小説外務省ー尖閣問題の正体/孫崎享

小説 外務省-尖閣問題の正体

孫崎 享/現代書館

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2014年4月に出版された本。サブタイトルは「尖閣問題の正体」ですが、そこから考えることで、今起こっている「イスラム国」への対応や、安倍首相の役割についてもよくわかる本です。

◎防衛大学学群長を退任後『戦後史の正体』を出版し、12万部を突破するほどヒットした元外交官・孫崎享氏の告発小説が出版拒否されまくりの真相(▶▶超面白いけど出版拒否の嵐…)

なぜ、出版拒否されたかがよくわかる箇所を少しだけ抜粋します。

(引用開始)

石原慎太郎東京都知事は2012年4月16日午後、米国の研究所、ヘリテージ財団主催のシンポジウムで講演し、尖閣諸島の一部を都が買い取る意向を示した。

西京寺がこの話を聞いた時、最初の反応が「なんで、ヘリテージ財団だ?」であった。ヘリテージ財団は、共和党系で最も力の強い、軍の補強を強く主張する研究所である。しかも、昔から「闇の世界」と関係しているのではないかと噂され、CIAや軍諜報機関のDIAを経験した者が勤務している。ニュースサイト「watch pair」は、1980年代、韓国のKCIAは、ヘリテージ財団に寄付を行い、ヘリテージ財団は、統一教会の活動家を研究所で勤務する者として受け入れていた」等の記述をしている。ヘリテージ財団は単なる研究所ではない。スパイ活動と関係しているのだ。

スタンフォード大学名誉教授のメイは、ヘリテージ財団での石原の演説を聞いたあと、ボアーズ・ヘッド・インの夕食会に来た。米国国防情報局DIA招待である。米国国防省は、将来の国防政策を中国の脅威を軸として構築する予定だった。そのとき、日本と韓国を米国の尖兵として中国に対峙させようと思っていた。日中間に緊張をもたらすために、石原知事をヘリテージ財団に呼んで演説してもらうことを計画した。

バンダービルド大学のジェームズ・アワー教授(元国防省日本部長)と、リチャード・ローレス元国防副次官も参加した。ふたりは日本を手玉に取る「ジャパン・ハンドラー」と呼ばれるグループの中心人物である。

1990年代後半、さまざまな形でCIA協力者リストが公表された。そのひとつであるクローリー・ファイルには、POCAPON(暗号名)=緒方竹虎(朝日新聞社主筆吉田内閣時の副総裁)、PODAM(同)=正力松太郎(読売新聞社社主)POHALT(同)=柴田秀利(正力松太郎の右腕)だけでなく、メイの名前が出た。「CIAのスパイ」と指摘されて、日本で活動できるはずがないと、メイは思ったが、読売新聞も、メイも日本で追求されることはなく、それどころか、日本の政界、財界、言論界の上層部との接触の密度が逆に濃くなった。

石原慎太郎は、メイと密接な関係をもっていることを自慢している。メイは石原を熟知している。彼には米国で評判が高くなることを教えればいい。(P68〜73を省略して引用)

2005年に「ゲームの理論を通じて、紛争と協調への理解を深めた」功績でノーベル経済学賞をもらったシェリング教授は、そこで、こんな理論を展開している。『勝利と言う概念は、敵対するものとの関係でなく、自分自身が持つ価値体系との関係で意味を持つ』

欧州政治の専門家である青山学院大学の羽場久美子教授は、

「日本政府は尖閣諸島などを『固有の島』と言っていますよね。でも、これはおかしいんです。私は民族・地域紛争を研究していますが、『固有の島』という論じ方はおかしいと思います。日本は尖閣諸島を1895年に自分のものにしたと「固有の領土」と言っていますが、ヨーロッパでは、19世紀や20世紀の問題で「固有の領土」という言い方はしないのが普通です。19世紀末ののヨーロッパでは、一方が「固有の領土」と言ってしまうと、ほとんどが戦争になってしまっています。国境線の引き直しを巡って、約2千年に及ぶ紛争が続いてきました。国境の取り合いは「ゼロ・サム・ゲーム」です。取った、取られたでは終わらず、そこから次の戦争が始まります。」(P85〜P88を省略して引用)

日本ではCIAはよく聞くが、DIAが言及されることはあまりない。ヘリテージ財団のクリングナー上級研究員(東アジア担当)は、財団の会議室にCIAやDIAの面々を集め、メイ教授も招待した席で、こう口火を切った。

