ジャパンクールと江戸文化/奥野卓司

ジャパンクールと江戸文化

奥野 卓司/岩波書店

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2004年の『日本発イット革命ーアジアに広がるジャパン・クール』に続いて2冊目のジャパン・クール本。相変わらずものすごくダサイ装幀が残念ですが、あちこちで目にするようになった「ジャパン・クール」の紹介者である奥野氏の本なので読まずにはいられません。

今回はマンガ・アニメ、JPOPなどジャパン・クールの源流は江戸にあった、というもの。江戸の再発見ブームは永く続いていますが、「数奇者」ー「オタク」、「ワビ、サビ、イキ、モエ」や、鎖国の国のグローバリズムなどなど、江戸文化の実態を探る内容にもなっていて、目次からも面白さが窺える。読者を疲れさせない読みやすい文章ですがレベルの高い内容。

【目次】
第1章:ジャパン・クールからみえる江戸文化
・モザイクに広がる日本文化ーパリのジャパン・クール
・変貌するファン層
・「伝統文化」のニューウェーブ
・江戸人のクールな生き方
・江戸時代をフィールドワークする。
第2章:コミュニティを再生する江戸文化
・「こんぴら歌舞伎」は全国から
・歌舞伎によるまちづくり
・祇園際の変容
・「伝統」の発明
第3章:ジャパン・クールとしての江戸文化
・「開国」していた江戸、「鎖国」している現代
・江戸文化のデジタル化
・「モノづくり」から「モノ語りづくり」へ
・玉三郎のデジタル感覚
・デジタル歌舞伎へ
第4章:江戸文化の「モエ」の構造
・「情報化」「成熟化」「多様化」が「江戸」を呼ぶ
・江戸のメディア化
・「数奇者」というオタクのネットワーク
・「武士道」なんか知らないーマンガとしての「忠臣蔵」
・エンターテイメントとしてのテクノロジー
・アニミズムからアニメへーキャラクターの錬金術
・鎖国のクニのグローバリズム
・江戸人の美意識ーワビ・サビ・イキ・モエ
第5章:京都・大阪・名古屋のコンテンツ戦略
・上方の文化ビジネス戦略
・京都商法としての家元制・本家制
・大阪商法のフィランソロピー
・元気な名古屋の存在理由
第6章:江戸という近未来
・江戸は「管理者会」か「大衆社会」か
・クールな江戸町民にとっての幸福ー西鶴の教えるネット社会の罠
・「江戸文化」をデジタル・コンテンツに

★「本よみうり堂」
http://www.yomiuri.co.jp/book/review/20070918bk03.htm

「作られた伝統も格好いい」
 ジャパンクールを若者語で言うと「日本、萌(も)え!」だろうか。アニメ、ゲーム、Jポップなど日本発のポピュラーカルチャーがアジアでも欧米でも大人気であることはよく知られている。欧米ではそんな現代若者文化を経由して歌舞伎や文楽などの「伝統文化」にまで新たな関心が及び、「ジャパンクール」(カッコいい日本)と呼んで高い評価が生まれている。だが新しい若者文化の担い手がどうして古い「伝統」文化の歌舞伎好きでもあったりするのか。
 文化人類学者クリフォード・ギアツは、連綿と続く伝統芸能と見られていたバリ島のガムラン音楽や踊りなどの民俗芸能が近代になってつくりだされた「伝統の発明」であることを明らかにして学界に衝撃を与えた。そんな認識の上に立って80年代以後、学者たちは「本物の伝統」と「ニセの伝統」の二つを見極めることを学問の任務と唱えた。ところがその後世界各地の「伝統儀式」「伝統行事」なるものの詳細な調査がなされたところ、ほとんど近代以降の「発明」であることが明らかになった。さあ「本物の伝統」などこの世にあるのか。
 著者は学者が批判的にとらえてきた「伝統の発明」を日本文化創造の源泉とみてむしろ評価する。古典文学を翻案してできた『義経千本桜』など人形浄瑠璃や歌舞伎の演目は今日のアニメ、映画と同じ「現代世相劇」だった。
 それは「伝統」を利用して「現代」を楽しむ江戸のクール感覚の産物。アニメに取り入れられた浮世絵の描写術や歌舞伎の演出法からキャラクターグッズというべき役者絵や根付けまで、ジャパンクールの現象や商品の原型は江戸時代にあると著者は分析し、さらにオタクの芸能集団を身近に召し抱えた足利義政から当時のJポップ「今様」を愛した後白河天皇の平安時代にまで遡(さかのぼ)らせうると示唆する。ほどよい批判精神と遊び心のバランスを備えた著者ならではの、海外受けする日本文化生成の謎解き。
 ◇おくの・たくじ=1950年京都市生まれ。関西学院大教授・情報人類学。
評・白幡洋三郎(日文研教授)(2007年9月18日 読売新聞)

