映画『シークレット・オブ・モンスター』

f0134963_23102264.jpg


原題は「The Childhood of a Leader」。ジャン=ポール・サルトルの「一指導者の幼年時代」という短編が元になっているらしく、第一次世界大戦後を舞台に架空の指導者の幼少期を描いた物語。

ハリウッドでは、ヒトラーとユダヤ人虐殺に関する映画が繰り返し作られていますが、ここ最近、ヨーロッパでヒトラーの映画が多いのは、反グローバリズムからナショナリズムが台頭しているということだけでなく、独裁者が大勢現れた20世紀をもう一度見直したいという気運があるような気がして、この映画が、イギリス、ハンガリー、フランス合作という点にも惹かれたんですね。

ただ、通常、鑑賞前はできるだけ情報をシャットアウトする私も、この映画の評判が良くないことは、なぜか小耳入ってきて、それを確かめに行ったという動機も少なからずありました。


結論から言えば、そういった評判は間違っていないと思いました。

予告編の情報、

・フランス語を教える美人家庭教師
・政府高官の父親は、子育てを母親にまかせっきり
・美しい母親は、子供の面倒を見ながら「本当は結婚なんてしたくなかった」
・少年は、自分が愛しているのかどうかわからず、教会の教えに反発する
・少年は、美人教師の胸を触って、怒られ、僕は悪い子なの?と問い返す
・両親から「あの子は善悪がわからない」と思われる
・少年:(母と一緒にいる男+父と家庭教師を見て)「ふたりで何してたの?」
・敬意を示せと、少年の部屋のドアをぶち破る父親
・反抗的な態度の息子に「あの子は私たちの手に負えない」
・少年:「神なんていない」「僕は間違っていない」

で、「独裁者の謎に迫る心理パズルミステリー」のパズルは出揃っていて、

これらの組み立てをミステリーというのは、プロットとしてショボいというか、それだけを売りにして、伏線を張ったせいで、驚愕のラストシーンというよりは、え、これで終わり?!という衝撃の方が勝ってしまったような。

一回見ただけの印象では、この映画が「深読み」できる内容かは疑問で、「映画IQが高い」とも言えないのでは?と感じましたが、

ただ、この監督が映画を作ろうとした動機は「深い」と感じました。

まず、始まってすぐに私が「深いなぁ」と思ったのは、少年の父親がアメリカ人で、終戦を迎えた1918年に、パリで行われるヴェルサイユ条約作成のために、アメリカからフランスに送り込まれた政府高官で、

妻で少年の母親は、ドイツ人でありながら、親の仕事で、アメリカやフランスで暮らした経験から3ヶ国語を話せる才女だということ。

1919年という舞台背景から、20世紀の独裁者たちを思い描きがちですが、この設定が、ムッソリーニやヒトラーと全然違うことで、監督が強く「アメリカ」を意識していることがわかりますし、

スターリン、ムッソリーニ、ヒトラーといった20世紀の独裁者たちは、みな貧しい家の生まれですが、上流階級でプレスコットという名前から思い出すのは、ブッシュでしょう。

そういった監督のアメリカへの意識の強さがわかると、母親がクリスチャンで、日々の祈りや、教会に行くことを重要視していても、家を守るとか、夫の仕事のサポートをするなど、妻や、母親といった旧来型の「女の仕事」がイヤで仕方がない様子など、現代アメリカのセレブ妻が、キリスト教ではなくリベラル教で、子供を教育し、移民の女性をメイドにしながら、女性の自由や自立を支持している姿とも重なって見えてきて、

現在、トランプ氏が大統領選を勝利したことによって、南北戦争や、ジャクソン大統領時代がクローズアップされていますが、そのジャクソンの次の民主党大統領が、主人公の父親が仕えるウィルソン大統領・・・

と、そんなことが、この家族を見ていると思い出されて、私は冒頭で、身を乗り出したんですが、そのあとの展開はラストの「ずっこけオチ(と言いたくなるネタに関してはキャスティングにヒントあり)」まで、伏線通りに進んで行ってしまって、ちょっと残念だったんですね。

見終わってすぐに思ったのは、主人公が、実在の人物でないのなら、第一次世界大戦や、ヴェルサイユ条約というはっきりとした年代はいらなかったのでは、ということ。

でも、これを近未来の話として映画化するのは、これがデヴュー作だという新人監督には、やっぱり厳しいのかな・・なんてことを考えつつ、帰宅して、公式サイトを見ていたら、

「Production Note」に、こんな監督の言葉がありました。

2006年の、ヴェルサイユ条約締結について書かれたマーガレット・マクミラン著『ピースメイカーズ・1919年パリ講和会議の群像』を読みました。当時イラクへの侵攻が始まって既に2年以上経過していたこともあり、読みながら今起きている状況と重ねずにはいられませんでした。・・ウッドロウ・ウィルソンの切実ながらも効力のなかった政治活動は。一世紀後でもアメリカの外交政策が一向に進化していないことを、この本は明確に綴ります。そして、両対戦間を経て、ムッソリーニとヒトラーが鋼鉄協約を締結することにより、ドイツとイタリアが軍事的また政治的につながって枢軸国が形成されるまでを読んでいると、現代においても結局同じ事が繰り返されているという思いに駆られました。・・・

ああ、やっぱりそうだったのかと納得。

それと、イギリス、ハンガリー、フランス合作で、キャスティングもヨーロッパの俳優だったのに、監督はアメリカ人だったんだぁ・・と、またまた納得。

音楽が恐怖を煽る雰囲気しかないとか、色々不満は感じたものの、アメリカ人監督がこういう映画を・・という新鮮な驚きもあったり。映画IQ(?)が高いことを自認される方は、試されてみては?


[PR]
トラックバックURL : http://nikkidoku.exblog.jp/tb/27121091
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by yomodalite | 2016-12-01 07:00 | 映画・マンガ・TV | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


by yomodalite