カテゴリ:現代文化・音楽・訳詞( 135 )

ジャパンクールと江戸文化

奥野 卓司/岩波書店

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2004年の『日本発イット革命ーアジアに広がるジャパン・クール』に続いて2冊目のジャパン・クール本。相変わらずものすごくダサイ装幀が残念ですが、あちこちで目にするようになった「ジャパン・クール」の紹介者である奥野氏の本なので読まずにはいられません。

今回はマンガ・アニメ、JPOPなどジャパン・クールの源流は江戸にあった、というもの。江戸の再発見ブームは永く続いていますが、「数奇者」ー「オタク」、「ワビ、サビ、イキ、モエ」や、鎖国の国のグローバリズムなどなど、江戸文化の実態を探る内容にもなっていて、目次からも面白さが窺える。読者を疲れさせない読みやすい文章ですがレベルの高い内容。

【目次】
第1章:ジャパン・クールからみえる江戸文化
・モザイクに広がる日本文化ーパリのジャパン・クール
・変貌するファン層
・「伝統文化」のニューウェーブ
・江戸人のクールな生き方
・江戸時代をフィールドワークする。
第2章:コミュニティを再生する江戸文化
・「こんぴら歌舞伎」は全国から
・歌舞伎によるまちづくり
・祇園際の変容
・「伝統」の発明
第3章:ジャパン・クールとしての江戸文化
・「開国」していた江戸、「鎖国」している現代
・江戸文化のデジタル化
・「モノづくり」から「モノ語りづくり」へ
・玉三郎のデジタル感覚
・デジタル歌舞伎へ
第4章:江戸文化の「モエ」の構造
・「情報化」「成熟化」「多様化」が「江戸」を呼ぶ
・江戸のメディア化
・「数奇者」というオタクのネットワーク
・「武士道」なんか知らないーマンガとしての「忠臣蔵」
・エンターテイメントとしてのテクノロジー
・アニミズムからアニメへーキャラクターの錬金術
・鎖国のクニのグローバリズム
・江戸人の美意識ーワビ・サビ・イキ・モエ
第5章:京都・大阪・名古屋のコンテンツ戦略
・上方の文化ビジネス戦略
・京都商法としての家元制・本家制
・大阪商法のフィランソロピー
・元気な名古屋の存在理由
第6章:江戸という近未来
・江戸は「管理者会」か「大衆社会」か
・クールな江戸町民にとっての幸福ー西鶴の教えるネット社会の罠
・「江戸文化」をデジタル・コンテンツに

★「本よみうり堂」
http://www.yomiuri.co.jp/book/review/20070918bk03.htm

「作られた伝統も格好いい」
 ジャパンクールを若者語で言うと「日本、萌(も)え!」だろうか。アニメ、ゲーム、Jポップなど日本発のポピュラーカルチャーがアジアでも欧米でも大人気であることはよく知られている。欧米ではそんな現代若者文化を経由して歌舞伎や文楽などの「伝統文化」にまで新たな関心が及び、「ジャパンクール」(カッコいい日本)と呼んで高い評価が生まれている。だが新しい若者文化の担い手がどうして古い「伝統」文化の歌舞伎好きでもあったりするのか。
 文化人類学者クリフォード・ギアツは、連綿と続く伝統芸能と見られていたバリ島のガムラン音楽や踊りなどの民俗芸能が近代になってつくりだされた「伝統の発明」であることを明らかにして学界に衝撃を与えた。そんな認識の上に立って80年代以後、学者たちは「本物の伝統」と「ニセの伝統」の二つを見極めることを学問の任務と唱えた。ところがその後世界各地の「伝統儀式」「伝統行事」なるものの詳細な調査がなされたところ、ほとんど近代以降の「発明」であることが明らかになった。さあ「本物の伝統」などこの世にあるのか。
 著者は学者が批判的にとらえてきた「伝統の発明」を日本文化創造の源泉とみてむしろ評価する。古典文学を翻案してできた『義経千本桜』など人形浄瑠璃や歌舞伎の演目は今日のアニメ、映画と同じ「現代世相劇」だった。
 それは「伝統」を利用して「現代」を楽しむ江戸のクール感覚の産物。アニメに取り入れられた浮世絵の描写術や歌舞伎の演出法からキャラクターグッズというべき役者絵や根付けまで、ジャパンクールの現象や商品の原型は江戸時代にあると著者は分析し、さらにオタクの芸能集団を身近に召し抱えた足利義政から当時のJポップ「今様」を愛した後白河天皇の平安時代にまで遡(さかのぼ)らせうると示唆する。ほどよい批判精神と遊び心のバランスを備えた著者ならではの、海外受けする日本文化生成の謎解き。
 ◇おくの・たくじ=1950年京都市生まれ。関西学院大教授・情報人類学。
評・白幡洋三郎(日文研教授)(2007年9月18日 読売新聞)

