カテゴリ:裁判・法律・犯罪( 21 )

刑法三九条は削除せよ!是か非か (新書y)

呉 智英,佐藤 幹夫/洋泉社



タイトルと、呉智英氏の組み合わせには「刑法三九条」削除すべしの結論へ導く書という印象を受けますが、両論のバランスとしては、むしろ削除すべきでない論の方が多い。

呉智英(評論家)は、刑法上で責任能力を判断することをやめるべきという主張ですが、呉氏にしては、及腰というか、かつての復讐論とは異なり意外にも折衷案に落ち着いている。

小谷野敦(比較文化)は、精神分析や心理療法がジャンクサイエンスであるとし、福島章や人権派、団藤重光の死刑廃止論を批判していますが、その論拠は、概ね日垣隆の「そして殺人者は野に放たれる」を資料としている。

橋爪大三郎(社会学)は、39条の削除にはまったく賛成できないとしながら、その理由として刑法とはなにかという原理論を述べるのみで、39条自体への意見は避けている。

浜田寿美男(子供学・発達心理学・法心理学)は、犯罪時の精神状態は認定できるか、という精神鑑定医たちがかならずつきあたる原理的な問題を、鑑定医自身も立ち入らないまま、司法の要求に従って何らかの結論を出している現状をより問題視している。

副島洋明(弁護士)は、知的障害者や、発達障害をかかえる人の弁護を行ってきた経験から、責任能力ではなく、受刑能力のあるなしを鑑定すべきという主張。知的障害者にも、少年審判のような仕組みを適用すべきとしながら、「心神喪失」や「心身耗弱」には否定的意見。

林幸司(精神科医)は、39条の最大の問題は「罰しない」の後に続く文言がないことという主張。殺人、傷害、暴行、脅迫、放火、強盗など犯罪としかいいようがものを精神障害者の「問題行動」として治療にあたらなくてはいけない現場の限界を、医療の立場から述べられている。刑務官による処遇と、医師による治療が英語では同じ[treatment]である。ある西欧の司法精神医学の専門家に「日本では統合失調者の重大犯罪では責任能力の争いとなることが必須だが、貴国ではどうか」との問いに、「責任能力の有無なんて問題じゃない。病院で扱えないような危険な者は刑事施設でみるのが当たり前だ」と即答したという経験を紹介。(←常識論なら、なぜ、ある西欧ではなく、具体的な国名、人名をあげられないのか?)

滝川一廣(医学部卒〜精神病院勤務を経て児童福祉センター〜大正大学人間学部教授)は39条の問題を、

(甲)私たちの日常生活の安全や社会の治安がまもられるためにはなにがたいせつか
(乙)私たちが精神障害者となったとき、じゅうぶんなケアと回復や社会復帰の道が、つまり生活がまもられるためにはなにがたいせつか
という2つの問題に冒頭で集約していて、非常に驚かされる。

(甲)は問題ないとしても、なぜ39条の問題が、(乙)につながるのか、精神障害者で犯罪を犯した者を罰することが、精神障害者すべての人権を阻害するものだと考えようとする典型的なおバカな意見である。池田小事件の宅間守が「自分は精神障害者だから罪に問われない」とうそぶいていた、といい、そのような通念が間違っているとして、『分裂病犯罪の精神鑑定』という1978年に出版されたというおそろしく古い資料を引用している。

佐藤幹夫(フリージャーナリスト)は、犯罪被害者遺族の苦しみ、報復感情を理解しつつ「心神喪失」「心神耗弱」への誤解と混乱、「精神障害・知的障害=精神鑑定=無罪」という誤解を解く。責任能力は司法判断であり、精神鑑定=無罪ではない。しかし、精神障害を疑われている犯罪者の中で毎年約90%が不起訴処分となっている。不起訴率90%の数字の背景には刑事事件における有罪率99.9%という数字が控えていて、検察官の点数主義が見えかくれする。被疑者のための判断というよりは、検察にとって公判維持できるかどうか、有罪判決を勝ち取れるかどうかが優先されているという疑念を消す事ができない。責任能力の疑わしきは起訴せずの一方、起訴されたからには何が何でも有罪という危惧。もし39条を削除し、すべての事案を公判に持ち込むなら、99.9%の有罪率の刑事裁判のあり方に再考を促さなくてはならない。