「尖閣諸島では日中間の緊張が起こっている。我々の狙い通りの現象だ。今日の緊張をつくってくれたことに関しては、前原氏が国土交通大臣の時に、タイミング良く漁船衝突事件に誘導した功績が大きい。さらに言えば、わがヘリテージ財団で石原都知事が「東京都で尖閣諸島を購入する」と言うアイデアを出してくれたのがよかった。これはメイ教授の尽力も大きい。2012年12月に16日、衆議院選挙がある。民主党が大敗して、自民党が政権をとるのは確実だ。」

CIA職員のマークが言う。「民主党に食い込ませていたからな。前原、野田、管がクーデターをやり、特捜部と新聞社が援護射撃した。日本国民を誘導するのは易しいからね」

「メイ教授、自民党の総裁選挙はどうなるでしょう」クリングナーの質問に、メイ教授は自信たっぷりに「安倍になります」と述べた。

マーク「尖閣諸島で火がついている間は、日本人の中で反中感情は燃え上がります。NHK。読売、朝日、日経これらは皆「日本固有論」で展開しています。異論をはき続ける人間は所詮一匹狼で、大手マスコミは使いません。それでも続ける人がいえば、人物破壊で始末するだけです。マスコミには人物破壊を行えるよう手を打ってあります」

誰かが『週刊新潮』と『週刊文春』はいい仕事をしている。と言うと、別の人間が「読売新聞の貢献に比べれば、足もとにも及ばないよ」笑いと拍手がおきた。

国際的にも、情報機関が女性の問題で重要な人物を追いつめるケースが続いた。ウィキリークスの組織を立ち上げ、タイム誌の2010年「パーソンズ・オブ・ジ・イヤー」の読者部門で一位に選ばれたジュリアン・アサンジは、スウェーデン滞在中の女性支援者から裁判をおこされたことで、ウィキリークスの活動は止まり、フランス代表選では、サルコジを破る可能性が高かったストロス・カーンがニューヨーク訪問中のホテルで、清掃作業員の女性に性的暴行を加えたと訴えられ、立候補を取り下げられた。

CIAは胸を張って言う。「日本は今やすっかりわが国のいうとおりに動く国になった」2013年4月現在、各国の米国債保有額は、億ドル単位で、中国12649、日本11003、英国:1634、ドイツ:640。日本はドイツの20倍もの米国債を買わせている。この知恵は、英国が植民地インドに使った手段と同じである。1996年、橋本首相はコロンビア大学での講演で「米国債を売ろうという誘惑にかられたことはある」と述べた翌年に内閣崩壊し、その後、汚職問題で議員辞職に追い込まれ、2006年に腸管虚血で死亡した。

日本の検察は説目説目で、対米自主派を潰してきた。(P114〜120を省略して引用)

(引用終了)

ここまでで、本書のまだ半分以下。

このあとも、鳩山、森元首相などなど、多くのキーパーソンが実名で登場し、マスコミ報道とは異なる姿や、勇気をもって真実を伝えようとした人々のことも書かれ、主人公である外交官・西京寺は孫崎氏自身を投影する外交官でありながら、孫崎氏自身も登場し、

2009年防衛大を辞め『戦後史の正体』を出版したとき、民主党が政権を取り、日米関係が見直されようとしているときだったので、大変な関心を呼び、ツイッターを始めるきっかけにもなった。ソーシャルネットワーク(SNS)は誰でも始められる。政府と異なる意見を発信していくのは、大変なことだ。2011年、「ウォール街を占拠せよ」を合言葉にした抗議行動は、全米に広がり、1%の富裕層が国全体を支配している。我々は99%だという主張は支持を拡大したものの、デモの中に紛れ込んだ警察官が意識的に先導し、警察を衝突させた。

SNSは重要な役割を果たすようになり、2013年の米国民の世論調査では、新聞・テレビへの信頼はわずか23%だった。

と、本書の、孫崎氏は、SNSに期待を寄せる発言をしていますが、主人公の西京寺は、すでに、日本のSNSにも、大手マスコミや、諜報機関による誘導がなされていることも覚悟して行動しようとしているようです。

ダンテの『神曲』にこういう言葉があるらしいよ。『地獄のもっとも暗黒の場所は、道徳的危機のときに、中立を保っていた(何も発言しなかった)人のために用意されている」

西京寺が引用した言葉は、この物語を読む私たちにとっても痛烈な言葉です。

その気持ちに突き動かされて、多くの人が間違った情報を拡散し、憎しみを煽り、差別を助長するだけの「偽の真実」でネット空間を埋め尽くし、自分の良心を表現する以外になんの効果もない祈りを捧げ、、、

そうして、一神教は、世界の対立の元凶で、、などと言っていた、その場の空気以外に信じるものをもたない「日本教」の信者である私たちは、戦う理由もなく、戦争に協力させられ、培ってきた価値観も、お金も、命も、奪われていく。

