天才 勝新太郎(文春文庫)/春日太一

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著者の本を読むのは初めてなんですが、これは渾身の力作!!! 本当に、スゴい人が現れたと感動しました!

勝新太郎に関しては、豪快伝説や、数々の魅力的な逸話は知っているものの、「作品」として、その凄さに、出会えたと思ったことはありませんでした。人気シリーズと言われる、『悪名』とか、『兵隊やくざ』とか、日本映画チャンネルで、ちらちら、見てみたものの、勝氏の個性は、今よりも、むしろ、そのときでさえ、時代とミスマッチな印象があって、

特に「悪名」では、人気コンビの片割れ、田宮次郎も、軽さと、スマートさを「チンピラ役」というキャラクターに、押し込められているようで、今の眼から見ると、魅力に乏しい作品としか、思えませんでした。

でも、田宮次郎は、その後、ヤクザ映画から逃れ、本来の個性どおりの「背広の時代」に、その個性を生かして、最終的に、そのキャラクターと心中したいと思うほどの、キャラクター(財前五郎)とめぐりあうことが出来たと思います。

また、兄の若山富三郎も、晩年まで、作品の中で、魅力を発揮できたことに比べると、勝氏の個性は、「異形の人、座頭市」でしか、表現できなかったのかなぁ。。と、

本当に、歯がゆいというか、残念に思うのは、役者としての勝氏は、ヤクザも背広も似合わないって、大して見てもいないのに、テキトーに結論づけていたんですが、さらに、残念なことに、その『座頭市』も、そうなんですが、日本の作家は、映画監督だけでなく、著作業も含めて、作品数が多過ぎると思うんです。

巨匠と言われる、黒澤(1910年3月23日 - 1998年9月6日)でさえ、多過ぎますね。

クロサワと言えば、撮影現場での、途方もない拘りで知られていますけど、そうでありながら、あれほどの数の映画を遺したというか、創ってしまったのは、どうなんだろう。。それは、きっと、日本にとって、イイことも、たくさんあったのだと思います。

そのイイことの、ひとつは、

なんだか、未だに、メディア的には「世界で評価された」なんて言って、喜んでいるふり(?)をしなくては、いけないみたいですけど、ハリウッド以外の世界が創ることを止めてしまった時代も、一定の水準以上の作品を、量産して来たのは「日本」だけでしょう。彼らの多作は、日本の平均レベルを上げることには、確実に繋がっていると思います。

ひとりの中に、さまざまな“天才”が同居しているような天才....

もし、勝新太郎が『座頭市』を、7作ほど完璧な作品として創ってくれていたら、

『座頭市』は、海外でも熱狂的にウケた作品だったから、その選択はあったはずです。でも、出来なかった。。。(本書では、勝新太郎とブルース・リーの出会いについてのエピソードも)

日本の作家には、今でも、そういう選択が出来ないように思います。日本では、「寡作」と言われていても、世界基準では、それで普通か、むしろ多いんですよね。

ゴダールが、影響を受けた監督を3人挙げてくれと言われて「ミゾグチ、ミゾグチ、ミゾグチ」と答えた逸話を知って、何度か、溝口健二(1898年5月16日 - 1956年8月24日)の作品にトライしてみたんですが、わたしには、未だに溝口作品がわかりません。40代のわたしが、わからないなら、今の20代には、もっと伝わらないんじゃないかと思う。

そんなわけで、よくはわかりませんが、溝口的な評価(ゴダールのそれとは違うかもしれないけど)のされかたというのは、文化的評価として、小津安二郎(1903年12月12日 - 1963年12月12日)より、もっと、一般的というか、継承しやすい才能だと思うんですけど、それを可能にするような旧制高校的な教養は日本では、ますます無くなりつつありますね。

勝新太郎は、決して才能を開花しきったとは言えない「天才」でしたが、

本書は、役者として、監督として、脚本家としての、勝新太郎を、詳細な現場取材を通して描き、映画隆盛期から斜陽期、テレビ時代、プロダクションの社長としての才能も、もがきも、新書の薄さからは、まったく想像できないぐらいのレベルで再現され、

最終章「神が降りてこない……」では、あの『影武者』降板騒動の真相に迫り、もうひとりの神、黒澤となぜ、折り合いがつけられなかったのかを、著者に、勝新太郎の魂が、乗り移ったとしか思えないほど肉薄して、語られています。

一代限りと思われた天才を、継承できる「歴史」としてとらえた傑作。

1977年生まれの著者が、これを書けたのは「奇跡」のような気がします。
今後も、春日氏には、めちゃめちゃ注目していきたい!!!

☆☆☆☆☆(満点)

___________________________

[内容]
第一章/神が天上から降りてくる ー 映像作家・勝新太郎
第二章/負けてたまるか ー 映画スター・勝新太郎の誕生
第三章/勝プロダクションの設立
第四章/オレは座頭市だ ー 『新座頭市』
第五章/神が降りてこない……

[BOOKデータベース]
「座頭市」と豪快な勝新伝説で知られる勝新太郎。本書は映画製作者としての勝とその凄まじい現場をスタッフの証言を元に再現し、繊細すぎる実像を浮き彫りにする。純粋さが加速させる狂気のノンフィクション。

[著者略歴 「BOOK著者紹介情報」より]
春日太一/1977年東京都出身。時代劇を中心にした日本の映画・テレビドラマの研究家。日本大学大学院博士後期課程修了(芸術学博士。テーマは「一九七〇年代の京都撮影所における時代劇製作の諸相」)。失われつつある撮影所文化を後世に残すべく、当事者たちへの聞き書きをライフワークにしている。講演・著述を通して、製作現場の熱気や職人たちの美学をより多くの方に知ってもらおうと活動中。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)




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by yomodalite | 2010-11-12 16:45 | 報道・ノンフィクション | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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