HIStoryと黙示録:『地獄の黙示録』④

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③の続き・・・

聖書と黙示録、政治と歴史との関連に引き続き、今回は、マイケルの『HIStory』にもっとも影響がありそうな《神話や騎士道物語》との関連について。



◎Godがいる国の神話


まず、《神話》という言葉のイメージは、私たちと、Godがいる国では大きな違いがあります。


私たちが、神話の世界を想像するとき、そこには、原始のままの美しい森や、透き通るような川が流れていて、巫女のお告げを人々が聞き、作物の豊穣を神に祈っているような世界を思い浮かべ、自然を見ると、それをそのまま「神の恵み」だと感じるでしょう。


でも、Godがいる国の自然への感覚はそうではなく、神話学で有名なジョーゼフ・キャンベルは、「聖書の伝統は、社会的な方向をもった神話体系で、自然は悪しきものとして呪われている」と語っています。

「自然を悪と見なしたとき、人は自然と調和を保つことができず、自然を支配する、あるいは支配しようと試みる。おかげで緊張と不安が生まれる・・・聖書の中では、永遠は退き、自然は堕落しきっている。聖書の思考に従えば、私たちは異境で流刑生活を送っている・・・ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖典の伝統はすべて、いわゆる自然宗教を非難しながら、自己を語っている。・・・「創世記」にも書いてあります。われわれ人間が世界の支配者にならなければならない」



◎神話の主題と、英雄物語の基本


黙示録の《神の国》の創造が、こういった考えから生まれたものだということがよくわかると思うのですが、《神話》の主題も、この堕落した自然に《光》を取り戻す、ということになるわけです。


これが「聖杯伝説」や「アーサー王と円卓の騎士」と呼ばれる《神話》の基本で、こういった神話から、戦いに勝った国の王が《英雄》であるだけでなく、カトリックでは《聖人》にもなっています。ただ、誰も聖書が読めない時代は、聖書の内容とは関係のない物語で、人々を惹きつけていても大丈夫だったのですが、プロテスタントになると、事実と明らかに違うことは、聖書から除外するようになり、天使も聖人も新約聖書からはいなくなっていく一方で、騎士物語はますます盛んになり、中世の騎士に由来した「ナイト(騎士)」という称号が、現在のイギリスの叙勲制度にあるように、素晴らしい騎士というものが、最高の人物・人格である、というヨーロッパの伝統も出来たのですが、


キャンベルは、英雄伝説の基本構造は大きくは3つに分類され、


①英雄が、日常世界から危険を冒して、超自然的な領域に出掛け(セパレーション:分離・旅立ち)、②そこで超人的な力に遭遇し、未知の経験や、これまでの自分の殻を脱ぎ捨てるなどの転生を経て、最終的に決定的な勝利を収める(イニシエーション:通過儀礼)。③そして、英雄は、彼に従う者たちにも恩恵を授ける力をえて、この不思議な冒険から帰還する(リターン:帰還)。


これをもう少し細かく分析すると、


・Calling(天命)
・Commitment(旅の始まり)
・Threshold(境界線)
・Guardians(メンター)
・Demon(悪魔)
・Transformation(変容)
・Complete the task(課題完了)
・Return home(故郷へ帰る)


となり、西欧の騎士物語も、東洋のブッダの物語も、このパターンであるとキャンベルは言っています。


大学でキャンベルの授業に影響を受けたジョージ・ルーカスが、この基本構造を『スター・ウォーズ』三部作に適用して大成功を収めた話はよく知られていますが、その『スター・ウォーズ』第1作が公開になった1977年の2年後に公開された『地獄の黙示録』は、元々『闇の奥』を原作にしてベトナム戦争を描くという、ルーカスの企画が、コッポラに譲られて発展したもので、現代の英雄としての「騎士物語」を目指した『スターウォーズ』と『地獄の黙示録』は、裏表の関係にある映画ともいえるんですね。



◎登場人物の名前(ファーストネーム)


