おそめ ー 伝説のマダム(新潮文庫)/石井妙子

おそめ―伝説の銀座マダム (新潮文庫)

石井 妙子/新潮社

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本書を読むことになったのは、こちらで紹介されていた楠木建氏の『戦略読書日記』にとりあげられている本の中で、この『おそめ』という書名だけが、なんの本なのか、まったく想像がつかなかったので、それで、どんな内容なのかも調べずに、図書館で予約してみたんです。

購入する場合は、色々調べ回ることが多いのですが、借りられる本に関しては、とにかく真っ白な状態で「読んでみる」方が、自分が選ばないような本と出会えて楽しいからなんですが、

図書館で受け取った本の表紙を見て、初めて銀座のマダムの話とわかり、まずは「よかった」と思いました。なぜなら、元芸妓で銀座マダムになった人の本だと知っていたら、今読もうとは思わなかった。と思うんです。

銀座のマダムにも、芸妓にも興味がないわけではありませんが、

愛される性質の美女が、個人の才覚で、時代の寵児となるほどの成功をおさめる。なんて、まずは「美女にならなくては何も始まらない」という、少女時代から自分を苦しめてきた “この世のルール” を何度見せつけられたからって、自分にはどうしようもない。と思うせいなのか、

以前読んだ『江戸っ子芸者一代記』が自分には期待はずれだったからか、

とにかく『おそめ』が「伝説の銀座マダム」だと知っていたら、「今」は読まなかった可能性が高かったのですが、知らずに手に取ったおかげで、素晴らしい読書ができました。

彼女の物語は、たしかに稀有な人生といえるものなのですが、女の物語としてはありふれていると、同じ性をもつ者なら思うのではないでしょうか。

読了後『おそめ』で検索してみたら、本書に書かれていた物語を、かなり詳細に紹介しているものも多く、松岡正剛氏のサイトの『おそめ』の項でも、これでは、中身を紹介しすぎでは?と思うほど詳しく書かれていたり、

また、おそめさんが、モデルになったと言われる『夜の蝶』も、小説では読んでいませんが、映画の方は、着物への興味から偶然見てはいたのですが、

本書は、それらの印象とはまったく異なっていて、この本の魅力は、伝説にもなった物語にあるのではなく、著者である石井氏の語り口にあると思いました。

吉春姐さんや、デヴィ夫人、銀座で成功した多くの女性のようには自らを語らなかった、おそめさんのことを、石井氏は、エピソードではなく、彼女の風情に相応しい文体で綴ってあって、それで、私は惹き込まれずにはいられなかったように思います。

本書の中には、おそめさんの美しさに対して、通りを歩くとすぐにひとだかりがして「日本一!」の声がかかったとか、あの白州次郎は「綾部の傑作」といい、白州正子は「平安絵巻から抜け出した白拍子かお巫女」と書き、銀座の後輩でもある山口洋子は「京人形というより、もの哀しげな博多人形」だと綴ったことを紹介しているのだけど、

著者は、後年のおそめに直接会ってから、残された写真を見て、彼女の美しさは、写真には写せないようなものではなかったかと書いています。

しかし、その写真に遺せないような美しさは、本書の文体にはよく映しとられ、人生の深さや、哀しさは、文庫の厚み以上に迫ってくる、渾身というに相応しい傑作!

終生、女たちから激しい嫉妬をうけてきた「おそめ」さんですが、彼女の物語に強く心打たれるのも、やはり女性の方が多いのかもしれません。


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by yomodalite | 2013-09-16 09:00 | 報道・ノンフィクション | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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