ピーター・パンは、モラトリアムでも非成熟でもない |
そもそも「ほんと」とは何かということがとても難解なことなのだ。現実におこったことが「ほんと」だろうとしても、朝は晴れていた、ビスマルクは鉄血宰相と称ばれていた、俳句をつくった、この道はいつか来た道、村上春樹の新作をざっと読んだ、内閣が改造された、自社株が下がった、母親の病気が重い、友達とコーヒーを飲んだ、シリアにイスラエルからの爆撃があった、チラシのデザインを仕上げた、といったことの、いったいどこからどこまでが「ほんと」かを説明するのは、えらく大変なのだ。
それ以上に、「つもり」の正体なんて、ほとんど抜き出せない。連休は海外旅行に行く、信長は野望をもっている、あなたが好きです、この映画は当たるだろうね、銀河系には生命があるにちがいない、あしたの遠足なんか行きたくない、リンゴを剥きますか、発車まであと数分、この歌うたえるかな、あの件はチャラにしたい、なんてことから、「つもり」の部分だけを抜き出すのは至難の技なのだ。世間ではおそらくは「つもり」から「ほんと」を引いたところを勘定したいわけだろうが、そうは問屋が卸さない。
それよりいったん、すべてが「つもり」で出来ているのだと見たほうがうんといいい。このことは、幼い少年と少女以外の誰もがわかっちゃないことなのである。そう、かれらは「つもり」こそが「当然」なのだから。
ジェームズ・ディーンの『理由なき反抗』やフランソワ・トリュフォーの『大人は判ってくれない』はティーンエイジをみごとに描き出したけれど、バリがピーター・パンに託したことはそういうティーンエイジの社会観ではなかった。
ローティーンよりもさらに年下の少年少女は、「おとな」が確信できない「つもり」をいっぱいもっていることを綴ったのだった。そして、その「つもり」のほうが「ほんと」よりも確信できる超編集的な世の中があってもいいと考えたのだ。
バリが問うたのは「おとな」と「こども」の対比なんかではない。幼い子供にとっての「ほんと」と「つもり」と、思春期以上の大人にとっての「ほんと」と「つもり」では、器量や壊れやすさや矛盾のぐあいが根本において異なっていて、それを理解するにはどうすればいいかということなのだ。それをとりあえず“バリの存在予告”と言っておく。(引用終了)
ご教示ありがとうございます。さっそく買って読んでみました。
あとから気づいたのですが、この大久保寛さんは、フィリップ・プルマンの「黄金の羅針盤」シリーズを訳した方ですね。このプルマンの翻訳には不満で、結局原書を買って、訳書はゴミに出した(笑)のですが。
おっと、フック船長の最後の台詞が不満です。「無礼者め」となっているんですが、オリジナルは「Bad form!」ですから、「礼儀が悪いぞ!」位の方が合っていそうな。
あと17章で、ウェンディのお父さんの台詞「隊長に続け」にわざわざフォロー・ザ・リーダーとルビが振ってあるのですが、このままじゃあ意味不明です。
これは4章に出てくる「大将ごっこ」の原語がフォロー・マイ・リーダーなので、それを受けている、という説明でもないとね。
些末なコメントはありますが、わりと素直に読めました。
いま夏目漱石を読んでいますが、バリーと時代が重なります。そうか、「宝島」も1883年だから、そう時代が違うわけでもないんだ、とかいろいろ発見があります。あの片足の海賊のあだ名は「バーベキュー」だったんだとかね。(愉)
早っ!しかも原書と付き合わせてだなんて(驚)
>フィリップ・プルマンの「黄金の羅針盤」・・・
みっちさんオススメ本としてメモしてあるのですが!原書の方だったとは・・(汗)
>「無礼者め」となっているんですが、オリジナルは「Bad form!」ですから、「礼儀が悪いぞ!」位の方が合っていそうな。
「礼儀が悪いぞ」より「無礼者め」の方が、私はイイと思います!
>「隊長に続け」にわざわざフォロー・ザ・リーダーとルビが振ってあるのですが・・・
そのルビには気づきませんでした。でも、日本語として、ごっこの前なら大将の方が合いそう。でも、続けの前なら「隊長」の方がいい。と訳者が思われたのはよく理解できます。この場合、そのふたつが同じ言葉(リーダー)である、という説明、必要かなぁ・・?