・新受刑者総数30277人中、知的障害は284人。知能検査結果IQ49以下1158名、測定不能1830名(平成13年矯正年報)
・39条をもつのは先進国で日本だけ
・逮捕・勾留から起訴まで22日間という長期拘束を認めているのも先進国では日本のみ
・被疑者の自白供述にもっとも重きをおいた取調べがなされるのも先進国では日本だけ


第1章 「刑法」は限界なのか
・責任という難問/呉智英
・三九条はきれいさっぱり削除されるべきだ/佐藤直樹
・新論・復讐と刑罰/小谷野敦
第2章 「刑法」とは何か
・「刑法三九条」を削除する理由はどこにもない/橋爪大三郎
第3章 司法と医療の現場から
・刑法三九条論議の一歩手前で/浜田寿美男
・求められているのはむしろ新しい「責任能力論」である
—処遇論と訴訟能力論の重要性を中心に/副島洋明
・寡黙な条文を補完するもの/林幸司
・生活や社会をどうまもるのか/滝川一廣
第4章 三九条、そのさまざまな問題
・刑法三九条何が問題なのか/佐藤幹夫
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【内容「BOOK」データベースより】 「心神喪失・心身耗弱」、そして凶悪殺人犯が野に放たれる?精神鑑定はうそ臭い!刑法はもはや時代遅れだ!こんな三九条があるから被害者は救われないのだ!よろしい、まちがいなく議論はタブーなしで、徹底的にやるべきだ。さてしかし、責任能力とはなにか、なぜ精神鑑定が「うそ臭い」のか。ほんとうに「精神病者=犯罪者=責任能力なし」なのか。いや、そもそも刑法とはなにか。なぜ三九条の条文があるのか。本書は、この厄介きわまりない主題に迫り、冷静に、多角的に、腰を据え、そして時代に先駆けてなされる問題提起の一書である。 洋泉社 (2004/10)

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by yomodalite | 2008-04-16 15:00 | 裁判・法律・犯罪 | Trackback | Comments(0)

私にとってオウムとは何だったのか

早川 紀代秀,川村 邦光/ポプラ社




川村邦光は、早川紀代秀の控訴審を担当する弁護士が知人だったことから証人尋問を依頼され、宗教研究者としてオウム論を述べた。本著は、この証人尋問の草稿を書き直し、早川への質問を付け加えたものが基本になっています。

早川は自身が著者となることによって傷つく人がいることに躊躇し、川村のオウム論を展開するための、あくまでも「素材」として欲しいという考えだったが、ポプラ社と川村の説得により共同執筆の形となっている。

「宗教的テロリズムと早川紀代秀」(川村邦光著述部分)は、日本の新宗教の流れを追った文章が長々と続きオウムへも解釈は至って凡庸で、肝心の早川の執筆部分は当事者の証言として、一応読むべき価値はあるかなという内容。

「消えない足跡ーオウムと私の軌跡」〜早川による生い立ちから、オウムでの活動のすべてを振り返る。他の信者と違い、若者ではなかった早川は、教団の戦闘的活動の中心である「武闘派」、教団No.2、元阿含宗信者、、など夥しい報道によるイメージを与えられているが、TM(超越瞑想)などの瞑想に興味をもち、ハルマゲドンや、ヨガの修行に夢中になっていくところなど、出家時に妻や、経営する会社をもっていた以外、他の若者信者と変わらないグルへの傾倒が綴られている。

また麻原への帰依が狂信的とも見えていた新実の「ポア」体験後の苦悩の様子などは意外だった。麻原の到底無理と思われるビジョンを次々と実行していった気持ちは幾分理解できたが、中小企業の経営者のようなリアルな中年男性に見えた早川が、瞑想や、麻原のシャクティパッドに魅了されていただけで、ここまで麻原に傾倒したことにはまだ疑問が残る。