★毎日jp「今週の本棚」
http://mainichi.jp/enta/book/hondana/archive/news/2007/08/20070805ddm015070126000c.html

田中優子・評 『ジャパンクールと江戸文化』=奥野卓司・著

◇黄表紙を踏まえたオタク的発信

 江戸時代は光の当てかた次第でお多福にも般若にもなる。笑いに満ちた桃源郷にもなるし、残酷な身分社会にも見える。どちらが本当だろうか?と真実を追究しようとしても、実体にはするりと逃げられる。しかし確実なのは、江戸人は近現代日本人が持ったことのない、変転自在な自我像を持っている、ということだ。この自我像はさまざまに顔を変え名前を変える。そのスピード感と軽さは、まさに「クール」なのである。

 「日本文化はクール、と言われているのよ」と最初に聞いたのは、ドイツ人の日本研究者からだった。数年前のことである。「どういう意味?」と尋ねると「かっこいい、ということ」だと言う。漫画、アニメにはまったヨーロッパ人たちから出た言葉らしいとわかったが、その「クール」という語感が、私が十代のころ最初に江戸文化に感じたことと似通っていることに驚いた。戦後生まれで江戸文化にはまる人は、外国人のような感覚で驚愕(きょうがく)の出会いをした人である。その出会いの瞬間を表現したのがこの「クール」という言葉かも知れない。語感は「いき」に極めて近い。

 本書は、ストレンジャーとしての我々(現代日本人およびあらゆる外国人)の眼に映る驚きの江戸時代、面白くてしようがない江戸時代を、迷いなく描き出した本だ。書かれている中身は、この二十年ほどの間に明らかになり表に出てきた事柄であって、新しい発見があるというわけではない。しかし資料の発見や新しい証明も大事だが、江戸研究がそれ以上に必要としているのは、新視点やそれを支える価値観の登場なのである。「ジャパンクール」は漫画やアニメに対して出現した言葉だ。本書はたちまち、それを現代の歌舞伎、祭、そして江戸文化のあらゆる現象に適用した。そして見事に、江戸時代の文化を「クール」という言葉に転換してしまった。この素早い身動きがクールである。

 しばらく読んで、ああそうか、と納得した。じつはこの本、江戸時代の黄表紙(漫画本)『御存(ごぞんじの)商売物(しょうばいもの)』のパロディなのである。本を開けると「口上」が始まる。『御存商売物』は能狂言の狂言師が口上を述べるが、本書では歌舞伎や文楽の口上でご挨拶(あいさつ)があり、定式幕が開く。『御存商売物』では、幕が開くとそこは作者の見た夢の世界だった。当時の最新メディアである江戸の出版物たちが人間の姿となって現われ、流行を争い、『源氏物語』や『徒然草』のような古典さえも現代メディア(商売物)の中に位置づけられてゆく。これは江戸クールの代表的な本である。

 本書でも、江戸文化が単なる伝統としてではなく、今の市場の中で動いている(動き得る)魅力的な商品(商売物)として書かれている。戦略的にそのように編集されている。インターネットやユーチューブで拡がる伊藤若冲や歌舞伎、落語、グーグルによる江戸古地図サービスなど、江戸文化がすでにさまざまにデジタル・コンテンツ化されている様子が紹介され、さらにそれを促す。ここから立ち上がってくるメッセージは、今こそ江戸文化を日本人の手でデジタル・コンテンツ化しようではないか、という情熱的でオタク的な呼びかけである。

