映画『ラスト、コーション』監督:アン・リー

ラスト、コーション [DVD]

トニー・レオン,タン・ウェイ,ワン・リーホン



ようやく観ることができた、2008年公開のアン・リー監督の映画の感想です。

原題は、Lust, Cautionで「LAST」ではない。過激な性描写が話題になっていたけど、あのトニー・レオンがこんなことを、、とか、この映画でデヴューした清楚なお嬢さま風のタン・ウェイがそんなことまで、、といった期待はおそらく裏切られる。そして通常の映画では見ることのない、ひどく生々しいSEXシーンは、それが「エロス」なのかどうかさえよくわからない。

物語の舞台は、1942年、日本占領下の上海。人々のきもちを、演劇を通して上演するだけでは物足りなくなった学生たちは、抗日運動の敵である政府高官のイー(トニー・レオン)に、ハニートラップにかけ暗殺することを計画し、学生演劇の主演女優のワン・チアチー(タン・ウェイ)は、その目的のためにSEXを覚える。


イー:私の周りは高官ばかり

国の重要な問題や将来について語る

だが、何を言おうと、彼らの目に浮かぶものは同じ

チアチー:何です?

イー:恐れだ。

でも、君はまるで違う 恐れていない。違うかな?

チアチー:あなたは?

イー:君は聡明だが麻雀は弱い

チアチー:そうね、いつも負けるわ。あなたには勝ったけど


イーを食事に誘うことに成功し、殺害を準備した自宅の玄関まで連れて来たチアチーだったが、イーは家には上がらなかった。彼はとても慎重だった。

チアチーたちの計画は破綻し、仲間たちもバラバラになった3年後、街中に餓死する人々が溢れる上海で、チアチーはかろうじて復学し、授業では日本語がその素晴らしさとともに教えられている。束の間の娯楽を求めて入った映画館で、ケーリー・グラントが主演する「愛のアルバム」を観ていると、映画は途中でカットされ、

「500年間、英米の抑圧を受けてきたが、全アジアの民族は、ついに苦しみに勝ち、自由を手にいれた。アジアをアジア人の手に取り戻すため、我々は1日もひるむことなく奮闘し、、、」

というナレーションに変わる。

映画館からの帰路、チアチーはかつての仲間、クァン・ユイミンに再会し、自分の思いから危険な目にあわせたことを詫びるユイミンは、再び、チアチーをスパイ活動へと導いていく。「君を傷つけることはさせない」と言って。

危険な任務だということはわかっているはずの彼女は嫌がることもなく、イーの自宅で下宿する身となる。そして、イーはついに、チアチーを抱くことになるが、そこで、激しい情欲をむき出しにしているのは「政府高官」のイーで、目的のために愛人を演じているはずの「女優」は演技を忘れている。

日本の降伏は目前に迫り、崩壊寸前の南京国民政府の高官であるイーを「殺害する」という役目に意義はなく、そこにあるのは「危険」だけ。しかし、チアチーをレジスタンス活動に誘ったユイミンや、彼らを指導する反政府の軍人には、自分の信じる道しか見えていない。

でも、チアチーは何も信じておらず、ただ、イーに会いたいという思いさえも、自覚できていない。そして、その「目的のなさ」が疑うことしかできないイーの心を揺るがすことになる。

チアチーが、イーをハニートラップにかける作戦に参加したのは、ユイミンへの愛ではなく、そこには、祖国への愛や、アジアをアジア人の手にというスローガンも、政府の任務といった「理由」もない。ただ激しく肉体を求めあったイーとチアチーの間には、むきだしの「真実」だけがある。

誰かが、誰かを裏切るのではなく、
誰もが、国や政府や思想に裏切られているけど、
自分の心を、自分で裏切ってもいることに、誰もが気づいていない。

それゆえ、アン・リー監督は、この映画の中で一切「愛」を描こうとしないのだ。

漢字によるタイトルは、『色・戒』。

「色」には様々な意味があり、Lust, Caution の「Lust」にも、肉欲だけでなく、征服欲、金銭欲、名誉欲、、など、さまざまな意味があって、

この映画には、すべての「色」と「Lust」と「Coution(警告)」が織り込まれている。

世界的に評価の高いアン・リーですが、本当にスゴイ監督だということがよくわかって、『ブローバック・マウンテン』しか観ていなかったことが恥ずかしくなった。


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by yomodalite | 2015-05-29 06:00 | 映画・マンガ・TV | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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