麻原に能力があるのなら、なぜ信者が手を汚して「殺人」しなくてはならないのか、という疑問は、オウムへの最大の疑問だったが、早川が尊師へ疑問をもったのは、90年の選挙落選が最初だった。その後、サリンプラント建設計画にも無謀さを感じるものの、絶対的帰依にヒビが入ったのは、検事から聞いた逮捕後の麻原が出されたカレーライスを食べてしまい自己ポアできなかったというエピソードだった。

この本で描かれている、他の多くの信者同様、邪悪な麻原の野望に騙された真面目な宗教修行者としての早川も、オウム報道が洪水のように溢れていたころの「武闘派」「No.2」という称号も、早川の真実に迫ったとは思えない。

★★★☆(前半のみオウムの主要人物の記録として)
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【BOOKデータベース】本書では、教団幹部として様々な事件に関わった早川紀代秀被告が、幼い頃の生い立ちから自らを振り返り、麻原彰晃とオウム真理教との関係を、慙愧の念を持ってとらえ返している。また宗教学者・川村邦光は、日本宗教史から宗教弾圧と宗教的テロリズムを概観し、オウム真理教およびその事件を、早川被告に焦点を絞って論じている。 ポプラ社 (2005/03)

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by yomodalite | 2008-03-07 21:40 | 裁判・法律・犯罪 | Trackback | Comments(0)

この国が忘れていた正義 (文春新書)

中嶋 博行/文藝春秋



「NBOnline 日刊新書レヴュー」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20070830/133599/

(前文略)
中嶋のアイデアはふたつ。冷戦崩壊後、税金を無駄に使うだけの無用の役所と成りはてた公安調査庁を、加害者から賠償金を取り立てる「公設取立人」へと改組すること。それから、こちらがメインだが、刑務所を民営化すること。

本書が提言する、刑務所の民営化は、犯罪者を立ち直らせるといった「神の仕事」から完全に手を引き、「人(として当然)の仕事」を始めることである。刑務作業に資本主義的原理を導入して、その利益を被害者にまわすのだ。

刑務所のグローバル化というか、新自由主義的刑務所の確立というか。刑務作業は犯罪者の更生が目的であるため、精神修養を眼目とする伝統工芸的手作業などに偏りがちで生産性がいちじるしく低い。それを民間に委託し、まともな現代的工場へと生まれ変わらせ、中国や東南アジアに対抗しうる生産の基盤として市場に組み込んでしまおうというプランである。給料から天引きしてきっちり賠償させようというわけだ。

■タテマエを捨てれば見えてくる可能性

おそらく、旧人権派の目には許しがたい「人権侵害」にうつるはずだ。(中略)しかし、刑務所労働はもともと「懲役刑」の一環なのである。(中略)みずからが踏みにじった被害者の生命や財産を償うために週六十時間働かせることに過剰反応するのは、旧人権派がいかに犯罪被害者の救済に冷淡かをあらわしている。

本書の提言部分にかんしては、犯罪者の更生という夢(というかタテマエ)さえ放棄すればこんなやり方もありうるんだぜ、と可能性を示したものと読まれるべきだろう(民営刑務所は今年、第1号が登場したが、やはり更生支援を目的としており、中嶋の考えるものとは違っている)。そのうえで、疑問に感じたところを最後に。

刑務所民営化もアメリカに範が取られているのだが、失敗だったことを中嶋は認めている。囚人への虐待や脱走などが次々発覚し窮地に立たされているというのだ。わが国でも同様の問題が発生してくることが予想されるが、それに対し、中嶋は回避案を示していない。いくら加害者は二の次だといっても、虐待や脱獄はさすがにまずいだろう。

