藝人春秋/水道橋博士

f0134963_9472386.jpg
水道橋博士に教えてもらったことはとても多い。勝新に興味をもった最初のきっかけも博士だったような気がするし、その他、TVではわからなかった様々なタレントの魅力についても。。

それらの内容だけでなく、博士の文章自体にも魅了されていたうえに、読む前に絶賛コメントを目にする機会も多かったので、本書にはとても期待していました。



とにかく、芸人が大好きなので、これほど毎日、MJのことを考えるようになっている今でさえ「スリラー」のショートフィルム1本と比較すれば、同時期に「MJモノマネ」もやっていたエディー・マーフィーの『ライブ!ライブ!ライブ!』の方がやっぱり何度も繰り返して観ているし、今見ても「スリラー」より笑えるし(あたりまえか)、「スリラー」より泣ける。(これは、あたりまえじゃないよね?)

また、大好きという以上に、芸人やコメディアンを、最上級でリスペクトしているので、今まで一度も笑ったことがない芸人でさえ、その職業を選んだというだけで、人間として立派なひとなんじゃないかと思ってしまうぐらいなんですが、、

ただひとり、ビートたけしという人に対しては、それらとは違う感情があって、たけし軍団の人にも「お笑いの道」に進んだ人たちとは思えないと感じることが多い。

そのせいなのか、あるいは、期待し過ぎていたせいなのか、冒頭のそのまんま東氏(東国原英夫)について書かれた文章に、いつものキレがないように感じ、その後のさまざまな人の話の中に挿入される、著者と師匠ビートたけしの話にもなぜかあまり感動できない。

水道橋博士の話にたけしが登場する回数は、これまでも多かったはずなのに、本書では、特にそれを感じることが多くて、

途中までは、著者のこれまでの本に比べてレベルが高いようには思えなかった。

たけし軍団の人は「お笑い」が好きというよりは、ビートたけしに「父親」を求めているというか、彼に褒められたい一心で「芸人」になっているようなところが見ていて辛く感じるところで、私がたけしをあまり好きだと思えないのも、両者の愛情関係が、他を寄せ付けないところがあるからではないかと思う。

本書での、水道橋博士は、人生を変えられるほど影響を受けた、師匠ビートたけしへの愛も、尊敬も、そして絶対に超えられないと感じた差についても、今まで以上に、その心情を吐露しているように思えたのだけど、その理由は、本書の後半になって、徐々にわかってきた。

それぞれの文章は、ルポエッセイと言うように、実際にあった話をベースにしていて、それらは普通に書かれていても充分面白いエピソードなのだけど、博士はそれを語るうえで、いちいちと言いたくなるぐらい、緻密にダジャレや、言葉遊びが駆使していて、苦労の多い文章になっている。

・そのまんま東
・甲本ヒロト
・石倉三郎
・草野仁
・古舘伊知郎
・三又又三
・堀江貴文
・湯浅卓
・苫米地英人
・テリー伊藤
・ポール牧
・甲本ヒロト(再び)
・爆笑 “いじめ” 問題
・北野武と松本人志を巡る30年
・稲川淳二

あまり面白いと感じなかった、そのまんま東氏の章など、その言葉遊びと内容がマッチしていないというか、、むしろ邪魔な感じがしたのだけれど、、それは、真面目な話を、ただまじめには書けないという芸人の「業」というよりは、お笑いの人特有の冷静さというか、ツッコミに重要な客観性ではあるのだけど、

でも、博士には、東氏の真面目さを笑いにはできない。なぜなら東氏の真面目さと、博士の真面目さはよく似ているうえに、博士には、たけしから脱皮しようとあがく東氏を、どうしても突き放して見ることが出来ない。それで、ダジャレだけが浮いてしまう。。。

面白くないのは、そのまんま東氏の章だけでなく、最後まで一向に笑えない。

本書での博士の文章は、お笑い魂を頑にもちつつ、それでも、笑えなくてもいいという危ういバランスを保って綱渡りしているようで、そのギリギリ感は「お笑い」の感覚には少しズレている。

「北野武と松本人志を巡る30年」の章では、博士自身も潜在能力がケタ違いでモノが違うという松本人志が、雑誌「CREA」での故ナンシー関との対談で「僕が一番だと思っている」発言にショックを受けたと書かれているのだけど、たけしのその多才な能力は別として、こと「お笑い」ということだけなら、20世紀中に「ビートたけしを超えた!」と名乗りを上げる者が現れるとは思ってもみなかった。などと思うのは、たけし軍団だからで、

博士と同年代から少し下の世代は、松本に憧れて「お笑い」の世界に入った人の方が多いはず。。そんなズレたお笑い感覚も、たけしの元に「出家」してしまったからではないだろうか。

