ある朝、セカイは死んでいた/切通理作

ある朝、セカイは死んでいた

切通 理作/文藝春秋




古屋兎丸による装幀が印象的な本著は以前に読んだことがあったのですが、内容の記憶がなく、個人的に再評価熱が高まっていた柳美里論の2編を再読したかったので読んでみました。

1995年から2000年までのいわゆる世紀末に起こった刺激的な事件や話題に言及されているので、懐かしさからか、グングンと読み進みましたが、読了後はやはりあまり記憶に残らない。

引用著作の選び方には時折著者の個性が感じられるものの、掲げたテーマに持論を展開するほどのパワーはなく、全体的に引用図書の感想文という感じ。

注目の柳美里論ですが、「本当の話をしたいのです」で、 竹田青嗣、金鶴詠の「在日性」から柳美里の作品を論じようとする手法には無理が感じられ、文学評論になっていない。

柳氏へのインタビューでは、「・・ですからわたしの境遇が特別だからとか、そういう見方だけをされるのは違うと思います。・・・」、『石に泳ぐ魚』の意図と異なった演出〜チョゴリ女たち・・・が評論家に評価されたこと・・・と同様の間違いを侵した切通に答えている。

残念ながら、切通氏はインタビュアーとしても作家性に乏しく普通過ぎる印象。反面、柳氏は、その類型的な質問に、すべて真摯に答えられていて流石だと思いました。

「現実の私を許さないー柳美里と『命』をめぐる対話」は、『命』の出版に合わせた『文学界』のインタビュー批評の執筆者であった切通氏が、その顛末を、結局どこにも掲載しなかった文章に加筆したもの。

こちらは、執筆当時のメディア状況や、柳美里のこれまでの活動を紹介する文章になっているのですが、いずれも、タイトルほど内容がある中身ではないのは、柳美里論だけでなく全体的な印象。

やはり、古屋兎丸氏の表紙のみで、記憶される本かな。

タイトルからは詳細がわからない章のみ、下記に引用書籍を紹介。

■少年少女の国の「囚人」
冒頭に、茨木のり子『わたしが一番きれいだったとき」の詩、少年事件の匿名報道にみられる民主主義によって保護された「権利」。フランス書院文庫のポルノ作家、伊達龍彦『女教師・Mの教壇』『女教師・放課後M調教』。。。の題名からは想像出来ない作風。その登場人物のテレビコメンテーターのような言い方。ヒロインの非実在性。再度、茨木のり子『準備する』を引用。

■「被爆」少年たちの終わりなき戦い
 僕がそれをみに映画館へ入ったのは、要するに街の暑さと暇と、せいぜい広島でヒロシマをみるという興味からにすぎなかった。ー山川方夫のエッセイより。アラン・レネ『24時間の情事』(HIROSHIMA MON AMOUR)〜『はだしのゲン』/中沢啓治〜大和屋竺のエッセイ『一尖、灼きつくす廃墟願望』の中で「被爆者の栄光を漫画に工夫する奴らに災いあれ」という言葉とともに中沢啓治の原爆漫画『黒い川の流れに』を徹底批判。映画『真田風雲録』、真崎守『共犯幻想』(60年安保に乗り遅れた世代が全共闘に心情に仮託した漫画)、ジョ−ジ秋山『ザ・ムーン』(週刊サンデー連載の巨大ロボットマンガ)、梅図かずお『漂流教室』、小池一夫、平野仁『少年の町ZF』

■「理想の学校」を求めて
筆者の母校である、群馬の山中の全寮制中学、高校「S学園」による「真の自由人たれ教育」の内実。当時の同級生である「いどたけし」による感想

■恋愛なんかやめておけ
伊丹十三の自殺〜大江健三郎『取り替え子 チェンジリング』、大島渚『日本春歌考』での伊丹と恋人役・小山明子、少年図書館シリーズの記念すべき一冊目、松田道雄『恋愛なんかやめておけ』、伊丹十三「死に至る病」(『女たちよ』所収)

■異形の君へ
石井政之『顔面漂流記〜アザのあるジャーナリスト』、春日武彦『顔面考』

■「ポア」の青空
井上夢人『ダレカガナカニイル…』(オウム事件の数年前の執筆)、橋本治『宗教なんて怖くない!』(オウム事件の渦中に執筆)、『imago別冊・オウム真理教の深層』、村上春樹『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』、大澤真幸『虚構の時代の果てーオウムと世界最終戦争』、井上夢人『メドウサ、鏡をごらん』