 江戸文化は様々あるが、本書ではその戦略に沿って周到に選択・紹介されている。しかしそれでいてさわやかなのは、著者がお金儲けに熱心なわけではなく、江戸時代の文化がしんそこ好きだからだ。頭ではなく五感すべてでクールを感じ取ったオタクこそが、江戸を世界に発信できるのだろう。(毎日新聞 2007年8月5日 東京朝刊)

※ジャパン・クールへの批判
「松岡正剛の千夜千冊」
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya1172.html
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya1237.html

【参考文献】
粟津潔・奥野卓司編『日本の技 第五巻 古都絢爛の技』
梅○忠雄『美意識と神さま』
田中優子『江戸の想像力』
富岡多恵子『西鶴の感情』
吉田弥生『江戸歌舞伎の残照』
米山俊直『「日本」とはなにか』。。。。等



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by yomodalite | 2008-09-13 22:07 | 現代文化・音楽・訳詞 | Trackback | Comments(2)

芸術と青春 (知恵の森文庫)

岡本 太郎/光文社




岡本太郎の知恵の森文庫で復刊されている3部作、『今日の芸術』(1954)、『日本の伝統』(1956)、『芸術と青春』(1956)を一気読み。

まずは、今回初めて読む『芸術と青春』。
1929年、太郎は18歳でフランスに行き、1940年、29歳で帰国している。31歳で徴兵検査を受け中国で4年間軍隊生活を送り、1946年に復員した。1947年に敏子に会い、復員の8年後に、『今日の芸術』刊行。本著はその2年後に出版されています。

大成功した親の2世として、当時は非常にめずらしかったであろう留学経験。しかもパリが芸術の都として最も華やかな時代に、その綺羅星たちのほとんどに太郎は交流を果たした後一転して軍隊生活へ。終戦後の多くの文学者が、日本軍の惨めな実情をとおした反戦哲学や、日本批判をすることでしか世界意識を獲得できなかったのとは異なり、太郎は、日本とフランスを比較して日本を批判するようなことは一切していない。

鋭敏な感受性を持ちつつ、夏目漱石のように神経症にも陥ることなく、通常の日本人より落差が大きかったであろう軍隊生活を経て『今日の芸術』が書かれたことはまさに驚異的。芸術の都での太郎は、いわゆる日本の伝統を心の拠り所にしていたわけではない。太郎のその誇り高い魂の源であった岡本家の真実、かの子と一平の夫婦生活についても、実の息子でありながら、的確な評価をし、尊敬しつつも、超えようとする太郎の強い意志。。。この本を十代までに読めなかったことが本当に悔やまれる。

【目 次】
はじめに/岡本敏子
1/青春回想
色気と喰気、はたち前後、青春の森、ソルボンヌの学生生活、銃と私 ほか
2/父母を憶う
母、かの子の想い出、私の好きな母の歌、かの子文学の鍵、父の死 ほか
3/女のモラル・性のモラル
処女無用論、日本女性は世界最良か?、春画と落書き、女性に興ざめするとき ほか
解説/みうらじゅん
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【BOOKデータベースより】「青春は無限に明るく、また無限に暗い。」—岡本太郎にとって、青春とは何だったのか。パリでの旺盛な芸術活動、交遊、そしてロマンス…。母かの子・父一平との特異ではあるが、敬愛に満ちた生活。これらの体験が育んだ女性観。孤絶をおそれることなく、情熱を武器に疾走する、爆発前夜の岡本太郎の姿がここにある。 光文社 (2002/10 初出1956年河出書房)

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by yomodalite | 2008-04-22 14:10 | 現代文化・音楽・訳詞 | Trackback | Comments(0)

日本発イット革命―アジアに広がるジャパン・クール

奥野 卓司/岩波書店



タイムリーではありませんが、4年前の著書が今の現状をどれぐらい予知していたのかという興味により読んでみました。この数年で秋葉原の外人客の様相は明らかに変化し、ジャパニメーションや、ジャパンクールは一層拡大している印象がありますね。

