芸能人はなぜ干されるのか?/星野陽平

増補新版 芸能人はなぜ干されるのか

星野 陽平/鹿砦社



そろそろ、ヤクザ本を読まなくちゃ、ということで選んだ本。最近の新書のような軽い内容を想像していたのですが、ちょっぴり大きめサイズの本を開けてみると、著者の熱が直に伝わってくるようなずっしりとした二段組みで、いくつかの章は最近の新書なら、それだけで1冊になるぐらいの内容でぐいぐい読ませるのですが、読了後はぐったり疲れてしまうという感じの力作。


でも、ぐったり疲れてしまうのは、芸能界の闇が深いというよりは、国民の奴隷化が日に日に進んでいる時代に、芸能界だけを特殊化しているような記述になのかもしれません。芸能界の常識は社会の非常識だった時代は終わり、今や、それは日本社会の縮図になっているんじゃないでしょうか。


芸能プロダクションの経営者が集まって作った《音事協》の初代会長は、中曽根康弘でしたが、小泉純一郎が行った派遣事業の改正は、労働者全体を奴隷契約にしました。恫喝で動いていたり干されたりするのは、芸能人だけではないですよね。


プロローグ 北野誠事件

第1章 干された芸能人

第2章 「芸能プロダクション」とは何か?

第3章 抵抗の歴史

第4章 「ナベプロ帝国」の落日

第5章 ジャニー喜多川の少年所有欲求

第6章 「免許のないテレビ局」吉本興業

第7章 バーニングプロダクションと暴力

第8章 韓国、ハリウッド、声優業界

第9章 芸能と差別

付録 カリフォルニア州労働法・タレント斡旋業規制条項


第1章に登場した名前は、鈴木亜美、セイン・カミュ、ボビー・オロゴン、(元AKB48で卒業後AV女優になった)やまぐちりこ、加護あい、水野美紀、松方弘樹、川村ゆきえ、眞鍋かおり、小林幸子、(ユニット羞恥心の)野久保直樹、水嶋ヒロ、沢尻エリカ・・・


第2章では、「ナベプロ帝国」とまで言われた巨大芸能事務所を最初に創り上げた「渡辺プロダクション」の戦略と存亡、バーニングの躍進とレコード大賞の裏側など盛りだくさんな内容で、登場したのは、大原みどり、森進一、ピンクレディー、竹中労、泉ピン子、浜崎あゆみ、五木ほろし、八代亜紀、中森明菜、近藤真彦など・・


ナベプロは、自社タレントのレコーディングの際に、作曲、編曲をおこなって原盤にかかる費用を負担することで《原盤権》を保有し、それまで利益のほとんどがレコード会社に入る仕組みを変え、レコード会社と芸能事務所の立場が逆転した。71年に著作権法が改正されると、レコードを使用したり、演奏した際にも《音楽著作権》が認められるようになり、さらに利益が拡大する。またその利益によって、他の事務所タレントの《音楽著作権》をも取得するようになり、ますます勢力が拡大していった。


当時の職業安定法32条第3項には、


「有料で又は営利を目的として職業紹介事業を行う者は、労働大臣の許可を受けた金額を超える手数料その他の報奨金を受けてはならない」


とあり、手数料の上限は10%とされていたが、法律通り10%のマージンで経営していたのは、ごく少数の芸能プロダクションに過ぎず、タレントとの契約で、タレントが1割という実態もあるほどの奴隷契約だった。一方、力をもたない事務所と、売れっ子タレントの場合、事務所はパワータレントになめられる。という問題もあり、ナベプロが指揮を執る形で、独立や移籍をしようとしたタレントを、業界全体で徹底的に干し上げるという目的で、プロダクション経営者による《音事協》が設立され、元首相・中曽根康弘が初代会長の椅子に座った。


これによって、業界全体で、独立しようとするタレントを干すことが出来るようになったものの、《音事協》に加盟するには、3名の承認が必要で、会費も高く、弱小プロダクションには入会も困難なうえに、ポッと出は守ってくれない。《音事協》は、意に沿わない報道をしたマスコミに対しても力を発揮し、タレントを多数抱えるプロダクションは、「バーター」「共演拒否」という手段で、番組への影響力を増していく。


