書店主フィクリーのものがたり/ガブリエル・ゼヴィン

書店主フィクリーのものがたり

ガブリエル・ゼヴィン/早川書房

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プリンストン大学の大学院でエドガー・アラン・ポーを研究していたフィクリーは、妻の助言から、アリス島でたったひとつの小さな書店アイランド・ブックスを経営することに。しかし、売り上げは観光客が訪れる夏だけ・・妻を事故で失ったあとは、ひとり売れない本に囲まれる毎日だった。


アメリア・ローマン(エイミー)は、ナイトリー・プレスという出版社の伝説の営業担当の後任として、アイランド・ブックスに赴いた。彼女は、長年独身で通してきた老人が78歳で結婚し、その花嫁を二年後の83歳で亡くすという、80歳の老人の回想録『遅咲きの花』を売り込むが、フィクリーに「好みではない」と言われてしまう。どんな本がお好みなのか?と聞くと、フィクリーは、「お好み」を嫌悪をもって繰り返し、


「お好みでないものをあげるというのはどう? ポストモダン、最終戦争後の世界という設定、死者の独白、あるいはマジック・リアリズム。才気ばしった定石的な趣向、多種多様な字体、あるべきではないところにある挿絵ーー基本的には、あらゆる種類の小細工。ホロコーストや、その他の主な世界戦争の悲劇を描いた文学作品は好まないーーこういうものはノンフィクションだけにしてもらいたい。文学的探偵小説風とか文学的ファンタジー風といったジャンルのマッシュ・アップ。児童書、ことに孤児が出てくるやつ。うちの棚にヤング・アダルトものは詰めこみたくない。四百頁以上のもの、百五十頁以下の本はいかなるものも好まない。リアリティ・テレビの番組に登場する俳優たちのゴーストライターによる小説、セレブの写真集、スポーツ回想録、映画とのタイアップ、付録のついている本、言うまでもないが、ヴァンパイアもね。デビュー作、若い女性向けの小説、詩、翻訳書。シリーズものを置くのも好まないが、こちらのふところ具合で置かざるを得ないこともある。そちらのことをいうなら、次の長大なシリーズものについては話す必要はない・・・。とにかく、ミズ・ローマン、哀れな老妻が癌で死ぬという哀れな老人のみじめったらしい回想録なんてぜったいごめんだ。営業が、よく書かれていますよと保証してくれても、母の日にはたくさん売れると保証してくれてもね」


アメリアは、顔を紅潮させ、当惑というよりは怒りを感じながら、このせいぜい十歳ほど年上の相手に、再度聞く。「あなたはなにがお好きなんですか?」

 

「今あげたもの以外のすべて、短篇集はたまにごひいきなやつがあるけど、客は絶対に買わない」・・・



偏屈な書店主と、出版社の営業と、島の数少ない住人・・未読のものや、昔読んで思い出すのに時間がかかるような海外作品もたくさん登場し、果たしてこれから面白くなるのか、あまり期待できないような序盤とはうってかわり、物語は徐々にラブストーリーのようでもあり、父と娘の話でもあり、大雑把なあらすじとしては、ベタといってもいいような展開を見せつつも、最初にフィクリーが「好みでない」と言っていたことがフリになっていたかのように、「本好き」が楽しめる要素が何重にも仕掛けられていて最後まで楽しめます。


13章あるものがたりには、すべて短編のタイトルが掲げられ、フィクリーによる短いコメントがついているのですが、物語の始まりは、ロアルト・ダールの『おとなしい凶器』。



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翻訳者のあとがきには、これらの短編はすべて読んでいなくてもいいけど、オコナーの『善人はなかなかいない』だけは読んでいた方がいいかもしれない。と書かれていますが、




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この本を読んだあと、『善人はなかなかいない』を読んでも、二度楽しめると思います。私はそうでした。




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ある日、書店の中にぽつんと置かれていた小さな女の子マヤ。フィクリーは彼女を娘として育てる・・・




そして、最後もロアルト・ダールの『古本屋』


「・・・人生を長く続ければ続けるほど、この物語こそがすべての中核だと、ぼくは信じないではいられない。つながるということなんだよ、ぼくのかわいいおバカさん。ひたすらつながることなんだよ。



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◎[Amazon]書店主フィクリーのものがたり


1. おとなしい凶器 ー ロアルト・ダール

2. リッツくらい大きなダイアモンド ー F. スコット・フィッツジェラルド

3. ロアリング・キャンプのラック ー ブレット・ハート

4. 世界の肌ざわり ー リチャード・ボーシュ

5. 善人はなかなかいない ー フラナリー・オコナー

6. ジム・スマイリーの跳び蛙 ー マーク・トウェイン

7. 夏服を着た女たち ー アーウィン・ショー

8. 父親との会話 ー グレイス・ペイリー

9. バナナフィッシュ日和 ー J.D.サリンジャー

10. 告げ口心臓 ー E.A.ポー

11. アイロン頭 ー エイミー・ベンダー

12. 愛について語るときに我々の語ること ー レイモンド・カーヴァー

13. 古本屋ー ロアルト・ダール



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by yomodalite | 2016-03-24 06:00 | 文学 | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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