それから、過剰収容の傾向があるとはいえ、服役者は高齢者やハンディキャッパーなど社会的弱者ばかりでまともな労働力としてカウントするのはむずかしいと訴えたリポートもある(浜井浩一、芹沢一也『犯罪不安社会』光文社新書)。こうした現状をふまえたうえでのアイデアなのかどうか、そのへんもちょっと気になった。 (文/栗原裕一郎)
__________

【MARCデータベース】日本は加害者に甘すぎるー。犯罪者「福祉」予算2200億円! 凶悪犯の人権、いじめっ子の教育権が優遇される「犯罪者福祉型社会」を排し、日本が正義を取り戻すための「ウルトラ処罰社会モデル」の導入を提唱する。 文芸春秋 (2007/07)

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by yomodalite | 2007-09-20 10:07 | 裁判・法律・犯罪 | Trackback | Comments(0)

心にナイフをしのばせて

奥野 修司/文藝春秋



心にナイフをしのばせて (文春文庫)

奥野 修司/文藝春秋

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被害者家族の壮絶なその後の人生が、被害者の妹(みゆき)によって語られる。事件直後、進学、母の喫茶店開業、結婚・出産、父のガンによる死、店舗廃業、病院務め。。。。兄を失った家族の慟哭は止む事がなく、痛手を癒すことの難しさが痛切に伝わる。

一方で加害者は「更生」に成功していた。加害者が成功した生活を送っていると聞いて、多くの者が憤りを感じるのは、実際は、誰もそれを望んでいないからでしょう。とはいえ、望まれているとおり、加害者少年に同様の「不幸」を与えても、被害者遺族が満足することはできない。

加害者を憎むことすら出来なかった、と語る遺族の言葉は、被害者感情に安易にすり寄る大勢の他者とは、厳然と異なる。

表紙には、血が滴るナイフを持った少年の絵が描かれているが、「心にナイフをしのばせて」生きてきたのは、被害者の妹だった。

加害者にあった時のために。その時の「決着」のために。

【著者は語る】 一九六九年春、川崎にある男子高校で、一年生が同級生に殺されるという事件が発生した。被害者はめった刺しにされた上、首を切断されていた。神戸で「酒鬼薔薇」事件が起こる、二十八年前のことだ。本書は、犯人の少年Aのその後と、被害者遺族を襲った悲劇を丹念に追った、渾身のルポルタージュである。

「神戸の事件が起きたとき、あの事件そのものを取材しても何も分からないだろう、それより昔似たような事件が起きていたなら、そちらを調べた方が『酒鬼薔薇』少年に迫れるのではないかと考えたのが、この本を書くきっかけでした」

当初この作品は、少年Aのその後を追ったものとして雑誌に発表された。だが後に、著者は改めて、被害者の母親と妹への数年にわたるインタビューや取材を重ねることとなる。

「雑誌に発表した当時は、加害者の“更生”が問題になっていて、加害者を追跡して現在の姿を見定めるのが、ひとつの目的でした。加害者の更生というのは、一般的には社会復帰できたことを指します。だけどそれは加害者側の問題であって、加害者が起こした事件には表裏一体で被害者がいる。加害者の更生は、被害者との関係性の中で論じなければ意味がないのではないか、と思ったんです。そこで、この三十年間をどう生きてきたのかを含めて、被害者側の話を聞かせてもらうことにしました」

そこで語られた遺族の生活は、あまりにも辛い。人格障害を疑われるほど錯乱した母。悲しみを胸のうちに押し込み、必死で母を支えようとする父。壊れそうな家庭の中で、両親への反抗やリストカットでバランスをとろうとする妹。だがそもそも、こうした証言を得るのに著者は苦労する。母親は、あまりのショックに、事件後数年の記憶を失っていたのだ。

「こんな事態は想定していませんでした。しゃべりたくないか、隠しているんだろうと思って。しばらく経ってこれはヘンだと思い、妹さんを交えて話してみて初めて、記憶をなくしていることが判明したんです。遺族の受けた衝撃は推測していたけれど、何年にもわたって記憶を失ってしまうほどの衝撃というのは、想像がつかないですよ」

