Patti Smith『Banga』[3]和訳 “Tarkovsky"

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Patti Smith『Banga』[2] “AMERIGO”の続き


『Banga』には、『ラスト・タンゴ・イン・パリ』でマーロン・ブランドと共演したマリア・シュナイダーのことを歌った“Maria"や、『ラム・ダイアリー』を撮影中のジョニー・デップに贈られた “Nine” 、エイミー・ワインハウスのことを歌った “This ls The Gir”、東北地震を経験したすべての日本の人々への “Fuji-san” など、もっと親しみやすく取っつきやすい曲も多いのですが、ちょっと取っつきにくい “Tarkovsky” という曲を訳してみたかった一番の理由は、
The Second Stop Is Jupiter というサブタイトルが個人的に気になったからです。

ミケランジェロ関連で、ルネサンスのことを考えていたので、ゼウスのローマ語である「Jupiter 」とか「ユピテル」とか言われると、つい反応しちゃって、しかも、パティも、このアルバムの中で、アメリカの歴史をルネサンスの精神や理想主義と重ね合わせようとしているところが、随所に見られるので。

CDに納められたパティの文章には、

私達のバンドがロシア公演に行った際のモスクワ滞在中に私はブルガーコフとゴーゴリの墓地を訪れ、ロシアの映画監督アンドレイ・タルコフスキーのサウンド・スタジオや撮影地も訪れた。 “Tarkovsky" はサン・ラ(Sun Ra)によるテーマに様々な即興演奏を重ねた映画『僕の村は戦場だった』(英題:Ivan's Childhood)へのレスポンス。

と、あります。

調べてみると「The Second Stop Is Jupiter」は、土星からやってきたと公言するサン・ラっぽい言い方なのか、彼のアルバムタイトルでもあり、同名の曲もありましたが、パティには、ギリシャの神への思いもあるでしょう。この曲のクレジットには、Sun Ra & Patti Smithとあるのですが、サン・ラは、1993年亡くなっているので、彼の曲がサンプリングされているのかなぁと思ってみたり、

サン・ラのことも私は知りませんでしたし、彼の音楽とタルコフスキーとの結びつきも、『僕の村は戦場だった』も、昔々に1回見たきりなのですが、今の段階で自分なりに意味が通じるように訳してみました。日本語部分には充分ご注意のうえ、気になる点は遠慮なくご指摘くださいませ。

[追記]コメント欄にて、修正箇所を協議中。





Tarkovsky(The Second Stop Is Jupiter)
Wards by Patti Smith

The eternal son runs to the mother(*1)
She smoothes his brow and bids him
Drink from her well of hammered mist
Too long sweet lad, fog rises from the ground(*2)
The falling soot is just the dust of a shimmering gem
The black moon shines on a lake
White as a hand in the dark
She lifts the lamp to see his face
The silver ladle of his throat(*3)
The boy, the beast, and the butterfly.

永遠の命を得た息子は、母に助けを求め駆け寄る
体を打つかのように降る霧の粒は、母からの恵みのように
母は、息子の額を撫でながら言う
とても永かったわね 愛しい息子
霧は上がり、日は昇る
落下する煤は、まるで宝石のように微かに光る
黒い月は、湖の上で輝く
暗闇の中に差し出された、手のように白く
母は、息子の顔を見るためにランプを持ち上げる
彼の首には銀色のスプーンのネックレス
お前は、野蛮でもあり、不安に震えてもいたのね

The sea is a morgue, the sea is a morgue, the needle and the gun
These things float in blood that has no name
The telegraph poles are crosses on the line
Rusted pins, not enough saviors to hang
She blesses the road, the robe and the road and the noose of vine
And waits beneath the triangle
Formed by Mercury, an evening star(*4)
The fifth planet with its blistering sore
And the soaring eagle above and to the west(*5)
The boy, the beast and the butterfly.

海は死体置き場、海は死体置き場、注射針や銃が
名もなき血の中で漂っている
電信柱は一列に並んだ十字架のようだけど
錆びた杭は、救世主たちを吊るすには不十分
彼女は絞首刑への道のりとロープの輪の部分に祈りを捧げ
水星と金星が交わり形づくられたトライアングルにある
五番目の灼熱の惑星(Jupiter)の訪れを待っていた
そして、遥か上空から鷲は西へと向かった
その男は、獣のようでもあり、蝶のようでもあった

She walks across a bridge of magpies(*6)
Her hollow tongue fills the brightness with water
And in the wink of an eye
One planet with a glittering womb
One white crow one diamond head
Big as a world, big as a world
The boy, the beast, the butterfly