■ ある朝。セカイは死んでいた
17歳の高校生による、2000年12月新宿歌舞伎町ビデオ店の爆弾事件。2000年5月、愛知豊川の17歳高校生による面識のない64歳主婦の殺害、その2日後、同じく17歳高校生が刃渡り30センチの牛刀を小学一年生女児に突きつけてバスジャックし、人質3人を傷つけ、一人を殺害。翌月21日岡山県立高校の17歳高校生が野球部員の後輩4人をバットで殴打し重軽傷を負わせた後、自宅で母親を死亡させる。一ヶ月後の8月大分の山間部で高校一年15歳の男子が覗きの疑いをかけられた報復のため、サバイバルナイフで隣家を襲い一家6人を殺傷。3人死亡。その家裁送致の報道がされた9月の新聞には、愛媛の17歳の高校生が授業中にマンガを読んでいたことを注意した教師の首を刺した事件が報道されている。
それら一連の事件の少し前に二つの象徴的な事件が起きていた。一つは、1月に新潟県柏崎市で自宅に少女を9年と二ヶ月監禁していた37歳の男性が捕まった。少女は小学4年生の時に連れ去られ、19歳になるまで自宅の一室に監禁されていた。
いま一つは、99年12月21日、京都伏見区の小学校校庭で遊んでいた小学2年生が若い男にナイフのようなもので、首など数カ所を刺され死亡。犯人は数枚の犯行声明と思われる文書を残し、そこには「てるくはのる」という暗号が記されていた。
いずれも未成年ではないが、親のもとで暮らしているモラトリアム青年が抵抗力の弱い子どもを手にかけた事件だった。
これらに加え、名古屋市緑区の中学生が総額5千4百万円を複数の少年たちに脅し取られていた事件。同様に栃木のリンチ殺人では、金ヅルを求めていた3人の少年が19歳の被害者を拉致し、サラ金などから借金させ総額700万円を脅し取り、全身の80%に及ぶ火傷を負わせたうえに発覚を恐れセメント詰めにした。
文芸春秋は2000年11月号において「なぜ人を殺してはいけないか」という特集を組んで識者に回答を求めた。
 
新井英樹『ザ・ワールド・イズ・マイン』、望月夆太郎『ドラゴンヘッド』、高見広春『バトル・ロワイヤル』、ジョージ・ロメロ『ゾンビ』

【内 容】
第1章/ある朝、学校で
・ホワイトアルバムー県立所沢高校生との対話  
・少年少女の国の「囚人」
・戸塚ヨットスクールと「生きる実感」
・「被爆」少年たちの終わりなき戦い
・「理想の学校」を求めて
第2章/ある朝、彼女は
・かくれんぼう気分ーわが友宮崎勤
・恋愛なんかやめておけ
・夏への扉ーアニメーションに記された〈刻〉、あるいは庵野秀明論 
・本当の話をしたいのですー柳美里論
・現実の私を許さないー柳美里と『命』をめぐる対話
・異形の君へ
第3章/ある朝、戦場で
・与党精神の果てにー小林よしのり『戦争論』を読む
・ガンダムという戦場ー富野由悠季と二〇年目のニュータイプ論
・戦争しか知らない子どもたちー作家見沢知廉の快楽
・「ポア」の青空
・平和憲法の選び直しと「行為の白紙性」
・ある朝。セカイは死んでいた
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【著者コメント】2004/11/08 3:15:00テーマはズバリ、90年代とは何だったのか?
宮崎勤事件、オウム、酒鬼薔薇など社会をゆるがした事件から、エヴァンゲリオン、小林よしのりのゴーマニズム宣言といった、時代に影響を与えた文化まで、分析を加えてゆきます。旧価値観の崩壊の過程から、新しいセカイの姿までを呈示します

 もう一度だけ逢いにいく
地平線の鉄塔、夕暮れの本屋、少女の消えた森 きみの声と、かくれんぼう気分でシンクロする一冊。文藝春秋 (2001/01)

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by yomodalite | 2008-05-26 14:14 | 評論・インタヴュー | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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