載なので、電車の中では読まない方がよろしいかと思われますが、それは隣の方に覗き見られたら恥ずかしいという文面だからではなくて、あくまで諸姉諸嬢のみなさまのお召物を心配してのご注意です。では、そのような描写以外に価値がないかと申せば、それがなくとも「極上品」であるところが、なんとも驚きなわけです。

「花宵道中」「薄羽蜉蝣」「青花牡丹」「十六夜時雨」「雪紐観音」という5つの短編集ですが、いずれも山田屋という小見世の遊女たちの物語で、5編を通して読み進むことによって、遊郭の人間模様がより立体的に、切なさも極まっていきます。

著者は1976年生まれの33歳なのですが、改行によるページ稼ぎなどが一切なく、本の厚み以上の濃い内容なので、時代小説好きの壮年男性も充分楽しめると思います。

同じく吉原を描いた直木賞受賞の松井今朝子氏の『吉原手引草』と読み比べたくなりました。

また、こちらは、電子書籍のサイト「デジコミ新潮」
http://www.ebookjapan.jp/shop/title.asp?titleid=12778

で、立ち読みやデータ購入も出来て、単行本よりお安いようですが、
単行本装幀の方が遥かに素敵ですし、再読に叶う作品なので、単行本購入の方が絶対オススメ。

★★★★★(満点。稀少なタイプの娯楽作品なので)
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【出版社 / 著者からの内容紹介】江戸末期の新吉原で、叶わぬ恋に咲いては散りゆく遊女たち。恋する男の目前で客に抱かれる朝霧、初見世に恐怖と嫌悪を抱く茜、自分を捨てた父に客と女郎として対峙した霧里、一生恋はしないと誓いながらもその衝動に抗いきれなかった八津……芳醇な色香を放ち、甘美な切なさに心が濡れる官能純愛絵巻。

【BOOKデータベース】吉原の遊女・朝霧は、特別に美しくはないけれど、持ち前の愛嬌と身体の“ある特徴”のおかげでそこそこの人気者。決して幸せではないがさしたる不幸もなく、あと数年で年季を終えて吉原を出て行くはずだった。その男に出会うまでは…生まれて初めて男を愛した朝霧の悲恋を描く受賞作ほか、遊女たちの叶わぬ恋を綴った官能純愛絵巻。第5回R‐18文学賞大賞&読者賞ダブル受賞の大型新人が放つ、驚愕のデビュー作。 新潮社 (2007/2/21)




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by yomodalite | 2009-03-06 11:55 | 文学 | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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