スモール・サクリファイス(上・下)/アン・ルール(著)、曽田和子(訳)

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全米で有名になった「ダウンズ事件」の全貌をあますところなく描いた本書は、ダイアン・ダウンズという稀有な女性がおこした1987年の事件のノンフィクション作品。

彼女は3人の我が子の命を撃った。最初の結婚で得た7歳のシェリル、8歳のクリスティ、離婚前に別の男性との間に出来た3歳のダニー。彼女にとって妊娠と出産は、自分にかけがえのない喜びをあたえてくれるものだった。

代理母としての出産も経験し、自ら代理出産事業も始めようとしていた。子供は常に自分を必要としてくれる。けれど養育にはあまり熱心ではなかった。人並み以上の知能。人を惹きつける美貌を持ちながら、彼女は何一つ成功できないでいた。

著者のアン・ルールは、陸上のコーチの父親と発達障害児を教える母との間に生まれ、親戚には郡警察長、検察官、検死官をもち、心理学、犯罪学、刑罰学を大学で学び、犯罪捜査、警察行政、捜査術、逮捕学をコミュニティカレッジで学び、実際にシアトル警察の警官になり、女子少年院で働いたこともある。という経歴で、本書で成功後も数々のベストセラーを生みだし、犯罪ノンフィクション作家として、このジャンルを確立させた人物とも言われている。また5人の子どもを育てた母親でもあり、現在は孫もいる。

この上もない悲惨な事件ですが、人一倍渇望しながらも、愛を理解できない母親に育てられ、撃たれた、娘の母親への愛、被害にあった子どもを救おうとする医療関係者も、検察も子ども達を必死に守ろうとする。クライマックスであるクリスティの裁判での場面は泣かされます。また著者の日本語版読者へのメッセージでは、クリスティとダニーのその後にも触れられ、母親が読んで気分が悪くなるだけの作品ではありません。

マスコミを賑わす要素が多過ぎる事件ではあるけれど、著者はそのすべてをあますところなく描ききる技量と研鑽を積んだ最適な作家なので、良質なミステリを求める方にもオススメです。現在、絶版のようなので、図書館を探されると良いかもしれません。

★★★★

ところで、畠山被告は無期懲役が確定しそうですね。彼女の事件もあいまいな点が多く、夥しい畠山被告のTV映像による印象報道だけでなく、畠山鈴香という女性をもっと綿密に取材した作品が読みたいものです。わたしは、彼女に、貧しい家庭に育った田舎の文学少女を感じてならないんですよね。。。

下記は、簡単なあらすじです。読んでみようと思われる方は、読まない方がいいかな。


(上巻)彼女の生い立ち、父親との関係、結婚、出産、代理母、奔放な男性関係から、事件が起こるきっかけともいえる男性との出会い。。。

事件は起こった。シェリルは亡くなり、重大な障害が残るほど重症を負ったクリスティとダニー、3人の幼児と共に撃たれた若い母親は、マスコミによって悲劇のヒロインになるが、事件を調べる刑事たちは、彼女を次第に追いつめていく。。。

(下巻)刑事たちの執念は一歩一歩ダイアンを追いつめてはいたものの、逮捕までは永い道のりだった。ダイアンはその間も新たな男を求め、妊娠を渇望し、クリスティとダニーの養育権が奪われるのも嫌だった。

事件で注目を浴びていたことで、困難に思えた新たな妊娠だったが、彼女は今までどうりハンサムで、しかも今まで以上のインテリ男性の子どもを身ごもり、その数ヶ月後に逮捕された。ダウンズ事件は再度全米を賑わす大事件となった。

検察側にとって裁判は容易ではなかった。クリスティの回復を優先し、長い準備期間をかけてようやくこぎつけた裁判での証言。しかし弁護士は、幼いクリスティにも容赦なく覆いかかる。無罪の評決には12人の陪審員の10人が賛成すればいい。だが有罪にするには12人全員が賛成しなくてはならない。陪審員は、妊婦の容疑者を有罪に出来るのか。

裁判ではいつも清楚なマタニティドレスだったダイアンは、拘置所を出る時は髪をショートにし、ピッタリのジーンズに15センチもヒールがある膝上ブーツを履いていた。裁判が終わってもダイアンの物語は終わることはなかった。。。。

「See-Saw日記」
http://see-saw.way-nifty.com/diary/2007/10/post_1db5.html
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アメリカでは、本に対する賛辞に "Un-putdownable!" という言葉がある。本から手が放せない、読み出したら止まらない、というニュアンスだが、この『スモール・サクリファイス』を評するのに、これほどピッタリくる言葉はないだろう。全米では各紙が絶賛し100万部を突破したというのも、とにかく手にとって読み始めればうなずけるに違いない。
著者のアン・ルールは、シアトルで警察官を経験した後に作家となった、女流のクライム・ライター。「犯罪ノンフィクション」というジャンルを確立した第一人者で、『スモール・サクリファイス』は、いまやベストセラーを連発している彼女の出世作である。

物語は、オレゴン州スプリングフィールドの病院のER(緊急治療室)に、銃撃を受けた若い母親が助けを求めにくるところから始まる。血まみれの車内には瀕死のわが子が3人。全米を震撼させた「ダウンズ事件」だ。母親のダイアン・ダウンズは、10代のころ、父親からの性的虐待にさらされた過去を持つ女性だった。不幸な結婚ののち、わが子への虐待、代理母としての出産、乱れてゆがんだ男性遍歴を重ね、すさまじいまでの人生を送っていく。

マスコミと市民を味方につけ、「悲劇のヒロイン」を演じるダイアン。だが、幼い子どもの命を奪ったのは、実は母ダイアンではないのか? 検事ヒューギを中心とする息詰まる捜査と、事件の背後に隠された人間の病理と悲惨さを、アン・ルールは圧倒的な取材と筆力で描ききり、読む者の心を締めつけて離さない。

上下2巻、800ページというボリュームだが、達者な訳文の力もあって一気に読み通してしまう。まさに "Un-putdownable!" なのだ。しかも、最後のどんでん返しには「これが本当に実話なのか?!」と仰天すること請け合い。「どんな推理小説もかなわない迫力」(インディアナポリス・スター)の本書は、ミステリーファンにも強くすすめたい。(遠藤聖一)




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by yomodalite | 2009-04-08 14:01 | 報道・ノンフィクション | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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