人情馬鹿物語/川口松太郎

人情馬鹿物語

川口 松太郎/論創社

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著者の川口松太郎氏は、浅草出身で、小学校卒業後、洋服屋や質屋の小僧、古本露天商、警察署給仕、電信局勤務、講釈師許に住込み口述筆記手伝い、編集者等、様々な職業を経て作家となり、昭和10年に第1回の直木賞を受賞。

映画化もされ、空前のヒット作となった『愛染かつら』など、大衆小説家として大活躍し、また戦後は、大映専務としても映画や演劇界に尽力し、文化功労賞も受けた人物。(「川口浩探検隊」で有名な川口浩は、後妻の女優・三益愛子との長男)

とにかく、明治生まれで、昭和の文化・芸能史に確固たる地位を築いた方のようなのですが、アラフォー世代の私は、まったく存じあげず。。。ところが、どこでオススメされたか、記憶にないのですが、突然、わたしの中の“江戸っ子”センサーに、ひっかかってきて、期待半分で読んでみると、スゴくイイ!!

内容は、川口氏が小説家になる前に、講釈師、悟道軒円玉の手伝いをしながら、居候をしていた頃に、円玉の元に出入りする様々な人々を描いた12話の短編集。大正期の東京の下町を舞台に、今なお残されている「人情」がテーマなのですが、人情にとことん馬鹿になれた“江戸っ子”を支えていたものとは、なんだったのか。それは、今忘れられているようで、やっぱり同じ日本人として、どこか理解できるもののように思えます。

この作品が実際書かれた時期は、本書にも記載がなく、調べてもわからないのですが、小説の舞台は、大正12年の大地震前で、円玉が、深川の森下に住んでいた頃。著者は作中で、この時代こそが、江戸っ子の中の江戸っ子らしい生活の最後の名残りがあった時代としています。

しばらく前に、渡辺謙が映画『沈まぬ太陽』のインタビューで、主人公の気持ちを“矜持” という言葉で、それは、堂々としたプライドとは少し違って、胸の奥に秘めているものではないかと語っていたのが印象に残ったのですが、この物語の登場人物たちにある“人情馬鹿”というのも、江戸っ子の矜持ではないでしょうか。

話の内容は、意外にも、女の強さを描いたものが多くて、やわな女は1人も出てこない。
働く女子にとっては、草食系イケメンに癒されるより、明日への活力に満ちてくるかも。

著者は、幸田文より、5歳年上で、「半七捕物帳」でおなじみの岡本綺堂より27歳年下なんですが、このお二人より、遥かに読みやすい文章で、人情話が楽しめます。

落語好きの方には、もちろん、景気回復よりも、日本の人情の復活が大事と思われる方へ

★★★★(本書の底本となっている【講談社文庫・大衆文学館】シリーズにも興味津々)

「やっぱり本が好き」
http://plaza.rakuten.co.jp/niko2town/diary/200908270000/ 

_____________

【内容】
「紅梅振袖」
大家の娘に惚れた、腕のいい縫箔屋の職人は、娘の結婚のために見事な刺繍をほどこした
振袖を作り上げるが。。。
「春情浮世節」
子宮癌で、女を失ったと思っている女芸人の恋への挑戦
「遊女夕霧」
自分のために身を持ち崩した男のために花魁がとった行動とは。。
「深川の鈴」
文士を一人前にするために夫婦になろうとした、寿司屋の未亡人
「親なしっ子」
義太夫芸者が内儀になるためにかかった医者は、道楽者で。。。
「春色浅草ぐらし」
堅物と見られていた四郎には、安来節の女芸人の“色”がいた
「七つの顔の銀次」
元スリの銀次は、今は仕立て屋として堅気になっていたが、
惚れていた役人の娘のために警官に頼まれ、スリを働くことになった
「櫓太鼓」
柏木は、大関になるまでは女を絶つと神前に誓ったが、芸者花香に惚れてしまう。。
「丸髷お妻」
女博徒お妻は、逃がしてくれた恩義のため執拗に信吉に迫る。
何度も振り切った末に、とうとう信吉もほだされるが。。。
「三味線しぐれ」
吉村は、お腹の子供も一緒にお仙をもらおうとするが。。。
「歌吉心中」
亭主安兵衛が芸者歌吉に惚れたことで、傾いた吉田屋の元女将お孝は二人の娘を
芸者として仕立てることにすべてを賭けるが、
歌吉と安兵衛の心中は講談として評判になる
「彼と小猿七之助」
席亭の娘お道は、講釈師の芸が廃れるのを案じ、燕林と夫婦になる決心をしたが、
お道の父は、借金の肩代わりをした請負師国定に、お道をゆずる約束をしていた。。。

【BOOKデータベースより】
大正期の東京下町を舞台にした人情小説の名作12編、待望の復刊。

【著者略歴】(「BOOK著者紹介情報」より)
明治32(1899)年、東京浅草生まれ。久保田万太郎、講談師・悟道軒円玉らに師事する。大正12年に小山内薫主宰の雑誌「劇と評論」に戯曲が掲載され、その後、戯曲・台本を数多く発表する。小説でのデビュー作は昭和9年『鶴八鶴次郎』。翌年に同作ほかで第一回直木賞を受賞する。以後、映画化され、『愛染かつら』や『しぐれ茶屋おりく』(吉川英治文学賞受賞)、『新吾十番勝負』など、芸道小説、風俗小説、時代小説で活躍。また、映画会社の重役として、映画や演劇の製作にも力を注いだ。昭和40年に芸術院会員、48年に文化功労者。昭和60(1985)年逝去。享年八十五歳(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです) 論創社 (2009/05)



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by yomodalite | 2009-11-11 17:24 | 文学 | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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