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小説サムライ ー モーツァルトとマイケル・ジャクソン/水沢美架

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前回、教科書のような本を紹介したので、今回は毛色の変わったものをw

マイケルの小説は、これまでも、直木賞作家の桜庭一樹氏や、小説家ならぬ大説家の清涼院流水氏のものがあって、

◎『傷跡』桜庭一樹 
◎『キング・イン・ザ・ミラー』清涼院流水

いずれも、マイケルに対しての愛が感じられるものでしたが、本書も同様で、タイトルで、モーツァルトとマイケルを「サムライ」としているのは、著者がもっとも尊敬しているものだからだと思われます。

で、内容を少し紹介すると・・

(引用開始)

モーツァルトのオペラ「魔笛」の初版本の挿絵と、マイケル・ジャクソンのアルバム『デンジャラス』の表紙絵とを比べてみる。奇妙に似ていて、息をのむ
どこか怪しい神話のような世界、薄明かりの地下の洞窟
五芒星、アーチ、神殿の柱
ロココ、ドクロ、アランビック、精霊、牛、鋤、レンガ壁
そして、壁の中から密かにこちらをうかがうプロビデンスの目

「ぼくたちは、まだ、死にたくなかった」
そう悔やむモーツァルトとマイケルの声が聞こえる
あの礼拝堂のオルガンを鳴らすと、死者の声がする
まるで同じ運命をたどる仲間に、忠告するような哀しげな声

「ブラック・オア・ホワイト」の三度戸をたたく音
「ヒール・ザ・ワールド」の連続するスラー
「ジャム」の三連符
「ウィル・ユー・ビー・ゼア」のシラーのオード(*1)
アルバム『デンジャラス』の曲の中に出てくるシンボリズムは「魔笛」の曲の中にも数多く込められている・・・

(以上プロローグより)

この小説では、夢の中で行われる、マイケルとモーツァルトの会話に、実際のエピソードも挿入されているのですが、朝堂院氏とのエピソードがずいぶん詳細なことが疑問で、著者について検索したところ、彼女は、かつてジョーパパも出演したことがある朝堂院氏のインターネット番組の司会(*2)もされている方なんですね。流石サムライ好きw。

マイケルは今後、アメリカ帝国文明を代表するひとりとして、必ずや歴史に残る人なので、神聖ローマ帝国に華開いた古典派音楽を代表するモーツァルトと比較するのは、色々な面で興味深いのですが、ハイドンやベートーベンより、モーツァルトがより興味深いのは、他のふたりに比べて「謎」が多い点だと思います。

モーツァルトが7番目の子供で、幼少時からその天才を認められ、ゲーテなど多くの文化人に注目されて成長し、栄光を手にするも、若くして亡くなった(35歳)という点にも類似点が感じられますが、特に興味をかき立てられてきたのは、その死の謎。

マイケルの「スリラー」旋風がまだおさまっていない1984年に公開された映画『アマデウス』では、サリエリの嫉妬と苦悩がクロースアップされましたが、その映画でのモーツァルトの描かれ方は、老獪なサリエリと、天衣無縫で、純粋無垢な天才モーツァルトといった単純なもので、映画の公開当時、モーツァルトは音楽の天才であっても、世間知らずで、スカトロジーの趣味があるといったような話題も盛んで、そんなところも、マイケルの場合と似ているというか、ゴシップって、昔からほとんど変わらないものですね。でも、本書のふたりは「サムライ」ですから、そういった話題は一切なく、

第1章 夢の中のモーツァルトとの会話から)

マイケル「あなたは、もちろんご存知ですよね。ぼくがあなたの『ピアノ協奏曲大4番』の第一楽章の主題をモチーフにして、『バッド』のベースの冒頭の主題を作ったことを・・・あなたの『ドイツ語による小カンタータ(無限なる宇宙の創造者を畏敬する君よ)』の歌詞をもとにして、『ヒール・ザ・ワールド』を書いたことを・・・『スムース・クリミナル』は、現代版『ドン・ジョバンニ』ですし、『ヒストリー』は、あなたの人生を・・・

(引用終了)

などなど、著者は、マイケルファンに多いクラシック好きの方のようで、XJapanのYOSHIKIとのエピソードにも力が入っています。ただ、実際のエピソードと架空の物語を融合させる中には、若干強引な箇所もあって、

(第1章 夢の中のモーツァルトとの会話から)

マイケル「ぼくがフリーメーソンに入会した理由は、『入会の有無にかかわらず、真理の探究者はすべてメーソンだ」という言葉が気に入ったからです。・・・ぼくは弱い人間です。だから、フリーメーソンの教義に賛同したんです。この世で、心から、他者の幸福のために奉仕し、善行を積み重ね、どんな宗教でもいいから神を信じ、まじめにコツコツと仕事に励み、真理の探究をし続け、自分にしかできないなにかを成し遂げれば・・・自分の神殿を築き上げれば・・・神のような、永遠不滅の高貴な霊的存在になれるというフリーメーソンの教義に・・・」

(引用終了)