彼女は「カササギの橋」を歩いて渡る
彼女の空ろだった言葉は、その輝くような天の川によって満たされ
瞬きをしただけで、彼女の子宮からひとつの惑星が誕生する
1羽の白いカラスが、ダイアモンドヘッドの火山や
世界全体と同じぐらい大きいように
その男は、獣のようでもあり、蝶のようでもあった

Hovering(*7)
Above the sore, the blistering sore
of the fifth planet
Wait, stop, don't forget, don't forget,
How I played with you
How I kissed away your tears
Don't forget
The white mouth of the son smiles(*8)
On his beautiful tongue the seed of flight.(*9)

羽ばたいて
五番目の惑星は、焼けつくような心の傷も痛みも超越する
でも、待って、私と遊んだことは憶えていて
私があなたの涙を唇でぬぐったことを
忘れないでいて
息子の病める口は、微笑み
彼の美しい舌からは、希望の種が飛び立つ



(*1)The eternal son runs to the mother
CDの歌詞では、The eternal sun になっていますが、複数のLYRICSサイトを参照して、「son」で訳しました。ヒアリングにはまったく自信がないので、どちらかわかる方は教えてください。

(*2)Too long sweet lad, fog rises from the ground
CDの歌詞では Come along sweet lad になっていますが、複数のLYRICSサイトを参照して「Too long」 で訳しました。どちらかわかる方は教えてください。

(*3)幸運のお守りとされているネックレスのことだと思う

(*4)Mercury(水星)は、神々の使者であり、科学、論理、知性、言葉を意味していて、evening star(宵の明星=金星)は、美と愛を意味していて、その両方が交わる(triangle)地点にある The fifth planet (木星=Jupiter 巨星であることから神々の王ゼウスと考えられていた《ローマではジュビターまたはユピテル》=ゴッド)を、星としても、スターに象徴されるような人格としても表現していると思う。

(*5)eagleは、キリスト教の象徴だけではないですが、この詩の状況と、 the west から考えて、イエスか、彼のような救世主のことかなぁ。。

(*6)今回調べて初めて知ったのですが、bridge of magpies(カササギの橋)の伝説とは、日本では「七夕」として知られているもので、英語圏では「Chinese Valentine's Day」として知られているらしく、日本でいう織り姫と彦星は “カササギの橋” を渡って出逢うみたいです。


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◎[Wikipedia]Qixi Festival
◎[参考サイト]The Legend of Magpie Bridge

(*7)この行から、CDの歌詞とかなり異なっているのですが、曲を聴いて確認したものに近いLYRICSサイトの歌詞を採用しました。

(*8)The white mouth of the sun smiles が、CD歌詞で、最初、私は「White Month of the sun smiles」の間違いじゃないかと、複数のサイトを見たのですが、LYRICSサイトでは、ほとんど、The white mouth of the son smiles で、迷った末に「White Month」“断酒期間”ではなく「The white mouth」“病める口”と「son smiles」“息子の微笑み”の方が、救世主の新たな言葉(Words from the New World)に繋がるので、そちらを採用しました。 どちらかわかる方は教えてください。


(*9)CDの歌詞では、On his beautiful tongue the seed of flight. ただし、複数のLYRICSサイトで「this beautiful tunnel, a seed, a flight.」という表記があり、迷ったのですが「On his~」で訳しています。どちらかわかる方は教えてください。

◎[関連記事]『Banga』[4] “Constantine's Dream″ パティによる文章



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Commented by yomodalite at 2013-02-20 11:38
([2]AMERIGO のコメント欄の続き)昔むかし、木星は一番大きく見える星だったから、一番エラい神様(Jupiter)だって思われてたんだよね。で、2番目に大きい土星(Saturn)と、月の次に明るい金星すごく重要視されてて、ギリシャ、ローマでは、Aphrodite/Venus だったけど、

明けの明星=Lucifer(ラテン語)=morning star=魔王
宵の明星=Venus(ラテン語)=evening star=女神

明けの明星 Lucifer(morning star)は、どんどん悪魔化して、堕天使(Fallen angel)とか、悪魔(Satan)とか入り乱れた複雑な物語になっていくんだけど、人々が星空を眺めて想像していた物語と違って、教会は「地獄」のことばっかり考えるようになっていく。。
Commented by yomodalite at 2013-02-20 11:45
知らないから想像なんだけど、、サン・ラは、そーゆー教会ぽい物語じゃなくて、人々が星空を見ながら感じていた世界観の人で、それで土星(Saturn)から来たって言ってるんじゃない? で、SaturnとSatanは語源が違うって言うけど、、Saturnusは、Saturnから来ているし、教会もそこから着想していったに違いないと、私は思うし、、そもそもビッグスター(巨星)が「神」だから、普段から、MJのことばかり考えてる私たちとも繋がってるはず(笑)

