『1Q84』と『オペ・おかめ』そしてイサム・ノグチと藤永茂のペルソナ

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巷では、4年ぶりの新作長編小説の話題でいっぱいだというのに、今頃になって『1Q84』を読み出した私は、黒原敏行氏が『闇の奥』のクルツとの対面と似た場面と言っていた箇所をクリアし、今、青豆がミッションを終えたあたりを読んでます(BOOK 2の後編《文庫版4巻》)。

クルツよりも、マーロン・ブランドが演じていたカーツや、麻原のことが、映像のごとく浮かび上がってきて、『アフター・ダーク』のときにもういいかなと思ったことと、長編なのに続きを読ませる魅力の両方を思い出しながら、とにかくこれを読み終わるまで、他の小説は読めないって思ってたんだけど、そうは言ってられない事態が起きた。

なんと、このブログにもときどき登場していただいた藤永先生が小説を発表されたのだ!


およそ30年前に発想したと言われていますが、「一人の老物理学者が100パーセント確実な暗殺用機器を完成させ、核軍拡に狂奔する世界に対して神を演じようとする」というのは、まさに “今” の物語!

藤永ブログは、小説『闇の奥』のことにしても、シリアやクルド人のことも、私には知識が少なすぎて、理解できないことの方が多いのですが、

『地獄の黙示録』から、『闇の奥』の訳書と解説本へとたどり着き、メールを差し上げて以来、マイケルのことを、ポール・ヴァレリーのいう「大芸術」として考えてくださったり、勝新の『座頭市』や、フィギュアスケートについても、私のブログのあらゆる話題に反応してくださって、自分の父親よりも遥かに年上の先生の若々しさ(御歳90歳)と、しなやかさに仰天したことは一度や二度ではないのですが、それは、今回の小説にもいかんなく発揮されていて・・・

主人公の老化学者、白鳥譲治

量子化学者、大学教授として、人種のるつぼと言われる米国やカナダで永年暮らし、人種・民族問題の名著『アメリカ・インディアン悲史』を著し、英語圏の大学で、20世紀で最も多く使用された文学作品と言われる『闇の奥』の解読や、古典文学から現代文化までの幅広い教養、そしてそれらすべてを内包して培われた現代政治への問題意識など、白鳥譲治は、藤永先生自身がモデルではないかと思う人は多いでしょう。

娼婦ジャンヌ

そして、白鳥とは真逆の人生を歩んでいるはずの美貌の娼婦ジャンヌ・・高校の文学教師から、ボードレールやランボー、ロートレアモンの『マルドロールの歌』や、ジャリの戯曲『ユビュ王』を読まされ、今井正のドキュメンタリー『世界は恐怖する』に衝撃を受けた彼女の人生もまた藤永茂の「ペルソナ」のようにも感じられる。しかも、ジャンヌは、村上春樹が描く「女性」よりもリアルで、そのエロティックさは、日本の中高年だけでなく、多くの世界作家の「男目線」とも違っている。

今回、村上春樹の小説と交互に読むことになったのは、まったくの偶然ですが、私にとって、藤永茂と村上春樹は、浅からぬ関係があります。

311後に、村上氏がカタルーニャ国際賞で、オッペンハイマーに言及したときに、ちょうど『ロバート・オッペンハイマー』を読んでいて、それは村上春樹の物語(ファンタジー)に違和感を覚えるきっかけにもなったから。


夢を見ることは小説家の仕事で、小説家にとって大事な仕事は、人々とその夢を分かち合うことです。

と村上春樹は言う。

しかし、人が夢を分かち合うためには、現実の共有も必要だ。でも、フェイクニュースや、オルタナファクトという言葉が飛び交う “今” だけでなく、私たちが、現実や、事実を共有することはずっとむずかしい問題であり続け、世界に垣根がなくなったように見える現代では、人々が夢を分かち合うことの困難さだけが、可視化されているようにも見える。

村上春樹に癒される人が世界中にいるのは、村上氏が言うように、「人々と夢を共有している」からではなく、アイデンティティを喪失し、社会から疎外されているという感覚のまま、引き篭っていられるための居心地のいい装置になっているから。村上春樹が、現実を把握することをやめ、自己批評性を放棄していることで、読者も批判や現実から逃れることができる。

1984年に起きたことで人々が共有できる歴史と、個人にとっての1984年は違う。そういった無数にある物語ではなく、「1Q84」を共有することが、人々と夢を分かち合うことになる。それが、小説家としての仕事だと、村上春樹は言っているのだと思う。

