HIStory Teaser, Part 3「新たなヒーロー像」②

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(①の続き)

エレノア:そのあと「ヒストリー・ティーザー」では、歴史と映画作品の両方が引用されていて、画面と音の関係は、私たちが何を見ているかを音が解説してくれるようになっている。非言語的で、時に遠回しに説明するような。たとえば、私たちが最初に目にするのは、トゥルルの像(→Part 2)なんだけど、これはハンガリーの「国鳥」であり、ハンガリーの国家主義を象徴している。そして、エスペラント語の言葉の後に聞くのは、軍靴の音。



ウィラ:それらはなにか不穏な空気を表現しているのよね。ヘリコプターの音のような・・さっきあなたが言っていたように『地獄の黙示録』のオープニングの音ね?



エレノア:そう。一連のオープニングシーンは、マイケル・ジャクソンの歴史を、帝国支配の歴史を象徴するようなハンガリーの歴史の中に組み込んでいる。そして、エスペラント語の直後に軍靴の音があることで、マイケル・ジャクソンの物語と、彼の世界観は、情景と音の対比と、平和と戦争を並列させることで、語られる。



ウィラ:すごく興味深いわ、エレノア。「情景と音」がかみ合っていないように見えるのは確かよね。Bjørn Bojesen が去年の記事で私たちのために翻訳してくれたけど、男性は、エスペラント語で「世界共通の母と、愛と、音楽の癒やしの力」について叫んでいるけど、目に映るのは軍国主義的な、恐い映像よね。だから、叫ばれているエスペラント語の意味がわかると、あなたの言う「平和と戦争の並列」が強烈にわかるわね。



エレノア:そうね。次に、労働者たちが巨大な像のようなものを建設している場面では、溶けた金属のシャーッというような音や、ハンマーを打つ音、工場内の音が聞く者をおびやかすように大きく流れていて、『ターミネーター2』で、サイボーグが組み立て直され、新たなミッションをプログラムされている場面を思い起こさせる。



ウィラ:確かに、その場面では、『ターミネーター2』の対決場面でかかる工場の音のような音楽が、しつこく繰り返し流れている。このクリップでわかると思うけれど。(最初の動画が削除されたので、代用動画です)






0:35から0:50のところが特にわかりやすいわね。「ヒストリー・ティーザー」の0:15から0:40でも、まったく同じような、うなるような工場音がくり返し流れている。






エレノア: そして、そういった情景と音が赤いユニフォームを着た軍隊のイメージに重なっていき、「ヒストリー・ティーザー」のサウンドトラックは、「レッドオクトーバーの賛歌」という『レッドオクトーバーを追え』の音楽に変化して、それは、その映画だけでなく、ソ連と冷戦の脅威との関連をも思い出させる。



ウィラ: そうね。この引用はとても大事だと思う。ここに、「レッド・オクトーバーの賛歌」の、ロシア語と英語の歌詞がついたリンクを張るわね。この歌詞を読むと、家から遠く離れて何ヶ月も過ごす、兵士や戦艦乗組員の気持ちになるわね。「ヒストリー」で流れるロシア語の部分の訳はこんな感じ(この動画は削除されたので動画には歌詞はありません)。







Cold, hard, empty

Light that has left me

How could I know that you would die?

Farewell again, our dear land

So hard for us to imagine it is real and not a dream

Motherland, native home

Farewell, our Motherland


寒く、つらく、虚しい

光は私を置き去りにした

君が死んでしまうなんて、どうして私にわかるだろう?

今また旅立つ、懐かしき我らの国

これが現実で、夢ではないなんて

想像することもできない

母国、わが故郷

さらば、我らの祖国よ



最初の部分は、艦長の境遇を語っている。彼の妻は前回の任務中に自殺してしまった(君が死んでしまうなんて、どうして私にわかるだろう?)。彼は妻といるべき時間を海で過ごしてしまったのね。「私は結婚したその日から、妻を未亡人にしてしまった」そして、彼は大きな葛藤を感じながら、再び海に赴くのよ。


