HIStory Teaser, Part 3「新たなヒーロー像」④

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☆註を追記修正しました

(③の続き)

ウィラ:あなたが言うように、彼は自分の芸術を通して、繰り返し私たちに「自分の歴史を作るんだ」と呼びかけていた。そして、自分たちの歴史を知ることの重要性も考えていたのね。この春の記事で、ライシャとジョイエと私が話したように、アルバム『ヒストリー』にも「ヒストリー」という曲にも、歴史に言及した部分がたくさんあるのよね(*1)。そして、「ヒストリー」のプロモーションフィルムにも、歴史に触れた重要な部分があって、特に撮影された場所についてはね。それについては、あなたもかなり調べてると思うんだけど、わかったことを話してもらえるかしら。



エレノア:そうね、このショート・フィルムで証明されたのは、MJがたいていの人よりもはるかに歴史をよく理解していたということ(ずっと言ってることだけど、私にとっては「HIStory」について調べること自体が、歴史の勉強になった)。そして、彼は、歴史から学ばない人々は、過ちをくり返すという考えを強く支持していた。


「ヒストリー・ティーザー」の舞台を、長いソビエト支配が終わった1994年のハンガリー・ブダベストにしたことや、ソ連をイメージさせるような映像を使ったことで、その当時のマイケル・ジャクソンの歴史や、アメリカにおけるアフリカ系アメリカ人の歴史、世界中の抑圧された人々の歴史を、ソ蓮の支配下で、「拷問にかけられ、糾弾され、強制収容所に入れられ、多くの人が死んだ集団農場で強制労働を担わされた」ハンガリーの人々の歴史に結びつけている。


そのつながりが明確なのは、「ヒストリー・ティーザー」で行進している兵士たちが、ソ連の制服を着て、ブダペストの英雄広場(*2)に向かっているということ。その中心には、896年のハンガリー建国を記念して、1896年(ハンガリーがオーストリア・ハンガリー帝国に属していた時代)に建てられた、千年記念碑があるのよね(*3)


意義深いことに、千年記念碑は英雄広場の中心を占めているけど、建築として広場の角に位置しているのは、国立西洋美術館と現代美術館で(*4)、広場には、芸術と英雄という二つのテーマが融合していて、英雄的な芸術というか、英雄としての芸術家は、帝国の遺産として存在しているのよね。



ウィラ:そういうの、いいわよね。「英雄としての芸術家」というのは、新しいタイプのヒーローと言えるわね。そしてこの考え方を視覚的に表現したのが、「ヒストリー」においてそびえ立つマイケル・ジャクソンの彫像ね。


英雄広場は戦場の英雄や、政治の英雄を讃える像がたくさん建てられている場所だけど、「ヒストリー・ティーザー」で私たちは、もうひとつ、他のものをすべてを見下ろす像を目にする。でも、その像は新しいタイプのヒーローの像で、彼は、地図上の境界線を変えようとする軍のリーダーや政治のリーダーではない。私たちの考え方を変え、違う文化や、違う民族の、世界中の人々と共感し合おうと私たちを鼓舞する、パワフルな芸術家。だからこの像は、あなたの言う「ヒーローとしての芸術家」を真に表現したものなのよね。



エレノア:「レッド・オクトーバーの賛歌」をソ蓮の制服を着た兵士たちの映像に重ねて見てみると、その「レッド」と関わりのある2つの「十月革命」が思い浮かぶ。1917年、皇帝が支配するロシア帝国を倒し、ソビエト連邦を権力が移った10月のボリシェヴィキ革命と、第二次世界大戦以後、ハンガリーを支配していたソビエトを打倒しようとして失敗に終わった、1956年のハンガリー革命。この革命は、数十年後に起こるソビエト連邦崩壊の原因にもなった。マイケルは、歴史をふり返ると、ひとつの革命は、多くが次の革命に、そして、そのまた次の革命にもつながっていくと考えていた。それは消えることのないパターンなのよね。



