響くものと流れるもの−小説と批評の対話/福田和也、柳美里

響くものと流れるもの

福田 和也,柳 美里/PHP研究所




突然来た柳美里マイブーム。

やはり福田和也氏との大げんかの後の絆の理由は知らなくてはならないと思い、本著を読んでみたのですが、残念ながら本著は、出版社にとっては、批評家と作家との真摯な対決、作品論をテーマに出版されたものではなく、Webマガジン掲載文の商売展開に過ぎず、全体の2/3を過ぎてから「見張り塔からずっと」というケンカの糸口となった文章が唐突に登場するまでは、柳美里の最新作や、福田氏の佳作評論を褒めあっているだけのような対談が続きます。

対談自体は興味深い点が多く、福田氏の未読本への柳氏の評価、福田氏の『命』『魂』『生』3作への感想は同感するところが多く読み応えがあるのですが、喧嘩の華が本にまとめられなかったのは非常に残念。


◎『命』、そして次をめぐって(対談)

『命』以前は、サイン会にならぶのは6、7割男性(永遠の浪人生のような感じ)だったが、『命』以降は、同年代から上の女性で主婦が多い。

『命』には書けなかったが、東由多加氏に「いっしょに死のう」と誘われていたこと。

『命』で書いたのは、現実に復讐されつつ現実から生まれた家族観。

『命』は私記というかたちで書いたが東さんの側の視点で書いたらどうなるのか。東さんの視点で6年前の別れる直前の生活も書いてみたい。

亡くなった日の明け方に「あなたは俺が死んだら死ぬんでしょ」と東さんに言われた。(以上柳)

江藤淳、自殺の真相〜江藤淳という人を維持し育て書かせていた妻が亡くなったことが大きい。(福田)

柳美里という作家は、彼と2人でつくった作品なんです。(柳)

※江藤淳『妻と私』、『幼年時代』

◎『魂」をめぐって(対談)

一部の人たちが、これは文学じゃないという言い方をしているけど、『魂』はーこう申し上げるとまた怒られるかもしれないけれどもー柳さんの作品の中で一番純粋に文学的なものではないかという気が僕はしているんです。(福田)そうかもしれないですね(柳)

息子を日本国籍にしたことで、逆に母親である私が韓国籍を捨てないでいる根拠のあるなしを、突き詰めざるを得なくなりました。その国の言語を理解する意志が皆無なのに、国籍を保持しているのはおかしいので、どれくらい時間がかかるかわかりませんが、韓国語を理解してみようと思ったわけです。(中略)意識的に言語を習得してみて・・・・韓国籍を保持するのか、日本国籍に変更するのか、選択します。
私の一族の中で日本国籍を有するのは丈陽ただ一人です。そのことを失念して、母はよく「だからイルボンサラン(日本人)は」というような言い方をするんです。以前は聞き流していましたが、現在はイルボンサランの息子の母親として聞き流せません。(柳)

◎福田さん、真の批評を(対談)

『奇妙な廃墟』(国書刊行会)を読んで愕然としてしまったんです。引用されている作品を全部読んでからでないとお会いできないのではないか、というぐらいの重みがあった。(柳)

福田さんが標榜していらっしゃる「保守」の本質が、この本に書かれていますね(柳)

私は、評論家というのは小説家になりたかったのになれなかった人で、その嫉妬を軽蔑にすりかえることによって、高みに立っていると思っていたんです。けれども、『奇妙な廃墟』と『日本人の目玉』を読んで、福田さんは作家になれなかったのではなくて、ならなかったんだと思いました。(後略)(柳)

これはすごいと息を詰めて読んだのは「見えない州之内、見るだけの青山」という章です。(後略)(柳)

「美」の甘皮を剥いて果肉を貪る青山次郎の目玉と瞠目しった瞼の中で「美」を凝視している州之内徹の目玉の対比は、身震いするほど見事です。(後略)(柳)

◎批評家にとっての歴史(対談)

『保田興重郎と昭和の御代』、『地ひらく』、『江藤淳という人』の3冊を中心に柳がインタビューする。

『奇妙な廃墟』のモチーフを日本に置き直して書いたのが『日本の家郷』です。そのあと、そこに行くまでに、やっぱり一度田興重郎を通らなければいけなかったんですね。先達である批評家と対決するということが必要だったんです。(福田)

【目次】
まえがきー福田和也
『命』、そして次をめぐって
『魂」をめぐって
福田さん、真の批評を
批評家にとっての歴史
作家と批評家の関係
見張り塔からずっとー福田和也(1999年3月)
見張り塔から、見張られてー柳美里(1999年4月)
前衛なき時代の表現行為ー福田和也・柳美里
祝・長編完成!!柳美里の「故郷」横浜黄金町を歩き、
密かに批評の時に備えるー福田和也(1998年12月)
あとがきー柳美里
______________

【出版社/著者からの内容紹介】いま最も注目される文学界の両者による、妥協なき交感。
『新潮』掲載の「見張り塔から、ずっと」で、福田和也氏は柳氏の作品を全面否定。それに対し柳氏は「見張り塔から、見張られて」で大反論した。その激しい応酬は、近年の文学界で一際目立つ出来事となった。それから2年。柳氏はベストセラー『命』で新境地をひらき、両者は5回の対談を行なった。

本書の第一部では、その5回の対談を、そして第二部では「見張り塔から」の応酬と他に2編を収録している。

「『ゴールドラッシュ』は、現代社会の観察としては甘すぎる(福田)」「『見張り塔から、ずっと』ほど文芸評論家の無能ぶりを示した例はかつてない(柳)」「柳さんが倫理を正面から書いたことは、戦後文学の中で画期的なことだと思います(福田)」「なるべくならこの言葉を使わずにお伝えしたかったのですが、天才だと思いました(柳)」——文学とは何か、真の批評とは何か。その本質的な問いを語る。

【内容「MARC」データベース】
小説とは何か。批評の役割とは何か。ときに共感し、ときに激しく激突する。今もっとも活躍する両作家の、妥協なきスリリングな対話! Webマガジン『JUSTICE』他掲載分と、既刊単行本からの転載をまとめる。 PHP研究所 (2002/3/2)



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by yomodalite | 2008-05-26 16:36 | 文学 | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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