レクイエムの名手 ー 菊地成孔追悼文集

レクイエムの名手 菊地成孔追悼文集

菊地 成孔/亜紀書房

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この本は発売直後2015年の11月に買ったのだけど、最後まで読むのに時間がかかって、読んだあとも、なかなかブログアップ出来なかった。例のごとく、あの人のことで手一杯だったwというのもあるのだけど、この本をどう感じたかとか、どこをピックアップするかとか、そういったことのすべてがむずかしくて、他にも、すごく面白かったのにブログに書いていない本が、菊地氏の場合は特に多い。


以前、山口瞳氏が書かれた『追悼』を読んだときも、まったく知らなかった人の話で泣いてしまうことが多くて、それで本書のことも、少し身構えるような感じでページをめくったのだけど、一番最初の追悼である、「二つの訃報」には、菊地氏の父親と、かつて演奏した経験のある店のマスターの死、そして、次の「というわけで、今週は当欄お休みします」というタイトルの内容は、菊地氏が忙しく(そして喪中のため)ブログの更新ができない、という内容で、その次の「今日で君とお別れ」は、eMacとの「別れ」・・・


若干、気が抜けたというか、追悼って色々あるのね・・なんて思ったのもつかの間、その後はやっぱり、どんどんと人が亡くなっていく。追悼集だから、あたりまえなんだけど・・・


菊地氏にとって、身近な存在だった人と、遠くから影響を受けた人、忙しい日々の中で、様々な人が亡くなって、それに心を動かされながら、今日を過ごしている菊地氏の「生」が生々しく感じられることも・・・


本書に登場したのは、


マイケル・ブレッカーアリス・コルトレーン/植木等/清水俊彦/カール・ゴッチ/ミケランジェロ・アントニオーニ/イングマール・ベルイマン/テオ・マセロ/蒼井紅茶/ウガンダ・トラ/マイルス・デイヴィス/飯島愛/エリオ・グレイシー/忌野清志郎/マイケル・ジャクソン/三沢光晴/平岡正明/武田和命/ジョージ・ラッセル/加藤和彦/クロード・レヴィ=ストロース/浅川マキ/アレキサンダー・マックィーン/今野雄二/谷啓/キャプテン・ビーフハート/エリザベス・テイラー/団鬼六/ギル・スコット=ヘロン山本房江(仮)/ジョン・コルトレーン/ビリー・ホリデイ/レイ・ハラカミ/エイミー・ワインハウス/柳ジョージ/立川談志/川勝正幸/伊藤エミ/桜井センリ/コーリー・モンテース/大瀧詠一/井原高忠菊地潔藤村保夫中山康樹DEV LARGE菊地雅章/相倉久人



山口氏の本と同様、菊地氏の本にも知らない名前がいっぱい登場する(太字が知らなかったひと)、と思ったのだけど、あらためて追悼されている人を書き出してみたら、思ったよりも知っている人の方が断然多かった。追悼の主役以外でも知らない人がたくさんいて、それでそういう印象をもったのかな。


知ってると思ってた人だって、亡くなってみたら、全然ちがう感じで、出会えた。ということを毎日のように経験しているからか、常に身近にいる人以外の「死」は、その人に出会えなくなったわけではなく、これから出会える人、ということもあるのだと思う。


有名人の死に対して「R.I.P」だなんて言ってるのをみると、そんなこと言わなくたって “安らかに眠っている” に決まってるって、思ってしまうのだけど、ここには、それとは真逆の〈追悼〉がある。


本書のどこかをピックアップしておきたくて、色々迷ったのだけど、「クロード・レヴィ=ストロース逝去」っていう文章にしました。理由は、読めばすぐわかります(笑)



◎クロード・レヴィ=ストロース逝去


今、これを書いておりますのは16時55分。非常に美しいタ焼けが新宿を染めています。書いている間に、宵闇は夜へと変わるでしょう。ここ1週間ほどは、映画本の追い込みで、特に、最後に書いた「大日本人」と「しんぼる」への評に時間がかかり・・(中略)・・やっと書き終わったのが11月1日の早朝でした・・(中略)・・それからワタシは仮眠をとってからシャワーを浴び、「ああ。やっと終わったよ。終わった!」とロに出しながら街を歩き、先ず西武新宿の「PEPE」でミュグレーのエンジェルをまとめ買い、それから伊勢丹メンズ館に流れて、アレキサンダー・マックイーンのムートン襟のコートを注文し、靴を2足買い、・・(中略)・・そしてそのまま「映画本が書き終わったら、先ずこれをしよう」と決めていた事を実行しに、半ばフラフラしながらバルト9に向かいました。11時25分からのレイトショーでしたが、100人近い人々が集まっていました。