それで、サン・ラは、次は Jupiter に着陸しちゃうよって感じ(こんな文章でわかる?)で、パティはそんなサン・ラの精神を借りて『僕の村は戦場だった』のイワン少年と対話している(直接的ではないけど)。。この詩の情景も昔観た記憶では『僕の村は〜』の映像と重なるところが多いような気がするんだけど、、

とにかく「意訳」とか「直訳」とか言うのも嫌いだっつー文章も、こっちに書いとくべきだったけど、そんな私でも躊躇するぐらい「意訳」しまくってるし、歌詞もCDと歌詞サイトでかなり違ってたり、ヒアリング判断にも困っているので「猫の詩」に感動できるぐらい聴き取れる方々には、色々とご意見を聞きたいので、夜露死苦っ!
Commented by jean moulin at 2013-02-21 17:14 x
これ、すばらしい詩だと思うけど、難しいね。
ほんと、お疲れ様。とても綺麗な訳詞になっていると思います。

私も聞き取りは全く出来ないので、yomodaliteさんの英文で考えるね。

あ、それから、宗教関係の解釈もあるし、後出しみたいになると申し訳ないので、取りあえずお伝えしておくけど、私は、ずっと昔にカトリックの洗礼を受けてるのね。
昔は、毎週教会にも行っていたし、聖体拝領もしてたし。
理由は多分、幼稚園がプロテスタント系、中学、高校がカトリック系の学校だったからだと思う。
そういう学校に行っていらした方なら、ご存じだと思うけど、教室の前に十字架があって、一日に何回も十字を切るの。
だから、どうしても何かに祈らなくてはいけない時、他に思いつかないのよ。

かといって、宗教に詳しいわけではないので、そこんとこ夜露死苦っ!
Commented by jean moulin at 2013-02-21 17:24 x
で、それはさておき、まず私、サン・ラを知らないのはもちろん、「僕の村は戦場だった」も見ていないので、お話にならないんだけど、yomodaliteさんの訳詞と、問題提起してくれた事を読んで、思った事を書かせてもらうね。

最初のパラグラフ、「The silver ladle of his throat」のところだけど、yomodaliteさんの解釈と同じ意味にはなると思うけど、
「born with a silver spoon in your mouth」
「生まれつき高貴な家柄・お金持ち」の慣用句に倣ってるんじゃないかな。
「spoon」を「ladle」に替えているのは、金銭的な意味ではなく、本当の「高貴」を表しているのかな、とも

2番目のパラグラフ、ここは、yomodaliteさん解釈通り、かなりキリスト教的な要素が多いと思う。「the robe and the road and the noose of vine」の「vine」だけど、葡萄酒がキリストの血という意味も含めていると思うので、「葡萄」という言葉が残ってもいいかもね。
Commented by jean moulin at 2013-02-21 17:31 x
で、これ以降はいつもの通り、ますます私の勝手な解釈なんだけど・・。

「waits beneath the triangle」
ここは、yomodaliteさんとちょっと違って、「『Mercury』と『 an evening star』と『The fifth planet with its blistering sore』で形作られる三角形のもとで待つ」
三位一体のイメージかなあ。
「the noose of vine」と 「its blistering sore」は重ね合わされているような感じもする。

そして、鷲がキリストに限定しない救世主として描かれてるというのは、私もそう感じます。
西欧ではあまり良い例えに使われない「magpies」を、敢えて東洋的なイメージで描いているのも、やはり、キリスト教的世界に囚われないようにしていると思う。
「カササギの伝説」、ちなみに私は、さだまさしの「かささぎ」で知ってた(笑)

好きな事を言わせていただいたけど、
>パティはそんなサン・ラの精神を借りて『僕の村は戦場だった』のイワン少年と対話している
のはその通りだと思うし、パティの意図が伝わってくるとても素敵な訳詞だと思います。
(yomodaliteさん、皆様、いつも長くて、うざくてごめんね・・。)
Commented by yomodalite at 2013-02-21 20:12
>うざくてごめんね・・。

ウザいとか、しつこいっていう「ジャンル」で負ける気がしないっつーのw 

それと、後だし?になるといけないので、一応言っておくけどw、私はカトリックもプロテスタントも「巨悪」だと思ってる。でも、権力が腐敗するのは、人が年を取るのと同じぐらい自然なことで、基本的に宗教関係者に本当に悪い人は少ないとも思ってて、宗教関係の人が「文学」や「映画」などを通じて語っていることを聞くと、繊細な感性のひとが多いなぁと思う。一方で、専門である宗教関係のこととなると、硬直してるし、論理的でもないと思うことが多くて、むしろ宗教のいい部分を学ぶのはすごく難しいと思ってる。なので、
「宗教に詳しいわけではないので、そこんとこ夜露死苦っ!」に、安心しました。こっちこそ、夜露死苦っ!

