イエスの幼子時代/J・M・クッツェー

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2016年中は読むことがかなわなかった『イエスの幼子時代』をようやく読了。英国最高峰の文学賞ブッカー賞を史上初の2回受賞し、ノーベル文学賞も受賞した、J・M・クッツェーの本はこれが初めてだったけど、鴻巣友季子氏の翻訳がいつもながら読みやすくて期待通り楽しめた。


邦題は、 原題「The Childhood of Jesus」の直訳だけど、聖書の話とも、歴史上のイエスの記述とも違っていて、半分ほど読み終わるまで、これがどういう類の小説なのかもわからなかったのだけど・・


主人公の中年男は、自分の子でも孫でもない5歳の少年を連れて、移民や難民が集まるような「セントロ・デ・レウピカシオン・ノビージャ」という場所に降り立つ。ふたりにはそれぞれスペイン語の名前が与えられていて、中年男はシモン、少年はダビードと身分証に書かれている。


そこでは、社会福祉が整っていて、人々は親切で、きちんとしているようで、どこか生気がなく、シモンは違和感を感じながらも、与えられた船の荷揚げの仕事に就く。でも、シモンは真面目に仕事をこなしながらも、単純な作業や、不効率な部分に不満がないわけではない。


ある日、シモンは、倉庫にネズミの大群を発見して叫び声を上げるが、同僚は「我々人類が栄えるところにはネズミも栄える」と、意に関しない。シモンが、「どうしてネズミに汚染された倉庫に、何千トンの単位で、穀物を貯蔵しておくんだ?1ヶ月ごとに需要に見合うだけ輸入すればいいじゃないか。どうしてもっと効率良くできないんだ?」と言うと、


同僚は「あんたの言うようにしたら、おれたちはどうなる?馬は?・・・つまり、おれたちの獣じみた労働生活から解放したいと言うんだな・・・そういう職場では、粒がカサカサ言うのを聞きながら、積荷に肩に担ぎ上げたり、物とじかに触れ合うこともできなくなる。人間の糧となり命を与えている食物との接触を失うんだ。


われわれは、なぜ、自分たちが救済されるべきだとこうも強く信じ込んでいるんだろうな、シモン? おれたちは無能でほかに出来ることがないから、こんなに荷役をして暮らしていると思うか?・・・わかってきたろう、あんたも仲間なんだよ、同志。・・・愚かなのは俺たちじゃない。愚かなのは、あんたが頼りにしている小賢しい理屈だ。そのせいで、答えを見誤ってしまうんだ・・」


という具合に、ノビージャの人々は哲学的な会話が好きで、船の荷揚げの仕事が終わったあと、さまざまな倶楽部に参加して余暇を過ごしているが、そこでは、語学やプラトン哲学だけでなく、女性と過ごすことより、人体デッサンを学ぶ方が人気w。


シモンには、少年の母親を探すという目的があるが、名前も住所もわからず、ただ、会えば確実にわかる。という強い確信だけがあって、ある日、山の上にある蔦に覆われた門の中で見かけた女性が、ダビードの母親に違いないと感じ、その女性(イネス)に、母親になってほしいと頼むと、不思議なことに、若い独身の彼女もそれを引き受けてしまう。


しかし、シモンは直感だけでイネスを選んだものの、子育ての経験もない彼女の教育方針には、口を挟みたくなることも多く、また、少年ダビード(イエス?)は、覚えたばかりのチェスですぐに大人に勝利するなど、並外れたところはあるものの、大人の言うことを聞かず、イエスというよりは、暴君的で、ダビデ王のようでもあり、妙に「数字」にこだわったりw、「ライセ」のことも信じているw


物語の終盤、自分が三男坊になるために、兄弟を欲しかっていたデビートは、ヒッチハイクをしていたフアンという青年に出会う。「あとがき」によれば、フアンは、クッツェーの名前、Juanのスペイン語形で、つまり「ヨハネ」だということ。この続編の『イエスの学校時代(The Schooldays of Jesus』も刊行予定で、すでにそちらもブッカー賞のリスト入りとか・・早く読みたいっ!



イエスの幼子時代

J・M・クッツェー/早川書房

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by yomodalite | 2017-01-10 23:44 | 文学 | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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