ウィラ:それは興味深い解釈だわ、エレノア。ロシアの十月革命については、「レッド・オクトーバー賛歌」でもふれられている。


Sail on fearlessly

Pride of the northern seas

Hope of the Revolution

You are the burst of faith of the people

In October, in October

We report our victories to you, our Revolution

In October, in October

And to the heritage left by you for us


恐れを知らず海を行け

北の海の誇りを胸に

革命の希望を胸に

君たちは人民の信念をみなぎらせ

十月に、十月に

我らの革命の勝利を君に告げよう

十月に、十月に

君たちは我らの遺産となるだろう



エレノア:新たな軍隊(私たちや、彼のファン?)は、マイケルが、殴ったりしないのに、腕にしていた、あの「バンデージ」(アームカバー?)のように、撃つことの出来ない木製の銃を持ち、旗やプラカードに彩られた英雄広場を行進していく。「握りこぶし」で鼓舞するのではなく、「開いた手」で投げキッスをするマイケルは、新しい時代のヒーローを表していて、彼は、征服~革命~征服という連鎖を終わらせ、すべての人の幸福のために、一緒に働くことができる、そんな人類の新しいイメージを提示することを目標にしている(*5)。ロシア語がわかればいいんだけど、残念ながら私には、旗や制服の腕章になんて書いてあるかわからないのよね。



ウィラ:実は、Google翻訳や、Babefishを使って旗のメッセージを翻訳しようと思ったんだけど、うまくいかなかったわ。(ロシア語として)認識可能な文字でないのかも。それで、私の大学のヨーロッパ言語の専門家である Bjørnに、旗と兵士の腕章のことを訊いてみたんだけど、彼の答えが素晴らしかったの。


兵士の腕章にあるのはキリル文字(ロシアの文字)ではなく、むしろ、ルーン文字に似ている。おそらく、ナチのSSのロゴに発想を得たのだと思う。調べてみたところ、腕章にある文字をルーン文字のアルファベットの中に見つけることはできなかった。このフィルムのために新たに作られたものではないだろうか。三人の兵士のアームバンドもこのパターンのバリエーションだと思う。
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その他の不明の文字は、判読できるともできないとも言いがたい。そういうわけで、兵士たちは、ロシア人かも知れないけど、ドイツ人でも、アメリカ人でもあり得る。はっきりとした印がついていないということだね(*6)


だから、私たちは、兵士をロシア人と決めつけるのではなくて、もっと広範囲にとらえた方がいいのかもね。腕章が「新たに作られた」ということは、そういうことではないかしら。 Arcadio Coslov が先週のコメントに書いていたわね。


軍事パレードはロシア、フランス、ドイツ、中国、そしてアメリカでも開催される。それは、多くの国でミリタリーカルチャーの一部だ。でも、たとえば、パレードに紙吹雪がひらひら降り注いでいるのは、きわめてアメリカ合衆国っぽい。


Arcadioや Bjørnによれば、これらの兵士たちの国籍については、いろいろと混ざっている印だと考えられるのね。マイケル・ジャクソンは、ロシア風の制服とナチ風の腕章、そしてアメリカ風の軍事パレードを合体させて、私たちがこの軍をどう「読み取る」べきか、あえて、わかりにくくしているのよ。考えれば考えるほど、そう思えてくるのよね。腕章に、特定の国を表すような言葉やシンボルをつけるのではなく、「新たに作られた」言葉をつける事によって、兵士たちの国籍は、意識的に曖昧なままにされている、と。



エレノア:これは興味深い事実が満載の記事で読んだんだけど、実は、ハンガリー人は、ソ連の軍隊の制服を誰も着たがらなくて、それで、イギリス人を雇うことになったんですって。