 

「THIS IS IT」についての詳しい感想は、次のトークショーで松尾さんと西寺さんと一緒に話しますが、とにかく冒頭から泣きっぱなしで崩落寸前になり、物凄い元気が出て笑い。という事を往復しながら、最後はどんどん落ち着いて来て、爽やかな中にもちょっとした重さが残る。といったコースでしたけれども、何れにせよ天才は重力を超える等当たり前(合気道の達人、修行を積んだヨーギ、西アフリカのヒーラーの如く、全く体重と、その移動を感じません)で、重力どころか、「時間」をもコントロール出来るのだと言う事を、嫌と言う程見せつけられました。登場する全員がインターロックし、トランスしているこの映画では、マイケル・ジャクソンが、時間を追い抜き、時間に追い技かせ、時には遡行さえし、常に時間を生み出し、いつでも自由に止められるという様が映し出され続け、ワタシが思ったのはむしろ「よく50まで生きたな」という事でした。ずっとチャーリー・パーカーを思い出していたからです。

 

我々ジャズメン全員が、個々人の程度差は兎も角、国語の様にしてパーカーのフレーズが血肉と化している、起きたら脳内にパーカーフレーズが鳴り、それが一日中続いている。という、パーカーの子等であるのと全く同様の事が、マイケルにも起こっています。パーカーもマイケルも、先生がいません。全く独学で(ジェームス・ブラウンやレスター・ヤングなど、素材はありましたが)全く新しい身体言語を生み出したのです。そして二人とも、派手に飛んだり、浮遊したりといった、ケバケバしいスペクタクルなしの、常に地に足がついている状態で、重力も時間も完全に超越している事を我々に知らせるのです。終了後には(小さく。ですが)拍手も起こっていました。この映画が最も素晴らしいのは、神域にあろうと、人間は人間だ。という当たり前の事を、雄弁に描いている事です。

 

 本を書き終え、目的も達成し、犬荷物と深い溜息を抱え、ワタシは部屋に帰って来ました。そしてレヴィ翁が亡くなった事を、フランスにいる友人からのメールによって知らされたのです。そのメールには「悲しいかな、京都のコンサートは良くなりそうだな」と書いてありました。ペペ・トルメント・アスカラールという楽団は、ワタシの幼少期に於ける「街と映画館」の記憶と、クロード・レヴィ=ストロースの著作から受けたイメージの集積とで出来ており、そして、その初期設定を更新したのが、最新作の『ニューヨーク・ヘルソニック・バレエ』なのです。ワタシが京都公演に「悲しき熱帯〈京都〉」というタイトルをつけたのは、初期設定の更新前と更新後の境界越えを京都で行おうという意図に依る物でした。

 

 アルチュセール、バルト、ドゥルーズ等の時とは全く別の感慨に囚われているのは、神域にある能楽師の舞いにも似た、MJの姿を観て帰って来た事も関係あるかもしれません。レヴィ翁を超える、長寿の知識人は今までもいませんでしたし、これからもいないでしょう。「天寿の全う」という言葉が、どんどん重みを増して行く昨今ですが、レヴィ翁の逝去ほど、この言葉が似つかかしい物はないでしょう。翁の魂はどの地域の、どの部族の空に向かって飛ぶのか。ワタシに出来る事は地に足をつけて演奏し、その魂の行方を心眼で追う事だけです。夜の帳が降りました。ごきげんよう。


(初出「PELISSE」2009年11月4日)


この本には、「マイケルの56回目の誕生日」に引用した記事も収録されていて、その記事のように、曲が手向けられている記事も多い。例えば、エイミー・ワインハウスには、レゲエヴァージョンのクリスマスアルバムから、ザ・シマロンズの「サイレント・ナイト」、ピーナッツの伊藤エミには、ニーナ・シモンの「アイ・ラブズ・ポーギー」が選曲されている。


それで、レヴィ=ストロースの死のBGMには、『THIS IS IT』の全体が流れていると思うと、レヴィ翁の本をもっとも読め、という啓示かも、と思ったり・・・。


でも、ミュージシャンが大勢登場するこの本の中で、曲名がタイトルになっているのは、「ビリー・ジーン」というマイケルだけなのだ。


ずっと不思議だった、あの日の記事のタイトルがどうして「ビリー・ジーン」だったのかは、この本を読了したあとも、やっぱりわからなかった。


◎[Amazon]レクイエムの名手/菊地成孔追悼文集




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by yomodalite | 2016-02-26 06:00 | エッセイ | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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