2012年 02月 20日
争うは本意ならねど/木村元彦 |
木村元彦氏の本を1冊でも読んだことのある方なら、木村氏がめったにいない素晴らしいジャーナリストで、期待を裏切らない著者であることをご存知だと思います。
『争うは本意ならねど』というタイトルは、元サッカー日本代表・我那覇選手の言葉で、沖縄方言でもあるのだけど、多くの日本人のメンタリティに響く言葉だと思います。正当な理由もなく制裁を受けても、愛するサッカー、Jリーグ、そして、自らを貶めた人間に対しても、その罪を問うことを目的にしない.... そんなメンタリティに共感する日本人は多いでしょう。
素晴らしいプレイだけでなく、立派な人柄をもった我那覇選手の戦いには、多くの支援者が集まり、莫大な費用の寄付も、無償の好意も多く寄せられ、日本人の人情も捨てたものではないと思わされる部分も大いにありました。
でも、そんな立派な精神も、多くの人々の無私の行為によって得られた「結果」も、踏みにじられているという怒りが、著者の筆先から伝わって来るような本書は、我那覇選手のドーピング冤罪事件を知らなくても、サッカーに興味がなくても、スポーツを愛する人には、全員読んでもらいたいと思う本です。
その理由のひとつは、
◎ベストセラー『オシムの言葉』の著者が描く、我那覇ドーピング冤罪事件の真実!
上記インタヴューで、著者が語っているように「我那覇があのとき立ち上がらなければ、日本代表の南アW杯のベスト16も、なでしこのドイツW杯の優勝もなかったかもしれない」と言うように、我那覇選手が、自分の名誉のためだけでなく、多額の自己負担金(数千万!!!)を覚悟し、プロのサッカー選手としての将来への悪影響など、さまざまな葛藤を乗り越えて、立ち上がらなくてはならなかったのは、何故なのか?という理由を知ってもらいたいこと。
また、もうひとつは、
本書を、スポーツを愛していない人にも読んでもらいたいと思う理由なのですが、我那覇選手へのドーピング判定には、その当初から、我那覇選手を知る選手たちからも、Jリーグ各チームドクター全体からの強い反発があったにも関わらず、あまりにも杜撰な判定が覆されることなく、最後までミスを認めなかったのは、何故なのか?という理由について、著者が一歩踏み込んで「示唆」しているからです。
著者は、誰がどう見ても無罪の我那覇選手を、なぜ青木委員長(青木治人)はドーピング違反にしたのか?と問い、それは「意図的」で、故意にドーピング違反に仕立てられたのではないか?という疑惑を強めていく。
我那覇選手は、作為的なトラップによって、限りある選手生命を疲弊させ、何千万も投じて、日本の裁定機関でなく、海外の「CAS」にまで行かなくてはならなかった。。。我那覇選手の人徳とその判定へのあまりの理不尽に、支援の輪は拡大し、善意の資金も、無償で協力した大勢の有志にも恵まれ、正当な判定結果を得たものの、失ったものは大きく、覆った判定を真摯に報道したメディアも、間違った報道を謝罪したメディアもなく、青木委員長も、Jリーグも誤った判定で課した制裁金さえ、返金に応じようとしなかった。
◎CAS・スポーツ仲裁裁判所(ウィキペディア)
著者は、本書の終盤で、2007年のドーピングをめぐる事件とは「我那覇問題」ではなく、「青木問題」であり「鬼武問題」であり「川淵問題」であると言う。
川淵氏は日本サッカー協会名誉会長、鬼武氏はJリーグチェアマン、青木氏は、当時日本サッカー協会(JFA)スポーツ医学委員長と、Jリーグ・ドーピングコントロール委員長を兼任し、医科大学長を務める聖マリアンナ大学は、2007年アジア初のFIFAメディカルセンターに認定されていた。
権力をもつ者が、自分の思う通りの報道を流し、裁判さえ思う通りの結果が出ることに、驚くほど自信をもっているということは、川淵三郎、青木治人、鬼武健二といった、選手を食い物にしているサッカー関係者だけでなく、毎日の報道でも、すでにありふれた事態になっていますね。
著者は「エピローグ」の鬼武Jリーグ・チェアマン(当時)へのインタヴュー(川淵、青木両氏には断られた)で、鬼武氏から、こんな言葉を引き出しています。
ーーなぜ青木さんがここまで(JFAスポーツ医学委員会)委員長におられたんですか。わたしはそれが不思議なんですよ。こんな問題を起こしておいて、まだ2008年の9月ぐらいまでやられていましたよね。ほんと公正に、中立に書きたいものですから、青木先生にも取材を申し込んだんですよ。しかし、鬼武チェアマンのように逃げも隠れもせずに出てこられるのではなく、断られましたが(笑)。
鬼武 だから、それは時間の問題だったんじゃないですか。
ーー時間の問題でしたか(笑)
鬼武 だからタイミングというのがあったんじゃないですか。時間の問題というのは変な意味じゃないですよ。タイミングの問題があったんだろうと思いますよ。私の記憶ではそうですよ。
ーーこのCASの裁定後の、会長ご自身に対する処分は、譴責処分という処分だったと。
鬼武 うん。
ーーこれは、当時のJリーグ広報の方に聞いたんです。なぜチェアマンの処分がこんなに軽いものなのかと。で、当時の広報の方が言うには、これはお一人で決めたわけでなく、法務委員長の堀田力(ほったつとむ)とご相談されて決めたと。これは事実でよろしいでしょうか。
鬼武 いいです。
ーーご自身はどう思われました。この譴責処分について。
鬼武 (前文省略)でも私は堀田先生を信用していましたし、裁定委員長としてすばらしい人だ。過去もそれはすばらしい実績をお持ちの方だから。
ーー田中角栄を論告求刑で追い込んだ特捜部検事のね。
下記は、著者が「あとがき」で、我那覇と彼を支えてともに美らゴールを決めた人々のことを思って記したゲーテの言葉。
財産をなくしたら、また働けばよい。名誉を失ったら、挽回すればよい。しかし、勇気を失えば、生まれてきた価値がない 2011年11月 木村元彦
誰が見ても無罪で、優秀で、一途なサッカー選手を襲った悲劇。もはや裁判では「正義」は争えない!