>些末なコメントはありますが、わりと素直に読めました。
でしょう!(笑)
Kindle でもう一冊これより安い本があって、そちらは読んでいないのですが、過去2作と比較すると、抜群にスムーズな日本語でした。プルマンと違って、訳書がたくさんあるので、ようやくこなれてきたんでしょうね。
>そうか、「宝島」も1883年だから・・・
みっちさんにもご協力いただいた、スピーチにも登場してましたよね!
「無礼者め」が誤訳である理由:
フック船長はじつは上流階級の出身で、有名パブリック・スクール出身です。彼にとっては、良き行儀作法good formを行うことがトラウマになっているわけです。
ピーターの一撃でフックは剣を落としますが、ピーターはフックが剣を拾うように促します。このようにgood formを見せつけられて、フックは絶望するのです。
ですから最後に、せめてもの慰めに、ピーターのマナーの悪さをからかって死にたいのです。こういう経緯ですから、ピーター自身を非難するのでなく、ピーターのマナーの悪さを非難する、そういうニュアンスでなければなりません。
「隊長に続け」のルビ:
これはきっと、「大将ごっご」の方にもルビをつけるつもりで、忘れちゃったんだと思います。(爆)
>「大将ごっご」の方にもルビをつけるつもりで、忘れちゃったんだと思います。(爆)
おそらく、そうでしょう(爆)
で、「無礼者め」が誤訳である理由についてですが、
わたしとみっちさんの仲なのでw、安心してしつこくイかせていただきますよ(笑)
>フック船長はじつは上流階級の出身で・・・
まさにそのとおりで、イートン校で英国紳士としてのエリート教育を受けていたフックにとって「礼儀」は体に染み付いたものであり(少なくとも本人はそう思っている)、それについては、ここまでの記述でも少しは著されていますが、このセリフは、ピーターとの最後の一戦でのことですから、すごく重要なセリフなんですよね!
それを分かった上で、「礼儀が悪いぞ」より「無礼者め」の方がイイ、と書いたのは、「礼儀が悪いぞ」に、日本語としての違和感を感じたからです。
礼儀がなってない、礼儀を知らない、礼を欠く・・などが、私にとってはスムーズな日本語であって、「礼儀が悪い」というのは、どこぞの国語教師に「行儀が悪い」と添削されそうな気がしたんですね。
おっしゃるとおりです!しかし、それを踏まえた上で「Bad form!」を、日本語にしようとすると、意外とむつかしい。「礼儀」で果たしていいのか?とか、マナーの方が・・?とか、より良いものを色々考えてみたんですが、どうもイマイチな気がして・・・「無礼者!」にみっちさんが違和感を感じるのは理解しているつもりですが、その前の文章で、フックの「礼儀」への心情がくわしく説明された文章があっての「最後の言葉」としては、無礼者!でもそんなに悪くない、と。ここは、大久保氏も迷われたうえのことではないか、と。思ったわけです。
海賊のフックが、マナーにこだわるというのは、一方では最上級の人間というものを創造しつつ、実態は海賊行為によって世界の富を略奪してきた英国の裏表を、バリなりの表現だと思いますが、日本の武道でも「礼に始まり礼に終わる」とか、勝つことよりも重要なことのように推奨されていますが、原点を考えれば、本末転倒であり、帝国軍人も英国紳士も、とかく大人は「ほんと」と「つもり」を使い分けていることを意識していない。
そして、ここでは、成長することを止めたはずのピーターでさえ、一対一にこだわったりして、うっかり「ティー・エイジャー」に成長しそうになっています。
それでも、ティーンエイジというのは、結局大人の教育の賜物で・・という絶望を表明しようとしたところが、バリの、そして「ピーターパン」の魅力なんですけど、
この章のピーターは、このまま成長したらフックになってしまうんじゃないか、と心配になるぐらい、フックとピーターの類似性が示唆されていて・・・
私はまだ原文を参照していないのですが、一番確認したかったのは、ピーターがあの有名な言葉「若さだ、喜びだ」「卵から出てきた小さな鳥だ」と言ったあと、
不幸なフックには、はっきりとわかりました ーーー ピーターは自分が誰でどんな者なのか少しもわかっていない、ということが。そして、それこそが礼儀の極みなのです。
特に「礼儀の極み」という箇所がひっかかって・・・
みっちさん、ここの原文と、みっちさん訳をぜひ!
Bad form!をうまく訳せないのは、「日本語にそういう概念がない」からだと思います。(笑)みっちも本当のところ、英国のパブリック・スクールでいう、Good formってどんなものだか、分かりません。ひょっとすると、バリーも知らなかったのかも。
>イートン校で英国紳士としてのエリート教育を...
