映画『マップ・トゥ・ザ・スターズ』と、ポール・エリュアールの『自由』

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前作を観たのはいつだったか、どんな作品だったかも覚えてなくて、作品リストを見てみたら、『裸のランチ』以来だったので、もう20年以上も経っていた。そんなクローネンバーグ監督の2014年の映画を観る。

プラネタリウムの星空のように甘く美しいオープニング映像のあと、顔にやけどの跡がある少女が、ハリウッドセレブの邸宅をめぐるプライヴェートツアーに出かけると、「マップ・トゥ・ザ・スターズ」の意味は、あっという間に不吉なものへと反転する。

ハリウッドに渦巻く邪悪さのすべてが散りばめられているようなこの映画では、ジェットコースターのように、上ったり降りたりなんかせず、ただ、もう清々しいほど一直線に、地獄への道を走っていく。

でも、そんな邪悪なストーリーの中に、なぜか、わたしの少女時代のスターのひとりだった、ポール・エリュアールの詩が何度も登場して、それで、クローネンバーグの映画と同じぐらい、久しぶりに『エリュアール詩集』(思潮社1969年版)を開いてみました。

私にとって、少女時代に出会ったシュルレアリスムは、日常を幻想に変えて見せてくれる「魔法」で、、J’écris ton nom の日本語は、ぼくは書く おまえの名を」じゃないと、なんだか感じがでなくて。

そんなわけで、映画の訳とはちがいますが、

私にはなじみ深い安東次男訳の『自由』を。



Liberté 
Paul eluard

Sur mes cahiers d’écolier
Sur mon pupitre et les arbres
Sur le sable sur la neige
J’écris ton nom

ぼくの生徒の日のノートの上に
ぼくの学校机と樹々の上に
砂の上に 雪の上に
ぼくは書く おまえの名を

Sur toutes les pages lues
Sur toutes les pages blanches
Pierre sang papier ou cendre
J’écris ton nom

読まれたすべての頁の上に
書かれていないすべての頁の上に
石 血 紙あるいは灰に
ぼくは書く おまえの名を

Sur les images dorées
Sur les armes des guerriers
Sur la couronne des rois
J’écris ton nom

金色に塗られた絵本の上に
騎士たちの甲冑の上に
王たちの冠の上に
ぼくは書く おまえの名を

Sur la jungle et le désert
Sur les nids sur les genêts
Sur l’écho de mon enfance
J’écris ton nom

密林の 砂漠の 上に
巣の上に えにしだの上に
ぼくの幼年の日のこだまの上に
ぼくは書く おまえの名を

Sur les merveilles des nuits
Sur le pain blanc des journées
Sur les saisons fiancées
J’écris ton nom

夜々の奇跡の上に
日々の白いパンの上に
婚約の季節の上に
ぼくは書く おまえの名を

Sur tous mes chiffons d'azur
Sur l'étang soleil moisi
Sur le Lac lune vivante
J'écris ton nom

青空のようなぼくの襤褸の上に
くすんだ日の映る 池の上に
月のかがやく 湖の上に
ぼくは書く おまえの名を

Sur les champs sur l'horizon
Sur les ailes des oiseaux
Et sur le moulin des ombres
J'écris ton nom

野の上に 地平線に
小鳥たちの翼の上に
影たちの粉挽き場の上に
ぼくは書く おまえの名を

Sur chaque bouffée d'aurore
Sur la mer sur les bateaux
Sur la montagne démente
J'écris ton nom

夜明けの一息ごとの息吹の上に
海の上に そこに泛ぶ船の上に
そびえる山の上に
ぼくは書く おまえの名を

Sur la mousse des nuages
Sur les sueurs de l'orage
Sur la pluie épaisse et fade
J'écris ton nom

雲たちの泡立てクリームの上に
嵐の汗たちの上に
垂れこめる気抜け雨の上に
ぼくは書く おまえの名を

Sur les formes scintillantes
Sur les cloches des couleurs
Sur la vérité physique
J'écris ton nom

きらめく形象の上に
色彩のクローシュの上に
物理の真理の上に
ぼくは書く おまえの名を

Sur les sentiers éveillés
Sur les routes déployées
Sur les places qui débordent
J'écris ton nom

めざめた森の小径の上に
展開する道路の上に
あふれる広場の上に
ぼくは書く おまえの名を

Sur la lampe qui s'allume
Sur la lampe qui s'éteint
Sur mes maisons réunies
J'écris ton nom

点くともし灯の上に
消えるともし灯の上に
集められたぼくの家たちの上に
ぼくは書く おまえの名を

Sur le fruit coupé en deux
Du mirroir et de ma chambre
Sur mon lit conquille vide
J'écris ton nom

二つに切られたくだもののような
ぼくの部屋のひらき鏡の上に
虚ろな貝殻であるぼくのベットの上に
ぼくは書く おまえの名を

Sur mon chien gourmand et tendre
Sur ses oreilles dressées
Sur sa patte maladroite
J'écris ton nom

大食いでやさしいぼくの犬の上に
そのぴんと立てた耳の上に
ぶきっちょな足の上に
ぼくは書く おまえの名を

Sur le tremplin de ma porte
Sur les objets familiers
Sur le flot du feu béni
J'écris ton nom

扉のトランプランの上に
家具たちの上に
祝福された焔むらの上に
ぼくは書く おまえの名を

Sur toute chair accordée
Sur le front de mes amis
Sur chaque main qhi se tend
J'écris ton nom

とけあった肉体の上に
友たちの額の上に
差し伸べられる手のそれぞれに
ぼくは書く おまえの名を

Sur la vitre des surprises
Sur les lèvres attentives
Bien au-dessus du silence
J'écris ton nom

驚いた女たちの顔が映る窓椅子の上に
沈黙の向うに
待ち受ける彼女たちの唇の上に
ぼくは書く おまえの名を

Sur mes refuges détruits
Sur mes phares ecroulés
Sur les murs de mon ennui
J'écris ton nom

破壊された ぼくの隠れ家たちの上に
崩れおちた ぼくの燈台たちの上に
ぼくの無聊の壁たちの上に
ぼくは書く おまえの名を

Sur l'absence sans désir
Sur la solitude nue
Sur les marches de la mort
J'écris ton nom

欲望もない不在の上に
裸の孤独の上に
死の足どりの上に
ぼくは書く おまえの名を

Sur la santé revenue
Sur le risque disparu
Sur l'espoir sans souvenir
J'écris ton nom

戻ってきた健康の上に
消え去った危険の上に
記憶のない希望の上に
ぼくは書く おまえの名を

Et par le pouvoir d’un mot
Je recommence ma vie
Je suis né pour te connaître
Pour te nommer

Liberté.

そしてただひとつの語の力をかりて
ぼくはもう一度人生を始める
ぼくは生まれた おまえを知るために
おまえに名づけるために

自由(リベルテ)と。

安東次男訳


この詩は、エリュアールと別れて、ダリ夫人になったガラ(この名前もエリュアールが名づけた)との時代ではなく、その後に知り合ったニッシュ(=ヌーシュ。やはりエリュアール命名)との時代に書かれたもの。。





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by yomodalite | 2015-07-02 07:32 | 映画・マンガ・TV | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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