戦争なんか絶対にしたくないと思っているのは、アメリカでも、ヨーロッパでも、アジアでも、アラブ諸国でも、本当は一番多いはずなのに。。


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Commented by kyou89rock at 2015-02-06 18:37 x
購入します。考えることが出来る人間が作った社会なのだから、考えなくては。せめても、考えなくては。
このブログに魅せられています。ありがとうございます。
Commented by yomodalite at 2015-02-07 18:13
これを書いたとき、私は哀しかったり、腹が立ったりしてたと思います。それで、「必読!」なんて書いてしまったんだと思うんですけど、、

>考えなくては。せめても、考えなくては。

同感です。本を読んで、なにかがわかったところで、なにも変わらないと思う人も、そんなことより、もっと行動すべきだという人も多いでしょう。

でも、私にはどうすればいいのかわからないし、誰かが、自分にもできるような素晴らしい方法をもっているようにも思えないし、頭が良くて、人格も素晴らしい、そんなひとであっても、すべてを解決できないと思う。

「この道しかない」とか、これが絶対に正しいとか、絶対に悪いとか、そんな答えは、全部「ニセモノ」だと思う。私は、ずっと考えることを止めたくないです。なにも出来なくても、その方がほんの少しだけ、マシかもしれないと思う。
Commented by mitch_hagane at 2015-02-08 11:39
盛り上がっているところに、駄レスですみません。(笑)

>ダンテの『神曲』にこういう言葉があるらしいよ。『地獄のもっとも暗黒の場所は、道徳的危機のときに、中立を保っていた(何も発言しなかった)人のために用意されている」

これはJ. F. Kennedyのボンにおける演説(1963)に基づいていると思われます。
"Dante once said that the hottest places in hell are reserved for those who in a period of moral crisis maintain their neutrality."

あれっ、『もっとも暗黒』じゃなくて、hottestかあ。
ただし、そもそもこのケネディの引用自体が怪しいです。(汗)『神曲』の第3歌36行あたりからということなんですが、原文は全然そんな意味になってない。ケネディの読書能力に問題があるか、あるいは(この方がありそうですが)わざと自分の演説に都合よく意訳していると思われます。(笑)
Commented by yomodalite at 2015-02-08 20:48
みっち先輩たら、私が空気を読まないコメントが大好物って知っててもうっ(嬉)

私は『神聖喜劇』(The Divine Comedy)のことを、『神曲』だなんて意味の分からない訳し方をしたうえに、あれこれ屁理屈をいって、ワケの分からない解釈を書いている人が大嫌いなので、通常なら、日本人のくせに「神曲」から引用するなんてと思って、速攻で「知ったかぶりフォルダ」の底の底の「地獄w」に埋めるところなんですが(笑)、

この小説の中の主人公が「こんな言葉があるらしいよ」と言うのは、ダンテが『神曲』を書いたときの怒りに通じていると思いますし、孫崎氏の意図することもわかるので、「もっとも熱い場所」を「もっとも暗黒」にされたことは無問題なんですが、

ただ、みっちさんのコメントには興味深い点がいっぱいあるので、
ぜひ、もう少しお伺いできたらと思うのですが、

まず、

>ケネディの引用自体が怪しいです。

みっちさんが書いてくれたスピーチ文で検索したところ、1件しかヒットしなくて、

ダンテの「名言」としては、

“The hottest places in hell are reserved for those who, in times of great moral crisis, maintain their neutrality.”

がヒットしました。

『神曲』の第3歌36行の原文も、まだ捜索していないのですか、『神曲』の第3歌36行が確認できるサイトはどちらでしょうか?原文と言っても「英語」ですよね?ケネディのスピーチ原文がわかる場所も教えていただけると助かります!
Commented by mitch_hagane at 2015-02-08 21:56
はい、瑣末な個所かもしれませんが、怪しげな引用を適当に言い換えて使うのは、作者の品性を疑います。(笑)

まずケネディの演説の原本はここです。
1963年6月24日ですね。
http://www.presidency.ucsb.edu/ws/index.php?pid=9294&st=&st1=

それで、ここでケネディが引用した文章とまったく同じものは、「神曲」英訳版に見当たらない。
それらしきところがあるのは、第3歌の36行かいわいで、まあこれだろうということになっております。
英訳の例:
http://www.bartleby.com/20/103.html

