鐵道心中/岩井志麻子

鐵道心中

岩井 志麻子/双葉社



ええ。それはそれはもう、大騒ぎなどというものではなく。町中の、いえ、国中の話題にもなったのでした。

なんせその年の半ばにはもう、事件は歌になって流行したくらいです。冷え冷えとした歌を火照った唇に乗せ、人は己からは遠い甘美な死の恋情を口ずさんだのでした。


大正時代に入ってまだ、それほど間は経っていなかったのに。

孤独にして賑やかな大正時代が、あまりにも愛らしく哀しく短かったものですから。これは大正半ばの物語と呼ばれてしまうのです。

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あれは夕刻でしたわ。危うい初春の黄昏時。

不意打ちのように夜がそこに来ていて、でも愛しい人の顔もまだ手に取るようにわかる、そんな時間帯。黒々とした重い単行機関車には、やや老いた機関手と、まだ子供の顔をした火夫が乗り込んでいて。景色すべてに淡い血の滲む宵。

機関車が、ある女子師範学校を右側に見て進行中、若い男と女が抱き合ったまま飛び込んだのでした。最初から何らかの残骸として、引き千切られるのを待ち望む木偶のように。

女は線路脇に壊れた蝶のように撥ね飛ばされて、これはもう誰の目にも助からない思われたほどの重篤な姿を晒しました。骨に達する、というのでしょうか。可憐に白い頭蓋骨の一部が見えていて、耳朶が耳の近くにまで垂れ下がっていたのですから。

男のほうは運良く土手のほうに撥ね飛ばされ、軽い打撲と擦り傷とで済んでいましたが。緊急停止した機関車の脇で瀕死の女に取りすがり、

「決して決して、あなただけを行かせはしません。私は必ずや後を追います」千切れかけて首の辺りに垂れた耳たぶに、盛んに哀訴しておりました。あんなに死に物狂いだった男が、なぜに頬笑を浮かべていたなどという噂が流れたのでしょうか。

(ここまで冒頭部分を大幅に省略して引用)

帝大教授の令嬢として育ち、幼い子供もいる大会社の社長婦人が、お抱え運転手と鐵道心中を図るものの、二人とも奇跡的に助かり、夫人はその後、カフェーで働くようになる。

なぜ、夫人は心中しようとし、運転手はその場から消えたのか…

日本の映画・ドラマ界に「大正ブーム」が来ないものでしょうか。。

☆大正の唄……
◎花嫁人形 - 有山麻衣子
◎籠の鳥 - 村上幸子
◎カチューシャの唄
◎ゴンドラの歌 - 鮫島有美子

☆大正の唄ではないけど…
◎磯千鳥 - 倍賞千恵子

☆参考サイト
◎ユメイカ。

◎鐵道心中(アマゾン)



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by yomodalite | 2012-04-18 08:15 | 文学 | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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