HIStoryと黙示録:マイケルと神話 ②

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HIStoryと黙示録:マイケルと神話 ① の続き

引き続き「The Triptych」について。

①で、聖書や、聖杯伝説といった伝統に従えば、「The Triptych」は、

騎士に任命され、竜を退治して王になり、竜を退治した聖剣によって、王国を治める。

というマイケルの内面的な意志を表わした絵だと書きました。

でも、西欧では、聖書を筆頭に《竜》は邪悪のシンボルですが、私たち東洋人にとっては、そうではないですし、世界の神話に興味があったマイケルにとって、《竜》を必ずしも邪悪というイメージで捉えていたとは思えません。

ただ、マイケルの神話やシンボルの使い方を見ていると、アブラハムの宗教とその源流にあるギリシャや、エジプト神話を基本としていることは一貫しているので、自分の詩を織り込み、決意が込められているように見える肖像画において、ウェールズ地方の伝説である《赤い竜》とか、他のアジアの神話や宗教に最も大きな意味をもたせていないことも確かだと思います。

《竜》のファッションは、中国の王によく見られますよね。彼らは自分を《竜》だと誇っているわけです。


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マイケルは、2000年以降、アンドレ・キムがデザインするファッションを好んで着ていて、それらは、一見チャイナ風でドラゴンぽいんですが、よく見ると、マイケルの絵の聖剣にも描かれ、HIStoryツアーの「オープニング映像」に登場したヘルメスの杖にもある《二匹の蛇》にも見えないでしょうか?



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(こちらのデザインでは、蛇の口には「玉」があるようにもみえるので、「双竜」に見えるということも重要なのかもしれません。『金枝篇』や『祭祀からロマンスへ』が、世界の神話はみな似通っていることを示したように(→リンク)、マイケルが世界中のツアーで感じ、また信条としたことも、世界の人々はみな同じで、自分と他者は同じもの。ということですから・・・)





一方、ここまで、騎士や、兵士たちが身につけていた《鷲》については、マイケルも何度かファッションに取り入れています。これは、わかりやすい例なんですが、中央に鷲の中央に「M」がついていることから、自分を《鷲》だと捉えていることがわかると思います。


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(1990年頃の衣装)





「The Triptych」の中央の絵だけを見ると、マイケルの背後の《竜》は、彼自身を象徴しているようにも見えますが、




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同時期に、同じ画家がマイケルの依頼で描いたこちらの絵のタイトルが「CAMEROT」(アーサー王の城の名前)だということを考えても、




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最初は城が描かれていたが、マイケルの希望で取り除かれた)




「The Triptych」に、《竜退治》の意味がないと考えるのは不自然で、




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剣でマイケルの肩に触れている女性は、紫のドレスの袖口が見えるだけですが、王冠を与えている女性のドレスの袖口には、クロスのような紋章があります。これは鮮明には見えないので、はっきりとは言えませんが、私にはクロス紋章を思わせつつも、少し変えてあるように見えます。



同様に、獅子の紋章の上部も、ユリの紋章(フルール・ド・リス)を思わせつつも、少し変えてあるというか、紋章の元になったアイリスにより近い形になっているように見えます。



マイケルは、他にも《獅子》《騎士》《王》《王冠》《星》・・・といった伝統的なシンボルを多用しているのですが、それらは、少しづつその意味を解釈し直すための表現だったのではないでしょうか。

欧米の《竜》の伝統的な意味は、「ヨハネの黙示録」にあるように、ローマ軍とか、アジアの敵とか、エデンの園でそそのかした蛇とか、サタンや悪魔といった意味なのですが、




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マイケルはヘビ好きをアピールし、ペットのサルと人間のように付き合うということでも有名でしたが、ヘビは、伝統的な聖書の解釈においてサタンの化身であったり、サルから人間に進化したという進化論を教えるかどうかについて、米国のキリスト教コミュニティでは未だに議論となっています。マイケルは誰よりも「God Bless You」を口にし、いわゆる反抗的な態度を見せませんでしたが、歴史的に、多くの芸術家や哲学者たちは、教会が人々に示すような良識的な人生や、権威に従って定める敵ではなく、《竜》の意味を考えようとするものです。