★毎日jp「今週の本棚」
http://mainichi.jp/enta/book/hondana/archive/news/2007/08/20070805ddm015070126000c.html

田中優子・評 『ジャパンクールと江戸文化』=奥野卓司・著

◇黄表紙を踏まえたオタク的発信

 江戸時代は光の当てかた次第でお多福にも般若にもなる。笑いに満ちた桃源郷にもなるし、残酷な身分社会にも見える。どちらが本当だろうか?と真実を追究しようとしても、実体にはするりと逃げられる。しかし確実なのは、江戸人は近現代日本人が持ったことのない、変転自在な自我像を持っている、ということだ。この自我像はさまざまに顔を変え名前を変える。そのスピード感と軽さは、まさに「クール」なのである。

 「日本文化はクール、と言われているのよ」と最初に聞いたのは、ドイツ人の日本研究者からだった。数年前のことである。「どういう意味?」と尋ねると「かっこいい、ということ」だと言う。漫画、アニメにはまったヨーロッパ人たちから出た言葉らしいとわかったが、その「クール」という語感が、私が十代のころ最初に江戸文化に感じたことと似通っていることに驚いた。戦後生まれで江戸文化にはまる人は、外国人のような感覚で驚愕(きょうがく)の出会いをした人である。その出会いの瞬間を表現したのがこの「クール」という言葉かも知れない。語感は「いき」に極めて近い。

 本書は、ストレンジャーとしての我々(現代日本人およびあらゆる外国人)の眼に映る驚きの江戸時代、面白くてしようがない江戸時代を、迷いなく描き出した本だ。書かれている中身は、この二十年ほどの間に明らかになり表に出てきた事柄であって、新しい発見があるというわけではない。しかし資料の発見や新しい証明も大事だが、江戸研究がそれ以上に必要としているのは、新視点やそれを支える価値観の登場なのである。「ジャパンクール」は漫画やアニメに対して出現した言葉だ。本書はたちまち、それを現代の歌舞伎、祭、そして江戸文化のあらゆる現象に適用した。そして見事に、江戸時代の文化を「クール」という言葉に転換してしまった。この素早い身動きがクールである。

 しばらく読んで、ああそうか、と納得した。じつはこの本、江戸時代の黄表紙(漫画本)『御存(ごぞんじの)商売物(しょうばいもの)』のパロディなのである。本を開けると「口上」が始まる。『御存商売物』は能狂言の狂言師が口上を述べるが、本書では歌舞伎や文楽の口上でご挨拶(あいさつ)があり、定式幕が開く。『御存商売物』では、幕が開くとそこは作者の見た夢の世界だった。当時の最新メディアである江戸の出版物たちが人間の姿となって現われ、流行を争い、『源氏物語』や『徒然草』のような古典さえも現代メディア(商売物)の中に位置づけられてゆく。これは江戸クールの代表的な本である。

 本書でも、江戸文化が単なる伝統としてではなく、今の市場の中で動いている(動き得る)魅力的な商品(商売物)として書かれている。戦略的にそのように編集されている。インターネットやユーチューブで拡がる伊藤若冲や歌舞伎、落語、グーグルによる江戸古地図サービスなど、江戸文化がすでにさまざまにデジタル・コンテンツ化されている様子が紹介され、さらにそれを促す。ここから立ち上がってくるメッセージは、今こそ江戸文化を日本人の手でデジタル・コンテンツ化しようではないか、という情熱的でオタク的な呼びかけである。

 江戸文化は様々あるが、本書ではその戦略に沿って周到に選択・紹介されている。しかしそれでいてさわやかなのは、著者がお金儲けに熱心なわけではなく、江戸時代の文化がしんそこ好きだからだ。頭ではなく五感すべてでクールを感じ取ったオタクこそが、江戸を世界に発信できるのだろう。(毎日新聞 2007年8月5日 東京朝刊)

※ジャパン・クールへの批判
「松岡正剛の千夜千冊」
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya1172.html
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya1237.html

【参考文献】
粟津潔・奥野卓司編『日本の技 第五巻 古都絢爛の技』
梅○忠雄『美意識と神さま』
田中優子『江戸の想像力』
富岡多恵子『西鶴の感情』
吉田弥生『江戸歌舞伎の残照』
米山俊直『「日本」とはなにか』。。。。等



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Commented at 2008-10-17 12:12 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by yomodalite at 2008-10-17 13:41
著者ご本人からメッセージを頂けるとは!!奥野先生、次回作もめちゃ期待しております!現在とにかく日本と江戸に興味津々なので、またご訪問いただければ望外の幸せでございます。
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by yomodalite | 2008-09-13 22:07 | 現代文化・音楽・訳詞 | Trackback | Comments(2)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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