文士のきもの/近藤富枝

文士のきもの

近藤 富枝/河出書房新社




普段、きものを着ていると言うと「昔、お茶を習っていたときはよく着たのだけど...」とか、着ていく場所がないと言われる方が多いのですけど、わたしは、そういう「場所」には、着て行きたくないんです。だって、楽しくないうえに、お金がかかるし、、、

きものを着ることは、わたしの中では、十代の女の子が「ロリータファッション」を着ることと、近いような気がしていて、常にマナーが存在している集まりとか、きものでお出かけする人が非常に多いイベントとかには、なるべく近寄らず、ちょっぴり「異界」を楽しめるような「場」に着ていくことが多いんですね。

残念ながら、日本で一番、きもの人口が多い場所から遠くないところに住んでいるので、周囲から、あまり奇異な目では見られることもない(?)のは、忸怩たるものがあるんですが、気分は、あくまで「コスプレ」なので、どこに着ていっても恥ずかしくないとか、知的な装いなんて「冗談じゃない」というか(笑)「知的に見える」なんて「アホか!」と(笑)つい思ってしまいます。

どうやら、そういった恥ずかしくない装いというのは、なんとなく「武家の奥方」気分のようなんですが、昭和前期から中期にかけて、再発見された「武士」の、更にその「妻」の装いなんて、どんなものなのか、わたしには、全然想像つかないですし、現在行われているような「お茶会」も、千利休と、何の関係があるのかもまったくわかりません。

また、幸田文氏の“きもの”の話も大好きなんですが、幸田氏のおしゃれは「地味は粋の通り抜け」を極意とするもの。「粋」が死に絶えた時代に、そこを通り抜けるなんていうのも、やっぱり、わたしにはわからない。読書傾向からも想像がつくように、超雑食系なので、テーマを絞り込んだり、ひとつの世界を追求するのも苦手なんです。

本書「文士のきもの」には、幸田文氏だけでなく、明治・大正生まれの作家たち自身と、その作品の中の、きものに関する文章が、たくさん集められていて、著者は、明治・大正の文学の研究者にして、きものに関する多数のエッセイで知られる近藤富枝氏。

作家のことを、文士という言い方も、すっかり聞かなくなりましたが、現在の“武家の奥方スタイル”が、怪しげであることとは異なり、“文士”は、きもので暮らしながら、きものが生きていた時代を描いていて、そんな、かろうじて平成の世と繋がりを感じることが出来る歴史と、文化・風俗に触れられる、文学作品が多数引用されています。

・樋口一葉  一節流れるきものへの執着
・田村俊子  妖しさと華麗さと
・永井荷風  “時世粧”の女たち
・谷崎潤一郎  王朝のみやびを求めて
・舟橋聖一  唯美と官能
・立原正秋  紬の強さ、愛の強さ
・川端康成 「あわれな日本の美しさ」
・久保田万太郎  下町の前掛党
・宇野千代  男も大切、きものも大切
・宇野浩二、近松秋江  作家とモデル
・長谷川時雨  きものに託した女の運命
・岡本かの子  きものは人を表す
・夏目漱石  文豪の意外な姿
・幸田文  血縁のなせる業
・尾崎紅葉  装い変われば女も変わる
・円地文子  さりげなく、やさしく
・吉屋信子  すがすがしき少女
・中里恒子  誰に見せる為でもなく

樋口一葉は明治5年生まれ。この頃、鹿鳴館や洋装趣味が始まり、混在文化が生まれた時代ではあるものの、一般には、江戸時代そのままのきもの姿に変わりなく、縞、格子、絣の地味な着物に、襟には普段は黒繻子をかけている。

『十三夜』『たけくらべ』『わかれ道』など、作品の中のきものの描写も興味深いのだけど、一葉自身のきもの写真が面白い。歌塾“萩の舎”の記念写真では、この頃の若い娘の正装は、薄い色の振袖が多いのだけど、裾にも袖にも、華やかな柄はなく、3枚重ね、襟は白襟でなく、刺繍たっぷりの半襟が多く見られる。また、もう成人しているにも関わらず、肩の部分で縫い縮めているところや、まだ、裾が長い時代なので、開いて見せる部分の色の重ね方とか、きものと「正座」がイコールでない時代の座り姿なども興味深い。

この頃の半襟は、襦袢に縫付けておらず、女学生達は、学校の前で刺繍半襟を取って、白襟にしたり、スカーフのように扱っていたようですね。確かに縫付ける手間のせいで、もう白でいいか。ってなっちゃいますからね。