はい、細かな点を云えば、ノベライズ版の「ピーター・パン」では、フックがイートン出身というのは示されていないはずです。
戯曲版の方ですと、このピーター/フックの決闘シーンがだいぶん変わっていまして、「Bad form!」と叫ぶシーンはありません。
絶望したフックは、みずからの意志で船の上から海へ、ワニの口めがけて落ちるのです。自殺です。このとき、「Floreat Etona」と呟きます。これは「イートンに繁栄あれ」というイートン校のモットーです。
そして舞台の幕がいったん下り、ふたたび上がると、ジョリー・ロジャー号の艦橋には、ピーターが「ナポレオンのように」立っているのです。
ナポレオンをワーテーローで破ったウエリントン公はイートンだったけなぁ、とかいろいろ考えさせられます。まあ、この辺りは、バリーも相当屈折しています。
>不幸なフックには...
This, of course, was nonsense; but it was proof to the unhappy Hook that Peter did not know in the least who or what he was, which is the very pinnacle of good form.
「礼儀の極み」は「the very pinnacle of good form」です。とにかく、ここはgood formという単語が連続するのです。
私はディズニー版も榊原郁恵も相原勇も、舞台のピーターパンは見たことも読んだこともないはずなのですが、フックが自殺するのは、どこかで「読んだ」気がします(謎)
>yomodaliteさんは、特別です!(笑)
みっちさんのコメを読むと、色々と聞きたくなってしまうので、今後も「特別」でお願いします!
>Bad form!をうまく訳せないのは、「日本語にそういう概念がない」から・・・
同感です!
>フックがイートン出身というのは示されていないはずです。
戯曲になかった内容を付け加えられたのが17章なんですが、今回みっちさんがピックアップしてくれた文章の少しあとに、
「有名な壁の上から、イートン校式フットボールを見たりした自分の姿でした。」
という文章があって、14章には、
「フックは思い出しました。名門イートン校の社交クラブの会員の資格を得るには、意識しなくても自然に礼儀正しくふるまえることを証明しなくてはならないことを。」
と、あるのですが、社交クラブの資格を得るには、礼儀はもちろん、イートン校の出身者でなくてはならない、と思います。
それは無いでしょう。というのもこの話は、ジョンとマイケルだけでなく、バリーの実質的な養子である、ジョージ、ジョン、ピーター、マイケルの4人のLlewelyn Davies boy がモデルになっているんですが、彼らは全員イートン校の出身です。
しかし、ジョージは戦場で亡くなり、マイケルは在学中に友人と共に溺死してしまうのですが、その原因には、同性愛に悩んだ末という噂も・・バリが特に可愛がり、イートン校でも目立つ存在だったこの二人の死にも「礼儀」が絡んでいて、それゆえ17章は、複雑で屈折していながら、円熟したユーモアも感じられるんじゃないでしょうか。
フックは、ピーターパンが「意識しなくても自然に礼儀正しく」ふるまえたことを「礼儀の極み(the very pinnacle of good form)」だと理解して絶望し、せめて、ピーターパンにマナーの悪さをからかって死にたい。やっぱり、私はここは「無礼者!」でいいと思います(笑)
参考:http://nikkidoku.exblog.jp/17230506/
ああっ、これは気づきませんでした。
>「有名な壁の上から、イートン校式フットボールを見たりした自分の姿でした。」
オリジナルはこうです。
「it was slouching in the playing fields of long ago, or being sent up [to the headmaster] for good, or watching the wall-game from a famous wall. 」
オリジナルにEtonの文字はないのですが、wall-gameなんてやるのは、イートン校だけだろう、ということですね。
>「フックは思い出しました。名門イートン校の社交クラブの会員の資格を...
