ロスト・ボーイズ ー J・M・バリとピーターパン誕生の物語/アンドリュー・バーキン、鈴木重敏(翻訳)

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ー 何人たるを問わず、余の伝記をものにせんとする者を、神よ、罰したまえ ー

上記は、大変なメモ魔だった、バリの晩年のメモに遺されていたもの。著者は、古代エジプトのファラオの墓に彫り込まれた呪いにも似た、この警告に恐れをなし、本書を伝記でないと断り、また、バリの作品の評論でもなければ、彼の心理の分析でもない。登場人物自身の言葉で語られ、自身の姿で描かれた、一つの愛の物語であり、

さらにまた、これはドキュメンタリーとして書かれているが、自分がBBCテレビのために書いた同名のドラマとも違っていて、本書では、編集者の役割に徹し、書簡、日記、メモ、面接取材、写真、それにバリ自身の作品などの資料に、事実をあるがままに語らせ、個人的見解はできる限り排除したつもりである。

と「序文」で語っています。


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(Andrew Birkin。監督作「THE CEMENT GARDEN」の主演で、姪でもあるシャルロット・ゲインズブールと)



また、特に大きな助力を受けた協力者として、協同研究者のシャロン・グードと、彼女がその所在をつきとめた、バリの養子となった5人の兄弟の末っ子、ニコラス・リューイン・ディヴィス(通称ニコ)を挙げ、家族全員のものである手紙や書類の版権の所有者として、出版に同意し、原稿を詳細に吟味したニコの協力について、

送りつけた原稿に対し、「やや正確さを欠くと思われる若干の点についての意見」を別便で送るが、そう重大なことではないから無視してもいいということだったのに、送られてきた「次の便」は、50枚近い便箋にびっしり書き込まれたもので、それは、すべて、事実に関する原稿の誤りを訂正するものだった...

という、素敵なエピソードからも、本書を「マイケルの愛読書」に断定しました。

☆[追記]このあと調べたところ、リストにあったことが判明。
http://www.mjjcommunity.com/


バリの研究本は、英国、アメリカともにたくさん出版されていますが、バリが「マイ・ボーイズ」と呼んだ5人の兄弟の1人が深く関わり、第一級の資料が満載の本を、MJが読んでいないわけがないですからね(原著の出版年は「Off The Wall」発売の1979年)

上記で「BBCテレビのために書いた同名のドラマ」と言っているのは、1978年にBBCで放映された「The Lost Boys」という1回90分の3回連続ドラマで、大変な評判になり、多くの賞を受賞したもの。著者のアンドリュー・バーキンは、1968年に『2001年宇宙の旅』に助監督として関わり、その後も脚本家、映画監督として活躍され『薔薇の名前』の脚本家として有名な方。また、あのジェーン・バーキンは1つ年下の妹だそうです。


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Michael Llewelyn Davies age 9



とにかく『小さな白い鳥』を読んで以来、バリに夢中で、本書でもバリの作品タイトルが登場するたびに、読みたくなるのですが、日本で出版されているのは「ピーターパン」ぐらいで、、

◎Andrew Birkin's site about Barrie and the Davies family

上記のサイトを眺めたり、バリの有名なスピーチの原文を探して、でもこれを訳すなんて何年かかるかわからない ... と、途方に暮れていたんですが、本書を読んでいる間は『小さな白い鳥』読了後に見舞われた「バリ禁断症状」が和らぎました。

後日追記:バリのスピーチ、初めての翻訳です!

といっても『小さな白い鳥』と異なり、こちらは「おとぎ話」ではなく、現実の少年たちが、大人になり、ひとり、また、ひとりと亡くなっていくような、あまり楽しい話ではありません。5人の少年たちは、バリの成功と「ピーターパン」の人気により、少年時から、当時の新聞によって、一々、ピーターパンと結びつけられて報道され、そのことによる苦しみなども本書には著されています。

また、少年たちは、幼い頃可愛かっただけでなく、青年時もそれぞれ優秀で、全員が「人気者」。なかでも、バリが特に愛したと言われている、長男ジョージと、4男マイケルは、優秀な子弟が集まるイートン校でも目だつほど「天才」で「ハンサム」な青年でした。

◎Llewelyn Davies boys

バリの性的な能力に関する論議は、1970年以降から盛んになったようです。そういえば、そういったことに限らず、新たな病気を発見しては、患者を増やしたり、新たな罪を創っては、罪人を増やすということも、その頃から始まっているような.... ク☆ガキよりも、ずっとたちの悪い、ろくでもない大人が増えたからでしょうか。

私は、MJのことを性的異常だと思ったことはまったくなかったものの「ネバーランド」や「ピーターパン」好きに関して、以前は、そんなにイイ感情を持っていませんでした。でも、それは、自分がこどもだったからなんだと、今になって、しみじみ思う。