博士は、たけしがダウンタウンについて言ったセリフも紹介している。

「あいつらも昔の俺のように突っ張ってやってんだろうなぁ」

そして最後にひと言だけ呟いた。

「でも、俺のほうがより凶暴で、俺の方がよりやさしい」


お笑いに関して圧倒的に「松本人志派」のわたしも、たけしのほうが凶暴で、そして、やさしいような気は、、する。やさしいってどういうことなんだろう。とは思うけど。。

最後「稲川淳二」の章の「その後のはなし」で、『藝人春秋』は、10年前から単行本化の話があったが、編集者にも特に評判がよかった稲川淳二の回の内容について、水道橋博士が出すか出さないかでひどく悩んだという話が書かれている。しかし、2012年5月24日の朝日新聞に、稲川氏のインタヴューが掲載され、本書に書かれている息子の手術の日のことも書かれていた。それで、『藝人春秋』を出版する決心がついた。と。

そして、そのあとの「あとがき」には、この本に登場するとは思っていなかった名前が登場して、私は息をのんだ。

児玉清さんとは只一度、共演しただけだが、その一回が永遠に忘れられない最初で最後の邂逅だったからだ。NHKーBS「週刊ブックレヴュー」で、以前『お笑い 男の星座』も紹介され、それがどれだけ誇らしかったか。児玉さんとは出会いの前から、何度も対話してきたような気持ちがあった。それは、ボクが児玉さんの自叙伝である『負けるのは美しく』を読んでいたからだ。

このあと語られる、テレビの現場でのエピソードは、わたしが「児玉清」という字面を見るだけで、目頭が熱くなるせいもありますが、、嗚咽レベルで泣いた。

博士が児玉氏に捧げた文章の中から、ほんの少しだけ書き記しておくと、

児玉さんの青春がボクの脳内で再映された。そして思った。
児玉清さんは、青春と晩年が同居している人だと。


(中略)

芸能界という、この世のものとは思えぬあの世ーーー。
テレビの裏側の物語を残したいと書き始めたのが、この『藝人春秋』だった。
そして書き終えた。
再び繰り返す。
本を読む悦びは結末があることだ。
あの世の映画やドラマの中で名優であり続けただけでなく、この世の数多の本の世界へ誘い、自らが物語のような結末を閉じた児玉清さんに、この本を切り絵とともに捧げます。



捧げられた切り絵というのは、各章の扉にあるものですが、

その章のタレントの似顔絵ではなくて、例えば、三又又三の章の切り絵はこんな感じ
f0134963_9485151.jpg



やっぱり、たけしは「お笑い」以外のものを教えている人なのだと思う。

◎Amazon『藝人春秋』

☆参考記事
◎[自著を語る]芸人という星たちが織りなす星座を描きました
◎水道橋博士『藝人春秋』について(ベイエリア在住町山智浩アメリカ日記)
_______________________________

[内容紹介]人気漫才コンビ・浅草キッドの一員であり、芸能界ルポライターをも自任する水道橋博士。現実という「この世」から飛び込んだ芸能界という「あの世」で二十数年を過ごす中で目撃した、巨星・名人・怪人たちの生き様を活写するのが『藝人春秋』です。

たけし軍団の先輩、そのまんま東が垣間見せた青臭すぎるロマンチシズムを描きだす。古舘伊知郎の失われた過激実況に、過激文体でオマージュを捧げる。苫米地英人と湯浅卓の胡散臭すぎる天才伝説に惑乱させられる。稲川淳二が怪談芸を追い求める、あまりに悲劇的な真の理由に涙する。
爆笑問題、草野仁、石倉三郎、テリー伊藤、ポール牧、三又又三、ホリエモン……選りすぐりの濃厚な十五組。

中学時代の同級生・甲本ヒロトのロック愛に博士自らも原点を見出すエピソードは、感動的ですらあります。
そしてその原点・ビートたけしと松本人志という、並び立たぬ二人の天才が互いへの思いを吐露した一瞬に見える、芸人の世界の業の深さよ。

博士が「騙る」暑苦しく、バカバカしく、そして少し切ない彼らの姿からは、「父性」を乗り越えようとする男の哀しい物語が浮かび上がり、その刹那「藝人」は「文藝」をも超えてゆきます。

電子書籍で話題沸騰した作品を完全全面改稿・加筆し、博士生誕五十年を(自分で)記念する、渾身の一冊です。文藝春秋 (2012/12/6)
[PR]
トラックバックURL : http://nikkidoku.exblog.jp/tb/18316758
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Tracked from Nowpie (なうぴー.. at 2013-01-05 05:37
タイトル : 水道橋博士 最新情報 - Nowpie (なうぴー) お..
水道橋博士 の最新情報が一目でわかる!ニュース、ブログ、オークション、人気ランキング、画像、動画、テレビ番組、Twitterなど... more
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by yomodalite | 2013-01-04 10:05 | エッセイ | Trackback(1) | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


by yomodalite