ここはこうなっています。
「He remembered that you have to prove you don’t know you have it before you are eligible for Pop [an elite social club at Eton].」
まあ、このPopに入るのに、無意識のgood formが必要、というのは大いに疑問ですが。(笑)ほとんどの場合は、「家柄・生まれ育ち」なんじゃないでしょうか。それこそ、バリーには一番縁遠いもので、理解しがたいものだったと思いますが。
以上2カ所の記述は、戯曲の方にはありません。戯曲にあるのは、「Floreat Etona」だけです。
あと、しつこく、「無礼者め」なんですが。(爆)
ここからは、日本語の問題です。
「無礼者」というと、みっち的感覚では、「横柄で生意気な奴」って、感じなんです。
この言葉は、文字どおりの「礼儀を欠く人」という意味にはあまり使わないような気がします。
まあ、あくまで、みっち的日本語感覚ですが。(笑)
1927年に、バリーは「Captain Hook at Eton Speech」という一文を、書いています。(笑)
ここで読めます。
http://classic-literature.co.uk/j-m-barrie-captain-hook-at-eton-speech/
こんなの、書いていたんですねぇ。(驚)
フックのイートン時代のエピソードが、「大真面目に」語られます。(笑)
彼の最後については、こんな具合。(爆)
『しだいに明らかになったのは、ある少年-彼の不倶戴天の敵でありました-がフックを生者のリストから叩き落としたのです。彼はつねに子供が嫌いでありました、そして、その残酷な小さな野蛮人たちが、彼にとどめを刺したのであります。』
>オリジナルにEtonの文字はないのですが、wall-gameなんてやるのは、イートン校だけ・・
イートン高式のフットボールが「wall-game」だとわかって、ようやくどんなものかわかりました。
https://www.youtube.com/watch?v=pRwJHzsLB98
>バリーは「Captain Hook at Eton Speech」・・ここで読めます。
流石、みっちさん!これ、興味深い文章ですね。ただ、私にはむずかしい英語なので、全部読むのに時間かかりそう。ていうか、バリのスピーチを訳してくれた先生に助っ人を依頼しなきゃw
>彼はつねに子供が嫌いでありました。
イギリス映画の「ピーターパン」(2003)では、ウェンデイの父親とフックを同じ俳優が演じていたりして(結構イケメン)、フックは大人の代表なんですよね。
それにしても、バリーは、海賊フックが元は名門校出身のエリートということに、やっぱり相当こだわっているみたいですね。
折角ですから、気の付いた点を書いておきましょう。
第5章pp99で、『二輪戦車』というのが出てきて、その中にフック船長が『ゆったりと寝そべっていました』となっています。
これ原語は「chariot」なんですけど、「二輪戦車」って、ほら映画「ベン・ハー」なんかで出てきたやつね。あれは、乗り手が立って操るもので、とても「ゆったりと寝そべる」ような代物じゃないと思います。
ここは『四輪の荷馬車』という訳が妥当でしょうよねぇ。(笑)
そして、第14章冒頭の海賊船の描写が気になりました。
『隅から隅まで汚れていて、甲板を支える横材は一本残らず、むしられた鳥の羽が散らばった地面のように、ぞっとするありさまでした。』
というのですが、これはチンプンカンプンです。「甲板を支える横材」って、甲板の下の梁でしょう。それって、外から見えるものなんですか?それが鳥の羽で汚れているって?
オリジナルを見てみましょう。こうです。
『One green light squinting over Kidd’s Creek, which is near the mouth of the pirate river, marked where the brig, the JOLLY ROGER, lay, low in the water; a rakish-looking [speedy-looking] craft foul to the hull, every beam in her detestable, like ground strewn with mangled feathers.』
つづく
はあ、「beam」を「甲板を支える横材」と訳したんですね。確かに、船舶工学上は、beamは横梁みたいですが、この場合それだと意味不明なのでは。
みっちは、このbeam、帆桁を指していると思います。帆桁は専門用語でいろいろあって、beamという単語は使われないのですが、ここはそんな専門的な話ではなく、単純に「梁」って感じで使っていると思います。
みっち訳はこうなります。
『グリーンの明かりがキッドの入り江に見え隠れしている、ここは海賊川の河口近く、停泊している2本マストの帆船ジョリー・ロジャー号を示すものだ。喫水は深く、駿足の(足の速そうな)船である、船体は汚れきっており、帆桁はどれも嫌らしいまでにちぎれた鳥の羽の散らかった地面のようである。』
あと、気になっていた「無礼者め」ですが、みっち的には、どうしても「↓」であります。(笑)
日本語で「無礼者」と発言するのは、それ自体good formとは思えません。怒声という感じを受けますから。
ここは、相手の非礼をちくりと指摘して去って行く、というシーンですので、まあ
『礼節に欠けるぞ』
くらいだったら、許せます。(笑)
てなところで、いろいろ書きましたが、今回はこの辺りで、とりあえず「case closed」とさせて頂きたく。
>ウェンデイの父親とフックを同じ俳優が演じていた...