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Michael Llewelyn Davies age 2



こどものままでいたいと思う、こどもは1人もいないし、こどもの素晴らしさがわかるのは、大人だけだから。。大人になっても「道徳」とか「規範」でしか、物事を考えられないのは、出来の悪い大人でしかない。。

3男のピーターは、その名前からも「ピーターパン」の高名により最も苦しんだと思われるのですが、バリの些か愛情が溢れ過ぎともいえるジョージとマイケルへの手紙について、

手紙には、バリがジョージとマイケルに抱いていた愛情の、異様な性格がよくあらわれていると思う。少しばかり父性的で非常に母性的、そしてやはり非常に恋人的な愛情だ。批判するのは何でもないが、この奇妙な愛情がジョージに何らかの害を与えたとも、与えたかもしれないとも、私は思わない。と意見し、

前述の本書の協力者でもあるニコ氏の言葉は、序文の締めの言葉になっている。

私の知るすべての人のなかで、バリほど機知に富み、一緒にいて楽しい人はいなかった。彼はセックスにはまったく何の関心も示さなかった。彼は素敵な人だった。彼には何の邪気もなかった。だから彼は『ピーター・パン』を書くことができたのだ。



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Michael Llewelyn Davies age 6



本書には、バカな大人には異常と思えるほど、5人の息子たちを愛した、バリの実際の手紙や、息子たちの返事、証言、その他、バリが折々に語ったユーモア溢れる言葉の数々が納められていて、ニコ氏が言うように、バリが本当に素敵な人だったことがよくわかる。

その後、5人を襲った悲劇は普通とはいえないかもしれない。でも、これは、よくある「おとぎ話」の裏にあった現実というような、つまらない話ではなくて、幼い頃、兄を亡くし、そのことで心に深い傷を負った母親、上手く行かなかった結婚、成長し、ケンジントン公園からも、この世からも旅立ってしまった息子たち.... 

さまざまな「失われていく」悲しみに立ち向かって、類いまれな想像力の翼で人生を生きた、バリ自身の「ものすごく素敵な話」だと思いました。

最後に、翻訳者の鈴木氏による「訳者まえがき」から、

「The Lost Boys」という語は、バリに慈しまれながら、1人また1人と離れて ー 失われて(ロスト) ー いったディヴィス家の五少年に、劇の『ピーター・パン』で活躍するネバーランドの少年たちを意味する「迷い子たち(ロスト・ボーイズ)」を重ねたものである。


年齢に関係なく、ユーモアを愛する大人の方に...

◎ロスト・ボーイズ ー J・M・バリとピーターパン誕生の物語(アマゾン)

[ロスト・ボーイズ原著]
◎J.M. Barrie & The Lost Boys :
The Love Story that Gave Birth to Peter Pan[Hardcover]/Andrew Birkin

◎J. M. Barrie and the Lost Boys:
The Real Story Behind Peter Pan[Paperback]/Andrew Birkin


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Michael Llewelyn Davies age 6



☆下記は、私のメモ。未読の方は、読了後の参照をお薦めします。


[バリ作品メモ]

◎『センチメンタル・トミー』
主人公のモデルはバリ自身と思われる。バリの母は、この作品を気に入っていた。

◎『マーガレット・オギルヴィ』
『センチメンタル・トミー』の序文とするために書きはじめられた、バリの母の話は、次第に長くなって1冊の本になった。バリの母の死の翌年、1896年末に公刊。無名の女性にまつわる回想で、その女性を語ることで、著者自身もさらけ出すという、当時の文学界では例を見ない作品。旋風のように読書大衆の想像力を捉えたが、批評家は、プライバシーの侵害に不快感を表明し、バリの家族からも非難された。バーキン氏は、バリが生涯を通じて描き続けた「失われた喜びの国へのあこがれ」が、自分の少年時代への後ろ向きの回帰現象でなかったと書いている。

◎『小牧師』
批評家の評価はよくなかったものの、公演は大成功だった。

◎『トミーとグリゼル』
物語は『センチメンタル・トミー』の終幕から始まる。トミーは流行作家で、社交界の寵児となり、少年時代の友グリゼルは、大人の情熱を身につけた成熟した女性になっているが、トミーの心情は少年時代のまま。迷いながらも、グリゼルと結婚したトミーは、その感情の行き違いに悩む。前編である『センチメンタル・トミー』の出版から3年をかけた、この長編は、トミーが背中に背負った荷物が釘に引っ掛かり、登ろうとした塀から滑り落ちたトミーは、首を吊ったかたちで変死するという唐突な結末だった。批評家の評価は非常に高かったが、全編を通じて病的かつ悲痛な雰囲気がある。

