松本俊夫の映画(1)『薔薇の葬列』(1969)

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1988年の『ドグラマグラ』は、難解な長編小説を凝縮した作品で、脚本、配役、美術、撮影すべてが見事だったので、監督の松本俊夫にはすごく興味を抱いたものの、なかなか他の作品を観る機会がありませんでした。




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『薔薇の葬列』は、初の劇場映画(1969年)で、ピーターのデヴュー作。ポスター画像は何度も見たことがあり、スタンリー・キューブリックが、次回作『時計じかけのオレンジ』 のビジュアルの参考にしたという情報などから、先鋭的風俗をスタイリッシュな映像で仕上げた作品だと思っていたのですが、イイ意味で期待を裏切られました。

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本物のゲイボーイや、蜷川幸雄、秋山庄太郎、粟津 潔、小島 武、篠田正浩、淀川長治。。という当時の文化人の多数出演、先鋭的パフォーマンスであった「ハプニング」の映像など、時代的な彩りが濃い作品にも拘らず、きっちりと神話的に構築されていて、現在や未来の観客に「古典」として観られる作品です。

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松本俊夫フィルムグラフィ「薔薇の葬列」解説
http://www.imageforum.co.jp/matsumoto/mtm-br2.html

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母を殺して父と寝た、現代のオイディプス神話。パゾリーニの『アポロンの地獄』でも描かれたオイディプスの悲劇は、この映画では母を殺した少年がそれと知らずに父と交わるというふうに、舞台を現代に移し関係は反対になる。「倒錯」した世界を舞台にした「倒錯した近親相姦」の世界。しかも「現代のオイディプス」は一国の王ならぬゲイバーの「女王」だ。冒頭にボードレール『悪の華』の一節「われは傷口にして刃、いけにえにして刑吏」という字幕が掲げられるように、ことさらに戯画化されて描かれたこの映画は、悲劇の不可能な時代に突きつけた監督松本俊夫の悪意の刃なのかもしれない。


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ことさらに戯画化。とこちらの解説にはあるのですけど、私は見事な現代への「置換」だと思いました。

主演のゲイボーイ役のエピソードも、上方舞吉村流四世家元の世継ぎとして仕込まれるも5歳で両親が離婚、母のもとで育ち名門ラ・サール中学に入学するが14歳で家出、六本木のゲイバーで働いていた16歳のピーターの実人生と重なってみえる部分が多いのですが、古典を解する実験的映像作家がいる時代には、神話的な少年も現れるということなんでしょうか。

この映画の解説ではピーターの美少年ぶりを強調したものが多いですが、ピーターの実際の少年時代の写真から、当時のノーメイク姿もしっかりこの映画に記録されているのですけど、それが驚くほどブサイクなんです。

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どの程度かといえば、少女マンガ的に自分の美しさに気づいていないというレベルではなくて、フットボールアワーの岩尾以上の破壊力をもったブサイクなんですが、この痛ましいまでのブサイクな少年には情事にふける母がいて、その母を殺すことで、美しく変貌するんですね(それも整形なしで!!)。このときのピーターは、本当に奇跡的な少年美というか、眼と眼の間がひどく離れているうえに、重たい瞼、低い鼻にも関わらず、なぜか美しい。


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他の出演者にも、あまり美しいゲイボーイは見られないのですが、彼らと比べても、土台的にハンデがあると思われるピーターが何故美しいのか。

それが特殊な環境に生まれたピーターの「芸」によるものだということは間違いないのかもしれませんが。。。それにしても、『ドグラマグラ』の桂枝雀と松田洋治、『修羅』の中村賀津夫、唐十朗、三条泰子のキャスティング以上に、『薔薇の葬列』のピーターのキャスティングは「神」ですね。


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ゲイではないのに(本人はバイセクシャルと言っています。わたしもピーターからはゲイではなく[獅子座の男]の感性を強く感じます)14歳からゴーゴークラブや、ゲイバーで働こうとしたピーターが、16歳にして完成したキャラクターだったことを完璧に映像化した点と、いくつもの「倒錯」を描ききったことなど、私の中では、ほぼ「五つ星」です。

下記は、映画のラストの言葉。


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個人の精神は
相つぐ否定によって
自己自身の
絶対に達する


1969年の時点で、監督は悲劇は不可能という視点でこの映画を完成させているのですけど、現代の日本人は、ますます悲劇に耐えられなくなっているので、この言葉は、更に理解できなくなっているかもしれません。

◎『日本語のゆくえ』/吉本隆明

『日本語のゆくえ』で吉本氏が「なぜ、こういう詩を書くのかということがわからない」といった状況は、絶対に達するという気もちの無さが関係しているように思いました。

★★★★☆
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◎Hugo Strikes Back!『薔薇の葬列』予告編
http://hugo-sb.way-nifty.com/hugo_sb/2007/01/post_f7e4.html

◎歴史知通信第5号
人間の尊厳と人間の悲惨—或いは『薔薇の葬列』から見る『オイディプース』柏渕直明
http://www.i.dendai.ac.jp/~ishizuka/b5.html
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脚本・監督 - 松本俊夫
撮影 - 鈴木達夫
美術 - 朝倉摂
音楽 - 湯浅譲二





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Commented at 2009-10-17 07:30 x
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by yomodalite | 2008-12-05 18:32 | 映画・マンガ・TV | Trackback | Comments(1)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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