当事者すら失ってしまった記憶を補うため、著者は関係者を訪ねる。それには妹も同行するが、分裂病質と診断されたAのことを理解したいと精神病院に勤め、事件のことを知りたいと訴える妹の姿は、読み手にも衝撃を与える。

「遺族は今でも、生き方を左右されています。三十年という年月が経っても、癒されない。それほど犯罪被害者が受けた衝撃は凄まじいということを、私たちは知るべきでしょう」

Aは普通の職業に就けず、その日暮らしをしているのでは、と被害者の母親は気遣いさえ見せていた。だが現在、Aは弁護士となり、法律事務所を経営するほどの成功を収めている。被害者本人と家族への謝罪は、一度としてない。

「罪を犯した人間が更生できないと断じるのは問題があるけれど、被害者の意見も聞いたうえで更生しているかどうかを考えていかないと、この家族のように三十年も苦しみつづけることになってしまいます。それは国が責任を持つべきことだと、僕は思います。お金など物質的なことなのか、あるいは謝罪など精神的なものなのか、とにかく被害者がある程度納得したときに、初めて更生したといえるのではないでしょうか。被害者が直面する悲劇は、一回で充分です」

【週刊文春 2006年9月21日号より】

★「少年犯罪データベースドア」
★「Here There and Everywhere」
____________

【出版社/著者からの内容紹介】 1969年春、横浜の高校で悲惨な事件が起きた。入学して間もない男子生徒が、同級生に首を切り落とされ、殺害されたのだ。「28年前の酒鬼薔薇事件」である。
10年に及ぶ取材の結果、著者は驚くべき事実を発掘する。殺された少年の母は、事件から1年半をほとんど布団の中で過ごし、事件を含めたすべての記憶を失っていた。そして犯人はその後、大きな事務所を経営する弁護士になっていたのである。 これまでの少年犯罪ルポに一線を画する、新大宅賞作家の衝撃ノンフィクション。


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by yomodalite | 2007-08-30 18:24 | 裁判・法律・犯罪 | Trackback | Comments(0)

僕はパパを殺すことに決めた 奈良エリート少年自宅放火事件の真実

草薙 厚子/講談社



第9章に書かれている少年の障害は「高汎性発達障害」。自閉症、アスペルガー障害などを含む、生まれつきの資質に基づく発達障害のこと。

著者に依れば、佐世保の小六の少女や、静岡で母親に毒物を投与した16歳の少女、実母を殺害し、少年院出所後すぐに見知らぬ姉妹を虐殺した山地悠紀夫もそうらしい。

著者は、この著作により法務省より謝罪勧告を受けたようですが、ひどい人権侵害が頻繁に行われているマスコミ取材や報道と比較して、はたして、それが公平といえるのかどうかはよくわからない。

「序章」より

本書はこの事件に関する奈良県警の約3000枚の供述調書を公開したものである。
著者は本書をためらいながらも出版した。

後押ししたのは非業の死を遂げた継母のご両親の「娘が存在した証を残してほしい。真実を伝えてほしい」 という言葉だったという。

本書では少年事件という事情から、登場人物の氏名はすべて匿名であるが、継母だけはご両親の許可を得て下の名前を実名で記してある。

彼女の名前は民香(みんか)という。

【J-Castニュース】 を下記に引用

奈良県で少年が自宅を放火した事件について綴った書籍の出版社と著者が、著しく少年のプライバシーを侵害したとして法務省から謝罪勧告を受けた。問題となった書籍は、この事件について少年の心理や家庭環境を警察の捜査資料に基づいて詳細に綴ったもの。その中ではマスコミの「事実誤認」報道を指摘するなど、社会的メッセージの強いものだった。

「警察の作成した供述調書が引用される」
問題となった書籍は2007年5月に 講談社 から出版された『僕はパパを殺すことに決めた』。元法務省東京少年鑑別法務教官でフリージャーナリストの草薙厚子さんが執筆した。06年6月に奈良県田原町で、少年が自宅を全焼させ妻子3人が死亡した事件を巡って、捜査資料や事件で死亡した少年の継母の両親への取材に基づき、詳細に事件の背景を追ったもの。

