キング・イン・ザ・ミラー/清涼院流水

キング・イン・ザ・ミラー

清涼院 流水/PHP研究所

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えっ、今頃?と言われそうですが、、「今でしょ!」という声が聞こえたんです(嘘)。

私は、桜庭一樹、清涼院流水といった、ライトノベルを戦場にしてきた作家が、共に周囲から「マイケル・ジャクソンに似ている」と言われ、『THIS IS IT』をきっかけに作品を発表したことに興味を覚えてはいたものの、清涼院氏の小説(ではなく大説らしいのですが)は未読だったので、まずは、作品を読んでからにしようと思い、「新本格」の作家として、興味をもちつつ未読だった氏の「大説」に、これを機会に出会う予定だったのですが、どんどん後回しになってきて、

それで、とりあえず、こっちを先に。ということになってしまいました。

本書は、著者が「内容紹介」で、「マイケル・ジャクソンの生まれてから死ぬまでを描いた小説であり、各章ごとに設けられたテーマに沿って成功哲学を学べるビジネス書でもあり、そして、もちろん、マイケルの傑作群について語った音楽本でもあります」と書いているとおりの作品なので、ファンにとってはすべて知っている内容でしょう。

でも、MJの情報に詳しいからといって、熱心なファンだなんて言えないよね。他人をどんなに観察したところで、自分を深く見る眼がなくては、情報は、単なる情報のままで、次々と現われる「正」や「悪」や「善」に、吸い寄せられて、自分だけが真実を知っている「正義の味方」のつもりで、人や社会を責めてばかり。なぁんてことになりがちでしょ?

他人ではなく、自分を観察するのは、すごくキツいし、そんなことをしているうちに、今度は、自己嫌悪から脱け出せなくなってしまうものね。

下記は、本書の「あとがき」から。(全文引用)

2009年6月25日ーーマイケル・ジャクソンは、復活コンサートの開幕を3週間後に控えて、この世を去りました。彼の劇的な死は衝撃波のような勢いで世界中に拡散し、浸透しました。
 
今なお、多くの人々が彼の死を悼んでいます。その数は今後、増え続けることはあっても、減ることはないでしょう。彼が消えても、彼の音楽は現在進行形で新たなファンを獲得し続けています。疑いなく人類史上、唯一無二のアーティストである彼は、まさしく永遠の存在となりました。
 
マイケルは、終生、メディアと闘い続けた人でした。そのメディアが彼の死後、てのひらを返して彼を英雄として称えたのは皮肉な話ですが、それが良い結果を生んだ面もあると思います。
 
この本における、3人めの「ぼく」ーー本書の作者は、正直に告白すると、かつては熱心なマイケル・ファンではありませんでした。マイケルと同い年のライヴァルであるプリンスとマドンナ、そして妹のジャネットの音楽は愛聴していましたが、まさしく、思春期にメディアに刷り込まれた歪んだイメージによって、マイケルは理解できない人だと思い、意識的に敬遠していたのです。
 
誤解が解けたのは、月並ですが、まさにメディアがてのひらを返した報道を開始し、映画『ディス・イズ・イット』を観たおかげです。以後、マイケルヘの関心奇強めて、個人的に調べていくうちに、自分は、なんという誤解をしていたんだ … と、世界が反転したような衝撃で愕然とするとともに、深刻な自己嫌悪に陥りました。同時に、今はもうこの世にいないマイケルヘの罪悪感で押しつぶされそうにもなりました。マイケルヘの心からの謝罪の気持ちで、胸がいっぱいになりました。
 
ぼくが激しい自責の念に襲われたのは、自分白身も、外見や肩書では決して他人を判断せず、偏見や差別など先入観で人を判断することをなによりも毛嫌いして生きてきたつもりだったからです。それなのに、思春期に刷り込まれたメディアのゴシップ報道に踊らされ続けていたのです。
 
実は、プリンスの大ファンである親友は、ずっとぼくの人間性を「かなりマイケルっぽい」と言い続けてくれていました。ほんとうなら、それ以上の賛辞はなかったはずなのですが、以前のぼくは、自分が冷やかされたように感じて、傷ついてすらいました。なんという愚か者だったのか……。最近、彼と話した時に、その反省を伝えると、「やっと自覚したんだね」と笑われました(余談ですが、ぼくは晩年のマイケルと身長・体重が同じなので、少なくとも体型は確実に似ています)。
 