◎『おい、ブルータス』
「ときどきだが、私の文学的努力の結果がマイケルの気に入ることがある。彼が『おい、ブルータス』を読み終えて、そう悪くはないというコメントつきで原稿を返して寄越した日、私は天にも昇る心地だった」

バーディ われわれの人生をかたちづくるのは、偶然なんかじゃありませんよ。
ジョアンナ そうね。運命が決めるんだわ。
バーディ いや、運命でもありませんよ、ジョアンナさん。運命とはわれわれの外にあるものです。本当にわれわれの行為を決定するものは、われわれ自身のなかにあります。われわれを駆り立てて、同じ種類の愚行を重ねるもの、どんなに数多くの機会を得ても同じことをさせるもの......、われわれが生まれつき持っているものです。シェイクスピアにはちゃんとわかっていたのです。

われわれが下積みなのは、
おい、ブルータス、
われわれの星のせいじゃない。
われわれを左右するものは、
われわれ自身のなかにあるんだ


◎バリの演説『勇気(Courage)』
1922年5月3日にセント・アンドリュース大学の名誉総長に選ばれたときのスピーチ。バリのスピーチの中で最高のものとされている。

◎『ジュリー・ローガン嬢への挽歌』
『小さな白い鳥』から30年後に出版された最後の小説(「ピーターパン写真集」鈴木氏の文より)


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「Boy Castaway」George, Jack, Peter


Llewelyn Davies boy

◎George (1893 - 1915)
積極的だったジョージは、自らすすんでバリに近づいた。バリは際限もなくおもしろい話を聞かせてくれた翌日、ひと言も口を聞いてくれないこともあったが、ジョージは、子どもらしい自己中心的な考えで、相手の態度で傷つくことはなく、バリにとって「これほど小癪な子は見たことがない」というような小生意気なところが魅力だったらしい。また、イートン校の同級生は「彼のように万事に頭角をあらわすような生徒であって、自惚れの気がない者はめずらしく、人を惹き付ける話術と、ユーモアのセンスが抜群だった」と語っている。

◎John 'Jack' (1894 - 1959)
ジョンと名づけられたが、すぐに愛称ジャックと呼ばれるようになる。本書の中では地味な印象だが、兄弟の中で最も早く結婚し、2人の子どもは、シルヴィア(母の名)、ティモシー(バリの幻の息子)と名づけている。

◎Peter (1897 - 1960)
ピーターという名前は母シルヴィアの亡父で高名な作家、ジョージ・ド・モーリアの作品「ピーター・イベットソン」から名づけられ、バリの愛犬ポーソスの名は、この作品に登場するセントバーナード犬からもらったものだった。ピーターは1945年、1874〜1915年の間の家族関係の手紙や書類を集め、自分のコメントそえて6巻にまとめ、これを皮肉を込めて「モルグ(死体公示所)」と呼んだ。本書には、この資料から多くの証言が集録されている。ピーターという名前に翻弄され「あのいまいましい傑作」と称したものの、出版社を経営し、自分の次男もピーターと名づけている(長男はジョージ[兄の名前])

◎Michael (1900 - 1921)
ジョージ、ジャック、ピーターは、バリに会ったときから「少年」だったが、マイケルは、はじめて出産に関与することが出来たことで、その登場は、バリにとって、格別新鮮な体験だった。5歳のころのマイケルは、ジョージやジャックと違って、他の子がサンタクロースを信じるように、ピーターパンは本当にいると信じて成長した。彼は、バリがピーターの劇を書いたことも、ピーターを演じているのが「女優」だということをわかっていたが、ほかに、本当のピーターパンがいて、ときどきブラックレイクにあらわれるのだと思い込んでいて、しばしば、悪夢に悩まされた。マイケルはウィルキンソン学校でも常に主席で、ニコは、5人の中でマイケルが一番頭が良く、兄のピーターは「生まれたときから本物の詩人」の素質を持っていたと語り、イートン校の同窓で、その後オックスフォード大学でも親しくし、のちに「ロード」の称号を得たブースビーは、マイケルは私が交際した中でもっとも際立った存在だった。同世代で天才と言えるのも彼1人だったと証言。

◎Nicholas 'Nico' (1903 - 1980)
ウィルキンソン学校の同級生の談話「ウィルキンソンで、もっとも華々しかったのは、ニコだった。知力が高いとか、ゲームの腕前と言うよりも、往々にして1人の幼い少年を大勢の中で一際目だたせる、強い牽引力をもっていた」兄のマイケルは、ホームシックにかかった自分と異なり、イートン校でのニコのことを、先生にぼくもニコのようだったらいいのにと言われ、学寮の象徴だそうだ。と証言している。



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by yomodalite | 2012-02-23 13:40 | ☆マイケルの愛読書 | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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