2008年 05月 20日
柳美里不幸全記録/柳美里 |
『石に泳ぐ魚』を読んで、今までの柳氏への評価が甘かったと反省し、すぐに別のなるべく最近の作品を読みたくて、これを選んだのですが、やはりこの人の「本物」度は他に比較出来る人が見当たらない。
作中に、松浦理英子氏へ作品の依頼がないことに柳氏が編集者の怠慢と憤る場面が出てきましたが、才能があっても作家として作品を書き続け、売れ続けること厳しさに耐えられるのは希有なことです。
本著には、一般にわかりやすく感動をもって迎えられた『命』よりも天才を感じました。
父、母、男、子ども、ペット、作家生活の苦しさ、女流文学者の魂のすべてが厚さ5センチの厚み以上に深く迫ってくる。
物語(柳氏の日常?)は、子どもの成長に比例して「不幸」の度合いが増していき、特に最終章では、増え続ける動物と子どもの体重の増加に、更なる際限のない「不幸」への序曲が奏でられているが、このあたりは多分最もフィクション度が高く、一流の劇作家でもある氏の本領発揮で続編への興味をかき立てられる。
話題となった表紙の本人ヌードですが、世に蔓延る自己愛病で、不幸自慢や変人自慢したがるナルシスト女のそれとはまったく異なるものです。
柳氏のように不幸を引き受けて創作を続けることが可能な本格的文学者は、もう平成の世には現れないでしょう。
◎「波の音を聴きながら」
http://shos-days.blog.so-net.ne.jp/2008-01-02
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[出版社 / 著者からの内容紹介]あなたのいない世界では、すべてが不幸に染まる。
「『不幸であることを不服に思ったこと』は一度もありませんでした。(あとがき)」処女作の出版差し止め、朝日新聞連載打ち切り、止められぬ息子への折檻、そして始まる新しい家族との生活……。ミリオンセラー『命』の著者とその息子を、その後待ちうけていた酷薄な日々を綴った800ページの衝撃の極私的文学。「新潮45」連載『交換日記』五年半の軌跡が一冊に! 新潮社 (2007/11)
by yomodalite
| 2008-05-20 19:26
| 文学
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