でもそのあと、人称代名詞は「私」から「我ら」に変わり、続く歌詞は、故郷から離れて何ヶ月も過ごす兵士たちや乗組員たちみんなの感情を表しているように見える(今また旅立つ、懐かしき我らの国/これが現実で、夢ではないなんて、想像することもできない)。つまり、前回の記事で話したように、マイケル・ジャクソンは(先駆者であるチャーリー・チャップリンのように)根本的には戦争や帝国主義に批判的なんだけど、上からの命令を遂行している兵士や戦艦乗組員をけなしたりはしない。そうではなくて、彼らの置かれた複雑な状況を理解し、彼らに心を寄せているのよ。この部分の歌詞でそれがよくわかる。



エレノア: 歌詞を見つけてくれてありがとう、ウィラ。いまのあなたの解釈には100パーセント同意するわ。



ウィラ: この曲は40秒くらいのところから、「ヒストリー・ティーザー」の前半部分ずっと流れるんだけど、『ターミネーター2』の音楽を引き継ぐ形で「レッド・オクトーバーの賛歌」が入ってくるのよね。


そしてあなたが言ったように、エレノア、ここも「情景と音」がかみ合っていない例よね。と言うか、音が情景を攪乱しているところがある。表面的には、兵士たちが誇らしげに英雄広場に行進しているけれど、ロシア語の歌詞は、兵士たちが感じているかも知れない、嘆かわしさや、人間的でもっと微妙な感情を伝えているのよね。


ところで、この曲はベイジル・ポールドゥリスの作曲なんだけど、この人は『フリー・ウィリー』の最初の2作のサウンドトラックも書いているのよね。そしてもちろん、マイケル・ジャクソンもこの2作に関わっている。彼が作曲して歌った「Will You Be There」は第一作のテーマソングだし、「Childhood」も二作目に使われている。第一作は1993年、二作目は1995年に公開されていて、これはちょうどアルバム『ヒストリー』を作っていた頃なのよね。だから、1990年代の中頃、マイケル・ジャクソンとベイジル・ポールドゥリスには多くの接点があったのではないかしら。



エレノア:それは知らなかった。興味深いわね。



ウィラ:でしょう? それで、『ターミネーター2』についてあなたが言っていたことに戻るけど、予告編を調べてみたら、いくつかのバージョンがあることがわかった。実際、ディレクターズカット版DVDには8種類の予告編が入っているの。大々的に宣伝された映画だったものね!でも、これは初期のバージョンで、「ヒストリー」にもっとも近いものではないかしら。あなたが言ってるのは、これよね、エレノア?(こちらの動画も削除されたので、感じがわかるものを貼ってます)







エレノア: そう、それよ。1:03くらいから、ターミネーターが組み立て直されるシーンが始まる。ターミネーターは、アーノルド・シュワルツェネッガーが演じていて、彼が第1作目の『ターミネーター』で初めて言った「アイル・ビー・バック」という言葉は、彼のトレードマークになった。その映画で彼は、あらゆるものを投げつけられるんだけど、『ターミネーター2』の予告編で、生き残った彼はもう一度戦うために、帰ってくる。


これが、「ヒストリー」を作っている時のマイケル・ジャクソンの心情の手がかりでないとは思えないわよね!『ターミネーター2』は、マイケル・ジャクソンへのバッシングがエスカレートしていく直前の1991年公開だけど、映画本体と同じく予告編も、MJの物語を語る助けになる。『ターミネーター2』の要素を「ヒストリー・ティーザー」に入れることで、激しい怒りに燃えていたマイケル・ジャクソンは、誰にも自分を引きずり下ろせない、と宣言していた。マイケル・ジャクソンは、華々しく復活していたのよ。



ウィラ:面白いわ、エレノア! つまり、彼はターミネーターのように、「アイル・ビー・バック」と言ってたわけね。



エレノア:そう。そして『ターミネーター2』とマイケル・ジャクソンと彼の物語には、他にもすごく興味深い関連がある。たとえば、ナレーターは言う。「かつて彼は未来を破壊するようにプログラムされていた。しかし今、彼の使命は未来を守ること。彼の忠誠はひとりの子供に…」そしてターミネーターを演じるアーノルドは言う。「おれを信じろ(Trust me)」。これも彼を有名にしたフレーズね。MJがこの予告編を参考にしたのは不思議ではないわ。この映画の未来と子供を守るということ、それは、あのときの彼の人生そのものだもの。彼には、児童虐待の疑惑に面と向かって罵倒し返すような方法はなかった。そして、疑惑をかけられたことによって、信用(trust)という言葉は、彼にとって大きな課題となった。