書籍の冒頭では奈良県警の「供述調書」を含む捜査資料をA4判用紙で約3,000枚収集したことが記されており、実際に本のなかでは「供述調書」と思われる文章が50箇所以上にわたって引用されている。

草薙さんは同書の冒頭で次のように述べている。
「本書を世に出すことに、批判の声もあるかもしれない。なぜなら、少年事件において警察の作成した供述調書が手に入ることは、いかなる取材をもってしても本来ありえないことだからだ。私自身ためらいもあった」

草薙さんは、「それでもあえて、供述調書に記された少年の肉声を公開することに決めた」理由として、(1)少年事件で審判が公開されず、少年の内面について何一つ確かな情報が報じられなかったこと、(2)膨大な報道のなかに多くの事実誤認があり、報道の間違いを正すことが使命だと感じたこと(3)事件で死亡した少年の継母の両親が「娘が存在した証を残してほしい」と草薙さんに語ったこと、を挙げている。ただし、手に入るはずのない「調書」の入手経路などは書籍の中でも触れられていない。

書籍では、少年が、放火に至った理由を「供述調書」の引用を交え、説明している。ワイドショーなどの報道で、事件の動機が「継母との確執」などと報じられたことを否定している。

「少年のプライバシー保護のために勧告に至った」
しかし、この書籍の出版直後から、草薙さんの懸念通りに、「供述調書」が多く引用されたことを法務省などが問題視。奈良家裁が07年6月に講談社と草薙さんに対し「少年審判の信頼を著しく損なう」などとする抗議文を送付したほか、法務省も人権侵犯事件として捜査に乗り出した。そして、 法務省 は2007年7月12日、講談社と草薙さんに対し、謝罪と被害拡大を防止するよう勧告した。
法務省人権擁護局調査救済課は J-CASTニュース に対し
「書籍のなかで、少年審判事件の記録、供述調書を引用しつつ、少年の生育歴や家庭環境などのプライバシーを詳細に記録したため、少年のプライバシー保護のために勧告に至った」

と説明する。また、この書籍をめぐっては同省同局に、少年の父親から「被害申告」があったという。

一方、講談社広報室は「今回の勧告については真摯に受け止めております。今後も少年法の精神を尊重しながら、社会的意義のある出版活動を続けていく所存です」とのコメントを発表。草薙さんも講談社を通じて、「今回の勧告につきましては、出版元である講談社と見解を一にしています」とのコメントを発表している。

J-CASTニュースは草薙さんが所属する事務所にも取材を試みたが、事務所側は「講談社と同じスタンスということなので、対応は講談社になる」としており、草薙さんは口を閉ざしたままだ。講談社はこの書籍の増版を中止することを検討するという。

【目 次】
序章 逮捕/焼け落ちた絆
第1章 計画/殺害カレンダー
第2章 離婚/学歴コンプレックス
第3章 神童/飛び級と算数オリンピック
第4章 家出/継母が打ち明けた苦悩
第5章 破綻/カンニング
第6章 決行/6月20日、保護者会当日
第7章 逃亡/ひたすら北へ
第8章 葛藤/娘を殺した「孫」との面会
第9章 鑑定/少年が抱えていた「障害」
終章 慕情/裁判所で流した涙
______________

【内容紹介】IQ136の天才少年はなぜ、自宅に火をつけたのか——。
2006年6月20日、奈良県で発生した事件は日本中を震撼させた。全国でも屈指の進学校・私立東大寺学園高校に通う16歳少年が自宅に火をつけ逃走、焼け跡からは少年の継母と異母弟妹の3人が遺体となって発見された。事件後、少年は中等少年院に送られたが、事件の真相は少年法の厚いベールに包まれていまだに明らかになっていない。

