ジョージ・マイケルの『FREEDOM』を観た夜

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すっかり遅くなってしまいましたが・・・
私と、childspiritsさんは、ここまでの興奮と感動で疲れきった身体になんとか喝を入れて、スリラーの3Dが上映された日の深夜に行われたジョージ・マイケルのドキュメンタリー映画のチケットもゲット!



2016年は、1月にデヴィッド・ボウイ(69歳)、4月にプリンス(57歳)、10月にピート・バーンズ(57歳)が亡くなり、12月には、ジョージ・マイケル(53歳)までもが旅立ってしまうという大変な年で、

ガンを公表していたボウイを除けば、みんな突然で、予想もしていなかったという点では、私はプリンスの死にもっともショックを受けた。使用していた処方薬を考えれば、彼自身にその覚悟がまったくなかったとはいえないものの、やっぱり、プリンスにはまだやり残したことがあって、旅立ちの準備をする時間などなかったように思えたから。

でも、毎年のクリスマスシーズンを最も盛り上げてくれた曲を作ったジョージ・マイケルが、クリスマス当日に亡くなったことを聞いたときは、ショックと同時に、彼の死は、彼自身の人生計画の一部だったのでは、と思えてきて・・・

そして、そんな想像をしてしまったことから、私の中で、マイケル・ジャクソンと、ジョージ・マイケルが少しづつ重なってみえることが多くなってきた。

医療ミスであり、直前のコンサートのストレスも大きな要因だと思われたマイケルの場合は、その死の責任をめぐって、医者とプロモーターが裁判にかけられたけど、ジョージの場合は、第一発見者である同居人への疑惑は持ち上がったものの、長期間の検視を経ても、結局明確な死因すらわからなくて、このドキュメンタリーを通して、その答えを見つけたいという気持ちも強かった。

そして、映画が始まるとすぐに、ジョージの最後を見届けたいという思いで、スクリーンを見つめていた大勢の観客の前に、ケイト・モスが登場し、このドキュメンタリーが完成して間もなく、ジョージが亡くなったことが告げられた。

映画では、ジョージのアーティストとしての歩みが、数々のヒット曲に彩られて紹介され、エルトン・ジョン、スティービー・ワンダー、ナイル・ロジャースといった時代をつくった大勢の天才たちが、ジョージがどれほど凄い天才だったかを語るシーンがたくさんあって、

ケイト・モスだけでなく、『Freedom! ’90』(1990)のPVに出演した、リンダ・エヴァンジェリスタや、クリスティー・ターリントン、ナオミ・キャンベル、クラウディア・シファーといった90年代のスーパーモデルたちも華を添えていた。


こちらに「FREEDOM ’90」の動画もあり


マイケルが、ナオミ・キャンベルと共演した『In the Closet』は、この2年後にリリースされたもので、『Freedom! ’90』を監督したデヴィッド・フィンチャーは、1989年にマドンナの「Express Yourself」で初めてミュージックビデオを手がけ、1990年に『Freedom! ’90』、1992年にマイケルの「Who Is It」を手がけた。

でも、90年代のスーパーモデルたちが醸し出していたゴージャスなセレブライフに最もフィットした音楽を作ったのはジョージで、90年代のジョージ・マイケルは、Wham!時代の元気なアイドルから、華やかなモデルたちの中心にいるのが相応しい雰囲気をまとうようになっていた。

音楽を創るのと同時に、大勢のひとが憧れるようなリッチな生活や、そこに相応しいファッションも、ジョージは身につけ、そういったものを自分のものにしていくことで成長していった「ジョージ・マイケル」は、マイケルや、マドンナが時代時代で変化していったのとは、どこか違っていて、

イェオルイオス・キリアコス・パナイオトゥという本名をもつ人間のことは、このドキュメンタリーでもほとんど描かれていないのだけど、それは子供時代からその名前だった「マイケル」や、「マドンナ」とは違い、元々「ジョージ・マイケル」が、ひとりの人物の “空洞” から生まれた「架空の存在」だったからではないか、と思う。

ボウイも、プリンスも、マイケルも、アーティストは、独自の人物像を創造するものだけど、ジョージ・マイケル(本名:イェオルイオス・キリアコス・パナイオトゥ)が創造した「ジョージ・マイケル」は、独自の、というよりは、大勢の人がイメージする理想的な人物を「実体化」したような、存在だったように思う。