ドラマの世界で「バーター」が力を持ち始めると、番組とタイアップした曲が売れるようになる。音楽業界に芸能プロダクションの影響が顕著に見られるようになったのは、90年代の中頃で、ここで、現在の芸能事務所の頂点にたつバーニングが躍進する。バーニングパブリッシャーズは、エイベックス所属の有名アーティストの音楽出版権のほか、所属タレント以外の音楽出版権も多数もっていた。大手事務所は、弱小事務所からタレントを引き抜くことがますますしやすくなり、弱小事務所は、大手に上納金を納めなくてはビジネスにならない。


第3章は、戦前の映画業界の五社協定を崩壊させた、銀幕のスター俳優たちの歴史。


第4章は、ナベプロ帝国に挑んだジャーナリスト竹中労、日本テレビ「スター誕生」の成功、アグネス・チャン、森進一、沢田研二、小柳ルミ子というナベプロ独立が成功した理由など。


第5章は、この本の出版社「鹿砦社」のドル箱でもあるジャニー喜多川の少年愛疑惑が中心。


第6章は、お笑い界を独占する吉本興業の始まりから、現在の繁栄まで。興味深かったのは、2012年にその存在がクローズアップされた吉本ファイナンスの件と、漫才ブームの頃、島田紳助が労働組合を結成していたこと。


そして、第7章が、本書の白眉ともいえる「バーニングプロダクションと暴力」


当初、南沙織を抱える程度だったバーニング事務所は、75年に郷ひろみが移籍してきたことえ、有力事務所となり、日本テレビの「スター誕生」などによって衰え始めた渡辺ブロの影響力の低下から、有能マネージャーが流出。彼らに支援を行うことで、楽曲の権利を手にしていったバーニングは、利権の獲得を広く外部に求め、業務提携によって利権を拡大させ、ナベプロのドンと呼ばれた渡辺晋亡きあと、周防は芸能界のドンとして、君臨することになる。渡辺プロが、ヤクザの商売だった芸能置屋稼業を近代的な稼業にしたとすれば、バーニングは暴力団の力を芸能ビジネスに取り込んできたーー


バーニングと、90年代活況を呈した音楽業界でもっとも時代を牽引していた音楽プロデューサー長戸大幸。彼が率いるビーインググループとバーニングの関係。顔を腫らした長戸は、こう言った(らしい。)


「・・・原盤製作で金を投じている者の権利が保護されるから、音楽著作権のビジネスは美味しい。でも、バーニングは、カネも払わず、あとから入ってきて「よこせ」と言ってくる。それじゃ、ヤクザと同じだろう。俺は東京ではもう仕事ができない。長戸大幸の名前も使えない。これからは、ビーイングに代わって、エイベックスというレコード会社がバーニングと組んで音楽シーンを独占するだろう。松浦は連中に仁義を尽くす男だ」


登場する有名タレントは、華原朋美、小室哲哉、YOSHIKI、工藤静香、木村拓哉、GRAY、フォーライフレコードを設立した吉田拓郎、井上陽水、小室等、泉谷しげる・・・


談合が行われる中で、もっとも利益を得られるのは談合破りである。《音事協》という談合組織の仕切り役であるバーニングは、タレントの引き抜き禁止という芸能界の秩序を維持するために暴力を誇示する必要があった。周防郁雄は、汚れ役を任じ、芸能界の闇を肩代わりしたことで「芸能界のドン」となった。


第8章の「韓国、ハリウッド、声優業界」では、韓国の芸能界は、日本を手本としていること、また、アメリカのエージェンシー制度は、それとはまったく異なり、芸能プロダクションというビジネスモデルは、日本と韓国にしかないこと。ただ、ストライキやでも行進によって、粘り強く製作会社と交渉し成り立ってきた声優業界の仕組みはかなり異なっていた・・・しかし、その声優業界も、近年、芸能プロダウションの進出が激しく・・・


第9章は、「芸能と差別」という内容として、よくある伝統的なものでした。


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by yomodalite | 2016-03-16 06:00 | 報道・ノンフィクション | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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