著者は関西学院大学教授で、若い頃は11PMの台本をアルバイトで書いていたらしく、通常の大学教授の著書と違って関係者向けではない一般書。日本のオタク市場をTV的な印象操作のそれではなく「多元的マニアックス」と呼び、韓国や中国が国主導でコンテンツ政策を進めているが、イット革命が遊びの要素からなりたっている以上日本が追い抜かれることはないだろう。というのが要旨。

現在の日本のアニメ、マンガ業界の疲弊は明らかだが、世界の文化状況の停滞ぶりは更に激しいので、相対的にはやはり追い抜かれることはないかもしれない。それにしても、このダサ過ぎる装幀にジャパンクールっていうのは・・ ヾ(´ω`)

★★★☆
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【内容「BOOK」データベースより】拡大する日本発ポップカルチャーの実態に迫る。いま日本のゲームやアニメ、Jポップなど日本発のポップカルチャー(ジャパン・クール)がソウル、台北、上海、香港などで爆発的に拡大し、世界で高い評価を受けている。この拡大を支えているのは、多元的なコンテンツ(イット)に関心をもつ若者たちだ。豊富な調査から彼らの実態を浮き彫りにする。 岩波書店 (2004/12)

【目次】
1章/イット革命が始まる
竹中さん、IT革命って何だったのですか、Tバブル崩壊の原因 ほか
2章/イット革命が広がる—東アジアでの日本発ポップカルチャー
「ジャパン・クール」伝播の実態は?、台北の「哈日族」 ほか
3章/イット革命が創られる
「イット革命」以前、エキゾティシズムの評価を越えて ほか
4章/イット革命のゆくえ
国家戦略としてのイット革命—韓国と中国、就業可能人口と産業化の可能性 ほか



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by yomodalite | 2008-04-06 23:29 | 現代文化・音楽・訳詞 | Trackback | Comments(0)

底抜け合衆国―アメリカが最もバカだった4年間 (ちくま文庫)

町山 智浩/筑摩書房




アメリカ衰退の始まりを描いた歴史的カルチャー本!

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[BOOKデータベース]ブッシュ大統領「疑惑の当選」からマイケル・ムーアの『華氏911』戦争まで戦時下アメリカの恐ろしくもマヌケな真実!カリフォルニア州知事アーノルド・シュワルツェネッガー、『アメリカン・サイコ』ブレット・イーストン・エリスなどのインタビューも収録。 洋泉社 (2004/08)

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by yomodalite | 2007-04-11 14:29 | 現代文化・音楽・訳詞 | Trackback | Comments(0)

USAカニバケツ: 超大国の三面記事的真実 (ちくま文庫)

町山 智浩/筑摩書房




アメリカ衰退の始まりを描いた歴史的カルチャー本の第2弾。軽〜い読みものとしても楽しめますが、10年後にもまた違った感慨で読める内容かも。

<内容のほんの一部>
●史上最もヒドい音楽でアメリカ集計1位に選ばれた歌とは?
●1球3億円? 大リーグのホームランボールを奪い合う男達の肖像
●シンプルライフなんて全然できないセレビッチ、パリス・ヒルトン
●自分の足首切断をネット中継する男
●ジェニファー・ロペスのワガママ度
●乱闘だらけのアイスホッケー
他てんこもり!!

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[出版社 / 著者からの内容紹介]アメリカは、政治と大統領以外でも、ずーっと騒がしい!雑誌『映画秘宝』、単行本『底抜け合衆国』『<映画の見方>がわかる本』『映画欠席裁判』(洋泉社)などで知られる著者が贈る、怒濤のコラム集。
スポーツ、TV、映画、マンガ、ゴシップ、犯罪etc・・「政治」や「大統領」や「戦争」以外でも騒がしい国・アメリカからの、911以降のポップカルチャー総まくり通信!!知られざるアメリカのB面を知りたければ、まずこの1冊!太田出版 (2004/12/7)

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by yomodalite | 2007-03-25 23:36 | 現代文化・音楽・訳詞 | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


by yomodalite