そして、そんなところに、私はマイケル・ジャクソンとの類似をみてしまうのだけど、それを説明するのはすごくむつかしい。なぜなら、マイケルは独自のダンスムーブを生み出し、手袋や、靴下といったアイテムだけでなく、シルエットだけで、本人だとわかるような、「独自」のスタイルをもっていると思われているし、世界中の若い男女が憧れた人物であると同時に、長くメディアでの描かれ方が酷かったせいもあって、マイケルの顔に人工的な気味の悪さを感じている人や、奇妙な趣味をもった変人というイメージをもっている人も多い。

でも、プリンスや、ピート・バーンズが独自のスタイルを追求しようとしたのとは違って、私には、マイケルはすでにあったイメージを完成させ、完璧にすることで自分のものにしたのであって、「ジョージ・マイケル」の作られ方にも、それに近いところがあったと思うのだ。

映画の中で、もっとも印象に残ったのは、ジョージが言ったこんな感じの言葉。

「今はみんな、細かく分かれ過ぎている」

音楽がもつ人を繋ぐ力や、言葉を越えた共感は、小さな世界で王様になりたがるアイデンティティのモンスターたちや、差別や、寛容、多様性といった言葉を唱えているだけの信仰者によって、すっかり衰え、出自や人種といった分類から、ファンにも同じようなメッセージや、単純な政治観を植え付け、あるグループの代表者になることで、敵対するグループを見つけては戦おうとするアーティストが多い中、

ジョージ・マイケルも、マイケル・ジャクソンも、現代のそういった風潮に不満を感じ、大勢の人々が共感することや、音楽が持つ「言葉を超えた世界」を追求しようとしていた。

また、日本では「ソニー・ウォーズ」と呼ばれるマイケルのSONYへの抗議行動は、1987年の超ヒットアルバム「Faith」のあと、1990年に発表した『LISTEN WITHOUT PREJUDICE VOL. 1』が、所属レコード会社の社長トミー・モトーラに酷評され、裁判を起こしたことに大きな影響を受けたものだとも思うけど、

ジョージの行動は、自身の音楽的進化の途上で起こした、天才アーティストらしい行動だったのに比べ、マイケルは、すでに自分が完璧だと思えるアルバムの枚数を作り終え、他のアーティストとは比較できないほどの好条件での契約や、ビートルズを含む版権を会社と共有するなど、リスクを計算した上での「抗議」だった。

レコード会社との揉め事が、自分のキャリアを破壊するとは思わないほど、ジョージは、音楽業界のトップに立った後も、自分の音楽的才能を疑ったことがなかったけど、「KINGOF POP」を自分の呼び名にしたマイケルは、「永遠の命」のためには、脂の乗り切った年を一年でも無駄にしたくなく、そのための経済的基盤も重要視していた。晩年といわれる時期に、マイケルの経済状況が混乱していたと言われるのは、彼が後世に残る「完璧なアルバム」をすでに作り終えたあとだったからだ。

そして、やがてジョージにも自分の物語を、自分自身で締めくくりたいという時期が訪れ、彼は2005年に「素顔の告白(GEORGE MICHAEL: A DIFFERENT STORY)」というドキュメンタリーも創っていて、そこでも、大勢の天才アーティストたちから「真の天才」として賞賛され、何曲も名曲を創った作曲家で、比類なき歌唱力と存在感で、何万人もの観衆を酔わせられるパフォーマーだったことが証明されていて、本当に素晴らしいのだけど、

どちらのドキュメンタリーにも、『THIS IS IT』のような驚きや衝撃はない。

エイズで亡くなってしまった最初の恋人、アンセルモのことを語っているジョージ・マイケルを見ていると、マイケルがテイタム・オニールとの別れを歌に込めたと言われたことや、最初の恋人としてブルック・シールズの名前を上げていたことを思い出したりして、彼らが自らに望んだ「物語」のためには、「素顔」など存在しないことを想ったり・・・

生前、熱烈なファンだったとは言えない私には、ジョージ・マイケルのことを、ジョージと呼ぶのは抵抗があるのだけど、この、よくあるファーストネームを2つ重ねた名前を芸名にしたアーティストのファンたちは、彼のことをどう呼んでいたんだろう?