ぼくは作家としてデビュー以来14年間、一貫して「世の中をハッピーにしたい」という第一目標を公言し、そのことだけを考えて、活動してきました。しかし、ぼくの場合は、マイケルと違って技巧があまりにも未熟なので、作品に込めたメッセージは読者の一部にしか伝わらず、それどころか、正反対の意味に曲解されることさえ多くありました。自分の力量不足は大前提として自覚しつつも、「どうして、こんなにも誤解されるんだろう?」と、コミュニケーションの難しさを痛感させられたこともしばしばです。そうした経験を重ねるにつれて、「コミュニケーションというものは、まず誤解しあうことが前提であって、理解しあえたとすれば、それは奇蹟的なことなのだ」という、ある種の諦観にも連していました。
 
ただ、ぼくが受けてきた誤解は、マイケルが彼の人生で受け続けてきた誤解に比べれば、大したことではありません。かく言うぼく自身も、彼のことを誤解していたわけですし。
 
マイケルは、なによりも第一に、人々があらゆる偏見や差別を超えて、手と手をとりあえる平和な世の中を望んでいました。それは、ぼく自身の最大の願いでもあります。ぼくの活動は、マイケルと比べるとスケールがミニマムすぎて世の中には大した影響は与えられないかもしれませんが、せめて自分にできることは、ベストのチカラで、こつこつと積み重ねていきたいと思っています。これまでもそうしてきましたし、これからも、この姿勢が変わることはありません。
 
今では、もちろん、マイケル・ジャクソン関連のすべての曲を深いレヴェルまで把握しているぼくは、マイケルの歌で好きな曲を挙げ出すとキリがないですが、こうした話の流れの中では、やはり、本書のタイトルの由来でもある「マン・イン・ザ・ミラー」が、あたまに浮かびます。「マン・イン・ザ・ミラー」は、マイケル自身の作ではありませんけれども、そのメッセージは、まさにマイケルのいちばん伝えたかったことであり、彼自身も、この曲をとても気に入っていました。
 
「もし、きみがこの世界をより良い場所に変えたいと願うなら、まずは鏡の中の人物といっしょに始めればいいんだよ。これ以上わかりやすいメッセージはないだろう?」
 
ぼくは、本書のタイトル「キング・イン・ザ・ミラー」に、ふたつの意味を込めています。
 
ある海外の有名人は、こんなことを言いました。「われわれは、マイケル・ジャクソンと同じ『マン・イン・ザ・ミラー』をお手本にしている。つまり、それは、マイケルの鏡に映っているマイケル自身のことさ」
 
もしあなたの自宅の洗面所にマイケルのポスターが貼ってあったなら、キング・オブ・ボッブは、いつでも鏡の中にいるでしょう。そうでなくても、心の中の鏡には、お手本として。
 
また、「キング」が意味するもうひとつの存在は、ぼく自身も含めた、一般大衆のことです。
 
ある有名なベストセラー作家は、こんなことを言いました。「読者というのは決して満足することがなく、つねにわがままな主張を押しつけてくる王様や女王様であり、作者は、彼らに従順に奉仕し続ける奴隷にすぎないのです」
 
14年も作家活動を続けていると、右の言葉は、実感をもって受け止めることができます。
 
作家にとっての読者は紛れもなく「キング」であり「クイーン」ですが、ひとたび自分が読者の立場になった時には、もちろん、それは当の作家自身にも当てはまることです。
 
実際、メディアのつくった歪んだイメージに踊らされてマイケルを見ていた以前の自分は、間違った思い込みに縛られ、傲慢な気持ちで彼を見下していた愚かな「キング」でした。それを自覚するだけの思慮を、かつてのぼくは持ちあわせていませんでした。
 
全員がわがままな「キング」や「クイーン」であるわれわれ一般大衆は、まるで檻の中の動物を観守るような高みから、マイケル・ジャクソンという人物の一生を観察し続けました。
 
しかし、いざ視点を逆転させると、よりくわしく観察されていたのは、実は、檻の外にいたはずのわれわれなのではないでしょうか? 檻の中の動物にとっては、外から自分たちを覗き込んでいる人間のほうが、珍妙で、動物よりも危険で、醜い存在なのではないでしょうか?
 
われわれが「キング」を観ていたつもりで、観られていたわれわれこそが「キング」あるいは「クイーン」だったとすればーー彼の目には、ぼくたちの姿は、どのように映っていたことでしょう?
 
