インサイド・ザ・ジャクソンファミリー/ラトーヤ・ジャクソン

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音楽評論家・吉岡正晴氏は『マイケル・ジャクソン全記録1958-2009』の翻訳・監修者として、同書を「ゴシップはいらない。事実の積み重ねだけで、マイケルの足跡を振り返る」と評しています。

まさに、そのとおりで、私もマイケル・ジャクソンに関しては、彼の創った音楽や映像を通して以外は、知りたくないという気持ちはよく理解できます。

また死後の再販新刊ラッシュの中でも、読むべきなのは、マイケル本人の自伝『ムーンウォーク』(田中康夫翻訳)、日本のマイケル研究の第一人者のミュージシャン西寺郷太氏の『新しい「マイケル・ジャクソン」の教科書』、そして、このブログにも旧版の方の感想を書いた『マイケル・ジャクソン全記録1958-2009』(エイドリアン・グラント著)、あとは、幼児虐待疑惑の真相を暴いた『マイケル・ジャクソン裁判』の4冊という意見にも同感なのですが、

あえて、もう一冊、現在ほとんど書評のないラトーヤが書いた本書について記録しておきたいと思います。

わたしが、この本を読もうと思った理由は、ジャクソンファミリーの真実は、その中に居た人間にしか書けないし、そうなると、男兄弟であるジャクソンズ以外で、マイケルに一番年齢が近く、3人姉妹の真中の“双子座の姉”が、一番「文才」があるに違いないという“直感”と、また、スキャンダラスな話題ばかり先行していた、ラトーヤのイメージへも、マイケル同様疑う必要があるのでは、と思ったからです。

本書は、結論から言えば、マイケルファンにとって、決して嫌な内容の本ではないです。

むしろ、人を傷つけることに、あまりにも神経を使い過ぎている、マイケルの自伝『ムーンウォーク』に対して、お姉ちゃんが覚悟を決めて、人肌脱いだと感じる部分が多く見られます。

全部読んだとは言えないので、自信をもっていうのもどうかと思うのですが、ジャクソンファミリーを描いた著作では、ベスト本ではないでしょうか。

この本の出版が話題になっていた当時も今も、本書はいわゆる「暴露本」という扱いで、ラトーヤ自身もヌードグラビアや、兄弟に対しての中傷などから、センセーショナルな存在としてのみ、取り上げられているように思います。

『新しい「マイケル・ジャクソン」の教科書』にも「洗脳 姉ラ・トーヤの10年間戦争」として、ラトーヤがマネージャーで夫でもあったゴードンの洗脳による“人騒がせなおばさん”として紹介されていますが、ゴードンに操られたという部分は、彼女のジャクソン家からの最終的な旅立ちにともなう混乱によるもので、本書の記述全体に及ぶものではありません。

ファミリー本としては、多分最上級のクオリティにも関わらず、再販されていないのは、本書では擁護されているゴードンのことを、後に、彼女は過ちに気付き、マイケルと他の兄弟に謝罪する結果になったことが最大の原因だと思います。

本書の最終章は、彼女が、家を出て行くところで終わっているのですが、もし、ラトーヤが、この後の家族への謝罪、和解などのエピソードを加え、最終版を出版するのであれば、わたしは迷わず買います。本書は、彼女の混乱に乗じ、騙されて企画されたという一面もありながらも、ジャクソンファミリーの一員としてのラトーヤの“魂”が込められたものです。

ジャクソンファミリーという特殊な環境で、それぞれの兄弟がどのように悩み、成長して行ったか、特にその中で最も苦労することになるマイケルの時代ごとの生き生きとしたエピソードや、優等生でもあり、問題児でもあった、マイケルに次ぐ、ファミリーの中心的人物ジャーメインに関しても、些かキツい表現もありますが、問題点がよく捕らえられています。

その他の兄弟へも、当事者は耳の痛い部分はあるでしょうが、客観的にみて、ファミリーを貶めてはおらず、家族の欠陥を描きつつも、読者として、ファミリーひとりひとりを抱きしめてあげたくなるような読後感がありました。