『Off The Wall』『Thriller』『Bad』『Dangerous』・・・壁を乗り越え、自由を求め、危険を覚悟しながら、歩んできたマイケルの『HIStory』に現れた《竜》は、私には、ニーチェが『ツァラストラはかく語りき』で語った「精神の3つの変化」の話に出てくる 《汝なすべしの竜》に近いものではないか、と思います。

ツァラトゥストラというのは、ゾロアスター教という、キリスト教よりも古い善悪二元論的な宗教の開祖で、ニーチェは、ツァラトゥストラは本当はこう言ったのだ。というフィクションによって、イエスの教えから変質した「キリスト教」の善悪二元論を批判しているのですが、

「精神の3つの変化」は、精神が、ラクダ→ライオン→子供と進化していくことを述べたもので、王になりながら、子どもの精神を自分に取り入れることを重要だと考えたマイケルを理解するのにいい話だと思うので、要約して説明すると、


ラクダのような精神とは、もっとも重いものを背負うことで自分の強さを喜ぶ。もっとも重いものとは、自分の高慢さに痛い思いをさせるために、自分を低くし、自分の知恵をあざ笑うために、自分の愚かさを目立たせ、自分が成功したときに、それを捨て、真理のために、魂が飢えていることに苦しみ、自分を軽蔑する人たちを愛し、恐れさせようとする幽霊に手をさしだす。


ラクダの精神は、こういった重いものを全部背負う。


しかし、荷物を積まれて砂漠へ急ぐラクダは、その孤独な砂漠の中で変化し、その精神はライオンとなる。


ライオンは「自由」を獲物のように求め、精神の砂漠のなかで自分が主人になろうとする。そして、これまで自分の主人(Lord or God or...)だった者を《龍》と見なし、それと戦おうとする。それは「お前はこうすべきだ」と言う存在で、ライオンの精神は「自分はこうしたいのだ」と言う。


《龍》は、鱗を金色に光らせ、どの鱗にも「こうすべきだ!」という文字が書かれている。それは何千年も続いてきた価値によって光輝き、龍は、「ものごとのすべての価値は、吾輩のからだで輝いている。すべての価値はすでに造られていて、お前が自分で新たに求めることなど、あってはならない」のだと言う。


以前は「こうすべきだ!」ということを、もっとも神聖なこととして愛していた。しかし、このもっとも神聖なことさえも狂気の横暴だと見なす必要がある。精神が、自分の愛を、自分から強奪して自由になるために。その強奪のためにライオンの精神が必要なのだ。


しかし、ライオンは、新しい創造のための自由を手に入れることはできても、新しい価値を創造することは、まだ出来ない。ライオンでさえできなかったことが、なぜ、子どもにできるのか? 強奪する力のあるライオンが子どもになる必要があるのか?


なぜなら、子どもには、無邪気で、忘れるという良い点がある。新しい遊びを始め、車輪のように勝手に転がって動き、世界を神のように肯定する。創造という遊びのためには、神のように世界を肯定することが必要なのだ。自分の精神を、自らの意志とするために、世界を捨てた者が、自分の世界を獲得できるのだ。



マイケルが退治しようとしたのは《汝なすべしの竜》と言われる、権威や、今ある良識を盾に、「お前はこうすべきだ」なのだと人を縛る、自分の外だけでなく、内にもいる《竜》のことだったのではないでしょうか。


HIStoryティーザーに引用された『意志の勝利』で、王となったヒトラーや、彼がこよなく愛したワーグナーも、ドイツ人民こそが、ニーチェの言う「超人」だと明言していましたが(当初ワーグナーを尊敬していたニーチェは、後にワーグナーの純血主義や、反ユダヤ主義を批判している)、では、ティーザーのあの巨大な彫像は、ニーチェのいう《超人》としての「自己像」だったのでしょうか?


☆分解『HIStoryティーザー』 に続く





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by yomodalite | 2016-03-07 12:26 | MJアカデミア | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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