戯曲の「ピーターパン」では、「伝統的に」ウェンディの父親とフック船長は、同じ役者さんが、演じるんだそうです。
まぁ、一つには、役者の節約なんでしょうけど、フック船長が悲劇的な最期を遂げたあと、同じ顔の人がニコニコ現れるのは、どう見ても意味深です。(愉)
>ここは『四輪の荷馬車』という訳が妥当・・・
https://search.yahoo.co.jp/image/search?p=chariot&search.x=1&tid=top_ga1_sa&ei=UTF-8&aq=-1&oq=chariot&ai=duqFXbTfTEWJUS_Uu3volA&ts=15313&fr=top_ga1_sa
たしかに「寝そべって」というのは、体の状態としては言い過ぎかもしれませんが、通常は、立った状態で、馬を操って走る二輪戦車ですが、馬の代わりに、手下に引かせ、後方も手下に押させるという状態なんじゃないでしょうか。つまり自分ではなにもしないという状態を「ゆったりと寝そべって」と表現されたのではないかと。
ちなみに、芹生訳は下記です。
『フックは、大勢の手下どもが前をひっぱり、後ろを押す、荒くれた戦車にゆうゆうとおさまり・・』
たしかにそうですね。でもこの梁を「帆桁」と解釈するというのもどうかなぁ?と思います。「like ground strewn with mangled feathers」なのは、やっぱり「甲板」の方ではないか、と(groundですし・・)。
『One green light squinting over Kidd’s Creek, which is near the mouth of the pirate river, marked where the brig, the JOLLY ROGER, lay, low in the water; a rakish-looking [speedy-looking] craft foul to the hull, every beam in her detestable, like ground strewn with mangled feathers.』
『グリーンの明かりがキッドの入り江に見え隠れしている、ここは海賊川の河口近く、停泊している2本マストの帆船ジョリー・ロジャー号を示すものだ。喫水は深く、駿足の(足の速そうな)船である、船体は汚れきっており、帆桁はどれも嫌らしいまでにちぎれた鳥の羽の散らかった地面のようである。』
正直、このみっちさん訳は、私には何が言いたいのかさっぱりわかりません(笑)。ジョリー・ロジャー号は、(かつては)喫水深く速そうな船だったけど、(今は)ちぎれた鳥の羽が散らかっているような汚れた船なんじゃないんですか?
私には、甲板の下の梁が外から見えるなんて、ありえない。ゆえに、「beam」は「甲板を支える横材」ではないという結論に、みっちさんが縛られてしまって、大久保訳の地点から後退してしまったように感じます。「beam」が本当は何なのかは、私にもわかりませんが、このあとの文章にあるように、ジョリー・ロジャー号が、みんなが震え上がって、誰も近づかないような船なら、甲板はとうに朽ち果て、床下が見え、そこに鳥の羽が詰まっているなんてこともあるんじゃないでしょうか?
そんなことを思いつつ、またもや、芹生訳を見てみたら、これが驚くべき訳で・・(また後でコメント追加しまーすw)
もっとも、「ネバーランドなんだから、何でもありだぁ!」と云い出すと、それで終わりですが。(笑)yomodaliteさんが、yahoo検索で示してくれた画像にも、ちゃんと「普通の馬車」が載ってるじゃないですか。
>正直、このみっちさん訳は、私には何が言いたいのかさっぱりわかりません...
わぁ、それは残念です。(笑)みっち的には、他の訳者の方と違って、忠実な逐語訳だと思うのですが。(爆)
さっき図書館に寄ったので、ついでに児童図書の中にある「ピーターパン」訳書群を見てみました.岩波少年文庫のとか、あと石井桃子さんの訳したものとか。
ただ、残念ながら、ここのところは、納得いく訳はなかったです。(笑)
まず、「喫水が深い」というのは、「駿足」とイコールではないです。抵抗が増えるので、遅くなるはずです。ジョリー・ロジャー号の喫水が深いのは、①船体に穴でも開いていて、水が浸入しているか、あるいは②積み荷(財宝だかガラクタだか)が多すぎて沈んでいるのでしょう。どちらかといえば、後者かなぁ。
beamの訳ですが、どなたかの訳では、船の「甲板上の横梁」となってるのがあったなぁ、でもいつの時代の船にせよ、甲板の上に横梁がある船なんて、見たことないです。それで大久保さんは考えた末(笑)、梁を甲板の下に持って行ったのでしょう。しかし、そうなると、そんなのがどうして見えるんだ(爆)となる。なにせ、every beamですからね。全部なんですよ。
逆に質問ですが、ジョリー・ロジャー号のような2本マストの帆船で、船体以外の部分の梁で、鳥の羽やらフンやらで汚れそうなものって、帆桁以外にどこにありますか?