また“Wanna Be Startin' Somethin'という曲は、ラトーヤと義理の姉妹との摩擦を書いたという記述なども興味深いのですが、『ムーンウォーク』にはない記述で最も重要なのはやはり「エホバの証人」の信者だったときのマイケルのことでしょう。

ラトーヤに言い寄ってきた有名人の話なども、一見彼女の自慢話に聞こえるかもしれませんが、彼らとラトーヤが上手く行かなかった理由と、マイケルがテイタム・オニールや、ブルック・シールズなどとの恋愛に抱えていた問題には、類似する点があるように思います。

信じられないことですが、スリラーの驚異的なヒットの後にすら、マイケルは信者としての個別訪問(!!)など、熱心な宗教活動をしています。ところが、マイケルの芸能活動は教団から否定され、偽善者と非難されてしまいます。(一方では教団内でマイケルを救世主とする見方もあった)

『ムーンウォーク』発売('88年)の1年前('87年)に、ついにマイケルは「エホバの証人」に脱会届を出し、そのため当時まだ信者であったラトーヤにも母にも会えなくなっているのですが、マイケルが『ムーンウォーク』で、ラトーヤと自分は全然似ていないと書いていることには、そういった事情もあると思います。

西寺郷太氏の『新しい「マイケル・ジャクソン」の教科書』には、「楽園 ネバーランドの建設」〜「洗脳 ラトーヤの10年間戦争」として、この頃のことが書かれています。ただ、ラトーヤのこの本を、家族への反撃としての「暴露本」と言うには、あまりに、彼女が可愛そうというか、彼女は彼女なりに、同じ信者として味わった挫折感と、姉として、この頃のマイケルを擁護したいという思いがかなり強くあったのは、間違いないと思いますし、実際ネバーランド以降のマイケルの気持ちがもっとも理解できたのは、ラトーヤではなかったかと思います。

更に、想像で付け加えれば、このあと、ラトーヤが、マイケルの幼児虐待を肯定してしまう発言に至ったのは、ゴードンの脅しが大きかったとはいえ、本来、マイケル擁護であった本書により、彼女が家族から見放されたこと、また、それを強く理解しつつも「読んでいない」発言以外できない、マイケルへの悲痛な叫びと、益々ゴードン以外に頼る者がいなくなった、ラトーヤの混乱があったように感じました。

当時の姉の行動を、家族の中で、もっとも理解していたのは、マイケルだったように思えてなりません。彼が、このあと、父の虐待に関して、これまでよりも発言が増えて行ったのは“姉の擁護”という側面もあったのではないでしょうか。

また同書では「最も典型的に詐欺師の毒牙にかかり人生を翻弄されたのが、最も両親に従順で純情だったラトーヤ」とも評されています。しかし、これは、彼女が騙されやすい性格だった、という単純なものではありません。

これは、マイケルにも言えることですが、ふたりとも、非常に知性があり、慎重でありながらも、理不尽な攻撃を受け、人生を翻弄されたと思います。

山下達郎氏は、マイケルの逝去のことを「マーヴィン・ゲイ同様にアメリカ芸能界の地獄で燃え尽きてしまいました」と語ったそうです。

「吉岡正晴のソウルサーチン」

わたしは、その炎の燃え上がりが、どうしてこれほどまで激しいものになったのか、なぜ何度明確な否定がされても、消え入ることがなかったのか、実感としてはわからなかったのですけど、本書で少しだけ、その正体が見えたような気がしました。それは、ひとつではなくて、いくつもの顔があるのですが、日本人として育ってきた私たちには、なかなか気づくことが出来ないもののようです。なんというか「本場の地獄は違う」というか...