著者の草薙厚子氏は、独自に入手した3000枚の捜査資料をもとに、少年と家族の実態に迫る。 警察が作成した供述調書には、少年の振り絞るような肉声が残されていた。

僕はこれまでパパから受けた嫌なことを思い出しました。パパの厳しい監視の下で勉強させられ、怒鳴られたり殴られたり蹴られたり、本をぶつけられたりお茶をかけられたりしたことを。なんでパパからこんな暴力を受けなければならないんや。一生懸命勉強してるやないか。何か方法を考えてパパを殺そう。パパを殺して僕も家出しよう。自分の人生をやり直そう——。
僕はそう思うようになりました。(「第一章 計画/殺害カレンダー」より)

少年は4歳の時から、医師である父親にマンツーマンの勉強指導を受けていた。
指導はやがて鉄拳制裁とセットになり、少年は十年以上にわたって虐待に近い暴力を受け続けた。 少年はついに、父親殺害を決意する。中間テストの英語の点数が平均点に20点足りない——。

直接の引き金となったのは、ただそれだけのことだった。そして実際に犠牲になったのは、憎んでいた父親ではなく、罪のない継母と弟妹だった。
本書には、少年が父親を殺そうと決意してから家に火をつけるまで、みずからの心の動きを赤裸々に記した直筆の「殺害カレンダー」が掲載されている。

父親は少年が医師となることを強く望んでいた。医師となるためには良い大学に行かなければならない。 そのためには勉強を強要するのもやむをえない——。

そうしたひとりよがりの愛情が、いつしか少年を追い詰めていた。今回の事件は、「特殊な家庭の特異な出来事」と言えるのか。過熱する受験戦争の中、わが子を「所有物」だと思っているすべての親は、この父親の予備軍かもしれない。
本書はいま改めて、「家族のあり方」を世に問う一冊でもある。 (講談社 2007.5.21)

【著者紹介】草薙厚子(くさなぎ あつこ) /元法務省東京少年鑑別所法務教官。 地方局アナウンサーを経て、米通信社ブルームバーグL.P.に入社。テレビ部門のアンカー、ファイナンシャル・ニュース・デスクを務める。その後、フリージャーナリストに転身し、少年事件を中心に週刊誌、月刊誌に多くの記事を発表している。講演活動やテレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。
著書に『少年A矯正2500日全記録』(文藝春秋)、『子どもが壊れる家』(文春新書)、『追跡!「佐世保小六女児同級生殺害事件」』(講談社)などがある。





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by yomodalite | 2007-08-10 11:25 | 裁判・法律・犯罪 | Trackback | Comments(0)

そして殺人者は野に放たれる (新潮文庫)

日垣 隆/新潮社




刑法39条を考えるうえで、まずは必読の書!

第39条
1.心神喪失者の行為は、罰しない。
2.心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。

第40条 削除. (責任年齢).

第41条 14歳に満たない者の行為は、罰しない。

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【BOOKデータベースより】「心神喪失」の名の下で、あの殺人者が戻ってくる!「テレビがうるさい」と二世帯五人を惨殺した学生や、お受験苦から我が子三人を絞殺した母親が、罪に問われない異常な日本。“人権”を唱えて精神障害者の犯罪報道をタブー視するメディア、その傍らで放置される障害者、そして、空虚な判例を重ねる司法の思考停止に正面から切り込む渾身のリポート。第三回新潮ドキュメント賞受賞作品。

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by yomodalite | 2007-04-02 13:13 | 裁判・法律・犯罪 | Trackback | Comments(0)

世田谷一家殺人事件―侵入者たちの告白

斉藤 寅/草思社



内容は、クリミナル・グループ、アジア系留学生というキーワードの紹介のみ。単行本としての魅力は乏しい。

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[出版社/著者からの内容紹介]2000年12月30日、宮澤みきおさん一家4人が世田谷区内の自宅で殺害された「世田谷一家殺人事件」。現場には指紋を含め有力な物証が数多く残されていたにもかかわらず、いまだ解決していない。

自宅にいて、突然、凶悪な事件に巻き込まれた宮澤さん一家。著者を取材に駆りたてたのは、犯人を絶対に許せないという強烈な思いである。事件を追い続けた彼がたどりついたのは、まさに戦慄すべき事実だった──。

情報は錯綜し、警察の捜査も迷走を繰り返す。しかし、現場捜査官がもらしたあるキーワードをきっかけに、事件の探索は意外な展開を見せはじめる。じつはこの事件には、当時だれも想像できなかった新しい形態の犯罪集団が関与していたのだ。

犯人の真の目的は何だったのか?警察の威信をかけた捜査はなぜ失敗したのか?
そして、宮澤さん一家はなぜターゲットにされたのか?

