「海洋国家」日本の戦後史 (ちくま新書)/宮城大蔵

「海洋国家」日本の戦後史 (ちくま新書)

宮城 大蔵/筑摩書房




アジア外交といえば、中国、韓国・朝鮮ばかりをイメージしてしまいますが、本著はインドネシアを主軸として、アジアの転換期に日本がどのように関わってきたのか、というお話。今もって話題のつきないデヴィ夫人の活躍も。アメリカの属国をやりながら、アジアの非政治化を目指す。外交とはつくづく難しい。

「毎日jp」今週の本棚/五百旗頭(いおきべ)真・評

◇アジアの経済建設という劇

 あの戦争に敗れた日本の戦後外交は、受け身の対応を基調としてきたと言われる。とりわけ超大国アメリカとの関係はそう見える。日本外交は舞台の中央に立って大見得(おおみえ)を切るような派手なスタイルをとらないし、自らの外交的成功を世界に誇って回るようなこともしないので、実際より小さく見られがちである。

 そのような見てくれと大方の評判に騙(だま)されてはいけない。日本が新しい時代をつくり出すうえで国際的役割を果した局面がある。それもアジアの地で、というのが本書のメッセージである。

 『「海洋国家」日本の戦後史』という本書の表題を見て、日米海洋同盟の話かと早とちりしてはいけない。日本の南方にある多島海の国インドネシアを軸とするアジアの歴史が、本書の世界である。

 アジアの戦後史とは何であったか。第一局面は、脱植民地化と独立の時代であった。革命と解放の熱き政治の時代であり、毛沢東やスカルノらカリスマ的英雄が跳躍する局面である。(ちなみに日本史は、この局面を西郷隆盛や坂本竜馬の明治維新期に済ませており、戦後史は経済再建と民主化をテーマとした。)

 戦後アジアの第二局面は、経済建設を中心とする実質的な国づくりの時代であり、朴正熙、スハルト、マハティール、トウ小平ら開発権威主義者たちの活躍が目立った。第三局面は、フィリピンのピープルズ・パワーがマルコス政権を倒して以後の民主化の季節である。

 本書が描き出すのは、第一と第二の局面であり、とりわけ第二の局面を切り開いて、戦後日本が自らの経済主義的な「海洋国家」の生き方を、南の海の国に拡(ひろ)げて行くプロセスがハイライトである。

 アジア・アフリカ諸国が参集した一九五五年のバンドン会議から本書は始まる。対米基軸で再建を図る日本は、しかし親米反共の立場で会議に臨まなかった。もとより会議で活発な反植民地主義と反米左翼に同ぜず、中立主義を政治的立場ともせず、平和主義を説きつつアジアへの復帰を求める鮮明でない存在だった。日本の知るかつてのアジアと全く違う反植民地主義の政治感情が煮えたぎるアジアを前に立ちすくんだ日本であった。

 一九五七年にインドネシアを訪れた岸首相がスカルノ大統領に対して、こじれていた賠償問題を大胆な決断によって決着したことにより、日本は南方に経済地平を拡げることになった。

 反植民地主義の精神動員によって多元的な大国を統合し、共産中国に接近するスカルノ政治。スカルノに対する地方の反乱を米国CIAは支援して敗れた。この地での信頼と影響力を失うアメリカ。マレーシアを守るため強固な反スカルノに走るイギリス。日本はスカルノを親共であるよりも民族主義であると定義し、この国との関係を切らない。一九六五年の九・三〇事件後にスハルトが指導権を確立すると、日本は真先に協力と支援に乗り出す。

 この第二局面への移行に際して、日本は米英両国がそれぞれに外交的影響力を失う中で、インドネシア債権国会議を東京で開催し、開発の時代を南方に切り開く。それは独立したアジアの国をめぐって、中国の革命路線を抑えて、地道な経済建設の時代を呼び起すことになった。

 朝鮮戦争やベトナム戦争といった冷戦の地域的熱戦化に眼(め)が奪われがちななかで、静かな、しかし長期的に真に重要なアジアのドラマと、それへの日本の関与を、はじめて実証的に解明した著者の総集編ともいうべき本書である。

毎日新聞 2008年6月29日 東京朝刊
________________

【本の内容 asahi.com】独立と脱植民地化が課題となった戦後アジアは、冷戦と革命をめぐる渦に巻き込まれる。ひとつの軸であったインドネシアでの1965年の政変を転換点に、「非政治化」したアジアの開発は本格化する。解禁された日米ほかの外交機密文書をもとに、アジアの半世紀の変容における日本の航跡を描き出す。筑摩書房 (2008/06)

1.「アジア」の誕生―バンドン会議と日本のジレンマ
2. 日本の「南進」とその波紋―独立と冷戦の間で
3. 脱植民地化をめぐる攻防―日英の確執、中国との綱引き
4. 戦後アジアの転換点―1965年
5. アジア冷戦の溶解―米中接近と「中国問題」の浮上
エピローグ(「アジアの非政治化」と戦後日本、「吉田ドクトリン」と「福田ドクトリン」、21世紀のアジアと日本)

[PR]
トラックバックURL : http://nikkidoku.exblog.jp/tb/8905374
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by yomodalite | 2008-08-24 20:54 | 政治・外交 | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


by yomodalite