ウィラ:確かに、そういう見方をすると、つまりターミネーターは脅威のように見えて実は「未来と子供を守っている」それは、マイケル・ジャクソンがこの映画を引用した大きな意味よね。そして、「おれを信じろ」というセリフも、私たちが以前に話した問題を思い起こさせるわ。誰かを信用するとか(サイボーグや、ソ連の潜水艦艦長や、姿を変え続けるポップスター)、誰が世界を脅かしているとか、私たちにわかるのか?という問題。



エレノア: そうね。そしてここで話しているようなつながりから言えば、MJは高らかに宣言している。「もちろん、僕を信じていい、僕の音楽を信じていい」と。「本心でなければ歌わない」(訳者註:ヒストリーという曲のイントロ部分)と言っているわよね。彼の曲の力というのは、彼の生の感情が吐露されていることにあり、自身の奥深いところから湧き上がってくる真実を音楽で表現し、私たちの奥深いところに訴えかける、彼の飛び抜けた能力にある。その真実は、ある人にとっては解放であり、ある人にとっては脅威になる。だから、主流派は、その名前を貶め、力を奪うために、彼に「あらゆるものを投げつけた」のよ。



ウィラ:さらに興味深いのは、その予告編のなかで、金属を溶かして、ターミネーターの骨格を作っているシーンよね。それは、「ヒストリー・ティーザー」で、溶かした金属を流し込んで巨大な像とエスペラントの星を作っているシーンとすごく似ているんじゃないかしら。



エレノア:そうね。ターミネーターを作り直している場面を元にしたといっていいんじゃない?ターミネーターは人類を救うために戻ってくる(人類自身から守るため。人間を破壊するスカイネットや手下のサイボーグたちを生み出したのは人間だから)。そしてマイケルが、彼のキャリアでもっとも政治的なアルバム『ヒストリー』発表と共にアーティストとして戻ってきたのも、このひどく狂った世界を癒やすために全力を尽くしていることや、私たちを私たち自身から救い出す、という彼の意図を強調し再確認するものだった。


それに、MJとロボットが結びついているというのも興味深いわよね。彼のロボットダンスは有名だから。チェコの劇作家が作ったロボットという言葉は、チェコ語の「robotnik(ロボトニク)」からきているんだけど、robotnikは、強制労働を意味する言葉で、奴隷を表す古いスラブ語から派生し、かつてのオーストリア=ハンガリー帝国では(「ヒストリー・ティーザー」はハンガリーで撮影されている)、19世紀後半、裕福な地主層に対して反乱を起こした小作人たちを言うのに使われていたって、知ってた? すごくない?



ウィラ:全然知らなかったわ。



エレノア:実は、私も知らなかった。ひとつの言葉に、これほど多くの歴史が含まれているなんて!でも、私が調べた経験から言えば、MJはこういったことをすべて知っていたと思う。「ヒストリー・ティーザー」は、MJや、彼の彫像とロボットを結びつけ、アフリカ系アメリカ人が奴隷であったことと、オーストラリア=ハンガリー帝国における小作人たちの強制労働を結びつけ、同時に、ロボットのような存在から自由の身へと変化するという考え方にも触れているのよね。


「ヒストリー・ティーザー」に『ターミネーター2』を反映させたのは、マイケル・ジャクソンが戻ってきたということを私たちに告げるため。そして、ターミネーターが「おれを信じろ」と言ったのと同じように、私たちに、「彼らが語る物語」ではなく、実際に起こったことに対するMJの解釈を信じろ。と言っている。


それだけではなくて、『ターミネーター2』に言及することは、私たち自身について語ることでもある。それは、人類は絶え間なく戦争をくり返し、自己破壊のループに陥っているとしても、我々は変わることが出来る、真の変化は可能なのだ、ということ。『ターミネーター2』の最後で「もし機械や、ターミネーターに、人の命の大切さを学ぶことが出来るなら、たぶん私たちにも出来るでしょう」と、サラ・コナーが言っているようにね。(③に続く)





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by yomodalite | 2015-12-22 06:00 | MJアカデミア | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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