プロレス少女伝説/井田真木子

プロレス少女伝説 (文春文庫)

井田 真木子/文藝春秋

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著者である井田真木子氏は、2001年に、44歳という若さで亡くなられたノンフィクション作家。それなのに没後10年以上経った2014年に、井田真木子著作撰集というものが出版されているということを知り、どんな作品を書いておられた方なのか知りたくなって、1991年に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した本書を読んでみることにしました。

伝説は、長与千種、神取忍という女子プロレスをあまり知らない人でも、名前と顔がわかる人が多いふたりと、海外から日本にやってきた、天田麗文と、デブラ・ミシェリーという4人の少女たちによるもの。

天田麗文は、外務省職員として旧満州に渡った父親が、中国人と結婚して生まれた子供だったが、父がガンで亡くなった後、12歳で、中国から日本に帰国することになった。言葉も通じず、地域にも家族にも溶け込めず、終日テレビの前に座っていた彼女を惹きつけたのは、女子プロレス。それから、彼女はプロレス雑誌をよむことで日本語を覚えるようになり、女子プロレスラーになれたら、南京に帰れる。それが彼女の唯一の夢となった。

デブラ・ミシェリーは、イタリア人の父と、アメリカ・インディアンの母、共に黒い眼と黒い髪のふたりから、ブロンドで青い目をもって生まれてきた。父は少女の美しさを偏愛し、その嫉妬からか、母からは虐待をうけ、7歳で両親が離婚すると、彼女は祖父母と同居しながら、アルバイトに精をだし、10代で起業家となるほどだった。その後、モデルにもなった彼女は次第にエンターテイメントの仕事に惹かれるようになり、その1ページを女子プロレスラーから始めた。

神取忍は、高校時代、女子柔道体重別選手権に出場し、3年連続で優勝していた。柔道の天分は明らかだったものの、キツくパーマのかかった金髪のカーリーヘア、なかば剃り落とされているような眉の彼女は、その試合内容よりも異彩を放ち、卒業後は大学の推薦入学をすべて断り、その後は、独自の練習方法で国際大会に出場した。彼女の肩書きは、当時から1985年に引退するまで「無職」だった。

そして、天田麗文がテレビを見て憧れ、デブラが「外人レスラー」として対戦して、これまでにない感覚を味わったのが、クラッシュ・ギャルズで旋風を巻き起こしていた長与千種だった。

長与千種は、元競輪選手で、引退後の商売に失敗した父親から空手を習っていた。1964年に大分で生まれた彼女は、『月刊平凡』の女子プロレス募集要項の “月収10万以上”という記載を見て、「こりゃあ、牛ば買えるわぁ!」と思った。その頃の彼女は、「土地を持っているんが金持ちで、10万円で土地を買って、そこに牛を飼ったら、もう絶対に金持ちにきまってる」と。「プロレスばぁなって、月に10万円の半分は仕送りしたる。その金でオヤジに牛買ってやる」本気だった。

私がこの本をのめり込んで読んだのは、貧しい境遇から這い上がった姿ではなく、自分の居場所を探し求め、人とは違った場所でそれを見つけ、大勢の人を熱狂させたこと。そして、それが厳しい練習量とか、根性などといったものよりも、彼女たちひとりひとりが新たに「創造」した物語によるものだったこと。

長与千種がもっていた部活の先輩のような明るさを、彼女自身がどのように演出していたか、また、「ミスター女子プロレス」「女子プロレス、最強の男」と言われ、男性のプロレスラーにさえ勝利した神取忍のことを、これまで、私は男になりたかった女性だと思っていた。

でも、彼女は、自分が「女」であることに強いこだわりを持っていた。

そして、現在よく使われるようになった「心が折れる」という表現は、今まで一度もギブアップで負けたことのなかった、女子プロレス草創期のスター、ジャッキー佐藤と神取忍の試合から生まれた言葉だった。

大宅壮一ノンフィクション賞を受賞したとき、選考査員だった立花隆は、『私はプロレスというのは品性と知性と感性が同時に低レベルにある人だけが熱中できる低劣なゲームだと思っている。もちろんプロレスの世界にもそれなりの人生模様が様々あるだろう。しかし、だからと言ってどうだと言うのか?世の大多数の人にとってはそんなことはどうでもいいことである』と言ったらしい。

プロレスが重要だったことは、私にもないですが、2015年の今、井田真木子の重要性は、立花隆の遥かに上をいっていると思う。『井田真木子著作撰集』も絶対に読まなければと思った。



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by yomodalite | 2015-05-26 13:09 | 報道・ノンフィクション | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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