モーツァルトがフリーメーソンだったのは事実かもしれませんが、マイケルがメーソンリーだった事実はありませんし、キリスト教会が絶大な権力をもっていたモーツァルトの時代と違って、マイケルが生きた時代、メーソン的な考えを信じるのに、秘密結社に入会する必要はありません。

世界の真実を語るために、フリーメーソンやイルミナティを利用する人は多く、プロヴィデンスの目のようなものを発見しては「陰謀」めいたことをいう方々も多いので、誤解がないように一応補足しますが、そういった類の陰謀論は、フリーメーソンがグローバリズムの脅威と関連付けやすいからで、メーソンが秘密組織ではなくなり、実態が明らかになっていく中で、あまり知られていないことで使い勝手がよかった「イルミナティ」が論者に好まれるようになっているようです。

あるとき「善」であった組織が「悪」に変わるのは、歴史上常に起こっていることですが、それは、そこに集う人間がみんな善と悪の両方をもっているからでしょう。宗教であっても、無宗教であっても、資本主義や共産主義やグローバリスムも、その教義は「善」から生まれていても、それを信じる人々の「強欲」や、「独善」が、自分よりも相手を疑って、敵を生み出し、敵対する勢力との争いの中で、より大きな「悪」へと変化してしまう。

教義の違いから敵対するような集団同志であっても、カトリックの聖人マザーテレサが行っていたことと、プロテスタントのマイケルがネバーランドで病気の子供にしていたことが似ているのは、強い意志をもった個人には、集団を維持するための原理から距離をおくことが出来るからでしょうか。

発足当初のフリーメーソンに集まった人々には、永年権力を握ってきたキリスト教の弊害を重く受け止め、自由な気風と、輝くような知性によって、建国時からアメリカの大きな力になったことは事実で、マイケルの考え方の基盤にも、そういった人々の影響が強く感じられることは確かなことだと思います。ローマ法皇という王様を頂点とするカトリックと違い、プロテスタントは数多くの小集団にわかれ、中でも、マイケルが実際に信者だったエホバの証人は、三位一体や、運命予定説を放棄した点で、フリーメーソンの教義に近いと言えなくもありませんし、開祖がメーソンだった可能性もありそう。

ですが、最初に言ったように、現代ではフリーメーソンのような考え方をするのに、秘密結社に入会する必要はないので、集団や教会を必要としないのなら、私は、ユニテリアンの方が近いと思います。

◎[参考記事]解説 All In Your Name

どんな集団も移り変わっていくもので、もっとも基本的な教義であっても、集団を維持していくうちに、重要視するものも変わっていきますし、個人が信仰を深めていく中で、むしろ、教団に属することが邪魔になることもあるでしょう。マイケルが少年の頃に属していた教団を離れたのは、まさにそういった理由で、彼は豊富な読書や知識欲によって、教えられた信仰ではなく、自分で心の底から信じるものを探し続け、ひとりの人間としては稀なレベルにまで、信仰心を高めた。それは、周囲の評価から正しさを測っている現代のハリウッド・リベラルにはない「真実の光」をマイケルが放ち続ける理由でもあると思います。

成功と失脚の、天と地ほどの落差を耐え抜いたマイケルに、イエスの受難を感じる人は多いですが、その中の多くは、聖書の中のイエスにはないビジネス感覚を理解せず、音楽やダンスの天才だったと思う人は、モーツァルトの知性に興味がない人が多い。

2016年に出版され、マイケルとビジネス契約を結んでいながら、MJエステートに排除された朝堂院氏との関係からか、本書ではエステートの罪への言及もあるのですが、そういった部分も、モーツァルトのパトロンだったスヴィーテン男爵と比較するなど、これまでの真実追求本にはない視点が興味深いと思います。

新たな視点で、マイケルを見たい人には面白く読める物語かもしれません。

(フリーメーソンのとこ、長々と書きすぎたかな… )

目次
第1章 日本が支えたマイケルと、モーツァルトの告白
第2章 愛国者マイケルと、スヴィーテン男爵の野望
第3章 マイケルの著作権と、モーツァルトの対決
第4章 マイケルのツインソウルと、モーツァルトの死因
第5章 復帰を目指すマイケルと、モーツアルトの憂い
第6章 「This is it」と、レクイエム

◎Amazon『小説サムライ ー モーツァルトとマイケル・ジャクソン』
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(*1)シラーのオード/ウィル・ユー・ビー・ゼアの冒頭で歌われる、ベートーヴェンの交響曲第9番第4楽章の「歓喜の歌」と言われる部分は、1785年にシラーが書いた「自由」(Freiheit )の詩が使われていて、これは、フリーメイソンの理念を詩にし、フリーメイソンの儀式のために書かれたと言われている。マイケルが使用しているのは、その最後の部分。

Ihr stürzt nieder, Millionen?
Ahnest du den Schöpfer, Welt?
Such' ihn über'm Sternenzelt!
Über Sternen muß er wohnen.

ひざまずくか、諸人よ?
創造主を感じるか、世界よ
星空の上に神を求めよ
星の彼方に必ず神は住みたもう


(*2)



動画は著者の水沢氏が司会をされていることから選んだものです。


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by yomodalite | 2017-01-12 11:17 | ☆マイケルジャクソン書籍 | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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