P259〜265には、のマイケル宗教活動と、その脱退までが、短くまとめられているのですが、日本の宗教団体でマイケルほどの広告塔に、これほどの攻撃をする団体なんてないでしょう。それも脱退してからではなく、信者の時代に。。。そして、こういうことが、ここで書かれている特定宗教団体のみではないということも。何もかも、アメリカに住んでもいないアジア人種には想像もつかないことでした。

ジャクソンファミリーは、アメリカで初めての黒人名門家族になりました。そして、そこには、マイケルと言う不世出なタレントが生んだ兄弟の確執とか、幼い頃からのセレブ生活とか、そんな日本人が思いつく芸能界の闇とは、まったく桁違いの「地獄」が待っていました。

私には、ラトーヤが、自分とマイケルが似ていると感じ、そして自分よりもっと傷ついているという気持ちが、この本の出発点になったと思えてなりません。その志の高さは、流石はマイケルの姉!なんですが、結局その後、幼児虐待疑惑では、マイケルに打撃を与えてしまうことになりました。彼女も地獄の炎の激しさからはどうしても逃げられない運命でした。

また、ラトーヤ・ジャクソンのウィキペディアには、

1991年ジャクソン家の内部の暴露本を出版。この本では家族内部で激しい暴力が振るわれた事、自分と姉リビー・ジャクソンが父ジョセフ・ジャクソンに近親姦をされた事が述べられ論争となった。

とあるのですが、私が読んだ初版と思われる1991年9月第1刷にも、1992年2月の新装版にも、近親姦というような内容はありませんでした。

詳しい事情はわかりませんが、本書は、出版前から兄弟による差し止めなど、騒ぎが大きかったので、その時点での“噂”か、出版後のインタヴューなどから生じたものなのか?あるいは、まったくのデタラメなんでしょう。

有名な兄弟たちの葛藤と、彼女自身が、宗教からも、家族からも自立しようとしていく過程を描いた物語として、本書は前述の良書4作に比べ、遥かに“文学的”な作品です。私は、美しい物語として読みました。絶版ではありますが、図書館にはあるところが多いようなので、機会があれば是非ご一読を。


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『インサイド・ザ・ジャクソン・ファミリー』は原題のようですが、実際は「La Toya: Growing Up in the Jackson Family」が本当のタイトル。日本版の表紙は、出版社自体が「暴露本」として、売ろうとしている悪意が感じられますが、原著は、マイケルとポールの『Say,Say,Say』に登場していた時のように美しいラトーヤがカバーになっています。

★★★★☆(マイケルとジャクソンズの資料として)


☆関連本
『マザー』キャサリン・ジャクソン
『息子マイケル・ジャクソンへ』ジョー・ジャクソン

☆本書の第2版
ラトーヤ・ジャクソン インサイド・ザ・ジャクソンファミリー《愛蔵限定版》
☆マイケルの死後リリースされたラトーヤののビデオと詞
“HOME”

☆「吉岡正晴のソウル・サーチン November 13, 2009 02:31:31」
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【内容紹介】インサイド・ザ・ジャクソン・ファミリー ラトーヤ・ジャクソンが語るファミリーの真実/La Toya Jackson , 高橋伯夫 (翻訳)

マイケル・ジャクソンの姉、ラトーヤが語るジャクソン・ファミリーの真実。華やかな名声の陰で、父親の暴力、母親の罪深い偽りの愛、兄弟の確執があった。「欠陥家族」の姿を、客観的に、しかし愛情をこめて描く。 オオカワ・コーポレーション (1991/09)

原題「La Toya: Growing Up in the Jackson Family」/LaToya Jackson (著), Patricia Romanowski (著)




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Commented by sakura-kanade at 2009-12-01 12:49 x
『ムーンウォーク』、『マイケル・ジャクソン全記録1958-2009』は私も買いましたよ。まずは全記録の方をしみじみと、ぽつりぽつりと読んでいます。DVDの予約もしましたし、あーーーっマイケル(しみじみ)。相変わらずマイケルにひたっているうちに12月になってしまいました(^_^;)
Commented by yomodalite at 2009-12-01 22:17
全記録は旧版よりずっと素敵なデザインになって、加筆部分も多くてGood!!! DVDはどのヴァージョンにするか迷うなぁ。
Commented at 2009-12-10 21:49 x
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Commented at 2009-12-10 22:09 x
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Commented at 2009-12-10 22:18
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Commented at 2009-12-10 23:03
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Commented by yomodalite at 2010-07-07 21:40
通りすがりの者さん、ご指摘ありがとうございます。訂正させていただきました。
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by yomodalite | 2009-11-29 23:55 | マイケルジャクソン書籍 | Trackback | Comments(7)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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