ここは「神曲」では多分一番有名な歌で、ダンテはウェルギリウスの案内で、地獄の門をくぐり、いよいよ地獄めぐりを始めようというところです。
そこで三途の川を渡ろうとするのですが、あたりを亡者・亡霊が大勢さまよっている。
それでダンテがウェルギリウスに、あれは何ですかと尋ねます。
『誉れもなく譏(そし)りもなく生涯を送った連中』と、『神に仕えるでもなく、そむくでもなく、ただ自分たちのためにだけ存在した』天使たちのなれの果てさぁ、と答えが返ってくる、とこういうシーンです。
邦訳は、ちょうど手元にあった平川祐弘さんの河出書房新社版からです。

それで引用として全く不適切なのは、正しい引用でないのはもちろんですが、この亡霊たちのいる場所は、『hottest』でも『もっとも暗黒』でもないからです。
なにせ、まだ地獄へ入る前のところですから、あまり厳しい環境ではなく、せいぜい蜂やアブに刺される程度で済んでいます。(笑)
Commented by yomodalite at 2015-02-09 11:35
みっちさん、ソースの紹介ありがとうございました!

ケネディスピーチの引用が間違っているというのは事実のようですね。

http://en.wikiquote.org/wiki/List_of_misquotations

上記のサイトの該当部分、ダンテ(6)←このリンク先に1971年の訳があります。

>怪しげな引用を適当に言い換えて使うのは…

主張する内容に関わらず、そういった原則に忠実でありたいと私も思います。

ただ、みっちさんは、ケネディ、孫崎氏ともに品性を疑われたのだと思いますが、そこには少し異論があります。まず、孫崎氏がこれを引用したことについて。

これは、タイトルにもあるように「小説」で、国民の大多数を扇動しようとする「物語」に対して、別の見え方を提示するための「プロット」になっています。安倍首相の言う『この道しかない』という結論は、各国首脳の意見や、さまざまな情報分析に基づき、多くのデータを駆使して、実行へと移され、多くのメディアがそれを追随しています。

そういった人々の頭の中には、彼らがそれを正しいと信じた言葉や、数字がたくさん詰まっていると思います。ノーベル経済学賞を受賞した学者のいう数字、最新の「戦略論」とか、他にも、メディアが権力とズブズブになっていく理由には、最高機密は、権力者の側にしか得ることができないからでしょう。得られる情報が違えば、見える景色は違ってきます。そこから「勝てば官軍」とか「寄らば大樹の影」と、切羽詰まった現状を抱えていない人の多くが選択する道はいつもそうです。

政治の言葉は、データの正確性ではなく、ディベートの領域でしょう。
Commented by yomodalite at 2015-02-09 11:42
孫崎氏の本は、他にも多くの「名言」が引用されていて、他にも、みっちさんが首をかしげるものが、たくさんありそうですが、ケネディも、孫崎氏も、人々によりわかりやすく説明するために苦心したものではないでしょうか?

私は、政治家や、政治を語る人の「品性」は、引用の正確性よりも、自分の言葉として「責任をもつ」という点に置きます。

それと、もう一点、

ダンテの「神曲」に対しては、引用の正しさという物差しを使えるものなのかどうか、そこが一番の疑問です。もっとも、引用の多い書物は「聖書」ではないかと思いますが、ダンテの言葉も「解釈」の領域に属する書物だと思います。

そして、あらゆる人が解釈し続けてきた物に対して、「それはこう考えるべきだ」と命がけで革新を迫れるほど力をもつ人のことを、一方で「預言者」だとか「救世主」と呼びつつ、犠牲にしてきたのだと思います。

私はケネディについては、「スゴいひと」なのかどうなのか、自分の中でイメージが固まっていないんですが、去年の暮れに『ジョン・F・ケネディはなぜ死んだのか 語り得ないものとの闘い』という本が出版されて、オリバー・ストーンや、オノヨーコが絶賛しているんですが、700ページもあるような大書のため、私はまだ手をつけていないんですが、みっちさん、お読みになりました?
Commented by mitch_hagane at 2015-02-09 13:30
おや、凄い文章量がぁ。(驚)

みっち的には、『ダンテの『神曲』にこういう言葉があるらしい...』を読んで、ダンテがそんなこと書くかなぁ、おかしいなぁ、と思ったのがきっかけです。
この時点では、元ネタがケネディだなんて、知りませんでした。ちなみに、みっちはケネディ信奉者ではありません。(笑)

>ダンテの「神曲」に対しては、引用の正しさという物差しを使えるものなのかどうか...