☆☆☆☆☆(満点)
素晴らしいプレイだけでなく、立派な人柄をもった我那覇選手の戦いには、多くの支援者が集まり、莫大な費用の寄付も、無償の好意も多く寄せられ、日本人の人情も捨てたものではないと思わされる部分も大いにありました。
でも、そんな立派な精神も、多くの人々の無私の行為によって得られた「結果」も、踏みにじられているという怒りが、著者の筆先から伝わって来るような本書は、我那覇選手のドーピング冤罪事件を知らなくても、サッカーに興味がなくても、スポーツを愛する人には、全員読んでもらいたいと思う本です。
その理由のひとつは、
◎ベストセラー『オシムの言葉』の著者が描く、我那覇ドーピング冤罪事件の真実!
上記インタヴューで、著者が語っているように「我那覇があのとき立ち上がらなければ、日本代表の南アW杯のベスト16も、なでしこのドイツW杯の優勝もなかったかもしれない」と言うように、我那覇選手が、自分の名誉のためだけでなく、多額の自己負担金(数千万!!!)を覚悟し、プロのサッカー選手としての将来への悪影響など、さまざまな葛藤を乗り越えて、立ち上がらなくてはならなかったのは、何故なのか?という理由を知ってもらいたいこと。
また、もうひとつは、
本書を、スポーツを愛していない人にも読んでもらいたいと思う理由なのですが、我那覇選手へのドーピング判定には、その当初から、我那覇選手を知る選手たちからも、Jリーグ各チームドクター全体からの強い反発があったにも関わらず、あまりにも杜撰な判定が覆されることなく、最後までミスを認めなかったのは、何故なのか?という理由について、著者が一歩踏み込んで「示唆」しているからです。
著者は、誰がどう見ても無罪の我那覇選手を、なぜ青木委員長(青木治人)はドーピング違反にしたのか?と問い、それは「意図的」で、故意にドーピング違反に仕立てられたのではないか?という疑惑を強めていく。
我那覇選手は、作為的なトラップによって、限りある選手生命を疲弊させ、何千万も投じて、日本の裁定機関でなく、海外の「CAS」にまで行かなくてはならなかった。。。我那覇選手の人徳とその判定へのあまりの理不尽に、支援の輪は拡大し、善意の資金も、無償で協力した大勢の有志にも恵まれ、正当な判定結果を得たものの、失ったものは大きく、覆った判定を真摯に報道したメディアも、間違った報道を謝罪したメディアもなく、青木委員長も、Jリーグも誤った判定で課した制裁金さえ、返金に応じようとしなかった。
◎CAS・スポーツ仲裁裁判所(ウィキペディア)
著者は、本書の終盤で、2007年のドーピングをめぐる事件とは「我那覇問題」ではなく、「青木問題」であり「鬼武問題」であり「川淵問題」であると言う。
川淵氏は日本サッカー協会名誉会長、鬼武氏はJリーグチェアマン、青木氏は、当時日本サッカー協会(JFA)スポーツ医学委員長と、Jリーグ・ドーピングコントロール委員長を兼任し、医科大学長を務める聖マリアンナ大学は、2007年アジア初のFIFAメディカルセンターに認定されていた。
権力をもつ者が、自分の思う通りの報道を流し、裁判さえ思う通りの結果が出ることに、驚くほど自信をもっているということは、川淵三郎、青木治人、鬼武健二といった、選手を食い物にしているサッカー関係者だけでなく、毎日の報道でも、すでにありふれた事態になっていますね。
著者は「エピローグ」の鬼武Jリーグ・チェアマン(当時)へのインタヴュー(川淵、青木両氏には断られた)で、鬼武氏から、こんな言葉を引き出しています。
ーーなぜ青木さんがここまで(JFAスポーツ医学委員会)委員長におられたんですか。わたしはそれが不思議なんですよ。こんな問題を起こしておいて、まだ2008年の9月ぐらいまでやられていましたよね。ほんと公正に、中立に書きたいものですから、青木先生にも取材を申し込んだんですよ。しかし、鬼武チェアマンのように逃げも隠れもせずに出てこられるのではなく、断られましたが(笑)。
鬼武 だから、それは時間の問題だったんじゃないですか。
ーー時間の問題でしたか(笑)