本書は、半年間に及ぶ準備期間を経て、個人的な強い思い入れにより作者の誕生日8月29日に起筆し、マイケル・ジャクソンの誕生日である8月29日に脱稿いたしました。
 
作中の記述は基本的にすべて事実に基づいていますが、一部に想像で拙った部分や、わかりやすくするために脚色した箇所があることは、念のため、おことわりしておきます。
 
執筆に際し、多くの資料に目を通しました。資料によって矛盾した情報やデータがある際には、作者の独断で、より信用性が高いと思えるものを採用しました。特に参考にさせていただいたものを左に記して、御礼申し上げます。ありがとうございました。

・西寺郷太『新しい「マイケル・ジャクソン」の教科書』(ビジネス社)
・西寺郷太『マイケル・ジャクソン』(講談社現代新書)
・アフロダイテ・ジョーンズ(押野素子・訳)『マイケル・ジャクソン裁判』
(ブルース・インターアクションズ)
・Michael Jackson“Moonwalk” (Doubleday)
・Michael Jackson“Dancing the Dream”(Doubleday)
・Michael Jackson Thriller 25th Anniversary The Book(ML Publishing Group)
・Adrian Grant“MICHAEL JACKSON A VISUAL DOCUMENTALY 1958 - 2009”(OMNIBUS PRESS)
・Adrian Grant“MICHAEL JACKSON MAKING HISTORY”(OMNIBUS PRESS)
 
かつてこんなにも人を好きになったことがないかも … というほど今では愛しく想えるミスター・マイケル・ジャクソンと、今年2月に逝去した父に、本書を棒げます。

2010年8月29日 
清涼院流水 拝

(引用終了)

◎[Amazon]キング・イン・ザ・ミラー
◎「日本の小説は海外で相手にされてない」
清涼院流水の小説英訳プロジェクト「The BBB」


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Commented by 織田真理 at 2013-09-24 23:19 x
yomodaliteさん、こんにちは。

「This Is It」を見て同じように感じた方がたくさんいたから、あれだけ大ヒットしたのだと思います。
彼の生前まったく無関心」だった私は、激しく後悔、自己嫌悪に陥りました。
マイケルの視点から見た私たち・・・
まさにMonsterやGhostsだったのかも。

この作家さんは、くしくもマイケルと誕生日がいっしょだったのですね。
1年かけて書いたのかと思いましたが、発行日からみると違います((^^;
また重箱の隅つついた?(^^;
Commented by yomodalite at 2013-09-25 00:43
>また重箱の隅つついた?(^^;

疑問をもつことは、大事だとわたしは思います。

>1年かけて書いたのかと

『TII』の東京での初日は、2009年10月28日。著者が観た日はわかりませんが、それから、半年の準備期間を経て、翌年2010年8月29日に執筆を始めて、2010年10月29日に出版だとすれば、脱稿した8月29日というのは起筆と同日? 1年かけたどころか1日で書き上げたということなんでしょうか? 流石「大説家!」(笑)

まっ、でも、これは新たな物語を創ったのではなく「まとめた」というものなので、資料の準備さえ揃ったら充分「ありうる」というか、そんなに時間をかける必要はないかも。。ベテラン作家の書く量はスゴいですし、ミステリ作家の方の情報処理能力や、集中力はハンパないですし、、

以前にミステリ界の大御所の方から、メールを頂いていた時期があって、私の数行に対して、10倍返し、いや百倍返しかと思うぐらい重量級の返信があって、私なんか、それを読むだけですべての時間がなくなるぐらい大変で、、ホント辛かったんですけど、その作家の方は、そんなメールを私以外にも、何通も書いて、さらに原稿も書いてたんですよね。。
Commented by jean moulin at 2013-09-26 17:50 x
Yomodaliteさん「今」だったんだ。 
私はその時に読んだけど、「知ってる事ばっかりやん」と思いつつ、その一つ一つに感動して、愛を持っちゃってる著者の思いが伝わってきて、ものすごくほのぼのとした読後感だった。
それに、1日で書いたといっても、なんとなく納得できるような、駆け抜けるような筆致だった記憶があるよ。
Commented by yomodalite at 2013-09-26 22:03
>1日で書いたといっても、

ホントに1日なのかな。。どっか計算間違ってないかな? 

>「今」だったんだ。 

そう、ずっと清涼院氏の作品読んでからって思ってたからさぁ。でも、今このコメント書く前に、まず『コズミック』を読むことにしたよ!
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by yomodalite | 2013-09-24 14:37 | ☆マイケルジャクソン書籍 | Trackback | Comments(4)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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