聴いた瞬間から名曲としての存在感を放つような楽曲を何曲も創り、比類なき歌唱力と、女性にも男性にも受けるルックスで、幅広い層にアピールできるキャラクターでありながら、それが逆につかみどころがないというか、誰にでも好かれる反面、ジョージ・マイケル一筋の熱狂的なファンという人は少ないようにも思える。

マイケル・ジャクソンも、ジョージ・マイケルも、比類なき天才で、ものすごい完璧主義者だったけど、とてつもなく多くの人に愛され、注目されるキャラクターを目指した、という点で、マイケルはより不思議な力と、他の誰にもできない計算があったのだ。

『FREEDOM』は、ジョージ・マイケルの魅力がいっぱい詰まっていて、彼が自分の物語に「FREEDOM」とつけたことも重要で、音楽好きなら必見の映画だと思う。

でも、なんのメッセージも込められていない『THIS IS IT』というタイトルの映画に、いったいどれほど大勢の人が影響を受けたかを思うと「FREEDOM」という言葉さえも色褪せて、現代に生きる私たちが、本当は何に飢えていて、どんなメッセージに縛られているのか、と考えざるを得なくなり、

『THIS IS IT』は、ドキュメンタリー映画として優れていただけではなかったのだ、とあらためて感じた、そんな夜でした。


こちらはオリジナル、Wham!の『FREEDOM』




FREEDOM ’90のアウトテイク


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Commented by childspirits at 2017-11-07 00:49 x
yomodaliteさんと、なんだかふらふらになりながら開演を待ったこの作品、がんばって見てよかったなぁ、と思っています。
ジョージ・マイケルという人の、ものすごい才能について、ほとんど初めて知ることばかりだったから。私にとっての彼は、なんと言ってもWham!のジョージ・マイケルで、80年代後半から90年代半ばまでCDもろくに聞かないほど音楽から離れていた自分自身の事情もあって、ソロとして光を放っていた彼のことは知らなかったんです。以前のこちらの記事ですこし教えてもらっていたのですが、実際大きな画面で彼の歌声を聞きパフォーマンスを見て、圧倒されました。
そして、才能の大きさには圧倒されましたけど、yomodaliteさんが言うように、This Is Itのときに受けた衝撃とは遠いものでした。
なぜかなと考えてみると、私の場合は、ですけど、今回の映画には「知らなかったことを知った」という感動があるのですが、それは「知っていたと思っていたことはじつは全然知っていなかった」という衝撃とは違っている、ということなのかも知れません。



Commented by childspirits at 2017-11-07 01:23 x
先に述べたように、私にはろくに音楽を聞かない時期もあったのですが、そんな時期の私にもMJの存在だけは届いていて、ポジティブにだろうとネガティブにだろうと、意識的にだろうと無意識にだろうと、彼に関して自分なりに感じたり考えたりしていたことがあった。それがThis Is Itの衝撃に繋がっていると思います。
ジョージ・マイケルに関して私は、彼の曲のいくつかとその素敵な歌声がちょっぴりの知識としてあるだけでした。彼の才能が、自分が思ってたものよりもはるかにすごいものだったとわかって感動しても、自分の中にどんでん返しみたいなことは起こらなかったんですね。
ジョージ・マイケルは圧倒的な音楽的才能をもつ大スターだったと思います。加えてレコード会社との軋轢のことなども知り、映画を見ている間、ジョージ・マイケルとマイケル・ジャクソンの類似点なども考えずにはいられなかったのですが、「大スター」とそこに「アイコン」の要素を加えた存在との違いみたいなものも考えずにはいられませんでした。
同じ日の夕方、大きなスクリーンで見たGhostやThrillerには、時代を超えてアイコンであり続けるという、マイケル・ジャクソンの覚悟と戦略がいままで以上に感じられたので、余計そんなふうに思ったのかも知れません。
Commented by yomodalite at 2017-11-07 23:25
>ふらふらになりながら開演を待ったこの作品、がんばって見てよかったなぁ、と思っています。

私もひとりじゃ頑張れなかったから、一緒に待ってくれたおかげで見れました!

>大きな画面で彼の歌声を聞きパフォーマンスを見て、圧倒されました。

ホントだよねーーー!!!

2008年のロンドンでのライブを録画したものを、家でよく見ているんだけど、最初に見たとき、アルバムで聴いていたわけでもないし、彼の曲もあんまり知らないはずだったんだけど、

ちょっといいスーツを着たジョージが、音楽に合わせて体を揺らしながら登場しただけで、ものすごい存在感があって驚いたんだけど、「Fastlove」を歌いだした瞬間から、もうすっごく踊りたくなるし、なんなら一緒に歌えそうな気がするぐらい「知ってる」感じがして、特別な演出もないし、ダンサーもいないのに、瞬間的にノリノリになって、もうコンサートの最後までずっとそんな感じで・・。