>他の訳者の方と違って、忠実な逐語訳だと思うのですが。(爆)
はい。みっちさん、私は逐語訳が「正解」だと思ったことはないです。なので、そこは常に「平行線」だと思います。日本の作家だそうであるように、文法どおりに書いている人などいませんし、言葉も文法も、そして同じ情景を見て伝わるものも、時代によって変わっていきます。私が尊敬する翻訳者の方は、そこを「繋げる」ために、様々な工夫をこらしてくれている方なんですね。
(ここから下は、みっちさんの新コメを見る前に書いたものです)
それでは、芹生訳です!
『One green light squinting over Kidd's Creek, which is near the mouth of the pirate river, marked where the brig, the JOLLY ROGER, lay, low in the water; a rakish-looking [speedy-looking] craft foul to the hull, every beam in her detestable, like ground strewn with mangled feathers. She was the cannibal of the seas, and scarce needed that watchful eye, for she floated immune in the horror of her name.』
『海賊川の河口に近いキッド水路には、緑色の光がまたたいていた。海賊船ジョリー・ロジャー号が吃水深く停泊しているしるしだ。この船はいかにも海賊船らしく、船体は貝殻でおおわれ、泥を塗りたくった上にむしった羽をぶちまけたみたいに、いやらしくよごれている。ジョリー・ロジャー号は、海の人食い族だ。その名はひどくおそれられているので、見張りをたてる必要もないほどだった。』
craft foul to the hullが、貝殻でおおわれ・・で、like ground strewn with mangled feathers. が、泥を塗りたくった上にむしった羽をぶちまけたみたいに、なんですよね!
『海賊川の河口の近くに、有名な海賊キャプテン・キッドにちなんで名付けられた“キッドの入江”があります。この入江にまたたく緑の光こそが、二本マストの帆船、ジョリー・ロジャー号が船体を水中深く沈めて停泊中の場所を示していました。いかにも速そうな船ですが、隅から隅まで汚れていて、甲板を支える横材は一本残らず、むしられた鳥の羽が散らばった地面のように、ぞっとするありさまでした。この船はまさに海の人食い人種で、見張りはほとんど必要としませんでした。なぜならジョリー・ロジャー号と聞いただけで、みんな震えあがり、誰も近づこうとしなかったからです。』
大久保訳の「甲板を支える横材」というのは、デッキに貼られている板のことで、それが「一本残らず」(めくれ上がっている状態を)「鳥の羽が散らばった地面のように」と表現されているんじゃないでしょうか。
大久保訳では「Kidd's Creek」について、有名な海賊キャプテン・キッドにちなんで、なんていう説明も親切ですし、芹生訳よりも、原文の単語に忠実に訳されている印象がありますが、一方で、芹生訳では、「二輪戦車」や「甲板を支える横材」といったピンとこない日本語よりは、朽ち果てた海賊船の情景を大雑把につかむことを重要視されているようで、どちらも翻訳者の熱意が伝わる訳だと思います。
でも、デッキが「板」であるとか、木で出来た船のことや、二本マストの帆船とか、ジャネット・ジャクソン世代の私ですら、なかなかイメージできないですし、帆桁も画像検索しないとイメージできなかったぐらいですからね・・。
「無礼者」と発言するのは、それ自体が「good form」ではなく、怒声という感じがする。というのは、よく理解できます。フック自らが、ピーターパンに「足で蹴るように」求めているわけですからね。
ここの芹生訳は(芹生本はすべての漢字にルビが振られていてひらがな多め)・・
He had one last triumph, which I think we need not grudge him. As he stood on the bulwark looking over his shoulder at Peter gliding through the air, he invited him with a gesture to use his foot. It made Peter kick instead of stab.
At last Hook had got the boon for which he craved.
"Bad form," he cried jeeringly, and went content to the crocodile.