また、一葉以来の大器の女流作家と言われた、田村俊子は『あきらめ』で、当時の女子大生のきものを描いています。この頃の女子大生の袴は、オリーブ色、紫色、海老茶、緑色と色も様々。女性同士の恋愛が盛んだったこの時代には、裾にだけ模様があしらわれたマントに、靴、胸にはネックレス、金のブレスレットに、赤の長襦袢で颯爽と通学する者も少なくなかった。

他にも、紹介されている作品には、女優、芸者、婦人雑誌の女記者、料亭の女将など、様々な階層・職業の“きもの”が存在していて、ますます、コスプレ気分に火がつきそう。

歴史と文学の香り一杯で、女子のオシャレ心をも、刺激するお得な1冊。是非!


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Commented by mgmg-mj at 2010-06-30 19:39 x
こんばんわ。私が結婚して実家から離れて10年。その時作った普段使いの着物が一度も袖を通されることなく、今は箪笥のこやしに・・^_^; そろそろ子育ても落ち着いてきたし、今年こそは!と思っています。着物って10年前の物でも、流行りを気にせず着られるのが好きですね。普段着に着るとちょっと目立ってテンションあがるし。
ここでマイケル関係のコメは申し訳ないんですが、25日に東京タワー行った時、私もちょこっとMJ仕様のベストを作って着て行ったので、それなりにテンション↑だったんですが、なんと着物から帯からすっかりMJの方がいらしてて、もう脱帽でした。(yomodaliteさんか?っと思いました♡)
写真を撮らせていただこうかと思ったのですが、取材のカメラにつかまったりしてお忙しそうだったので諦めたのですが、私もいつか仕立てようと闘志が湧きました(笑)
yomodaliteさんは洋服の生地で仕立てた着物についてはどう思われますか?
Commented by yomodalite at 2010-06-30 21:43
わたしも、MJイベントにきものは着ていきましたけど、どこにも刻印はないです。
そういう楽しいファッションには、楽しませてもらってるんだけど、自分では、ファンとしてのファッションって出来ないんだなぁ。。

洋服の生地で仕立てた着物、全然イイと思う。鶴見和子さんの「きもの自在」http://nikkidoku.exblog.jp/10790870/ で、サリーから仕立てた着物にすごく惹かれて、それから、今度アジアに旅行に行ったら、絶対、きもの用の生地を探そうって思ってます。元々「縞」の流行は、“島”からきていて、アジアには、江戸好みの布が発見できるみたいなんですよね。あと、地味な色の紬の、八掛とか、裏地が洋服地ってオシャレだよね。バティック柄とか更紗柄とか。。

それにしても、MJ仕様のベストってどんなの??
そして、着物から帯からMJってどういうことぉ〜??(@@)
Commented by pyt at 2010-06-30 22:04 x
私なんぞ、着物とは無縁の世界に住んでまして、着物を着た経験は独身の頃に振り袖を数回着ただけだという、そういう意味では和の心知らずです。
しかも、旦那様の身内の葬儀の時でも真夏を理由に黒喪服も着ず、洋装で済ませてしまうという。姑もそれで良しと言う事だったのでまあいいかと・・・。

ところで、この記事読んでたら“着物の着方”で思い出した話があるんだけど、以前ちょこっと紹介した時代劇「鞍馬天狗」で、主演の野村萬斎がインタビューで語っていたのが、狂言師の彼は落語家と一緒で、普段から着物を着慣れているので、きっちりと襟を詰めて着て、“着崩す”と言うことはありえないそうな。

でも、この時代劇で、天狗に変身する前の浪人役を演じるときには、着流し浪人のイメージで、わざと着物を着崩して胸元をはだけるように!、と時代劇スタッフから指示が飛ぶそう。
で、せっかく少し着崩して着ても、普段のクセが出て、無意識に襟元に手を突っ込んで崩れを直してしまうそうな。そうすると、襟!襟!襟が直ってるよ!と、またスタッフから注意が飛ぶと、その繰り返しなんだって(笑)
(つづく)
Commented by pyt at 2010-06-30 22:05 x
(つづき)
これを撮影した東映京都撮影所スタッフ曰く、
「浪人の着流しスタイルの胸元のはだけ方は、こうするんや!」という時代劇の“様式美”なるこだわりがあって、そこに男の色気を感じるとか(笑)
蔦吉姐さんみたいな芸妓の襟の抜き方も、様式美のひとつだよね。つーか、MJのダンスもすでに様式美の世界・・・。これって「粋」じゃない?(笑)