ウィラ:それは、面白いわね!兵士役の人々に、ソ連のユニフォームを着てもらうために、様々な障害があったってこと? 記事の英語訳では、


マイケルは、このショート・フィルムを特別なものにするために、彼の命運を賭け、5百万ドルの私財を投資した。数百人の若いハンガリー人が、ビデオの出演者として働くことを希望したが、彼らは全員平和のメンバーを演じたがった。
第二次世界大戦の始めにヒトラーの軍隊が集結して、凱旋の行進をするシーンを再現するために、ハンガリー人のエキストラたちは、赤軍の兵士のユニフォームを着ることを拒否した。そのため、本当の兵士を雇うために、イギリスの新兵募集のサービスを利用しなくてはならなかった。100人の英国海兵隊と何人かの落下傘兵が集まり、これらの兵士は、1日あたり135ドルをもらい、四つ星ホテルに泊まって、無料の旅行も楽しんだ。兵士を雇うだけで、約150,000ドル以上もかかっていた。


マイケル・ジャクソンは、そういったトラブルや出費を考慮しても、ソ連のユニフォームを着てもらうことが重要だと考えていたにちがいないわね。ということは、私たちにも、彼らをソ連の兵士とみてほしいということでしょう。これは興味深い点ね、エレノア。(「5」に続く)



註)_____________



(*1)「HIStory」の歌に込められた歴史については、この会話が終わったあとの記事で紹介します。


(*2)英雄広場/ハンガリーの首都ブダペストにある広場。


(*3)千年記念碑/英雄広場の中央にある記念碑。イシュトヴァーンへの王冠と大主教十字を持つ聖ガブリエルを戴く円柱の台座には、7部族の長の騎馬像がある。また、その左右の英雄像の中には、建立当初は、ハプスブルク朝の人々の像もあったが、第二次世界大戦後、ハプスブルク朝の像は建て替えられ、現在は、左側に、イシュトヴァーン1世からラヨシュ1世までのハンガリーの国王の像があり、右側には、政治家や将軍たちの像がある。


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(王冠と大主教十字を持つ聖ガブリエル)


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(*4)「千年記念碑」の左右には、ブダペスト西洋美術館と、ブダペスト現代美術館が建っている。


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英雄広場/千年記念碑・聖ガブリエル像(中央右)

国立西洋美術館(左上)、現代美術館(右角)




(*5)原文は、Leading a new kind of army (us, his fans?), whose rifles (arms) are “bandaged” in white (like his arm is bandaged?), marching into Budapest’s Heroes’ Square which is festooned with banners, opening his “not-iron” fist to throw kisses,・・・


bandaged in whiteは、通常は包帯を巻いていることを表すのですが、この文章は、腕(の複数形)と武器が同じarmsという言葉であることから、マイケルが殴り合いをしないのに着けていた「bandage(日本ではアームカバーとも呼ばれていますが)」と、発砲することが出来ない、銃身が木で出来た銃(in whiteには「白木で」という意味がある)を「同じ意味」にとらえ、また、戦いを鼓舞する「こぶし(fist)」や、「鉄拳ではなく(not-iron)」、「(手を開いた)投げキッス」という対比を文章にしているのだと思います。


さらに、会話では触れていませんが、ライフルドリルをしている兵士達の左腕に施された白いアームバンドは、よく見ると包帯をぐるぐる巻いたもののように見えます(そのせいで、通常は腕章部分に縫い付けられるバッジが腕から浮いている)。



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兵士の腕も武力を行使するためにあるのではない、あるいは兵士の腕も傷ついているということが連想されるのですが、いずれにしても、銃やマイケルの腕が戦いのためのものではない、ということとつながっているのではないでしょうか。つまり、2:00~2:10のこの場面には、すべてのarm(s)が包帯で巻かれているという、重層的な意味が込められているようです。


映像の2分過ぎに、ライフル・ドリルと呼ばれる動作がでてくるのですが、兵士が回しているライフルは木製で、金属で出来た銃身部分がなく、武器にはならないものです。



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マイケルの「bandage」



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格闘家の「bandage」



(*6)文字に関しては、以前「マイケルとチャップリンのエスペラント(2)」でも言及しましたが、その後さらに調べた結果も、これと同じ結果でした。




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by yomodalite | 2015-12-26 06:00 | ☆MJアカデミア | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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