『フックは最後になって、いちどだけ勝利をあじわった。このささやかな勝利にけちをつけちゃいけないと、わたしは思うな。船べりに立ったフックは、ピーターが空中をすべってくるのを肩ごしに見て、足でけるように、という身ぶりをした。で、ピーターは剣で刺すかわりに、けったのだった。
フックはついに、望んでいたものを手に入れたのだった。
「は、は、は。ついに作法を軽んじおった。」』
「作法」ってどうですか、みっちさん!ちなみに、あの「礼儀の極み」の箇所も「正しい作法」になってます。
続けて、大久保訳です。
大久保氏の「無礼者め」は、大声で言っていながらも、口元がゆるんでいるような・・「無礼者」という言葉の真逆の感情も伝えているように、私には感じられて嫌いにはなれないんですよね。このあと「満足げにワニの口に飛び込んでいく」のが前提での言葉ですから。
>戯曲の「ピーターパン」では、「伝統的に」ウェンディの父親とフック船長は、同じ役者さんが、演じるんだそうです。
ありがとうございます!それは興味深い事実です。ということは、バリの指示にもあったんでしょうね。ひさしぶりの「ピーターパン」を読んでるうちに、スピルバーグの「フック」が見たくなってきてたんですけど、その映画では別の俳優がやってたみたいなんですよね。まあ、スピンオフ的な話だからなんでしょうけど。
みっちが「逐語訳」といっているのは、「なるべくオリジナルに正確な訳」のことです。みっちは立派な各訳書に代わる「芸術的な訳」を意図しているのではありません。だから「逐語」なんです。作者のバリーがどういうことを書いたのか、正確に知りたいのであって、訳者の方のそれぞれの思いに左右されず、正確なところを知りたいのです。
ははぁ、芹生訳はbeamを訳してませんね。これは「芸術的」かもしれませんが、「正確な」訳では決してありません。
>大久保訳の「甲板を支える横材」というのは、デッキに貼られている板のこと...
あっ、違います、違います。横材というのは、船の構造部材(強度を持たせる部材)でして、船の進行方向とは直角です。一方、甲板は船の構造部材ではなく、船の進行方向と平行に張ってある、フローリングみたいな板です。家でいうなら、柱と梁が構造部材で、床板が甲板にあたります。
>「一本残らず」(めくれ上がっている状態...
あのーっ、ジョリー・ロジャー号は「海賊船」なのであって、「幽霊船」じゃないですからね。(笑)船体が穴だらけで、内部の桁が丸見えなんてことはないと思いますよ。
つづく
>有名な海賊キャプテン・キッドにちなんで、なんていう説明も親切です...
余計なお世話ともいいます。(笑)大久保さんは、「バーベキュー」をすべて「ジョン・シルバー」とするとか、努力されているのですが、こういうのって、結局膨大な注釈でも付けないかぎり、「よく分からない」んです。初出のときに、スチーヴンソン「宝島」との関連を述べて、あとは触れない方がスマートだと思います。
>「作法」
う~ん、みっちは行儀作法はちょっと違うと思うんですよ...(汗)
>大久保氏の「無礼者め」は...私には感じられて嫌いにはなれないんです...
いやもう、それは結構なことなんじゃないでしょうか。いままで述べたことは、すべてみっちだけの主観で、決して他の方に敷衍しようとは思っておりません。
そうだ、大久保訳で、もう一つ、「!」ってのがありました。
第14章pp240
『ああ、残念なフック。』(爆)
「残念な」が最近若い人の間でよく使われるのは、みっちも承知しているのですが、これはちょっと。(笑)
ちなみに、この箇所は、「Ah, envy not Hook.」です。
「逐語訳」ですと、まあ、「おーっ、羨ましくないぜ、フック」ぐらいですかなぁ。(笑)
>みっちが「逐語訳」といっているのは、「なるべくオリジナルに正確な訳」のことです。みっちは立派な各訳書に代わる「芸術的な訳」を意図しているのではありません。だから「逐語」なんです。作者のバリーがどういうことを書いたのか、正確に知りたいのであって、訳者の方のそれぞれの思いに左右されず、正確なところを知りたいのです。
それでこそみっちさん!だと思うので、是非、今後もそのようなご意見をうかがいたいと思うのですが、ただ、「逐語訳」が、
帆桁はどれも・・・ちぎれた鳥の羽の散らかった地面のようである。
というのは、多くの人にとって絵が浮かばない文章なので(どうして帆桁なのに地面?)。そのような場合、どこかの逐語が忠実ではない、という可能性を考えずにはいられません。それで、意味が通じている翻訳者の側にたって、みっちさんが疑問に思った部分について確認を取りたかったんですね。
>逆に質問ですが、ジョリー・ロジャー号のような2本マストの帆船で、船体以外の部分の梁で、鳥の羽やらフンやらで汚れそうなものって、帆桁以外にどこにありますか?
every beamは、帆桁かもしれません。でも、そうなると「地面のような(like ground strewn)」が不自然です。ちなみに、その「フン」はどこの逐語ですか? もしかして「地面のような」以外の逐語になってます?