事件の背後に拡がる日本社会の闇を浮き彫りにする瞠目の事件ノンフィクションである。
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by yomodalite | 2007-03-30 14:29 | 裁判・法律・犯罪 | Trackback | Comments(0)

裁判のカラクリ

山口 宏,副島 隆彦/講談社

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著者の山口氏は言う。齢45歳を過ぎて私はいま、ようやく左翼になろうとしている。70年代の学園紛争にも興味なく、政治に知らんぷりしたまま青年期を過ごした自分がこの年になって、体制批判をすることになるとは!

という嘆きがわかる人にオススメの書。

共著となっているが、全体を通して一人称で書かれていて、副島氏の文章はあとがきのみ。ただ、副島氏によると3割ぐらいが氏の文章らしい。

裁判・法律に詳しくない一般人が読んでわかりやすくためになる本。同じ共著の『裁判の秘密』続編。

【目 次】
第一章/弁護士とは何者か(一見さんはお断り〜)
第二章/裁判所が争いをつくる(常識と乖離した「雲助」判決文〜)
第三章/貸した金は返ってこないと思え(厚顔無恥な銀行経営者、中坊公平は正義の味方か?〜)
第四章/判決は先に決まっている(刑事訴訟法を駆使したオウム裁判〜)
第五章/検察の起訴は勝手気ままなもの(警察、検察は保護産業〜)
第六章/男にとって地獄の離婚裁判(離婚裁判では男女不平等がまかり通る、裁判官は美人に弱い?)
第七章/人権が通れば道理が引っ込む(国民的論議となった司法改革〜)
あとがき〜誰も書かない日本の裁判の裏側の真実/副島隆彦

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【BOOKデータベース】誰もが腹を立てる、裁判と日々向き合う辣腕弁護士が、生の現場から日本の法律社会の実態を暴いた、「弁護士版ナニワ金融道」—おもしろさ抜群!裁判の非常識。


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by yomodalite | 2007-03-28 13:55 | 裁判・法律・犯罪 | Trackback | Comments(0)
事件をおこす前のオウムは、ツッコミやすい集団だった。今、彼等を笑えなくなったのは、事件による夥しい犠牲者の存在だけではないと思う。わたしは、この著者のように笑うつもりはありません。

◎オウム裁判傍笑記 (小学館文庫)
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【BOOKデータベース】戦後最大の公判となったオウム真理教裁判は、果たして何を裁いたのか—。七年半に及んだ裁判を丹念に傍聴した著者が法廷で目にしたのは、あまりにも不可解、あまりにも喜劇的な光景だった。被告人、裁判官、弁護人らの言動から、日本人の虚妄の精神構造を浮き彫りにする渾身のノンフィクション。
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by yomodalite | 2007-03-16 21:41 | 裁判・法律・犯罪 | Trackback | Comments(0)
名著。山口宏、副島隆彦共著の最初の本。何度か再販されていますが、現在は絶版の模様。その後山口氏が、弁護士会から懲戒処分などの妨害(業務停止4ヶ月)を受けたりしたりしたことも、影響があると思われる。

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[MARCデータベース]なぜ、ダラダラと十年裁判が続くのか。裁判に勝っても権利が実現されないのはなぜか。行政訴訟は常に国側の勝訴になるのはなぜか。これまでタブーにされてきた、裁判制度の秘められたカラクリを現職の弁護士が暴く。
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by yomodalite | 2007-03-16 21:10 | 裁判・法律・犯罪 | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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