夢とは見るものではなく、実現させるもの。

村上春樹は、そんな風には言えないわたしたちを少しだけ別の世界へ連れていってくれるけど、藤永茂の「夢」はそんなことではない。

村上春樹の小説では固有名詞がキーワードとして話題になることが多く、読者もゲーマーのように、そこに隠しコマンドやメッセージを発見したがる。それらは、ハルキ世界を表現する調度品であり、ゲームを支配しているのはあくまでも「作家」だ。

でも、藤永世界での固有名詞は、「狂奔する世界に対して “神” を演じようとする」ために、歴史を踏まえ、ひとつひとつ必要な手順を踏んできたことを示すものであり、調度品でも、知性を演じるためのアクセサリでもなく、まさに世界を攻略するためのロールプレイングであり、本当のゲームのための「知識」であり「武器」なのだ。

世界作家となった村上春樹は、311のとき、村上春樹が、日本人は核に対して「ノー」を言うべきだったとは言っても、原爆を落とした相手が広島や長崎だけでなく、もっと世界中に爆弾投下を行っていることには何も言わない。

鴻巣友季子氏が、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の書評で、「かつて村上の小説にうっすらあった自己批評性としたたかなユーモアはどこへ行ったんだろう? その謎の方が気になる」と述べたように、自己批評性とユーモアの欠如は「偽善」という感覚を失わせる。でも、『オペ・おかめ』の主人公、白鳥譲治の「偽善」への感覚は、藤永茂と同じように鋭敏だ。

第1章「人間のペルソナ」
白鳥譲治はジキルとハイドのように、化学者でありながらテロリストなのか。彼が実行しようとしている米国大統領へのオペレーションの名前は「おかめ」。一体なぜそんな名前が?そして、白鳥がジャンヌに近づいた理由とは・・

第2章「仏たちの面立ち」
白鳥譲治の驚くべき前半生が明かされ、おかめの仮面が意味していたものも明かされる!

イサム・ノグチの作品が好きで観に行ったり、また家に彼がデザインした家具がある人は多いでしょう。でも、この記事の一番上の電子書籍の表紙絵を見て、「イサム・ノグチ」の作品を思い出した人は少ないのではないでしょうか?

実は私もそうでした。

香川県のイサム・ノグチ庭園美術館も、札幌のモエレ沼公園も訪れたことがあり(両方ともこの小説に登場します)、イサム・ノグチのテーブルも使っている私ですが、第2章でそれが明かされるまで気づきませんでした。

「おかめ」は、イサム・ノグチの作品の名前でもあり、それはノグチのペルソナでもあったのだ。


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知ってると思っていたものに対して、自分がいかに知らなかったか。イサム・ノグチのことだけでなく、読んでいる間、何度もそんな感覚におそわれて、私は2009年以降、マイケルに対して感じてきた感覚を、もう一度強く感じることになりました。

藤永先生は、少数民族や世界文学など、日本人が考えることが少ない難しいテーマについて多く書かれていますが、この小説はそうではありません。

『永遠の0』という大ベストセラーの感想文に「零戦にも、戦争にも、興味がない、少女から老女までと、すべての日本人に!」と書きましたが、

この小説でも同じような気持ちになりました。読みやすい海外ミステリのような面白さから、予想もできない着地点へと引きずり込まれる快感と、決して忘れてはいけない記憶。
右翼でも左翼でもなく、日本が好きだったり嫌いだったりしながら、世界が平和であってほしいと願う、すべての日本人に。

Must Read!! Must buy!!!
☆まだ、Kindleで本を読んだことのない人へ。

電子書籍リーダーがなくても、スマホがあれば、Kindle本を読むことはカンタンです。無料のKindleアプリをダウンロードすれば、すぐに読めます。紙の本が好きな人は多いと思いますが、興味がある本がKindle販でも出版されている場合、簡単に立ち読みができて、紙の本を買うときの参考にもなります。

例えば、今話題の菅野完氏の『日本会議の研究』
その他のフォーマットにKindle販の表示があれば、そちらをクリックすると「1クリックで今すぐ買う」の下に「無料サンプルを送信」というボタンがあるので、そこをクリック。サンプル販で読める量は、本によってかなり違いがあり、電子書籍の作りも、文字の書体や大きさが自由に変えられないものもありますが、
『オペ・おかめ』は激安価格にもかかわらず、文字の書体や大きさが変えられる、上質な作りなので「Kindle本」が初めての人にもオススメです。

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by yomodalite | 2017-03-17 07:00 | 文学 | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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