>ジョリー・ロジャー号は「海賊船」なのであって、「幽霊船」じゃないですからね。(笑)船体が穴だらけで、内部の桁が丸見えなんてことはないと思いますよ。
そうですね。私は頭の中が、芹生訳の「貝殻におおわれたw」になっていたんですが、みっちさんのご指摘で、ジョリー・ロジャー号の姿が変わって見えてきました。私もちょっぴり「オリジナルの正確な訳」に興味があるので、この部分に関しては、助っ人と相談するなどして、もう少し考えてみようと思います。
それにしても、ピーターパンを読んで、船の構造だのなんだのについて悩んだりするなんて・・・もうこれ以上大人にならないつもりだったのにぃーーー(笑)
はい、問題の箇所なんですが、ここのところの解釈を一から見直してですねぇ、こうは取れないかなぁ。(悩)
『船体は汚らしく、(甲板と船体を支える)どの梁も嫌がっているのだが、(甲板は)むしられた鳥の羽がちらばった地面のようであった。』
つまり、汚れているのは、あくまで甲板上である。その甲板と船体を支えているのは梁beamであるが、汚ったないものを支えているので嫌がっている、という訳ですが、かなり苦しいですが。(笑)
で、一生懸命読んでいたせいか、話題になっている『ピーター・パンとウェンディ』の一節が頭の中をぐるぐる駆け巡るようになってしまいました。
お二人の議論では、この部分に3つの訳が出てきます。
みっちさん訳
グリーンの明かりがキッドの入り江に見え隠れしている、ここは海賊川の河口近く、停泊している2本マストの帆船ジョリー・ロジャー号を示すものだ。喫水は深く、駿足の(足の速そうな)船である、船体は汚れきっており、帆桁はどれも嫌らしいまでにちぎれた鳥の羽の散らかった地面のようである。
※再訳)船体は汚らしく、(甲板と船体を支える)どの梁も嫌がっているのだが、(甲板は)むしられた鳥の羽がちらばった地面のようであった。
議論の発端となった?大久保訳
海賊川の河口の近くに、有名な海賊キャプテン・キッドにちなんで名付けられた“キッドの入江”があります。この入江にまたたく緑の光こそが、二本マストの帆船、ジョリー・ロジャー号が船体を水中深く沈めて停泊中の場所を示していました。いかにも速そうな船ですが、隅から隅まで汚れていて、甲板を支える横材は一本残らず、むしられた鳥の羽が散らばった地面のように、ぞっとするありさまでした。
芹生訳
海賊川の河口に近いキッド水路には、緑色の光がまたたいていた。海賊船ジョリー・ロジャー号が吃水深く停泊しているしるしだ。この船はいかにも海賊船らしく、船体は貝殻でおおわれ、泥を塗りたくった上にむしった羽をぶちまけたみたいに、いやらしくよごれている。
問題のevery beamのとこ、私はbeamは甲板の下に渡っている横材のことでも、もちろん帆桁のことでもないのでは、と思いました。辞書で見たら、beamには船幅や船腹の意味があります。それで、every inchや、every minuteという表現を思い出しました。それぞれ、「隅から隅まで」「終始」ですが、every beamはそれと同じで、船の幅のせまいとこもひろいとこも、つまり船全体ではないかと思ったんです。大久保さんの「隅から隅まで」も、もしかしたらそういう意味で言ったのではないでしょうか。ただ、彼の訳では、そのあとに「甲板を支える横材」が出てきてしまうので、かえってわけがわからなくなっているのですが。
また、foulは「船底が貝殻や海草などで汚れた」という意味にとりました。どうしてかというと、like ground を、点でも線でもなく「面」としてとらえたかったからです。で、訳を試してみました。全体としては芹生さん訳に近いようにおもえます。Case closedのところ、申し訳ないのですが。
「海賊川の河口の近く、キッドの入り江に緑の光がまたたいています。二本マストの海賊船、ジョリー・ロジャー号が、吃水深く停泊しているのです。スピードの出そうな船ですが、船底にフジツボがくっつき、海草が絡みついていて、なんともひどい有様。まるで、むしった羽をまき散らした地面みたいです。」
たしかに船底は読者には見えませんが、物語の語り手は見えない部分のことを多いに語るのではないかと・・・。
長々と失礼いたしました。
>beamには船幅や船腹の意味があります。
>every beamは、船の幅のせまいとこもひろいとこも、つまり船全体
その解釈だと、見える絵が自然でしっくりきますね。
>foulは「船底が貝殻や海草などで汚れた」・・・
rakish-looking [speedy-looking] がしっくり来る「foul」が、船底だというのは自然な流れを感じます。
そんなわけで、当ブログとしては、kumaさん訳をベストとしたいと思います。
みっちさん、今回は「弘法も筆の誤り」てことで・・・またよろしくお願いしまーーす!
お暇なときにでも、覗いてください(^^)/