欧米では、子供を聖書から命名することが多いですよね。カトリックには、聖人と呼ばれる人が大勢いますが、例えば、最近「聖人」になったマザー・テレサは、元々は、アグネス・ゴンジャ・ボヤジュという名前で、アグネスは、聖アグネスという聖人から名づけられていて、修道女になったときに、リジューのテレサと呼ばれる聖人の名を、修道名にしたのだそうです。


でも、修道女や、アッシジのフランチェスコのように、実際に宗教的な奉仕活動をおこなった「聖人」だけでなく、伝説上で活躍した聖人も大勢いて、男子に人気の名前は、「騎士道物語」の登場人物の名前も多いんですね。


映画の中でその名前が呼ばれることはありませんが、『地獄の黙示録』の登場人物には、ミドルネームもきちんとつけられていて、その名前を見ていると、コッポラが黙示録だけでなく、神話や騎士道物語を意識していたことが見えてきます。


ウォルター・E・カーツ大佐 Walter E. Kurtz

ウォルターの名は、古ドイツ語で「支配する」ことを意味するwaltanと「軍隊、部隊」を意味するheriの合成により生まれたものであるとされる。ちなみに、原作の『闇の奥』で、クルツ(Kurtz)と呼ばれる人物は、そのドイツ系の苗字しか明示されていらず、母親が半分イギリス人で、父親は半分フランス人、イギリスで教育を受け、ヨーロッパ全体がクルツという人物を作り上げるのに貢献したような・・とされる人物。


ビル・キルゴア中佐 William "Bill" Kilgore

ウィリアム(ビルはウィリアムの愛称)の名は、ゲルマン的要素を持つ古フランス語の名に由来し、Williamは、念願や意志を意味する"Will"(「Triumph of the Will」の "ウィル" ですね!)と、ヘルメットや防護を意味する"helm"があわさった名前とされる。


ベンジャミン・L・ウィラード大尉 Benjamin L. Willard

ベンジャミンの名は、ヘブライ語で[son of the right hand=最も頼りになる助力者の息子]という意味。ベニヤミンを由来とする。米・英に多い。そして、 彼の役職は「U.S. Army Special Operations Officer」!(→マイケルもSpecial Officer だったよね!)


ちなみに、司令部の場面に登場して、カーツの情報を説明するハリソン・フォードはルーカス大佐」なんですが、これまでに、何度も指摘している《逆》パターンが、わかりやすい例としては、


ジョージ・フィリップス(“チーフ”)George Phillips

ジョージの名は、ドラゴン退治の伝説で有名なキリスト教の聖人ゲオルギウスに由来。槍で致命傷を与えたのち、アスカロンでトドメをさした。感謝した町の人々はキリスト教に改教したという神話があるのですが、“チーフ”は「槍」に射抜かれて亡くなります。



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ランス・B・ジョンソン・Lance B. Johnson

ランス(英: lance)は、中世から近代まで主にヨーロッパの騎兵に用いられた「槍」の一種。また、ランスロット(Lancelot)は、アーサー王物語等に登場する伝説の人物で、槍、剣術、乗馬のどれも彼の右に出るものはいない、最強の円卓の騎士と言われているのですが、元サーファーのランスは、もっとも軍人らしくない人物。



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(槍が刺さっているように自分で細工している)




◎ランス・B・ジョンソンとは・・


この映画のランスは、L.B.ジョンソンであり、円卓の騎士ランスロットでもあり、そして、さらに、サーファーのカリスマとしての彼は、このベトナム戦争をテーマにした映画の中で、聖書や、円卓の騎士という古い神話ではなく、当時は「ニューエイジ」と呼ばれていた新しい精神主義の波である、スピリチュアリズムに惹かれる若者という役どころも担っています。


