辰巳八景(新潮文庫)/山本一力

辰巳八景 (新潮文庫)

山本 一力/新潮社




山本一力さんを読むのは今回がお初。大分前なんですが、書店の時代小説フェアと称する売り場で見た、一力さんの顔写真(文庫の著者近影と同じもの)がすごく印象に残っていました。というのも、私、お顔を拝見すると同時に「星座」を考え、大雑把にどんな人かという分類分けをするのが癖になっているのですが、一力さん、星座はわからないものの、お顔は「番頭さん」以外の分類を許さないまでの「番頭」顔ではないですか!

時代小説はあまり読んでいないのですけど、吉川英治、岡本綺堂、山本周五郎、柴田錬三郎、池波正太郎、藤沢周平、、、みなさん、商売向いてなさそうな方ばかりなのに、山本一力さんだけは前世でも「商人」という感じがするのは、私だけでしょうか?

結構大店の、お金のことはすべて任されています、という感じの上にも下にも信頼の厚い番頭さんのように「そろばん」の似合う、このお方は一体どんな小説を書かれているのか、興味を持ちつつも、ここは慎重に(?)、ざっくりと近所と言えなくもない「辰巳」を舞台にした短編集から、読んでみることに。

「永代橋帰帆」ではろうそく屋、「永代寺晩鐘」はせんべい屋と米屋、「仲町の夜雨」では不妊に悩む鳶のおかみが主人公ながら、当時の店賃や両替事情を詳しく語り、「木場の落雁」では米相場や商家と役人とのつきあいを、「佃町の晴嵐」では飛騨春慶塗の老舗横田屋、薬種問屋、船大工、材木商が登場し、弔慰金や架橋代、両替商の年利や運用益など、「洲崎の秋月」は三味線屋、「やぐら下の夕照」では飛脚の隆盛と不景気による危機への対処、「石場の暮雪」では、金・銀貨から通過への移行(天保通宝)、絵草紙作家と版元など、江戸を彩る商いの利益のツボを明らかにしていて、著者の「商売好き」な特徴が良く出ています。

それぞれの主人公である、せんべい屋の娘おじゅん、鳶頭の妻おこん、大店に行儀見習に上がった大工の娘さくら、仲町の医者、辰巳芸者、女履物職人などの心情を、ここまで金銭を絡めて著わした小説はめずらしいように思います。

人情ドラマを期待する向きには、多少物足りないかもしれませんが、人情以外の部分の筆の乗りに著者の長所が良く出ているなかなか面白い短編揃いです。

★★★☆

ただ一点疑問を呈せば、「洲崎の秋月」で、木場の材木商のお座敷に呼んだ辰巳芸者が全員黒羽二重の羽織を着ているというのは、どうなのかな〜。長唄の師匠に対する礼儀かとも思うけど、筆頭芸者以下すべてが「羽織」というのは、辰巳芸者=羽織芸者という著者の通念からきているのではないでしょうか。浜町や柳橋芸者が、辰巳芸者を「たかが羽織芸者」と見下しているあたりも、かなり疑問です。深川町人である著者ゆえの誤解ではないかな〜(?)

それと、本著は唐仁原教久氏のイラストによる文庫の装幀の方が格段にイイですね。
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【BOOKデータベース】八幡様に朝日がのぼり、大川端に夕陽が沈む。元禄、天明、文化、天保、時代は移るもそれは変わらず、お天道様が見守る下で、様々な人生が織り成されていく。ろうそく問屋のあるじ、茂助の悔い。煎餅屋の娘、おじゅんのかなわぬ恋。辰巳芸者、厳助の意地…。江戸は深川、辰巳に花咲く、八つの人情物語—一力節全開の名短編集。 (単行本当時)

手をつないだわけでもない。好き合っていたのかもわからない。それでも祝言を挙げると知ったあの時、涙がどうしても止まらなかった…。遠い日の思い人と再会する女性の迷いと喜びを描く「やぐら下の夕照」。売れない戯作者がボロ雪駄の縁で一世一代の恋をする「石場の暮雪」。江戸深川の素朴な泣き笑いを、温かで懐かしい筆が八つの物語に写し取る。著者の独壇場、人情の時代短編集。 新潮社 (2007/9/28、単行本初版2005/4/21)



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by yomodalite | 2009-03-04 13:19 | 文学 | Trackback | Comments(0)

旧「読書日記と着物あれこれ」。歴史/文学/お笑いを好み、着物生活をしていたはずが、いつしかマイケルジャクソンのように本を読もうになってしまったブログ。永年暮らした東京を離れ、現在は大阪を満喫中。


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