と、本の内容からは脱線しているけれど・・・。
ところでyomodaliteさんの着物コーデこそ、「粋」がテーマとお見受けしてるんですが如何でしょうか(笑)
Commented by yomodalite at 2010-06-30 22:31
そういえば、男できものを気崩している人って、今見ないね〜。
男でも、ちゃんと襦袢着てるし、職人系の人は、着流しじゃないし。。

そういえば、芸妓の襟の抜きっていうのもさ、江戸時代は重ね着で、襟に芯が入ってないみたいだし、今みたいに“おはしょり”じゃなくて、裾引きずってるから、胸は、今よりはだけるはずだけど、後ろ襟は、そんなに抜けないはずなんだよね。襟を抜くようになったのは、いつ頃からか、調べてなかったことに、今気づいたよ!

>yomodaliteさんの着物コーデこそ、「粋」がテーマ...
そんな煽てたって、何にも出ないんだから(笑)
コーデは「粋」でも「野暮」でも「奇天烈」でもいいの♡
「粋」で拘ってるのは、「忙しい」より「暇」の方が「粋」だと思ってるぐらいだなぁ〜。
Commented by mgmg-mj at 2010-07-01 15:32 x
あまりじーっと見つめるのもどうかと思ったので、素材とかはよく分からなかったのですが、MJ仕様のお着物とは、まず、黒地で、帯の後ろ姿に(おそらく角だし)MJが帽子を被っているプリント?か刺繍が入っていて、きものには肩から背中のところにきれいなラインストーンがちりばめられていて、脇のラインにもまるでビリージーンのパンツのようにラインストーンがまっすぐ入っていました。うまく説明できなくて、伝わらないかも・・ですが、髪型がショートだったので、けっして派手な感じではなく、上品でしたよ。それに比べれば、私なんて・・勝手にMJっぽいって思ってたラインストーンがちりばめられた黒地の生地をベストにして、背中の上の方にラインストーンでMJっと貼りつけただけのしょっぼいもんですよ(笑)それを着て電車で移動中に、私の背中のMJを見て、何人かが「あれから、一年か~」とか「あの日はショックだったな~」とか話す会話を背中から聞いているのが楽しかったな~(笑)
着物の裏地に洋服の生地!それってかっこいいですね♡いただきです! (続く)  

Commented by mgmg-mj at 2010-07-01 15:33 x
(続き)
これから一重のきものの時期だけど、いまから仕立てたら、寒い時期になっちゃいそうなので(ダメじゃん・・)丁度よいかもです。私、何を作ろうかと考えている時が一番幸せなんです~♡  素敵なアイデアありがとうございます。
Commented by yomodalite at 2010-07-01 17:04
すご〜〜い!黒地にラインストーンかぁ。。しかも脇にビリジンラインとは♡それは拝見したかった!!MJ顔プリントは無理としても、黒地にスワロ一杯ってパターンは他でも使えるし、是非マネしたいアイデアですね!

mgmg-mjさんのベストを見て「あれから1年かぁ〜」っていう話が始まるっていうのも、ファンファッションならではですね。。。

単衣の着物は、今から仕立てても全然大丈夫ですよ。お住まいの地域にもよりますが単衣のきものが一番長い期間、快適に着られます。黒っぽい色の無地か、細かい縞の木綿地なら、コーデの幅の広さはハンパないですし、裾のめくれる部分と、袖の振り(内側数センチ)にだけ、裏地をつけられたらイイと思います。初夏は襦袢なしで、冬は、絹の襦袢を合わせれば、東京では真冬でも、これにロング手袋と、襟元にショールさえあれば、全然寒くないですよ。是非チャレンジしてみてください!
Commented by mgmg-mj at 2010-07-01 20:25 x
ふむふむ、なるほど~。( ..)φメモメモ いや~勉強になります。
パオー!っとテンション上がってきた~\(^o^)/・・・って一人で盛り上がってごめんなさい・・。新参者の私が一人空気読めない感じで^_^;  今回だけゆるして下さい♡
昨年の秋に旦那のコート用にと買った生地、やっと形になってきたくらいにのんびりと作っている私ですが、果たしてきものは、今シーズン中に出来るのかしら・・^_^; Let's try!ですね。

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by yomodalite | 2010-06-29 13:37 | きもの | Trackback | Comments(9)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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