テロリズムの罠 左巻ー新自由主義社会の行方/佐藤優

テロリズムの罠 左巻 新自由主義社会の行方 (角川oneテーマ21)

佐藤 優/角川学芸出版



本書は、角川学芸出版のウェブマガジン『WEB国家』に連載されていた「国家への提言」に加筆修正したもの。左巻、右巻と2冊同時出版されていて、それぞれ、左派・右派向けかと思いきや、そうではなくて、左巻は新自由主義、右巻はファシズムをテーマにしている。

左巻きは嫌いだから、右巻だけ読もうと思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、両巻読んだ感想で言えば、左巻から読んだ方がわかりやすい内容になっていて、リーマンブラザーズの破綻を契機に起きた世界不況が、新自由主義に基づくグローバル資本主義の終焉を招くであろうという予測から、新自由主義の見直しの必要性を説いた内容になっている。

佐藤氏は、新自由主義は、国家と社会がもつ暴力性を加速する傾向にある。という。

新自由主義は、生活における貨幣の比重を高めてしまう。貨幣は本性として暴力的であることを認識し、新自由主義が市場による競争で合理的で公正な配分ができるというのは嘘で、市場において、豊かな者と貧しい者では、初期段階でもっている道具や情報に格段に差があることを指摘。宇野弘蔵のマルクス経済学に沿って、新自由主義の行方について語られている。

『テロリズムの罠』というタイトルは、わかりにくいのだけど、

秋葉原無差別殺傷事件は、国家を直接の標的にしていないが、「社会」を標的にしたテロである。テロは社会を弱体化し、国家が収奪する対象である社会が弱体化し基礎体力が衰えると、国家は弱体化する。秋葉原無差別殺傷事件が他のポトスに向けられたときの危険を認識したため、政府は迅速に対応し、派遣労働者に対する法整備を急速に進めた。テロにおびえ、あわてて対症療法するのは弱い国家であり、日本国家の弱体化は、国民の目に明らかになった。格差から生じる不満を政治はどのように理解するべきかを、元官僚であった佐藤氏が考察すると、『国家の罠』を逆さにしたタイトルになった、ということか。

各章により、インテリジェンス、旧ソ連、ロシアについての内容は興味深い点が多いものの、これを『テロリズムの罠』というひとつのパッケージの納め方には、居心地が悪かったり、風呂敷を広げ過ぎた感もあるような。。。

第2章の『蟹工船』異論では、小林多喜二がプロレタリアートの実態を知らずに書いた部分を、雨宮処凛氏との対談などを通して指摘し、第5章の内閣崩壊では、安倍〜福田の内閣の性格とその崩壊を解いている。

あとがきでは、テロとクーデターを避けるためには、日本を愛する人々が、暴力によって「世直し」を試みると、その結果、国家が暴力性を高める。この認識を共有することがテロやクーデターの歯止めになる。そのために思想がもつ力をいまここで発揮しなくてはならない。としているのだけど、どこからも援助されることのない、純粋に「日本を愛する人々」による暴力的な世直し、というものが想像できないし、国家の暴力性には様々な形体(軍隊・警察権力の強化〜税金の収奪、格差の定着)があるが、愛国者の抵抗(テロ・クーデター)は、幅がせまくなる一方であるなら、歯止めが「国家」の弱体化に繋がるかどうか。。。

『国家』本が飽和状態であると出版社側は判断したのだと思うけど、やっぱり本書は『国家への提言』のほうが、すっきりした内容になったと思う。
★★★☆

【目 次】
序章ーなぜいま国家について語らなくてはならないのか
・国民の災厄に備える
・国家権力の本質
・「不可能の可能性」に挑む

第1部ー滞留する殺意 暴力化する国家と社会の論理
 
第1章 国家と社会の殺人
・「社会」へのテロリズム
・「物神」と殺人

第2章 『蟹工船』異論
・「蟹工船」という問題
・葉山嘉樹『海に生くる人々』を読む

第3章 控訴棄却
・鈴木宗男疑惑の本質
・「欲望」する検察

第4章 農本主義の思想
・思想としての「土」
・「農本主義」を再考せよ

第2部ー沈みゆく国家 新自由主義と保守主義の相克

第5章 内閣自壊
・安倍内閣「自壊」の内在的論理
・新自由主義による日本国家・日本国民の簒奪
・ファッショの危機

第6章 情報漏洩
・国家とインテリジェンス
・インテリジェンス戦争

第7章 支持率2パーセントでも政権は維持できる
・求心力なき国家
・信任なき政権、崩壊せず

第8章 北方領土と竹島
・メドベージェフの“シグナル”
・領土問題の交渉術

あとがき テロとクーデターを避けるために
________________

【BOOKデータベース】秋原原無差別殺傷事件、うち続く政権崩壊…。二〇〇七年から「最悪の年」二〇〇八年にかけて起きた国内の数々の事件・出来事、そして一大ブームとなった『蟹工船』の犀利な読解・分析を通じ、日本国家を弱体化すると共に暴力化し、日本社会の中に絶対的貧困とテロリズムへの期待を生み出した新自由主義の内在論理を徹底的に解読する。 角川学芸出版 (2009/2/10)



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by yomodalite | 2009-04-27 15:45 | 政治・外交 | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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