これはどういうことなんですか。それがどんな本であれ、引用するときには解釈を入れちゃあ駄目でしょう。
仮にみっちが孫崎氏の本を引用する機会があったとして、(まあ絶対ないと思いますが−笑)その場合には、正確に引用しますよ。

Commented by yomodalite at 2015-02-09 16:03
>どんな本であれ、引用するときには解釈を入れちゃあ駄目でしょう。

みっちさんが読んだものでさえ「翻訳」という解釈が加わっているでしょう?
私には、何百年前の人が書いたものを、現代人がそこにある魂まで引き継いで読めるとは思えません。

>「ダンテの「神曲」に対しては、引用の正しさという物差しを使えるものなのかどうか…」これはどういうことなんですか。

『神曲』が完成したと言われているのは、ダンテの死の直前の1321年頃。活版印刷期が発明されるよりもずっと前、聖書をはじめてドイツ語に訳したルターよりも、ダンテはさらに100年以上前の人ですよ。ブレイク(1757 - 1827)の詩集のように、本人が書いたものが残っているわけではないでしょう?

私は『神曲』には、正確に引用できるほどの「原本」はないと思いますし、あったところで、古いイタリア語の詩です。

私が『神曲』について信じられるのは、当時のイタリアの方言を使って、詩の形式で書かれていて、14世紀頃から始まったと言われるルネサンスの原動力となったと言われるほどの「破壊力」があったということです。

政治家でもあったダンテは、当時の教会に反旗を翻し、人々が読むことのできる「世界の物語」を書いたのだと思いますが、そんなものが、そっくりそのまま残っているとは、ルネサンス時代に処刑された人々のことを想像しても、私にはありえないことのように思いますし、神曲のWikipediaにある「ダンテは敬虔なカトリック教徒であり、『神曲』はカトリック教会の三位一体の玄義をそのまま体現したキリスト教文学でもある」という記述は大変疑わしいと思います。また「キリスト教徒の中にもこの書物を問題視し、他宗教への冒涜と位置づける人もいる」という問題がありつつも、今に至るまで、多くの引用がなされてきたことを考えれば、英訳にいたるまでにも、多くの「改変」が行われ、「おとぎ話」のように少しずつ形を変えてきたはずです。

それに、原典は詩ですけど、『神曲』が長く引用されてきた歴史は、詩の形式ではなく『神曲物語」として、人々にイメージされているものでしょう?
Commented by mitch_hagane at 2015-02-09 17:03
まあ、こんなことで、議論するのも何なんですが、「引用」「翻訳」「解釈」はそれぞれ異なったものです。「引用」はそのまま原文を切り出すだけですから、解釈は含まれません。「中略」とかして、肝心な点をわざと省いたりするのでなければね。
たとえば、問題のCanto IIIのイタリア語原文を「引用」ならば:
『Mischiate sono a quel cattivo coro
de li angeli che non furon ribelli
né fur fedeli a Dio, ma per sé fuoro.』
それを、The Harvard Classics. 1909–14.の翻訳で引用するならば:
『with that ill band Of angels mix’d, who nor rebellious proved,
Nor yet were true to God, but for themselves
Were only. 』
もちろん、引用したあと、どうそれを解釈しようがそれは自由ですが。(汗)

話は逸れちゃうのですが、ちなみに、上のイタリア語原文をGoogle翻訳にかけると、直ちにイタリア語と判断して、こんな訳が出てきます。
『Are mixed to that bad choir
of these angels who were not rebels
Nor faithful to God, but were for self.』
なんか、Harvardのより分かりやすいのですが、これはどういうことなんでしょう。(笑)

あと、ダンテ「神曲」の書誌学については、詳しく存じませんが、大勢の学者さんが写本の突き合わせ検討をしているのではないでしょうか。そんなにいい加減なものじゃないと思いますが。
だって、ダンテなどまだ新しい方で、2千数百年前のプラトンやアリストテレスだって、(多少欠落とか不可解な点はあるにもせよ)ちゃんとテキストは確定しているのですから。(笑)
Commented by yomodalite at 2015-02-09 18:12
みっちさん、色々気がつかない部分にツっこんで頂いて感謝しております。

最初に書いたように、

主張する内容に関わらず(みっちさんがおっしゃってるような)原則に忠実でありたいと思います。

ただ、ケネディと孫崎氏への「作者の品性を疑います」発言に対して、そうは思わないという理由を書いているだけなんです。

なので、「引用」「翻訳」「解釈」について議論をする気はないです。

>まあ、こんなことで、議論するのも何なんですが、

このブログではそういった意見は大歓迎なのですが、

前のコメントに書いたように、

私は、政治家や、政治を語る人の「品性」は、引用の正確性よりも、自分の言葉として「責任をもつ」という点に置きます。以上です。
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by yomodalite | 2015-02-02 13:28 | 政治・外交 | Trackback | Comments(11)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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