流れる (新潮文庫)/幸田 文

流れる (新潮文庫)

幸田 文/新潮社



露伴の死後、露伴の思い出を中心に随筆家として活躍していた著者が、随筆の限界を感じ、芸者の置屋に住み込みで働いた経験をもとに書かれた小説。

作品中、主人公はその振る舞いから何度も前職を聞かれる場面に遭遇するが、置屋へ来る前の境遇は一切書かれておらず、その描かれようから、読者には、主人公「梨花」=幸田文としか思えず、まるでノンフィクションのような気さえします。

でも、それにしてはというか、どうして、この主人公の名前を「梨花」にしたんだろう。という疑問がわきました。

梨花は、その名前を置屋の芸者米子に、

「珍しい名だこと。異人さんのお宗旨名?」
「は?」
「いえ、耶蘇のご信心だとそんな名をつけられるって話聞いてたから。」


と言われるような「名前」ですが、性格は幸田文と同様、欧米かぶれな点は一切ない。

自らの日常を書くことに限界を感じ、外の世界を見てみようと出て行った場所が芸者置屋というのも、なんだか遠いようで近いような著者らしい選択だが、梨花という名前も、自分の殻を破ろうとして、思い切ってつけた名前だったのかもしれない。しかし、それでもやっぱり幸田文は幸田文なのだ。

初めて幸田文の小説を読んだのは『きもの』で、そのときなぜこの小説は、生前発表されなかったんだろうと不思議だったのですが、梨花という名前で、別人生を生きることができなかった著者には、自分同様に成長した、るつ子の成人後は書けなかったのかもしれません。

『流れる』は『きもの』よりもずっと著者自身の感情が全開で、一気に書かれたような勢いがあります。江戸っ子ぶりや、ちゃきちゃきとして、性根がすわっていて、受取の文字をかくだけで、

「あんた、何者だい?」

と言われてしまう「幸田文」の眼が至るところに感じられ、廃れ行く芸者置屋の裏側を通して、女から見る「女」の生き様をドラマティックではなく「ぴしゃり」と描いた傑作。

同名の映画は観ていませんが、描きようによっては喜劇にもなりそうな、著者の小説の中ではもっともおかし味のある小説だと思います。

★読書感想文
http://www5b.biglobe.ne.jp/~michimar/book/181.html
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【内容「BOOK」データベース】大川の流れるほとりの芸者屋に、住み込んだ女中・梨花。この花街に暮らす芸妓たちの慣習と、自堕落で打算のからみあう、くろうとの世界に、梨花は困じながらも、しろうとの女の生活感覚で、誠実に応えて、働き、そこに生きる人々に惹かれていく…。時代が大きく移り変わる中で、抗いながらも、流されていく花街の人々と、そこに身を置いた女性の生活を、細やかに描いて絶賛された長編小説。新潮社文学賞、日本芸術院賞受賞。新潮社・改版版 (1998/01 初版1957/12)



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by yomodalite | 2008-09-14 21:28 | 文学 | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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