鬼武 だからタイミングというのがあったんじゃないですか。時間の問題というのは変な意味じゃないですよ。タイミングの問題があったんだろうと思いますよ。私の記憶ではそうですよ。
ーーこのCASの裁定後の、会長ご自身に対する処分は、譴責処分という処分だったと。
鬼武 うん。
ーーこれは、当時のJリーグ広報の方に聞いたんです。なぜチェアマンの処分がこんなに軽いものなのかと。で、当時の広報の方が言うには、これはお一人で決めたわけでなく、法務委員長の堀田力(ほったつとむ)とご相談されて決めたと。これは事実でよろしいでしょうか。
鬼武 いいです。
ーーご自身はどう思われました。この譴責処分について。
鬼武 (前文省略)でも私は堀田先生を信用していましたし、裁定委員長としてすばらしい人だ。過去もそれはすばらしい実績をお持ちの方だから。
ーー田中角栄を論告求刑で追い込んだ特捜部検事のね。
下記は、著者が「あとがき」で、我那覇と彼を支えてともに美らゴールを決めた人々のことを思って記したゲーテの言葉。
財産をなくしたら、また働けばよい。名誉を失ったら、挽回すればよい。しかし、勇気を失えば、生まれてきた価値がない 2011年11月 木村元彦
誰が見ても無罪で、優秀で、一途なサッカー選手を襲った悲劇。もはや裁判では「正義」は争えない!
☆☆☆☆☆(満点)
☆参考サイト
◎ウエストコースト日日抄
☆『争うは本意ならねど』書評
◎ドーピング冤罪証明 元川崎F我那覇が負担した費用3500万円
☆本書の収益の一部は、CAS裁定費用を援助するために再度開設された「ちんすこう募金」の一環として我那覇選手に送られるそうです。
◎『争うは本意ならねど』(アマゾン)
☆我那覇選手の自己負担金はまだ600万円余...
◎これまでの「ちんすこう募金」の報告
☆選手を食い物にする、ク☆ジジイたちの参考記事
◎Jリーグバブルを崩壊させ日本代表人気も絶惨破壊中の川淵三郎会長は院政に向けて今日も元気です
◎[川淵三郎]Jリーグが非を認めないのは次期会長選のため
◎[青木治人]今さらながら我那覇ドーピング問題を考える(2007.9.6)
ロッキード事件でアメリカの手先となり、その後の「売国=出世の道」というお手本の先頭に立って、絶大な権力を得ただけでなく、司法を私物化・腐敗させ、公益ではなく私益を目的とした「さわやか福祉財団」(おぇっーー!!!)の理事長として、国民の税金を交付金という形で高額な報酬を受けとり、復興推進委員会委員として、震災義援金をも懐に入れ、まだ足りないと増税まで主張する、ク☆ジジイたちの中でも最も「極悪人」(のような気がする)堀田力(ほったつとむ)氏。
◎公益財団法人「さわやか福祉財団」
(介護、教育、スポーツ...ありとあらゆる交付金を狙うハゲタカ組織??)
◎堀田力が郷原信郎に放った一言(日刊ゲンダイ)
◎樋口恵子と堀田力の対立「田中尚輝のブログ」
◎”利己主義を脱した国民が増税に賛成するようになった”という堀田力の正体
◎立花隆とかけて堀田力と解く。その心は?(2007.11.17)
◎小沢事件と二人の検察OB(2009.5.8)
◎最高裁が裁かれる時こそこの国に正義が実現される時だ(2012.2.24)
_____________
[内容紹介]2007年5月、サッカーJリーグ、川崎フロンターレ所属の我那覇和樹選手がドーピング禁止規程違反として6試合出場禁止、チームは罰金1000万円の制裁を受けた。風邪で発熱、脱水状態で治療を受けただけなのに……。そんな我那覇のもとに、一通の手紙が届いた──。
ベストセラー『オシムの言葉』の著者が4年にわたる取材を経て読者に贈る渾身のノンフィクション!自らの手で無罪を証明した我那覇和樹選手と、組織の枠を超えて彼を支えた人々の、勇気と友情の物語。 集英社インターナショナル (2011/12/15)
by yomodalite
| 2012-02-20 22:47
| スポーツ
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