>「spoon」を「ladle」に替えているのは、

探ってみたんだけど「ladle」はキリスト教の道具関連には無いぽいし「spoon」より「ladle」の方が神話的だからじゃない。「spoon」の近代的で、高貴・財産というイメージを避けてるんじゃないかな。北斗七星(the Big Dipper)が「ladle」でしょ。でも、日本語ではスプーンにしてみた。
Commented by yomodalite at 2013-02-21 21:47
>「vine」だけど、葡萄酒がキリストの血という意味…「葡萄」という言葉が残っても…

具体的に、どうやって残すの?

>yomodaliteさんとちょっと違って、『Mercury』と『an evening star』と『The fifth planet with its blistering sore』で形作られる三角形のもとで待つ」三位一体のイメージかなあ。

ごめん。ちょっと違ってて、ていう部分がよくわかんない。。ああ、、そっか、「交わる」だと、トライアングルをイメージできないってことかな。。確かにそうかも。ここ修正するね。

>「the noose of vine」と 「its blistering sore」は重ね合わされて…

聖痕ってこと?

最初に「巨悪」って言っちゃったけど、仲良しのクリスチャンの子がいるし、パティの本で、彼女やメイプルソープが、カトリック文化に惹かれた話に共感したり、私自身も修道女っていいな。って思ってた時期もあるということも、一応報告しとくね。
Commented by kuma at 2013-02-22 00:33 x
かなり「抜き足、差し足」なかんじでおじゃまします。
キリスト教や神話のことには強くないので(じゃ何が強いんだっ?!そここは、yomodalite さんとmoulinさんにお任せして、「労作」と呼びたい訳詞の感想だけ述べさせていただこうかな、と思います。
Pattiさんの美しい詩の雰囲気がすごくよく出ている訳詞で、yomodaliteさんが詩の世界に入っているのがわかります。それにしても難しいですよね~。
第一パラグラフの4行目、歌を聴いた感じでは私にはやはりCome along と聞こえました。だから、「おいで愛しい息子よ。霧は大地から立ち上る」みたいな感じがしました。
最終パラグラフのHow I kissed away your tearsは、「私があなたの涙を唇で(キスで)ぬぐったこと」って意味ではないでしょうか。*8の解釈は、yomodaliteさんの選択に賛同しています。
とにもかくにもすごい訳詩、お疲れ様です!
Commented by yomodalite at 2013-02-22 10:11
kumaさん、ありがとーーーーーーーーーーー!!!!!!

>私にはやはりCome along と聞こえました。
おおお、やっぱりそうなのかぁ。歌詞サイト4件を検索上位から見て行くと、2対2ぐらいだったのね。でも、kumaさんが「Come along」なら、私はそっちを信じたい!

だとすれば、1行目の「The eternal son」もやっぱり「The eternal sun」なのかなぁという疑問も再燃するんだけど、、「Too long」を採用したのは、耳だけでなく、すでに「She」は「son」を「smoothes his brow」してるから「Come along」(おいで)はないと思っちゃったのね。ううう、むつかしい。

>How I kissed away your tears「私があなたの涙を唇で(キスで)ぬぐったこと」

それだ!CD訳詞もそうなってた。直ちに修正します!

それと、moulinさん
「vine」の件とそのあたりの行について、このあと、再度「ご相談コメント」書くので、またまた夜露死苦っ!
Commented by yomodalite at 2013-02-22 16:34
moulinさんへ
「vine」の箇所のご指摘で気づいたんだけど、

「the robe and the road and the noose of vine」の行、わたし、かなり間違ってたみたい。その前の行の「saviors to hang」で「the road」を、イエスが十字架を背負って歩いてた道のように想像しちゃったんだけど「saviors」複数形だってこと見落としてた。

パティは未来において、その道(救世主への道)に連なろうとする人たちの数に対して、そんな程度では、十字架が「足らない」って言ってて、その道を「She blesses the road」祝福してるんじゃない。で、「noose of vine」がわからないんだけど、絞首刑の縄が「葡萄のつる」である意味について、何か思いつかない?(on the vine)とか(vine and fig tree)というときの「vine」とは関係ないかな。。
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by yomodalite | 2013-02-19 11:26 | 現代文化・音楽・訳詞 | Trackback | Comments(10)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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