ジョージが、フレデイの代わりに、クイーンの歌をうたったときも、あのフレディ・マーキュリーに引けを取らなかったのにもびっくりしたし、、

https://www.youtube.com/watch?v=oYAR8RigqDA

これは2012年(49歳)のときなんだけど、ジョージは、とにかくステージが似合う。
https://www.youtube.com/watch?v=kO9zl2M9OKc

>「大スター」とそこに「アイコン」の要素を加えた存在との違い・・・

こんなに才能があるのに、うちのキングに比べると・・って思っちゃっうなんて、ホント申し訳ないなぁ(笑)
Commented by childspirits at 2017-11-08 15:10 x
>ジョージは、とにかくステージが似合う

本当に!!
映画を見ている間、「あー、この人のステージ、生で見てみたかったなぁと思いました。」(This Is It の時はそんなこと考えてる余裕がなくて…)

フレディの追悼で歌ったSomebody to Love はオリジナルもびっくりのすばらしさですもんね。
もう一つ、ジョージ・マイケルがスティービー・ワンダーをカバーしたThey Won't Go When I Goを今回初めて聞いたのですが、出だしから鼻の奥が痛くなるような心揺さぶられる歌唱で、あれから何度も聞いています。

私が印象に残ったのは、

自分を自慢することは最大の罪だ、という家庭に育った(言い回しは違ってたかも)

というような彼の言葉で、ギリシャ系の父とユダヤ系の母の家庭に育ち(彼のギリシャ語の本名も今回初めて知りました!)、心の中にジョージ・マイケルというどっちもファーストネームみたいなキャラクター(これって、日本語で言うと、「あきら ひろし」みたいな感じになるのかしら)を育んでいった彼の子供時代はどんなだったのだろう、と思いました。
Commented by yomodalite at 2017-11-08 21:58
>この人のステージ、生で見てみたかった・・

ジョージのアルバムって、1曲1曲の完成度が高くて、ものすごい完璧主義者って感じがするし、私たちのキングほど、ルックスに恵まれてるわけじゃないから、CDで聴く方がいいような気もするんだけど、不思議なぐらい、ライブ映像の方が楽しめるんだよね。

PVもレベル高いけど、ソロになってから徐々にゲイフレンドリーな感じになっているんだよね。でも、そこもステージになると、全然そういう感じじゃなくなって、ヘテロの男女が感情移入できる恋愛感覚や、うっとりできるセクシーがあって、どんな人も満足させちゃう包容力がすごいの。私も生で観たかったなーー

>スティービー・ワンダーをカバーしたThey Won't Go When I Go・・・

ホント「はい、スティービー消えた!」って心の中で言っちゃったもんね。まさか、スティービーにここまで圧勝しちゃうなんて。

https://www.youtube.com/watch?v=mu4mMPMULXA

>彼の子供時代はどんなだったのだろう、と思いました。

2005年のドキュメンタリでは、子供時代の証言もあったみたいね。

https://www.youtube.com/watch?v=KKAvTFeE5rQ&list=PL47LEjakiFHYUNaKe5dFywUovUTtaRupM

>自分を自慢することは最大の罪だ・・・

そういう教育が、あの完璧主義に繋がってるのかな・・そんなところもマイケルに似てるのかな。
Commented at 2017-11-23 23:20 x
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Commented by yomodalite at 2017-11-24 12:28
鍵コメさん、はじめまして。ステキな情報ありがとうございます!

(情報は、鍵コメでなくても大丈夫そうなので、ちょっぴり内容さらしちゃいますね)

>今公開中のグザヴィエ・ドランのドキュメンタリーを是非!先日鑑賞して、思考があまりにもMJに似ておりまして・・・

Wowーーー!グザヴィエ・ドラン、このブログにも何度か感想書いていて、好きな監督です。

最初は、ちょっと感性豊かな美少年のゲイの俳優が、私小説的に映画を創っているのかな、なんて思っていたんですが、『わたしはロランス』も、『たかが世界の終わり』も、LGBTの発信者に留まらない深い問題意識や、人間観察力、そしてメッセージ(笑)に陥らない複雑さがあって、一作を除いてすべて見ています。

新作のドキュメンタリーって、『グザヴィエ・ドラン バウンド・トゥ・インポッシブル』ですよね?

大阪では、まだ公開になっていなくて、待ち遠しく思っていたのですが、奨めていただいて、ますます楽しみになってきました!絶対に観に行きまーーす!
Commented at 2017-11-24 16:44 x
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by yomodalite | 2017-11-06 13:02 | 現代文化・音楽・訳詞 | Trackback | Comments(8)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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