2016年 08月 03日
映画『ソウルパワー』 |
1974年、“キンシャサの奇跡”と言われたモハメド・アリ対ジョージ・フォアマンの対戦の前には、アフリカ系ミュージシャンたちの “ブラック・ウッドストック” とも言える『ザイール'74』と題された音楽祭が行われていた。
差別を乗り越え、成功をおさめた米国のアフリカ系ミュージシャンと、解放運動を戦ったアフリカン・ミュージシャンが共に同じステージに立った歴史的なコンサートのことは、JBに興味をもったときから、いつか見てみたいと思っていたのですが、ドキュメント映画公開や、モハメド・アリへの追悼企画も重なって、今回ようやく見ることができました。
この映画は、『モハメド・アリかけがえのない日々』(1997年アカデミー賞ドキュメンタリ部門受賞作)の編集をしていたジェフリー・レヴィ=ヒントが、1974年のコンサートフィルムが撮影されていたことを知って、2009年に編集し直したもので、最初からドキュメント映画として撮影されたものではない。
最初、私はこの映画を1974年という時代に巻き起こった「ブラックパワー」の一端をとらえた映画だと思っていたのだけど、残されたフィルムを2009年に編集した監督の意図はそうではないようで・・・
映画が始まるとすぐ、少し前に見た『ミスター・ダイナマイト』のときよりも、だいぶグッチ裕三っぽくなったJBが現れるのだけど、股割ステップを含む短いステージシーンが終わってしまうと、しばらくJBの姿は見られなくなり、キンシャサの街や、コンサート会場が建設されていく様子、米国の黒人ミュージシャンたちが、自らのルーツだと感じているアフリカでコンサートを行うことを、故郷への帰還だと感じて高揚しているところや、対戦前のアリのアジテーションなどが淡々と移し出されていく。
時折現れるほんの小さな瞬間から、1974年当時、JBがモハメド・アリと同様か、それ以上に人々から尊敬され、愛され、ソウル界や、黒人だけでなく、白人からも「ゴッドファーザー」のように慕われていたことが伝わるシーンがあり、また、彼が想像していたよりもずっと小柄な人だったことにも気づいた。
ようやくコンサートが始まると、期待以上に音が良く、今実際にフェスに行って聞くよりもずっと「生の音」のように感じられ、これまで名前ぐらいしかわからなかった70年代のアーティストや、まったく知らなかったアフリカンミュージシャンたちが身近に感じられる。
B・Bキングが、ギターを弾く人だってことさえ知らなかったけど、彼の指から奏でられる音にグッと来たり、ダニー“ビッグ・ブラック”レイのコンガや、ミリアム・マケバの「クリック・ソング」に魅了され、楽屋でアフリカの女性アーティストたちと仲良くじゃれあっている往年の女性ディスコグループというイメージしかなかったシスター・スレッジがまだすごく幼くて、こんなムサい男たちの中で大丈夫なの?と心配になったり・・
そんな感じで、すっかりどこかの夏フェスに行ったような気分で見ていた画面に、ついにJBが登場すると、私だけでなく、会場の雰囲気が一気にヒートアップする。みんな素晴らしかったのに、やっぱりパワーが全然ちがうのだ。
ようやく登場したJBのステージシーンもあまり長くはないけど、曲が終わると、JBはその曲と同じぐらいシビれることを言って、エンディング・ロールが始まる。バックステージの彼の姿が映し出され、彼はもうこれで本当に最後という感じで、頭を下げたりするけど、エンドロールがすべて終わった後、再度JBからグッとくるメッセージがあるので、最後まで見逃さないようにね。
これは、彼のメッセージで始まり、彼のメッセージで終わる映画なのだ。
『ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男』でも、『ミスター・ダイナマイト』でも、JBがメンバーにずいぶんと厳しかったことが描かれていたけど、この映画では、何気ないシーンに、彼の優しさや繊細さが伝わってきて、もっと好きになった。
今まで、プリンスのパフォーマンスがJB直系だとは思っていたけど、プリンスの小柄で中性的な容姿は、ソウル界のゴッドファーザーとはだいぶ異なると思っていた。でも、JBもまた小柄な人で、「パープルレイン』以前のプリンスは、ファッションも音楽も想像以上にJBの姿を追っていたように感じられた。
また、JBとは正反対ともいえる声のマイケルが、色々と苦心して、キャリアの最後まで、JBの音楽に近づく努力をしていたんじゃないかと思ってしまったのは、私が、MJの「アンブレイカブル」へのこだわりについてばかり、考えているせいかな。
でも、ショウビズ界一と言われた自分以上によく働いたふたりのことを、JBはすごく可愛く思っていたと思う。彼がメンバーに厳しかったのは、自分より全然働いていないと感じていたからだと思うから。
通常の劇場公開は終了していますが・・
by yomodalite
| 2016-08-03 06:00
| 映画・マンガ・TV
|
Comments(0)