この時代、サーフィンと哲学や精神世界を結びつける文化が流行っていて、60年代にハーバード大学の教授だったティモシー・リアリーは、LSDなどの幻覚剤による人格変容の研究を行うだけでなく、東洋の導師とも関係を深め、ニューエイジ文化の一翼を担っていたのですが、彼は、サーフィンの素晴らしさについて、「一回のライドで何回も生と死といった究極の人生を体験できる」とか、サーファーとは人類全般の進む方向を探るため、皆よりも列の先頭へ出され、道なき道をあゆまされているのだ」というような言葉で、若者のサーフィン文化を盛り上げていたんですね。


ニューエイジ文化は、科学の発展にともに信じることが難しくなり、また魅力的には見えなくなった大人たちの宗教よりも未来を感じさせ、残酷な歴史に由来しない輝かしいものとして、東洋など、異国の思想も大いに取り入れられたのですが、徐々に、プロテスタントが捨てたカトリック的な要素を、別の包み紙にくるんで再提出したような内容が多くなり、天国や地獄も、最後の審判も、昇天や、復活といったことも、新たな名前に言い換えて、隠喩としてではなく、現実に起こることとして信じようとする(そのため物理学用語なども使う)。


それで、結局、自分では何も考えず、教義を信じていれば、正義と救済が手に入るという「宗教」と同じものになり、他者の受け入れも、その教義を信じる仲間に限られる、というところまでまったく同じ歩みを辿ることになる。


「ソウル・・・」とか、「・・・ソウル」とか、仲間や恋人を求める人には、近づきやすく、宗教のもつ怖さとは無縁のように感じられ、なぜか、古代の神話が大好きで、ファンタスティックなもののように語る人が多いのですが、生きるということは、他の生き物から命を奪うことだという、ことを実感できない現代の若者が、古代の人々が神に求めてきたものを、どうやって誤解せずに理解できるんでしょう。


この映画の中でも、ランスは自分が撒き散らしたスモークによって、敵に発見され、そのときの攻撃で “クール” が死んでしまっても、自分の犬のことの方を気にしていたり、常に自己中なんですが、神話上では、聖ゲオルギウスとしてドラゴン退治の仲間だった “チーフ”の水葬のときだけ、パブテスマのヨハネになったかのように、なぜか、洗礼の真似事だけは上手い(笑)。



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(とても美しい「前世ごっこ」のシーン)




⑥の「ふたりのL.B.ジョンソン」で、ジョンソン大統領もランスも、共に、ジョンソン(ヨハネの息子)という名前が重要だと言ったのは、《ヨハネの啓示をそのまま継承していく者》だという意味だったのですが、


ランスが、ただアシッドにふけっているだけの自己中のニューエイジではなく、

「ヨハネの息子」だ、という証拠写真はこちら(笑)



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出ました!「神の国」Gods Country



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未来を輝かせるのは「神の国」ではなく、

君の心の中にある「愛」で、

それはどんな教義を信じることでもなく、

日々懸命に生きることで少しづつ大きくしていくものなのにぃ・・

(→ HEAL THE world)





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(クールや、チーフが亡くなるシーンより少し前の場面)



船のオイルタンクらしき場所には、CANNED HEATと書かれていて、これは、「Sterno」というブランドの物が有名な「携帯燃料」のことを指したり、そこから「アルコール中毒」という意味にもなっていたり、爆発しそうな位の熱い気持ち、といった意味もあるようですが、船の燃料が入っている場所に書かれているのは、、、なんか「変w」ですね。


上の写真では見えづらいですが、船体には、EREBUS(エレボス)という文字も見えます。エレボスはギリシャ神話に登場する神の名で、原初の幽冥を神格化したもので、「地下世界」を意味しています。


さて、ルーカスが、キャンベルの本から、『スターウォーズ』を創ったように、コッポラにも、この映画を創るうえで、啓示をうけた本がありました。そして、カーツとはいったい何者だったのか、ウィラードはなぜ、カーツを殺したのか? 


次回、ようやく『地獄の黙示録』の最終回!





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by yomodalite | 2016-02-02 21:47 | MJアカデミア | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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