偶然完全 ー 勝新太郎伝/田崎健太

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2011年12月に出版された、現在もっとも新しい勝新太郎の伝記。

プロローグで、著者は、

ぼくは勝新太郎の最後の弟子だった(中略)かつて、勝は週刊誌で人生相談を連載しており、ぼくはその担当編集者だった。週1回、2ページの連載にもかかわらず、ほぼ毎日彼のところに通った時期もあった。(引用終了)

と書かれていて、根本敬氏の『特殊まんが家 ー 前衛の道』で、勝新太郎の「偶然完全」という言葉に出会い、この「人生相談」のことを知っていた私はものすごく興奮しました。

さらにプロローグから引用します。

勝は不当に軽んじられていると思う。代表作の『座頭市』の映画は全部で26本作られた。これは渥美清の『男をつらいよ』三益愛子の『母もの』、森繁久彌の『社長』シリーズに続く数である。『座頭市』と同時期に、勝は『悪名』と『兵隊やくざ』シリーズを持っていた。悪名は16本、兵隊やくざは9本、それぞれ製作されている。こんな俳優は他にいない。

年若い編集者と座頭市の話をしたことがあった。その編集者は「座頭市と言えば(北野)武さんですよね」とさらりと言った。世間では勝は忘れられつつあるのかもしれない。そんな気持ちに後押しされて、勝のことを改めて調べ始めた。短い期間とはいえ、ぼくは濃厚な時間を勝と過ごし、様々な話を聞いたつもりだった。しかしそれはあくまでも、つもりだった。知らない話が次々と出てきた(中略)ぼくは思った。この生き様こそ、勝の最大の作品ではないか、と。(引用終了)


うーーん、勝新の天才性への一般社会での評価はまだまだ低いとはいえ、「座頭市と言えば北野武さんですよね」というような「若い世代」と言えなくもない春日太一氏(1977年生まれ)の『天才 勝新太郎』も絶賛されていますし。。

◎博士の悪童日記(2010年02月05日)
◎博士の悪童日記(2010年02月24日)

著者は、春日氏よりだいぶ年上(1968年生まれ)なのに、同世代にも、若い世代にも勝新以上に知られていない、三益愛子、森繁久彌と比較して「こんな俳優は他にはいない」と言われてもなぁと、ちょっぴり不安になりつつ、

それでも、巻末の参考文献に、春日太一氏の本だけでなく、わたしがこれまで読んできた本もズラリと並んでいることから(吉田豪、水道橋博士が紹介している本はリストアップされているものの、根本敬氏の名前はない)勝新伝の「決定版?」という期待で読み始めましたんですが、、、率直な感想を言えば、本書の大半が、どこかで読んだ話がまとめられているという印象でした。

勝新に思い入れがない人なら、こういった「アンカーマン」としてまとめたような内容(≠決定版)でも満足な読書ができると思いますが、水道橋博士も言われているように、

勝新は、「勝新大陸」「勝新山脈」と呼ぶべき、常人が住む娑婆とは隔離された、芸能の真理を身に纏う偉大なる無法者で、この一般には見えざる概念上の、大陸、山脈は、特殊漫画家・根本敬氏らの研究、紹介により、昨今、その存在が多くの人に知られるように....

なっているだけに、著者は、勝新の天才性を紹介しているつもりでも、本当にその大きさが見えているのかどうか疑ってしまう部分や、巻末に引用図書はリストアップされているものの、その大半は現在でも入手可能なものであるにも関わらず、本文では、それらの紹介も、引用もきちんとされずに、ただ、まとめて1冊にしていると感じられるようなところも多くあり、著者の本づくりの姿勢にはあまり感心できませんでした。

ただ、博士も言われているように、読み始めたら止まらなかったことは確かで、

◎博士の悪童日記(2012年02月01日)

連載担当になってからの話が始まる、第12章「今度はパンツをはかないようにする」からの内容は、著者が直接、勝新と出会った部分で、週刊ポストで「人生相談」を始めた頃の勝新の日常に触れられたような気がしました。

偉大なひとは、偉大なひとから学んでいるし、賢人たちはみな「答えは目の前にある」ということを繰り返し、説き続けるものですし、根本敬氏の「ソウル電波」もそうですが、エラい人はみんな同じようなことを言い、エラい人から感じる「気」は、だいたい同じなので、『傷痕』を書いた桜庭和樹氏が、読書日記で、水木しげる氏の言葉、

「この世に生まれて楽園で生活しないなんて、バカだよ」

という、MJの「Are You Listening」(『Dancing the Dream』)と、ほとんど同じ言葉が紹介されていたり、勝新は自伝『俺、勝新太郎』の中でも、マイケル・ジャクソンに言及していましたが、本書にも、MJが登場してました。

(P284)第11章「神が降りて来ない」ー 六本木に座頭市を歩かせたい より

88年9月19日、渋谷のディスコ「Jトリップバー」で『座頭市』製作発表記者会見が行われた。皮のハーフコートを着た勝、着物姿の樋口可南子、そして緒形拳たちが壇上に並んだ。勝は、再び『座頭市』を撮ることになった理由を説明した。

「海外の映画、最近の日本映画を見ていると、その人しか持っていないものを作るのがいいんじゃないかと。勝新太郎というと座頭市になる。座頭市の映画は16年もやっていない。(アイデアが)溜った引出し、世間の流れも変わっている。今の世の中に座頭市を入れたらどうだろう。六本木に座頭市を歩かせたらどうだろう、と」

この考えは、スタッフルームに貼られていた紙により踏み込んで書かれている。

六本木、原宿、永田町界隈に座頭市がイーグルスの曲に乗って現れたら、マイケル・ジャクソンが座頭市をやったら、どんな座頭市映画ができるだろう。(引用終了)



著者は、この1989年の『座頭市』に関して「映画としての出来はそれほどでもない」などと言うような芸術音痴な方なので「勝は音の使い方が上手い」とか書いていても、実際のところ、他の人の受け売りで、あまりわかっていないようなんですが、

勝新は言葉的な面白さで、そう言っているのではなくて、、そんな発言を知らない私が、最初に観たときも、はっきりマイケルを感じたんだから… 本当にスゴいと思う!

☆勝新が、著者にも言ったように、その人しか持っていないものを作って欲しかったという不満はあるものの、勝新の優しさ、可愛らしさはよく表現されているので、一般的にはイイ本だと思います

◎『偶然完全 勝新太郎伝』(アマゾン)


☆参考サイト
◎『偶然完全 勝新太郎伝』現代ビジネス・立読み電子図書館
◎BOOK asahi.com「存在そのものが作品のような男」
◎本書の表紙写真の写真家・操上和美のサイト。撮る写真も本人もすべてがカッコいい


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by yomodalite | 2012-02-27 19:05 | 報道・ノンフィクション | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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